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13 換金所


 

 換金所に着いた。


 2メートルゴロツキの言ったとおり、二つ前の十字路、その角地にあった。

 木造の二階建て。


 一応ノックすると、中から「あいよぉ!」と返事が聞こえたので、戸を開けて中を覗く。

 室内は明るい。壁にいくつかランプがついており、カウンターテーブルにも二カ所置かれている。


 その向こうに中年の男が立っていた。

 スキンヘッドで眉毛の太い、筋肉質なおっさんだ。この人は、オレ達が元の世界へ戻る方法を知っているだろうか。


「おぅ。見ない顔だな。新人か」


 そのおっさんがオレを見て言った。


「えっと……ここが換金所だと聞いて……おじゃまします」


 オレはそう答えて、中へ入る。


「おっ両手にはなだな兄ちゃん。しかも別嬪べっぴんときたか。いーねぇ」


 おっさんが後ろの二人を見て言った。

 まぁ二人とも整った顔してるよな……と、ちらっと振り返ったら、


「お上手なオジサマね」


 とナタリは軽く笑って受け答えるが、ムーコの方はほんのりほおを染めてポリポリと頭を掻いている。

 まんざらでもない感じだ。


 ムーコと目が合うと、

「……な、何か?]

 と、赤い顔で問われた。


「いや、別に」


 オレは目をそらす。


「さて! 何持ってきた? 『黄泉よみがえり』ならなんでも換金できるぜ」


 カウンター前まで行くと、おっさんが元気よく言った。


「あの……これを」


 すぐにでも元の世界に戻る方法などを聞きたいが、とりあえずオレは服の中にしまっておいたお面セットを出し、カウンターの上へ置く。

 そしたら、とたんにおっさんが固まってしまった。


「……あんたら……その、違ったらすまないが、新人……だよな?」


 新人? えっと……なんて言えばいいのだろう。 


「この面を何処で?」


 答えに戸惑うとおっさんが質問を変えた。

 それならすぐ答えられる。


「ビャクさんという人に貰いました」

「ビャクに!? 銀髪のビャクの旦那か!?」

「知っているんですか?」

「ああ、もちろんだ。彼は名のある退魔師たいましだ。ずいぶん世話にもなっている」


 退魔師たいまし……ビャクさん自身もそう言っていた。


「だが……どうしてビャクの旦那がこれを君たちに?」

「えっと……」


 どこから話せばいいのだろう。


「……あたしたち鳥居の向こうから来たの。たぶん……別の世界から」


 オレがためらうと、ナタリが代わりに答えてくれた。


「ああ、マレビトか、あんた達」

「マレビト?」


 すぐナタリが聞き返す。


「たまにいるんだ。別の世界から迷い込んでくる者が。そういう君らみたいなのをここではマレビトと呼ぶ」


 そうなんだ。マレビト……か。

 それからナタリがここに至るまでの事を説明した。化け物に襲われたこと、ビャクさんに助けられたこと、そして──彼から伝言を頼まれたこと。


「なるほど……。ヒスイ神社の件を伝えてくれたのはあんた達だったのか」


 ナタリの説明でおっさんが納得した。


「ん、わかった。そういう事なら俺もあんた達に協力しよう。まぁ座んな」


 おっさんがカウンター前のイスを促す。


「協力? 何故協力して下さるのですか?」


 しかしそれには従わず、今度はムーコが口を挟んだ。確かになんでおっさんが協力してくれるんだ?


「……察するに、あんた達はビャクの旦那から、最低限の事しか聞いていないんじゃないか? のんびり説明してる余裕は無かったはずだろうしな」

「はい、ビャクさんという人も、あまり時間がないと仰っていました」


 ムーコは答える。


「うむ。まず俺があんた達に協力しようと言った理由だが、既に俺はあんた達に世話になってるからだ」

「……世話に、ですか?」


 不思議そうにおっさんを見るムーコ。


「どこから話せばいいかな……。化け物に襲われたってことは、『黄泉よみがえり』を見たんだろう? このお面の奴とか、鎧着たガイコツとかだが……」

「両方見ました」


 ムーコがすぐ答える。


「じゃあ、あれがどんなものなのかも聞いたな?」

「はい。えーっと……、死霊が実体化した存在……だと」


 おっさんの確認にまたすぐ返答するムーコ。


「うむ……。より詳しく表現するならば『悪霊が』だが……まぁ、それだけ分かっているならば話は早い」


 そこでおっさんは息を吸い込み、渋い表情で言った。


「つまる所、今現在この辺りは、あいつら黄泉よみがえりに支配しはいされつつある」


 支配? あんな怪物に?


「こいつを見な」


 おっさんがカウンターの後ろにある戸棚から、まるまったボロい紙を出して、テーブルの上に広げた。一目で何かの地図と判る。そしてその地図の大部分が、薄い紫色のインクで塗りつぶされている。


「ここら周辺の勢力図だ。紫色が黄泉よみがえりの支配している領土。塗りつぶされてないところが人間の領土だ」

「なっ……!」


 おっさんの説明にオレは驚いた。


「ほとんど全部じゃないですか……」


 ムーコも少しあきれた感じで言う。彼女の言うとおり、ほとんどが黄泉よみがえりの領土とされている。人間の領土とやらは、地図の下の方……おそらく南側に、まるで虫食いのようにいくつか点々と残っているのみだ。全体の5%ほどだろうか……。


黄泉よみがえりは昔からいたが、半年前から何故かその数が爆発的に増えてな……。ここ数ヶ月で、ほとんどの国や村が呑み込まれちまった」


 おっさんが悔しそうに言う。

 そ、そうなのか……。


「この村は……僕たちのいる場所は何処なんですか?」

「ここだ」


 オレがおっさんに尋ねると、虫食い領土の一つを指で示した。


「名前を『ジドの村』という。いや……もはや『ジドの国』というべきか。残された人間の領土では、4番目に広い国となる」


 ジドの国……。なるほど。昔の日本でいう『飛騨国ひだこく』とか、『尾張国おわりこく』みたいなものだろうか……。

 いや、それにしても小さい。地図上で示される『ジドの国』は、すぐにでも紫色の──黄泉よみがえりの領土に呑み込まれてしまいそうに見える。


 これがオレ達が今いる村……いや、国か。そしてオレ達が今いる世界……。



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