118 譲れないもの
──『ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!』
木々が揺れ、空気が震える!
なんて声だ!
見ると、鬼の表情が激変していた!
それは──怒り。憤怒の表情!!
ムーコにいいように攻撃され、しかも彼女にダメージを与えられなかったことでブチギレたのだ。
鬼はムーコから視線を切り、オレとメイの方を見る。
そして息を吸い込む!
やばい!!
──ブォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
予想したとおり、奴の炎のブレス!
──が、
目の前にムーコが割って入る!
「烈風斬り!」
烈風の薙刀の付加効果が、炎を断ち切る!
だが、熱いっ! なんて熱量だ!
こんなのまともにくらったら、一発で丸焦げだ!
炎が止む。
しかし、鬼はまたすぐ息を吸い込み──
──ブォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
「烈風斬りっ!」
再度、ムーコが炎を断ち切る!
が、今度は炎の放射が長い……っ!
「く……っ! 烈風斬り!」
なんとかもう一振りし、炎を断ち切るムーコ。
彼女がぜいぜいと息を吐く。
「まずいな……。彼女の武芸はすごいが、パワーに差があり過ぎる。このままじゃ炎だけで押し切られるぞ」
「……っ」
どうすれば……っ。
まだオレ達の足の怪我は癒えていない。
歩くことはおろか、転がることすら満足に出来ないっ!
またすぐ吐かれる炎のブレス。
ムーコが烈風で凌ぐ!
くそっ。
オレ達がここにいるからムーコは避けることも出来ないのだ。
だから正面からあんなのとパワー勝負するハメに……っ。
肩で息をするムーコ。
やばい。限界が近い。
山賊をぶっ飛ばした時から合わせて、もう8回は『烈風斬り』を使っている。
村での戦いを合わせれば、それ以上!
このままじゃムーコが倒れるっ!
────────っ!
「ムーコっ! 無理だ! ナタリ達を持って逃げろ! オレ達はなんとかする!」
「えっ……」
「このままじゃお前また倒れるぞ! そしたらやばい!! 逃げろっ!」
「い、いやです」
「は!? なんでだ!! おまえなら子供たち守ってここから逃げられるはずだ! 早く逃げてくれ!」
「む、無理ですっ!」
え、なんで……。
また吐き出される炎のブレス。
ムーコが凌ぐ!!
ぜぇぜぇと息を吐くムーコ。
もうやばい!! これ以上は倒れる!
「くっ……なんでも申しつけろって言ったじゃねぇかっ。側仕えなんだろっ!? 逃げろムーコ!」
「────っ! そ、それでも無理です!! せっかく申し付けてくれたのにごめんなさいっ。でも、フブキくんの安全が最優先なのです!」
「ムーコっ!」
また吐かれる炎のブレス。
それをどうにか退け、ふらふらになるムーコ。
顔色も悪い。
どう見ても限界だ!
「ムーコ! ナタリと子供のためにも逃げてくれ!」
「……っ!」
「このままじゃどのみち皆やられてしまう! せめてこいつらだけでも助けてやってくれ!!」
「~~~~~っ」
ムーコが葛藤する。
幸い鬼の攻撃は止んだ。
奴も無限に火炎を吐き続けられるわけではないようだ。
だが時間の問題。次を吐かれたら終わる。
「あ、あたしなら平気! 自分だけ逃げたくないっ!」
結界宝石のなかからナタリが叫んだ。
ナタリ……!
「ナタリちゃん……」
「いや、その子は大丈夫だ。さっきも言ったが結界宝石は絶対だ。地厄でも手をだせない」
メイ……。
それをいま言うか?
「結界は1日で自然と解除される。適度に地厄から遠ざけておけば安全だよ」
そうなのか……。
それを聞いたムーコが、オレの手からさっとナタリと子供入りの宝石をとって、ぽいっと遠くへ投げた。
「ムーコっ」
「ごめんなさいフブキくん……。なんと言われようと、逃げるのはいやです。私はフブキくんの側仕えなのです。お守りすると誓ったのです」
ムーコ……。
「ここで逃げては、武芸者として生きていけないのです……」
こいつは…………。
「……祖父の教えの一つに、『他者の為に命を捨てられる者を死なせてはならん』というものがあります」
他者の為に、命を捨てられる者を……?
オレが捨て身で面山賊からムーコを守ったことを言っているのか……?
「武芸者として、最低限守りたい矜持です」
……ムーコ。
……………………。
お前のそういうところ、心から尊敬するよ……。
でもな……、
「メイ」
「なに?」
オレは手ぶりで、彼に一つお願いをした。
酷いお願いだったと思う。
けれど彼は快く了承してくれた。
彼もまた、尊敬に値する奴だと思った。
こんな──ここで死ぬことがなければ、いい友達になれたかも知れない。
「恩に着るよ」
オレはメイに礼を言い、狙いを定める。
いくぜ──
「結界宝石!」
オレはムーコにそれを投げつけた。
メイがナタリと子供の為に使った、宝石のなかに閉じこめる結界宝具。
彼の胸元にあった──その最後の一つを。
「えっ」
フラフラになっているムーコにそれを避ける術はなく──
──パァアア!
簡単に、彼女を結界宝石の中に封じ込めることが出来た。
「ふ、フブキくん! なんで!」
ムーコが、宝石の中から辛そうな声で叫ぶ。
「わかってねーな」
「えっ……」
「ムーコもムーコのじいさんもわかってねーよ……」
オレは、痛みを堪えてどうにか立ち上がる。
「ふ、フブキくん……?」
「お前の側仕えとしての──武芸者としての誇りは尊敬するよ。……素直に立派だと思う」
「……フブキくん」
「でもなムーコ。そんなことよりも前に、一つ決まってることがあるんだよ……」
「決まっていること……?」
「ああ…………。オレが男で、お前が女だってことだ」
「──っ!」
「女守るのが────男なんだよっ!!!!!!!」
オレは『道満符』を9枚すべて発動させた。
絶対に──────守る!!
◇




