109 オレの殺意と村人の誇り
さらに5分が経った。
探していた村人全員はここに戻ったが、ムーコは戻らない。
おかしい……。なんでムーコまで……。
あいつがオレに黙っていなくなるとは思えない。
そして、黄泉返りに簡単に遅れをとるとも……。
ふと、違和感を覚える。
おかしい……。不自然だ。
ムーコは、村人とともに村の周囲を探していたたはずだ。
多少一人で森の奥へ入ったとしても、それではぐれたりするか? 黄泉返りにおそわれたとしても、すぐその騒ぎに気づくか、せめてなんらかの音くらい聞いているはず。
なのにムーコだけが戻らないなんて……。
「あの、ムーコとともに行動していた方は……最後に彼女を見た人は誰ですか?」
そう尋ねると、二人の男が出て口を開く。
「オラたちだ」
「気がついたらいなくなっていた」
「……周りを探しましたか?」
「あ、ああ……探した。けどいなかった……」
「お二人で?」
「そ、そうだ……」
…………。
村人たちの挙動がおかしい。
こいつら嘘をついている。
いや、見れば村長さんも様子がおかしい。
さっきからずっと口を閉ざしたままである。
「村長さん。……なにか隠してるんですか?」
「…………」
答えてくれない村長。
ていうかオレ、いつの間にか村人に囲まれている。
捜索時に持ったのだろう、鉈や鍬を持ったままで……。
「……ムーコとナタリはどこにいったんですか?」
「…………」
「………………」
「……お主には村を守ってもらった恩がある。悪いことは言わない。黙ってこの村を出ていきなさい」
「は……? 二人は?」
答えない村長。
黙ったままの村人たち。
こいつら……。
「く……っ。お願いしますっ。何か知っているのなら教えてくださいっ」
「知らんもんは知らん! 余所もんがいちゃもんつけるんでねぇっ!」
「そうだそうだ!」
「満足に村を守れねぇエセ退魔師が! どれだけ怪我人が出たと思ってる!」
「出てけ出てけ!」
怒鳴りまくる村人たち。
確かにオレ達は、何人も村から怪我人を出してしまった。
でもこの扱いは──
「ちょっと待て。いくらなんでもそれはない」
ヤナギダさんがオレ達の間に割ってはいる。
「彼らとは『できる範囲で』という約束で村を守ってもらう話だった。たくさん怪我人が出たからといって彼らに文句を言うのは、筋違いではないか?」
「そ、それは……」
ヤナギダさんの説明に村人たちが狼狽える。
「むしろ彼らのおかげで死人がでなかったんだ。俺達は彼に礼を言うべきであって、決して責めるべきではない。そして、仲間がいなくなったことで何か知っているなら、教えてあげるべきだ」
村長に向かって、そうハッキリと言うヤナギダさん。
「う、うるせい! 余所者は黙ってろ!」
村長に変わり村人がまた怒鳴る。
「そうだそうだ! 引っ込んでろ!」
「出しゃばるんでねぇ!!」
凄い剣幕でヤナギダさんにまで怒鳴る村人たち。
なんなんだ!?
だが、ヤナギダさんもその剣幕に驚いて黙ってしまう。
くっ……。
よくわかんねーけど、村人たちが何か知っているのは確実だ。
なんとか聞き出さないと……。
くそ……オレが馬鹿だった。見ず知らずの人間のために大切な仲間が……。
どうすれば……。
だめだ。他に方法がない。
こうしている間にもムーコとナタリが……っ!
「……っ! 答えてくれないのなら──」
オレは退魔刀を抜く。
──全員、殺すぞ。
すると、村人たちも一斉に鉈や鍬を構える。
「生意気な小僧がっ!」
「やっちまえ!」
襲いかかってくるおっさん達。
「くっ……」
オレは彼らの攻撃をかいくぐり、即、叩きのめす。
──ズドン! ──ドッ! ズドッバキッドガッ!!!
ムーコに武芸を習ったおかげか、わけなく5人を沈められた。
そこで退魔刀の切っ先を、倒れている村人の喉元に突きつける。
「村長……」
オレは村長を見据える。
「あんた以外を殺してから答えるか、いま答えるか、選べ」
「くっ……」
「3ー2ー1──」
「待ってくださいっ!」
一人男が飛び出てきた。
長身で黒髪。整った顔の男。
なぜか脇にロープでしばった男を引きずっている。
なんだ……?
「メイっ!」
「戻ったかっ」
メイ……。たしか結界を張り直してくれるという行商人。村を守れば北国シーラへ案内してくれることになっている男。
「事情はすべてこの男から聞きました。理由を話します。どうか刀を納めてください。みんなもっ」
そうメイとやらが叫ぶと、村人たちは農具などを手放した。
オレも村人の喉元に突きつけていた退魔刀を下げる。
「村の無礼をお詫びします。どうかお許しください」
彼は深く頭を下げた。
それを見て村人達がどよめいた。
育ちの良さそうな身なり。簡単に頭を下げて良い立場の人間ではないのだろうか。
だがそんなことは関係ない。
「二人はどこに?」
「お仲間は──」
「それを言っては……っ」
村長がメイの言葉を遮る。
こいつ……。
「村長……いえ、父さん。この地に住む者としての誇りを忘れないでください。たとえどのような理由があろうとも、彼らを害してよい理由になりません。まして恩人にこのような仕打ちなど──」
「ぐ……ぬ」
「それに、もう僕は動いた。前に進むしかないよ父さん」
ロープで縛った男を示し、そう話すメイ。
「く……わかった。話して差し上げてくれ」
村長が力なくそう言った。
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