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9話

昨日投稿できなかったため、本日は2話投稿します。その内の1話目です。

ティアと俺は今いる王都から離れた辺境の村に5年前まで住んでいた。

あの頃は騎士なんてものは雲の上の存在でしかなく、時折森から溢れる魔物を討伐しに来てくれるカッコいい人たちと言う印象しかなかった。

いつから騎士を志すようになったのだろうか……それは断言できる。

村が魔女に襲われた時だ。村の仲間たちが、母や父が魔女の手によって殺された日だ。

たまたまティアと二人で村の近くの川で遊んでいたら村の方が急に赤く染まったのだった。


慌てて村まで戻ったが、もうそれは村とは呼べないほど崩壊していた。

家は全て燃やされ、人が燃え、物に押しつぶされていた。

燃え盛る村の中俺らはそれを見た、ケタケタと笑い声を上げる魔女の姿を。

その姿を見た時、俺の体は恐怖からかはたまた怒りからか全く動かなくなってしまった。

俺らの存在に気付いた魔女は、笑みを浮かべながら指を指す。

俺の横で体を震わせるティアを守らなければと頭では考えていたが、いくら命じても体が動かなかった。


そんな中、魔女は一層深い笑みを浮かべるとその指先から黒い炎を放った。

咄嗟に目を瞑った俺は、いつの間にか意識を失っていたのか気づけば村の外にある草むらで眠っていた。そこを村の様子を見に来た騎士に拾われ騎士を目指すことにし、身寄りのなかった俺らは王都シャンガルでしばらくの間その騎士のもとで生活をしながら修行に身を費やした。ティアは騎士の言った通りにしたところ魔法発動したが、俺はどうあがいても出来なかった。そんな中今どこにいるのかもわからない、俺の第二の師に出会い技を伝授してもらった。そして2年前、騎士の育成組織たる騎士学校に入学したのだった。


やっぱり、あの村での魔女の贄が原因か?

贄――魔女が巨大な霊を降ろすための生贄だ。


普通なら生き残れない贄を生き延びたことに起因しているのだろうか?


身を起こしティアを見るが、ニマニマといい夢でも見ているのか笑みを浮かべている。

俺はこの笑顔を失う事だけはしないよう心に誓う。

そうして、窓のところまで行き閉まっていた窓を開放する。

すると冬ならではの肌に突き刺さるような冷気が吹き込んでくる。


背後でレムが寒そうにしているが窓は閉めない。

空で紅く煌く三日月を眺める、まるでフレイの笑みの様な三日月を。


◇◆◇



翌朝、目を覚ますと既にティアとレムは着替え終えていた。

「お前ら朝早いな……」


「当たり前だよ! ボクはルクス君との訓練が楽しみなんだから!」

「私はね? 寒かったのよ、とってもよ? それで夜中からずっと起きっぱなのよ?」

わ、悪いこと……したな。


「その、すまんな」

レムは何で謝られたのか分からない様子だったが、いいだろう。


そういえば、ティアには団長の所に呼ばれてること伝えてなかったな。

「ティアごめんな。今日なんだけど団長に呼ばれてて一人で行かなきゃいけないんだ、だから今朝の訓練は一緒にできないんだ」

「えー! ボク楽しみにしてたのに! でも団長に呼ばれてるんじゃしょうがないよね。うん、じゃあ午後の訓練は一緒だよ?」

「ああ! もちろんだ」


急いでベッドから抜け出すと、二人の視線にさらされるなかテキパキと身支度を整える。

着替え終えてティアたちの方へ向き直ると、ティアは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、レムはどことなく鼻息を荒くしていた。とりあえずレムを掴んでベッドに捨て置いてから

まだ顔を赤くしているティアに「先に団長の所行ってくるからな」と告げ部屋を出る。


今朝はニックと出会う事もなく団長の部屋に向かう。

ニック無事だったんだな……誰かに処理されたとかじゃないといいけど。


外にある訓練場を抜け、本棟の階段を上る。

団長の部屋は最上階にあり、敷地内全貌が見渡せるようになっているのだが、なぜかこの騎士学校の校長の部屋は、団長の部屋の一階下という作りになっている。


そんな哀れな校長室をから視線を外し、さらに一階分階段を上る。

団長部屋の扉を軽くノックする。

「あれ? 反応が無い?」

そう、部屋をノックしたが全く反応が無く人の気配も感じない。

首を傾げながらノブに手を掛けるとあっさりと扉が開いた。


「え……と、お邪魔します」

改めて何もない団長の部屋を見渡す……大きな机にその後ろに立てかけてある剣。


剣! 今このタイミングなら盗れるんじゃないのか?

そう考えたら、もう視線が離せなくなる。

金色の柄に、文字の刻まれた白銀色の刀身……そして柄の中心に埋め込まれている紅く紅く光る宝玉。

「ごくり……いけるか?」


そう思い、剣のところまで歩を進める。

もう一度その美しい剣を眺めてから手を伸ばす――

「……ルクス君は僕の剣に何をしているのかな?」

恐る恐る振り返ると、目を細めこちらに歩いてくる団長の姿があった。


「い、いえ! そのこの剣がとても美しかったので……つい。申し訳ありません!」

それを聞いた団長は一層目を細め、

「いや、いいんだよ。僕ですら見惚れる程の剣だからね」

そう言って手を振る。


「ですがなぜ隊長はこの剣を腰に差さずにいるのですか?」

俺としてはこの部屋に置いてあるに越したことはないが、理由が不透明すぎる。

「いや、ルクス君をがっかりさせちゃうかも知れないんだけどね……僕じゃあまだその剣を使いこなせないんだよ。なにせまだ魔女殺しの刻印が無いからね。きっと強力な魔女をこの手で仕留めれば、ね」


「いいんですか……そんな重要そうなことを聞いちゃっても?」

よし! いいことを聞いた。これで団長があの剣を持つという最悪の状況にはならないだろう。

「構わないよ、この剣の事自体知っているのは君と僕だけだしね……そんな事よりだ。今日呼んだのは君に特別依頼があってね。今から三日後に王都から西に少し離れた所にいるだろう魔女を討伐して来て欲しいんだ」


「魔女……ですか? ですが団長や隊長が行った方が早いんじゃないんですか?」

「確かにそうかもしれないけど、僕はここをあまり離れられないしマルはフレイを追ってるからね……それに君の実践訓練にもなると思ってね」

実践訓練ねえ、とはいえそう言う風に言っているって事はさして強い魔女って訳でもないんだろう……危険はあるだろうが俺でも討伐できるってことか。


「それで、その魔女はどんなやつなんですか?」

「目撃情報によるとね氷の犬を連れた少女だったらしいんだ……そうそうレートA以上が居るわけがないから、おそらくC、いってBだろう。そのくらいなら君一人でも対処できるはずだ」


その魔女が潜伏しているらしい場所は、王都から馬で半日ほど行った場所にある廃村らしい。その村は過去に魔物に襲われて壊滅したらしくその跡地に隠れているようだ。

レートCならいいけど……Bまで行くと魔法剣が使えない俺には荷が重いぞ。

Cは騎士が一人で渡り合えるレベル、Bだと騎士数人がかりか強力な魔法剣を使えないと倒せない……それ以上になるともはや桁が違う。


団長は俺が魔法使えないって事知らないんだろうな。

言ってしまいたいけど、敵に情報をバラす事になるからダメだな……

「その任務、承りました! 3日後の日の出とともに王都を発ちます……それでは失礼します」

そう言って、団長の部屋を出る。さて、今晩にでもフレイに情報を聞かないとな……


そう心の中で呟きながら朝食を食べに食堂に向かった。


◇◆◇



朝から胃もたれするようなメニューを攻略した後ティアが待っている訓練場に向かう。

途中多くの人に見られたが気にせずに足早に訓練場に入る。

なんでこんなに人が見てくるんだ……一応は強者のニックを倒したからか?


ティアの影を探して見渡すと、訓練場の端っこの方で壁に背中を預ける形でティアが立っていた。

「ごめん、少し遅れちまった! すぐにはじめるか?」

「あ、ルクス君だ! ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ! ボクは準備できてるから始めようか」

ティアのその声を切り口に軽い打ち込みを始める。

その間も遠巻きに視線を感じる……なんなんだ!? いつもより視線が多いぞ……


そんななかティアの手が止まる。

「ん、どうした? なにかあったか?」

「ルクス君……誰か来るみたいだよ」

そう言って俺の後ろを指さす。


振り返ってみると、昨日ニックとの戦いを遠巻きに見ていた連中だった。

「何か用か? 見ての通り俺らは訓練の最中なんだが?」

「うっは! 本当だ、話に聞いた通りだぜ?」

そう言って、不快になる笑みを浮かべる。


「本当に何しに来たんだ? 訓練の邪魔をしに来たのか?」

ティアは不安なのか先ほどから一言も発さずに俺の影に隠れている。

すると、リーダー格の様な男が二人の後ろから出てくる。

「いや、邪魔になったのなら謝るよ。ただ君の強さを知りたくなってしまってね……

それで来たんだよ。それにしても……そんな事だけで、あの強さを手に入れたのかい?」


「どうでもいいだろ、そんな事。いいからもう行けよ、ティアが不安がってるだろ?」

「ああ、やっぱりそういう事かい? ティア……ちゃんかな? その人のためって訳かい」

リーダー格の男は何が面白いんだかニヤニヤと笑みをする。

「もしよかったら僕もその……訓練かい? に混ぜてくれないかな?」


そう言って、腰に差してあった訓練用の剣を抜く。

「ティア、少し下がっていてくれ。相手をすることにするから」

ティアは不安そうに俺の裾を引っ張っていたが、手を放し壁の方まで下がる。


「それで、俺の相手をするのはお前だけでいいのか?」

残りの二人は良いのか? と暗に聞いてみる。

「ああ、彼らかい? 彼らは君が逃げないように来てもらっただけだし、それに君が負ける所を見てもらわないとね? 君なんかがニックに勝てるわけがないだろう?」

そういう事か……俺が昨日ニックに――二年学生騎士の実力者に勝ってしまったことが気に食わないのだろう。


「いいぜ、俺の剣体験させてやるよ」

そして、剣を無造作に構える。

俺の態度が気に喰わなかったのか、男は額に青筋を立てながら上段に構える。


そして、男が先に踏み込んできた。中々に早い剣を受け止める。

だが、師匠やティア、ニックに比べると軽い剣だ……剣に意志が込められていない。

つばぜり合いになるかと思われたとき、不意に男の剣が宙を舞った。

ルクスの技だ。男の軽すぎる剣など動作なしでも巻き上げられる。

「――なっ!?」


その男の剣をすぐさま空中で掴み、左右の剣で首筋に突きつける。

「もう終わりか?」

そう言って、男に剣を投げ返す。


男は自分が負けた事が信じられないのか、ブツブツと地面を見ながら呪詛? を唱えている。そんな男の足元に訓練用の剣が落ちる。

その男に背を向け、ティアの所に向かう。


その時背後からニックの叫び声が聞こえた。

「やめろ! サワーキ! ルクス避けろぉ!」

咄嗟に振り返るが、男――サワーキの魔法を帯びた剣が間近まで迫っていた。

苦し紛れに、技を使おうとするが右手の刻印が熱を帯び手が止まってしまう……そうしている内にサワーキの剣が俺の胴をとらえた。


訓練用だったのが功をなしたのか、最悪骨折だけで済むだろうが……凄まじい衝撃が体を襲った。


「ぐっ……は!」

ゴロゴロと訓練場を転がる。

「大丈夫か?」

慌ててきただろう、ニックとティアが俺の体を支える。


不意打ちを行ったサワーキは「お前が悪いんだぞ……大体ティアってなんだよ! そんなのどこにいるんだよ!?」そう叫びながら走り去って行った。


「すまんな、あいつは俺の知り合いだったんだが……昨日の事がショックみたいだったんだ……」

ニックが申し訳なさそうに誤ってくる。

「いや、別に……気にしてはいないが、あいつが最後に言った事が意味わからなくてな? だってティアはここにいるだろう? なぁ?」

そう言ってティアの肩を抱くと「あう」と可愛らしい声を上げる。


「そ、そうだな……ティアちゃんはそこに居るよ」

そうだよな……ティアが居ないってどういう事だよ、ちゃんとここで生きているじゃないか。

「それじゃあ、俺は医務室に行ってから部屋で休ませてもらうよ」

そうニックに言い残して、ティアと共に医務室に向かった。


医務室の先生いわく、骨折だが魔法薬を使えば一日で治るそうだ。

だが二、三日は安静にしろという事だった。ぎりぎり魔女討伐は行けそうだな……

そうして、妙に甘ったるいドロリとした薬を飲みほし自室に戻る。

しばらく無言で廊下を歩いていたが、ティアがその静寂を破った。


「その……ボクは別にさっきの事気にしてないからね! も、もちろんルクス君を不意打ちしたのは許せないけど」

「いや、いいんだ。俺はティアが居てくれればそれでな」

するとティアは一瞬泣きそうな表情を浮かべた後、嬉しそうに微笑むのだった。

……あのサワーキって野郎、ティアを泣かすなんて絶対許さねえ。

次あったら一発殴る、そう心に決めた。


部屋に戻るとレムが一人で何やらごそごそと、ベッドでしていた。

「ただいま……レム、何してるんだ?」

俺の声を聴いて驚いたのか、ビクッっと肩を揺らし持っていた物を隠す。

「おかえりなさいなの? きょ、今日は早かったのね、どうしたの?」

どうやら、見られたくない事をしていたらしい……深く詮索するのはやめよう。


「少し怪我してな……それより早速なんだがフレイを呼んでくれ……それとティア、これからの事は他の人に言わないようにな」

不思議そうな顔をしていたが「うん」と頷く……ティアが俺に隠し事とかしたことないんじゃないか? そう思えるほどにたいていの事は素直に頷いてくれる。


レムはその間にフレイと意識を交代させていた。

「あら、今日はティアちゃんも居るのね……この状態だと初めてかしら? 久しぶりね私フレイよ――」

そう言い終わらない内に、ティアは俺の手を振りほどいてフレイに向け拳を振りかざす。

フレイはそれを難なく受け止めると、俺に目配せしてくる。


「やめろ! ティア。彼女はもう敵じゃないんだ。この前色々とあってな協力することにしたんだ!」

そう言って、ティアを押さえつける。だがティアは荒い息をするだけで、俺の声を全く聞いていないようだった。現に抑えている今でも力強くフレイを睨みつけている。


たぶん手を放したらまた殴りかかるのだろう……

「あら、急に殴ってくるなんて酷いわね……ああ、この前の事を怒ってるのね」

この前の事ってフレイが俺とティアを攻撃したことだろうか。

「あの時の事なら謝るわ……もちろんルクスにも言っていないしね、だから安心して?」

段々とティアの肩に入っていた力がゆっくりと抜けていく。


「……わかった。でもルクス君に免じてだからね!」

変なことしたら許さないんだからと目で語っている。


「さてと、それでルクスは何で私を呼んだのかしら? さっきまでお風呂に入っていたのよ、ルクスも一緒に入りたかったの?」

顔に熱が集まるのが分かる……どうしてフレイはこうして俺をからかってくるんだろうか。

「いや、そうじゃない。団長の件なんだが……三日後にある魔女の討伐を命じられてな」

フレイの顔つきがふざけたものから真面目なものに切り替わる。

「それで、どんな魔女が相手なの?」


「ああ、氷の犬を連れた少女だったらしい……それだけで分かるか?」

するとフレイは天井を見上げながらブツブツと呟く。

「ええ、その娘はシェーバね。私の……そうね、あまり関係ない娘だから好きにしちゃいなさい……あの娘は戦闘向きな娘じゃないから結構容易に勝てるはずよ……注意するとしたら契約霊と刀って武器ね、でも契約霊はただの犬よ。でも別に倒さなくてもいいんじゃないかしら?」

倒さなくていいって、味方につけろって事か? 敵対もしてないみたいだし。


「わかった。それじゃあ、それまでに怪我を治すとするよ」

その時、横にいたティアが口をはさんでくる。

「え! ルクス君魔女討伐に行くの!? ボク聞いてないよ」


どうして言わなかったの? という目で見上げてくるが、団長からの任務だから言えるわけがなかった。

「いや、団長からの極秘任務でな。ティアにも言えなかったんだよ……もしバレたらティアが怒られちゃうからさ」

「それじゃあ、ボクは行けないの?」

瞳をうるうるとさせて裾を掴んでくるが、頷けるわけがなかった。


俺が承諾しないのを見ると、ティアは「もういいもん!」と言ってベッドに飛び込んでいった。

「貴方も大変ね……本当に色々と。あ、言い忘れてたわシェーバの使う武器は刀よ……東方の国の武器がモチーフみたいね、よく切れるから注意して」

そう告げるとフレイは「おふろー」と言いながら去っていた。

 

さて、じゃああと三日はゆっくり怪我でも治すとしますかね……そう思い自分のベッドに潜り込んだ。


戻ってきたレムは、ルクスとティアが寝ているのを見ると一人で作業を再開した。




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