表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

7話

本日1話目です!

朝、部屋に鳴り響く騒音で目を覚ました。

「なんだよ……うるさいな」


体を起こすのと同時に、何かが胸に突っ込んできた。

「ルクス君の所に逃げるなんてずるいよ! 早く出ていってよ!」

視線を下に下げると、俺の胸元に顔をうずめる半裸のレムの姿があった。

無言でそれを引きはがし、壁に放りティアの方を見る。


「朝からどうした? というかなんでお前ら俺の部屋にいるんだよ?」

すると、ティアはレムの方を指さし不満げな顔をする。

「ルクス君が女の子好きなのは知ってたけど、同棲するなんて聞いてないよ! ボクだってしてないのに」


同棲? 何を言ってるんだ……そう思いレムの方を見るとドヤ顔をしていた……のでとりあえず殴っておく。


改めて部屋を見まわしてみると、昨日までは無かったものが多数存在していた。

まず、ベッド……しかも天蓋付きの可愛らしいやつだ。そのほかにクローゼット、テーブルに始まり、ぬいぐるみの様な小物まで揃っていた。

恐らく違うのだろうが、ティアを見る。

「ティアのか?」


だがティアは無言でレムを指さす。

なるほどな。

「レム、お前に俺は昨日何て言った? 自分で用意するようには言ったが俺の部屋に住んでいいとは一言も言ってないだろ?」

レムは俺の言葉を聞いて「うーん?」と天井を見上げる。


「でも貴方はダメとも言ってないと思うの? 絶対よ? 私は自分でベッドを用意したの、だから住むのよ? 決定よ?」

俺が反論する前にティアが口を挟む。


「だからダメだって! ルクス君が迷惑してるでしょ、それに部屋だって狭くなっちゃうじゃん!」

「ルクスはダメとは言ってないわよ? 聞いてない? それに部屋も広いわ、問題ない?」

「でも、ダメだって! 女の子が一緒に住むのは……よくないと思う」


「そうだぞ、俺の部屋なんだから――」

俺の言葉を無視してレムが言葉を重ねてくる。

「だったらよ? ティアも住めばいいと思うの? 最善よ?」

「え!? でも、そしたらルクス君と……いいかも」


そう言ってティアはブツブツと呟きはじめる。

「おい、お前ら……俺の話聞いてるか? 住むとかやめろよ? ティアは自分の部屋があるだろ! レムはどっか宿でも取って住めよ」

だが、レムは俺のことを見もしないし、ティアはブツブツと呟き続けていて俺の声が届いているとは考えられない……大丈夫だよな?


とりあえず、一人呟き続けるティアと俺を視界に入れないようにしているレムを廊下に叩きだし一息つく。

「絶対……朝になったらティアもベッド持ち込んで普通に寝起きするんだろうな……はぁ」

こうしてルクスの平穏な朝は消え去って行ったのだった。


身支度を整えて部屋を出ると、ティアとレムはどこかに行ってしまったのか誰も居なかった。朝の口論のせいで時間が無くなったため、早朝訓練をやらずにそのまま食堂に行くことにする。


食堂に着くとまだ訓練をしている人が多いのか、いつもよりかは混んでいなかった。

自然といつもの席に向かおうとしてところで、ふと昨日の団長の目を思い出し足を止める。

……昨日の席に行ったらまた団長が居るんじゃ?


その考えが頭から離れず、結局いつもの席に向かう事を躊躇させていた、その時後ろから声がかかった。

「ルクスー! どうした? そんなところに突っ立って。またティアちゃんか?」

振り返ると、ちょうど風呂から出てきたといった様子のニックが歩いてきた。


「なんだ、ニックか。いや、ティアは関係ないよ、見ての通り居ないしな」

「あ、ああ。そうだな。ティアちゃん居ないもんな……って事は一人か……よかったら一緒に飯食わないか? いつも食えないし」

確かにいつも、ティアと一緒にいるせいで誰とも食べたことないな……たまには男同士で食うのも悪くないか。

「そうだな、一緒に食うか。もう食うメニューは決まったのか?」


◇◆◇


 

互いに食事を買うと、あらかじめ取っておいた席に座る。

「それにしても、ルクス。ティアちゃんと一緒じゃないなんて珍しくないか? というかはじめてな気がするんだが……」

「それがな……聞いてくれよ――」

今朝方あった話をする。もちろんレムの正体などは隠して。

「会って初日の女の事同棲!? どういう事だよルクス!」

話を聞いたニックは激しく動揺したように俺の肩を揺する……やけに距離が近いが。


「落ち着けって! 追い出したから、ティア共々。また来ても追い出すだけだから」

「そ、そうか。でもティアちゃんもそりゃ怒るでしょ? だって一緒に住んでるルクスの部屋に女の子が増えるんだから」


ちょっと待て、今コイツは何て言った? 俺とティアが一緒に住んでる? なにを言ってるんだ?


「俺とティアが一緒に住んでるわけないだろ? 俺は一人部屋だぞ?」

ニックは変なものでも食べたみたいな表情をして、「ティアちゃんと住んでるの隠すために一人部屋なんだろ?」と言う。

え、俺が一人部屋の理由って周りにはそう映っているのだろうか。


「ティアは自分の部屋に住んでるはずだぞ、というか今の話って周りもそう思ってるのか?」

「逆にティアちゃんと同棲してないって話を信じるやつはいないと思うよ。お前の事知ってるやつはみんな、ティアちゃんとルクスはセットで考えてるからさ」

俺はその言葉を聞いて、思わず床に突っ伏してしまう。

だからか……だから俺の顔を見た女子たちは苦笑いを浮かべたり、野郎どもは遠巻きにニヤニヤと笑っていたのか……


「改めて言おう。俺は誰とも同棲していないし、する気もない!」

何だったら夜になったら見に来いよと笑う。

「分かった、それなら今日訓練が一通り終わったら見に行くからな!」

そうして、ルクスはニックにしなくてもいい約束をすると急いで残っている飯を食べる。


食べ終え、訓練場に向かおうと席を立った時、「あー、言い忘れてたわ」とニックが声を上げる。

俺が視線を向けるとニックは爽やかな笑みを浮かべながら「団長が、朝食食べ終わったら来るようにって言ってたぞ」そう告げた。


……は? 団長が、俺を呼んだ?

昨日のフレイとのやり取りを思い出す「おそらく誰かの目があるときは何かしてくるって事はないはずよ。だから誰かと一緒に行動することをすすめるわ」確かそう言っていた。

団長が俺を呼んだって事は、俺今日消される? でも聞いたからには行かないと不自然だ。

「ニック! 団長の所行くの一緒に来てくれないか?」


ニックは驚いたように目をパチクリとさせていたが「俺は呼ばれてないからな」と断りを入れる。

……あ、やべえ。俺終わったかも。


◇◆◇



そうしてどうすることも出来ず、レムを探すにもどこにいるかも分からなかったために一人で団長の居る部屋の前に来ていた。


目の前の木で作られた質素な作り――だが、なにも装飾がされていないというわけではなく細かいものが丁寧に彫られている扉を静かに二回ノックする。


しばらくすると扉が開く。

そこには白髪に赤目の団長――ネビロスその人がいた。


団長の部屋には、物があまりなく大きな木の机が置いてあるだけだった。

そして、その机の後ろにフレイの刻印と同じ剣が置いてあった。

その机の前で団長の歩が止まる。


「……僕が何で君を呼んだか、わかるよね?」

赤く光る眼で俺を見据えながらそう言う。

「い、いえ。自分には……なにがなんだから分からないです」

 

しかし団長は薄く笑みを浮かべるだけで、俺が嘘を言っていることを見透かしているようだった。

「……単刀直入に言おう。君――ルクス君、は魔女を殺したね?」

――は?


「……その手を見れば分かるよ。それは魔女から簒奪したものだろう? 僕は持っていないけど、それは魔女を殺した者に刻まれるんだ」

何を言っているんだ、この人は?


「ですが、団長は過去に魔女を殺したんじゃ?」

「……あの、AAAレートのやつかい? あれは……本当は殺しきれてないんだ。彼女は僕の事を試していたんだと思う……その刻印は名のある魔女を殺した時に刻まれるんだよ」


あまりの突拍子のない話に、ついていけず思わず無言になってしまう。

「ああ、僕の口調が違うから驚いているのかい? いつものはわざと喋っていないだけだよ。それに面倒くさいしね?」

だからか、二人きりだと別人のようにしゃべる。


「……無言を貫いているって事は正解かな? おそらくだけど君はあの紅魔女フレイ、彼女と戦っていた魔女に止めを刺したんじゃないのかい?」


いや、あの日フレイ以外に魔女は居なかったはずだ。

「……あの日僕が力を奪った事によってフレイは弱っていた。それを狙った魔女が返り討ちになったんじゃないかな? それでその傷ついた魔女を君が倒した……と僕は考えているんだ」


しばし間があく。

その間にも俺の視線は、団長の後ろにある剣に釘付けだった。


「……ああ、君にもあの剣の事が分かるのか。そうあれはね、魔女フレイから奪い獲った力だよ。僕でも本気の魔女には敵わないからね……油断していた時に奪い獲ったんだ」

そしたら、逃げられてしまったけどねと笑う団長。


「その剣をどうするつもりですか?」

あの剣を奪わなければ、俺とティアの命がない。

「……あの剣は途方もない力を秘めてる、だからそれを使って僕もね、魔女を殺したいんだ……そしてあの力を完全掌握したい。僕はね魔女の力に魅入られているんだよ。だからあの力を手に入れられるのなら、どんなことでもするよ」

団長の目が獰猛に光る。


「団長の事は分かりました。それで、俺を呼んだ理由は? 魔女殺しの確認だけではないのでしょう?」

団長は「そうだったね」と言って、俺の手を握る。


「君も魔女の力の欠片を持つ者だ。だから一緒に戦わないか?」

俺に断れるはずもなく、俺はその手を無言で握り返した。


「それじゃあ、明日から特別訓練だ。朝になったら訓練場ではなくここに来てくれ」

「わかりました」

団長とこうして行動できるって事はそれだけ、あの剣を奪えるチャンスが増えるって事だ……絶対に奪ってやる。俺は、死ぬわけにはいかないんだ!


◇◆◇



団長との話が終わった俺は、一人訓練場に向かった。団長と共に戦えるといって訓練をサボって良いというわけではない。むしろ団長の不意を突いて倒せるくらい強くならなければ。

そう強く決意し訓練場の地を踏んだ。


訓練場に着くと、すぐにニックが俺のことを見つけてきた。

「ルクス! 団長との話はどうだったんだよ? あの日の事か?」

あの日の事とは、俺が魔女フレイと遭遇したことだろう。

「そうだよ、でも人に言えない事でね。悪いけどニックにも言えないんだ」

だがニックはそんな事気にしないという風に俺の肩を叩く。


「そうだ。ルクス、ティアちゃんと予定が入ってないなら俺と訓練しようぜ。いつも遠目に見てるだけだからよ」

訓練場を見まわしてみるが、ティアの影はどこにも見当たらない。

「ああ、いいよ。軽く打ち合った後に模擬戦でもするか」

俺の言葉に驚いたのか、ニックだけではなく周りにいた人間もこちらを見る。

遠くから「ルクスが誰かと訓練するなんて、前代未聞だろ!」

「あいつの力がようやくみられるのか」など様々な言葉が聞こえてくる。


確かにティアと戦うときは周りに人が居ない時だけど、俺ってそんな力を隠すようなことはしてないんだがな……


「よし、じゃあやろうぜ」

そう言って、壁に立てかけてあった訓練用の剣を手に取る。

ニックはそれを見て、嬉しそうに笑うのだった。


軽い準備運動と、型の運びをやった後ニックとの模擬戦をすることになった。

互いの距離10メートルといったところか。

魔法の使用禁止と寸止め以外決まりごとはない、たとえ直接剣が当たったとしても死ぬことはない。とはいっても、相手はニックだ……いつもはふざけた調子のニックだが剣の腕は確かだ。だから油断することなく行く。

互いに相手の事を見据え、剣を構える。


どちらから始めるといった声掛けもなく、俺とニックの模擬戦は始まった。

その模擬戦を見ていた他の騎士たちは後に口をそろえてこう言った。

「圧倒的だったと」


先に仕掛けたのは、やはりと言うべきかニックだった。ニックは獣の様な雄叫びを放ちながら袈裟懸けに斬りつけてくる。それを下に受け流し一気に決めようと踏み込むが、地面に着いた剣が一気に跳ね上がり、鼻先を掠める。

互いに城に飛ぶようにして距離を取る。


「驚いたな……ルクス。これを避けるか」

「そっちこそ最初の、わざと流させただろ?」

そう言うとお互いに無言になる。


今度はこちらから切り込みに行く。

俺につられるようにしてニックも動き出し俺の剣を弾く動作をする。

ワンテンポ遅らせ、ニックの剣を巻き取るように剣を滑らせる。

すると「あっ!?」という声と共にニックの持っていた剣が巻きあがり俺の左手に収まる。

剣を巻き上げられた形で、固まっていたニックの喉笛めがけ剣先を突きつける。


ニックは何が起こったのか分からないような顔をしていたが、周囲のギャラリーの歓声で負けたことを把握したらしく「参った」と手を上げる。


ニックに剣を投げ返し「どうする?」と目配せする。

剣を受け取ったニックは無言で剣を上段に構える。

「そうか、やるか!」


そう呟き俺も剣を上段ではなく、下段で構えニックの全体を見る。

ニックの足先に体重が乗ったと同時に俺は体を倒すように駆けだす。

俺の剣とニックの剣が交差する時、より低く体を倒し剣の下をくぐるようにして横を抜ける。

ニックが驚愕したように「なっ!」と声を出すが無視し、こちらを振り向くより先にニックの剣めがけ全力で剣を走らせる。


俺の剣がニックの剣を切り裂き、剣先が宙を舞った。

「終わりだ、ニック」

俺の言葉に反応するようにニックは膝を地面に着ける。


「うそだろ……練習用の剣で……切るなんて」

そんな声が周囲から聞こえてくるが、俺は黙ってニックに手を差し伸べる。

ニックはゆっくりと顔を上げ、俺の目を見ると「いい戦いだった。ありがとう」と言いながら俺の手を取った。



訓練を終えた俺らはニックと二人で大浴場で湯につかっていた。

「それにしても、まさかルクスがあんなに強いとは思わなかったよ……剣を切ったのもすごかったけど……最初のヤツは一体どうやったんだ?」

ニックは俺の戦い方にひどく感心してくれたようで様々な質問をしてくる。その中で何回も聞かれたのが、俺が使った技だ。だが、あれは教えてくれと言われて教えられる類の物ではない……それをどう説明するか。


「ニックは俺が魔法を使えない事知ってたよな? それの代わりにあの技を使えるんだよ。教えてくれた人曰く、邪道の技らしいんだ……だからその、ごめん」

俺の説明を聞いたニックは疑うそぶりすら見せず、「そうだったのか」と理解の色を見せている。


「一体どんな訓練をしたらそんなに強くなれるんだよ……前に言ったけど、隊長と普通に戦えると思うぞ、というか勝てるんじゃないか?」

訓練なら勝てるかもしれないが……本気の殺し合いなら、勝てる要素は限りなくゼロだろう。隊長だけではなくニック相手でも。開いてが魔法を使えるという時点で、まずこの技は通用しないのはこの前ティアとの模擬戦で体験済みだ。


「いや、それはないな……俺のこの技は、なんと言うか使い勝手が悪くてな。本気でやりあう時とかは、使えない可能性が高いんだよ。だから本気で戦ったらニックにも勝てないと思うぞ?」

ニックは「まさかー?」といった表情を浮かべていたが俺が本気で言っていると分かると、

「だからか」と一人納得したように頷いている。


俺が何に対して納得したのか聞くと、「ルクスがみんなの前で訓練しない理由だ」と答えた。

……確かに、みんなの前で見せつけるようなことはしない様にしてるけど、隠しているわけじゃ無いんだがな。現に今日も使ったし、ティアとの模擬戦ではほぼ使ってるしな。


俺の無言を肯定と受け取ったのか、「まぁ隠し事くらいあるよな」と言って湯船から出る。

「もう出るのか?」

「ああ、それにルクスの部屋に遊びに行くって約束だったろ?」


その言葉を聞いた時、冷や汗が額に浮かんだのは言うまでもない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ