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3話

本日3話目です

目を開けるとここ数年間見知った天井だった。

「あの夢は、何だったんだ……?」


右手を太陽にかざしつつ昨夜見た夢を思い返す。

AAAレートの魔女フレイとの不思議な邂逅をする夢だった。

あの光景は何かの暗示だったりするんだろうか?


魔女の手助けをしてしまったことからの不安からか、つい口から言葉が零れる。


「本当に今後どうなることやら……」

「ん? なんのこと?」

「――!?」


慌てて部屋を見回す……すると部屋の薄暗い位置に椅子が置いてあり、そこにティアが翡翠色の瞳を光らせ、こちらをジッと見ながら座っていた。

「おい、ティア。お前は何で俺の部屋にいるんだ?」


だがティアは俺の質問が聞こえてないのか、聞こえていて無視しているのか――おそらく後者だろうが。勝手に話を進める。


「おはよー、ルクス君! 昨日はちゃんと隊長に報告しておいたからね!」

朝から無駄にテンションが高いが、早く俺の質問に答えろよ……


俺は同じ質問を繰り返す、先ほどよりも口調を荒くして。

「それで、なんでお前は! 俺の部屋に居るんだ? どこから入ってきた!」

昨夜はちゃんと扉の鍵を掛けていたはずだ。


ティアはどれから答えていいのか、あわあわと金色の髪を振りながら慌てている。

「いいから、初めから答えてくれ」


「えっと昨日報告が終わった後、ルクス君が気になっちゃって……部屋に入ろうとしたら何でか鍵が掛かってるみたいだったから……窓から入ったんだ!」


何でか……ってお前みたいな奴がいるから鍵があるんだろう? なんでこいつは、こう思い立ったことをすぐに行動に起こすんだろう……


「……それで?」

「えっ、そ、それで? うーん……ご馳走さまでした?」


俺の中で何かが切れる音がした気がした。きっと気のせいではないだろう。

爽やかな朝、ティアの悲鳴が響いた。


「ぐすぐす……ひどいよ、急に殴るなんてさ」

30分後、制服に着替えた俺は廊下の隅でうずくまるティアを迎えに向かったのだが

聞こえてくる言葉的にまったく反省していないらしい。


あの時のティアの処理は我ながら、褒めてやりたいくらい手際がよかった。

訳の分からない事を言っているティアのお花畑を咲かせている頭を殴りつけ襟首をつかむと廊下に放り投げ扉の鍵を閉めたのだった。

扉を閉めた時に、何かが壁にぶつかる音と「くぎゅっ!」といううめき声が聞こえたが

無視した。


「おい、ティア。いつまでも座ってないで早く立て」

「少しくらい慰めてくれてくれてもいいじゃん! ボクだってルクス君が心配だったんだからね」

ぐずぐずとしゃがんでるティアの手を引き立たせる。

「俺だってお前を邪険にしたいわけじゃ無いんだからな。ちゃんと感謝してるよ、ただ驚いただけだ……今度から来るときはノックの一つでもしてくれ。でも、そのありがとうな」


するとティアは感謝されるとは思ってなかったのか、ぼーっとしていたが頬をピンク色に染め花が咲き誇るような笑みを浮かべると、立ち上がり俺に飛びついてくる。

「ボクもルクス君にはいつも助けて貰ってるからね! ありがとう!」


ティアに抱き付かれて俺は気づいた。今自分たちが抱き合っているのが男子寮の廊下だということに……

「おい、ティア……もう離れろ」


だがティアは“今の状況”が分かっていないのか、俺の肩口に押し付けている頭をいやいやと振る。

いや、本当にシャレにならないから!


「おい、ここ男子寮だからな! いいからもう行くぞ!」

そう言い、呆けているティアの手を引き練習場へ向かう。


……案の定訓練所に向かう途中、仲間たちに笑われたが。


◇◆◇



訓練場に着くと他の騎士たちはおらず、隊長1人だけが練習をしていた。


「お疲れ様です。マルドゥック隊長! 昨夜はお疲れ様でした!」

すると一人剣の型を練習していた隊長が振り返った。


30代半ばとは思えないほど深く刻まれた皺、それを覆い隠してしまうかの様な数多く残る剣による傷……まさに歴戦の戦士そのものだった。


「おぉ、ルクスか。話は部下から聞いてる、昨日は大変だったみたいだな。本当は俺が片付けたかったんだが、まぁお前が無事ならそれでいい」

そういい俺の肩を力強く叩く。


「ですが、せっかく追い詰めていたフレイを逃してしまい――」

「本当にフレイだったのか!? まあ、そもそもAAAレートって言う事は、俺ら隊長クラスでも倒せるか分からないんだ。そんな相手に出会って軽い怪我だけで済んだんだ、それ以上は望み過ぎってもんだぜ?」


「噂にしか聞かなかったんですが、レート付きの魔女ってそんなにも強いものなんですか?」

昨夜、自分の力が全く通じなかったことを思い浮かべ、歯噛みする。

「まぁ、そうだな。まずレートが付くって事は指名手配みたいなものなんだわ。だからそれだけで十分すぎるくらいにヤバイ、だから準備の出来てない段階で奇襲するしかなかったって訳だ……団長は単身でAAAレートを下したことがあるらしいかなら、あの人くらいに成らなきゃムリだムリ」

そう言って豪快に笑う。


「……そう、なんですか。団長程の力――」

「そんなに落ち込まなくてもお前の剣には才能がある。いずれ俺も抜けるだろう……だから、それまで頑張るんだな」


そう言って、俺の肩を抱き寄せ耳元で「それに、守りたいもものもあるだろ?」とティアには聞こえない声量で囁く。

「――っな!? そ、そんな事ないですよ!」


だが俺の弁明も流され「じゃ、何かあったら言えよ」と言葉を残し去って行った。

俺が呆然とその後姿を眺めていると裾をくいくい、と引っ張られる。

下を向くと上目遣いのティアが、その翡翠色の瞳を濡らしていた。


「ボクを放置して隊長とお話? ボクとの練習は? ねぇ、ルクス君……」

そのうるうるとした瞳を見ていると、先ほどの隊長の言葉を思い出してしまう。

それをティアに悟られないように気を張りながら、無造作に置かれている練習用の剣を拾い上げる。


「分かってるよ。今から二人で練習しようか」

そう言いながら剣を差し出す。

ティアはすぐに受け取ると、俺に剣を向けてくる。

「さぁ! 早く始めるよ!」


俺も剣を構えティアと距離を取る。いつも開始の合図などはなく互いのタイミングで始める。

……時間にして数秒。その短くも長い時間見つめあった後、ティアが先に動いた。

「はあぁぁぁああ!」


男顔負けの気迫の籠った声と共に、剣が上下左右いたるところから打ち出されてくる。

それを、少し角度を付けて流し受け続ける。

ティアの剣舞のタイミングがずれた瞬間必要最低限の動きをもって彼女の剣を巻き上げ左手で掴み取る。


「――あっ!」

そんな呆けた声が聞こえたがシャットアウトし、左の剣で動きを封じ右の剣で彼女のがら空きになった喉元に剣先を突きつける。


「……参りました!」

ティアが降参する声を上げると、突きつけていた物を下し彼女に剣を返す。

「どうする? まだするか?」

「もちろん、ボクが勝つまでは! それにしてもルクス君のその技はやっぱり強力だよね……騎士の力の根源たる剣を奪い獲っちゃうんだから。よし! やろう」

その後、四度にわたって戦いは繰り返されたがティアが勝つことはなかった。


「――ふぅ、疲れたぁ」

練習が終わるとティアはその場に座り込んでしまう。

「ダメだぞ、動いた後すぐに座ったら、ほら立って」

そう言って力の抜けたティアを引っ張り起こす。


「もう、本当にルクス君の剣を奪っちゃう技……ずるいよ! あれのせいで、いっつも負けちゃうんだもん」

「そんな事言ったってな……俺からしたら魔法剣を使える方がずるいと思うんだけどな。 俺は魔法剣使えないしなぁ……」

だが、どんな言葉を使ったところで練習において彼女が勝てないのも事実である。

そんなことはルクスとて分かっている、だから。


「よし、じゃあ本気のお前と一回だけ戦おうか」

「え、いいの? でもただの練習じゃ使っちゃダメなんだよね?」

一瞬嬉しそうな表情を浮かべるが「練習剣も壊れちゃうかもだし」……そう呟く彼女だったが、その騎士にしては華奢な肩に手を置く。

「大丈夫だ、今は朝で誰も見てないし何か言われたら俺が責任取るから。剣は自分のを使おう」

ただし寸止めな? と笑いかける。すると不満げだったティアに笑顔が戻った。


「わかった! 今度こそは勝からね」


そして、先ほどまでの位置まで戻り互いに真剣を構える。






先に動いたのはまたしてもティアだった。だが彼女の持つ剣は雷を纏い、激しく点滅しながら襲い掛かってくる。直に受けるのはまずいと直感で判断し、後ろに飛びのく。

鼻先をティアの剣が掠めていく。空気が焼けて発生したオゾンがツンっと鼻につく。


「おいおい、当たってたら死んでたぞ?」

すると彼女はバチバチと発光し続ける剣を俺に向ける。

「避けられるって信じてたもん! 本気じゃなきゃすぐに負けちゃうしね!」

そう言うと、彼女はまた剣を構え突っ込んでくる、そして乱舞のごとく剣を振る。


初めの数回は避けることも出来たが、段々と苦しくなり剣で受け止め流すしかなくなってしまった。彼女の雷を纏った剣を受けた瞬間右腕に鋭い痛みが走る。

だが、右手に持った剣を放すことなく彼女の剣を流す。その行為を数度と繰り返すことによって、決定打にならない事にもどかしさを覚えたのか、剣を上段に構えるとそのまま振り下ろしてくる。

それを巻き上げようとし剣と剣を合わせた時、右手の甲が急激に熱を発した。


「――!?」

彼女の剣を巻き上げようとした時だったため、逆に自分の剣が吹き飛ばされてしまう。

そして、勢いのついた彼女の剣が俺の胸元を切り裂いた。

「え、ルクス君!?」


ティアのその声を最後に、意識を失った。



明日から毎日1話ずつ上げていこうと思っています。時間は不定期だと思います

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