結末
「フェイ! お前イカサマしただろう!?」
「俺は今日ここに初めて来たけど、どうイカサマをするんだい? 俺はディーラーじゃないからカードに細工は出来ないし、友達がこの中にいる訳でもないのに、イカサマのしようがないだろ?」
「魔法だ! 何か魔法を使ったに違いない!」
お、鋭いな。実はその通りなんだ。トイレに行った時、ディーラー君に触れてちょっと感覚を狂わせた。
いわゆる暗示系の魔法で、俺に勝たせるよう暗示をかけておいたんだ。
「まるで、最初から自分が勝つはずだったみたいな言い方だな?」
「っ!?」
「悪いけど、もうネタは割れてるよ。俺をはめて借金抱えさせようとしていたんだろうけど、その手には乗らない。お前がこのつまらないやり方で稼いだ金は、お前に退学させられた奴に返してくるから」
「ふざけるな! おい! 扉を塞げ!」
アストンの一声で扉が塞がれる。
なるほど。全員ぐるだったか。まぁ、きっと気にくわない生徒を潰すための共同戦線だったんだろうし、こうなっても仕方無いっちゃ仕方無いか。
「フェイ、僕を侮辱して無事に帰れると思うか?」
その場にいる全員が杖を抜き、魔法の詠唱を始めている。
その気になればいつでも俺を攻撃するという意思表示だ。
その意思表示に、うちの二人がとても素敵なオリジナル笑顔を浮かべているので、出来れば杖を降ろしていただきたい……。
「密室だもんなぁ」
サロン自体が高い位置にあり、周りを見ても同じ高さに教室はない。
ここで何が起きても誰も見えないだろう。
そして、貴族生徒のみなさんは口裏を合わせるだろうし。
「フェイちゃん、こいつら全員血祭りにあげていいかな?」
「フェイをバカにされたということは、配下の私たちが侮辱されたのと同じ。一生消えないトラウマを植え付ける」
「ルルティ、ノアール、ウルカさんを連れて俺の後ろに下がれ」
まったく、親に似て武闘派になるなよ。
平和主義者の俺の配下になるなら、この場を出来れば平和的に納めて欲しいものだ。
「格好付けやがって! みんなやれ!」
アストンの号令で、一斉に色々な魔法が飛んでくる。
上級生の魔法はやっぱり下級生より威力高そうだ。
でも、そんな上級生より、アストンの方が魔法の威力は高そうだった。
この魔力なら魔物相手でもかなり戦えるだろうなぁ。
だから、アストンはクラスでずっと威張れたのか。地位も力もあったから。
「でも、弱い」
俺は木の葉でも振り払うかのように手を振るい、襲い来る魔法を全て弾き飛ばした。
はじき返した魔法は全て撃ってきた本人の足下に飛んで行く。
そして、それに驚いた生徒たちが次々に尻餅をついて倒れた。
わざわざ魔法で盾を作るまでもない。素手で十分だったな。
「なっ!? 今何をされた!?」
「あんまりにも威力が低いんで素手で弾かせて貰った」
小さい頃から魔王と勇者の夫婦喧嘩に巻き込まれて生きてきたんだ。
地形を書き換えるような攻撃を、どれだけ俺が防いだり、弾いたりしてきたと思っている。これくらいじゃ傷の一つも出来ないさ。
「んで、まだやるの?」
「ふざけるな!」
そう言ってアストンが上位魔法を詠唱し始める。
その詠唱は、魔力を全て注ぎ込む大爆発系の魔法だった。
「食らえ! エクスプロード!」
ズガン! という激しい爆音と炎が俺を襲う。
その炎に俺はグーで殴りかかると、爆炎はポスンと空気の抜けた風船のような音を立てて消える。
「お前、他人がいるのにこんな魔法を使ったな?」
「っ!? な、なんだよその目は!? なんなんだよフェイ! お前は何なんだ!?」
俺を攻撃するのは構わない。
けど、巻き込む人がいるなら別だ。
ルルティとノアールだってあのくらいの魔法じゃビクともしない。せいぜい服が汚れる程度だろう。
けど、後ろにいるウルカさんは怪我をするところだった。
いくら平和主義者の俺でも、それは許さない。
「みんなの前で恥かかせようってくらいなら、さっきので十分だったんだけどな」
「来るなよ!? こっち来るな!?」
「お前は俺の身内に手を出した」
魔力切れでろくに動けないアストンのもとに一歩一歩近づいていき――その首に手をっかけた。
「さようならだアストン。奔れ紫電!」
その身体に強烈な電気を放電する。するとアストンの身体は地面を跳ね回り、泡を吹いて気絶した。
恐らくこのまま放っておけば死ぬだろう。けど、死なせない。生き残ったことを後悔するくらいの結末を用意してやる。
「フェイ……あなたは一体?」
ごめん。ウルカさんでもそれは教えられない。
俺が魔王であると知ったら、君は今以上に怯えるだろうから。
だから――。
「ノアール、ここにいるみんなの記憶を消して。その後、ウルカさんを教室まで頼む」
「フェイは?」
「落とし前をつけさせに行ってくる」
「ん。初仕事。がんばれ」
俺はノアールに後始末を頼むと、テレポートでこの国の城へと転移する。
俺は俺で魔王として徹底的に後始末をつけておく。
これ以上、面倒ごとが増えないように、権力を振るってきたアストンを権力でも握り潰しておこうと思う。
○
次の日、アストンは学校から姿を消した。
そして、新聞には魔法省大臣が突然の辞意を表明したと書かれている。
そのことが書かれた新聞を片手に、ルルティが近づいて来た。
「フェイ君、あの生意気な子は結局どうしたの?」
「地下行き三年。今頃鉱山を掘り進んでいると思うよ」
「あら、地下行き百年とかでもぬるいと思ったけど、フェイ君は優しいのね」
「あいつがもしも学院に戻ってきたとしても、三年経ったら俺たちはこの学院にもういないし、ちょうど良いと思ってね」
しかも、親の権力も使えないしね。
戻ってきたとしてもどうしようもない訳だ。
せいぜいアストンには金と労働の重みをたっぷり味わって貰おう。
魔物だらけの生活で、自分の非力さを痛感しながら暮らすのだ。
「にしても、さすがフェイ君だねぇ。こんなあっさり潰しちゃうなんて」
「何のことか分からないけど、呼び出して、お話ししたら分かってくれたよ」
「相手の怯えた表情が見たかったわ」
さすがドラゴン、のんびりしているように見えて、なかなかの鬼畜発言だ。
落とし前をつけろと言った時の魔法省大臣の顔を見たら、きっと見るだけじゃなくて、さらにいたぶりそうなんだよなぁ。
俺一人で処理しといて良かった。