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血の儀式

 城の大広間に人と魔物が左右に分かれて並ぶ。

 左側には各国の王と女王が並び、右側には魔物の各種族の頭領が並ぶ。

 その人達の前に俺は立っていた。


「これより盟約の儀を執り行います」


 礼装に着替えたキャスさんが開会の宣言をすると、顔を布で隠した従者達が俺の目の前に、巨大な盃を置く。

 その中には透明な液体が並々と注がれていて、甘い香りを漂わせていた。

 俺は盃の隣に置かれていた包みを開き、中から銀の短剣を取り出す。


「第十三代目魔王、フェイ=シ=ルファーの名と血において、我ら魔の者と人の者の間に新たなる盟約を交わすことを宣言する」


 俺はそう言って、左手の人差し指の先端を短剣で切り、血を盃に滴らせる。

 ぽちゃんと血が一滴盃に沈むと、透明だった液体は淡く輝く赤い液体へと変わる。

 そして、従者たちはその赤い液を小さなグラスに移し替え、参列者に配り始めた。

 それが全員の手に行き渡ると、参列者が声を一同に揃えた。


「盟約は交わされた」


 その言葉を合図に、俺も含めた皆がグラスの中を飲み干す。


 血の盟約と呼ばれるこの儀式は、魔王の持つ高純度の魔力が溶け込んだ血を飲むことにより、魔王の支配を受け入れる儀式だ。

 この儀式で血を飲んだ者は、俺の思いのままに力を制御されてしまうようになる。

 例えば、俺が力を解き放って戦え、と言えば魔物たちは元の姿を取り戻して戦うし、力を封じて人になれ、と言えば人型になって大人しくなる。

 王家の人たちの方はというと、俺を排除しようと考えた瞬間、その考えが俺に伝わってくるようになり、その瞬間に恐怖を与えて精神を壊すことができる。

 かわりに何か困ったことがあれば、俺に祈りを捧げることによって、俺と念話テレパシーで繋がり、どこにいても助けを呼ぶことが出来るようになる。


 んで、俺は要請があったらテレポートで助けに行くわけだ。

 みんながグラスを空にしたら、残された行程は後一つ。

 交わされた契約の確認だ。


「我が眷属よ。第十三代目魔王フェイ=シ=ルファーの名において、真の姿を解放せよ」


 人化していた魔物たちを真の姿へ戻す。

 すると、魔物の参列者たちに赤い稲妻がほとばしり、それぞれが元の姿を取り戻していた。

 巨大な龍、三つ首の狼、黒い翼を持つ悪魔など、十二の種族が一列に並ぶ。

 初めて参加した王家の人たちの額に冷や汗を浮かばせる一方で、見慣れている人たちは落ち着いた様子だ。

 俺は魔物の頭領たちの前に進むと、改めて呪いの言葉をかける。


「盟約を証明するために、我、魔王の名の下に我が眷属の力を封印する」


 すると、魔物の身体が霧のように散って、中から人の形をしたものが現れた。

 これで俺は魔物を御する魔王であることを証明し、王家の人たちが俺を認めることで儀式は終わる。


「魔王フェイ=シ=ルファー、そして、魔王に連なる魔の者らを、我ら人間の仲間として受け入れる。魔王に平穏のあらんことを」


 これで儀式は終わり。

 この儀式で俺は正式に魔王に就任し、魔王の力を振るうことを許された。

 今までは俺も先代魔王に力を抑制されていたけど、これで自由に魔法と力を使ってもお咎め無しで生きていける。

 おかげで帰り道は、馬車を使わず直接自室にテレポートで戻れるな。


 とはいえ、すぐには帰ることが出来なかった。

 というのも、堅苦しい儀式の後は、宴会が執り行われたからだ。

 皆をもてなすご馳走が振る舞われ始め、妖精族のダンスや歌が場を盛り上げる。

 とはいえ、主催者である俺の元には、挨拶回りがひっきりなしにやってきて、楽しむ余裕なんて全く無いんだけれどね。

 まぁ、とりあえず、出だしとしては悪く無さそうな感触だ。

 配下の魔物の頭領たちも前向きに俺の就任を捉えてくれている。

 けれど、俺の就任を機に、頭領同士の仲が良くなる訳もなく、仲の悪いラゴウとバアルが俺の前に競うようにやってきた。


 白銀の髪を生やす筋肉質な兵士のような男は龍のラゴウ。年齢は見た目三十歳くらい。黒髪の魔術師のような格好をしている好青年は悪魔のバアル。見た目の年齢は二十歳くらい。

 けれど、二人とも齢三百は軽く超えている立派な魔物だ。


「ご立派でしたぞ。フェイ様。このラゴウ感動致しました」

「フェイ様、このバアル、今日という日を一生忘れません」

「えぇい! 邪魔だバアル! ワシが先に挨拶に来たのだぞ!」

「何を言うかラゴウ。我の方が早かった。それに、お主の様な暑苦しい筋肉ダルマがフェイ様に近づかれては、暑苦しかろうて。さっさとそのでかい図体を下げると良い」

「やるってのか!? このひょろっちい陰気者が!」

「ほぉ? いいでしょう。受けて立ちましょう。この姿でも僕の方が強いですからね」


 あぁ、もうこうやってすぐ喧嘩する。どうして、こうも喧嘩っぱやいのが集まるんだ?あぁ、そうか、親父と母さんのせいかー……。先代魔王夫婦が一番喧嘩っぱやいわ。

 今日から俺がこいつらの手綱を引くんだよなぁ……。厄介事が山ほど降って湧いてきそう。

 とにかく、今から厄介なことにならないよう魔王っぽく振る舞わないと。


「ほぉ、てめぇら、俺の前で何をするつもりだ? 客人の前で俺の顔に泥塗るつもりか?」

「「はっ!? すみませんでした!」」


 俺の低い声に二人はハッとこちらを向くと、慌てて地に伏せ、深々と頭を下げた。

 よし、何とか魔王っぽく振る舞えたようだ。


「許す。下がれ」


 その言葉で二人は俺の前から離れようとする。しかし、まるで予め打ち合わせてあったかのように、二人の声が揃った。


「「魔王様祝いの品を王都の宿舎に贈っておきましたので、どうかご自由におつかい下さい」」


 その瞬間、また二人が真似するな! と喧嘩を始めたのは言うまでも無い。

 だが、俺はその喧嘩を止める所では無かった。

 学校に魔王就任祝いの品を贈っただと?

 武闘派の二人のことだから、血を欲する剣とか、魂を削る呪いのかかった杖とか、危ない武器系だよな!?

 バカじゃないのか!? そんなもん人間の学校に持ち込んでみろ! 大騒ぎになるぞ!?

 いくら盟約があるとはいえ、それはあくまで王様たちとの話しでしかない。

 だから、盟約を知らない市民の皆様は、まだまだ魔物に怯えているのだ。そんな魔物の使うような武器を俺が持っていたら、衛兵に捕まるわ。何もしていないのに前科持ちにされるとか勘弁だぞ。


「二人とも待て――」

「ごきげんよう。魔王様」


 けれど、挨拶にくる人の流れは途切れない。

 俺はこの長ったらしい宴会が終わるまで、気が気でないまま過ごさなければならなかった。

 しかし、それは杞憂だった。

 いや、まだ俺の想像していたような武器とか杖とかなら、まだ良かった。


 実物はもっと俺を困らせたからだ。

 俺は宴会を終えると、慌ててテレポートを使い寮に戻ってきてみれば――。


「久しぶり。フェイちゃん。もう若様じゃなくなったんだよね?」

「来なさい。フェイ。今夜は寝かせない。大人の階段を一緒に上る」


 下着姿の女の子が二人も俺のベッドに座っていた。しかも、何故かリボンが胸元にハートマークになるよう結んである。

 一人は銀髪のおっとりしたお姉さんみたいな子で、もう一人は悪戯な笑顔が良く似合う小悪魔系の子だ。

 ついさっき見たラゴウの銀髪とバアルの黒髪がどうも二人にダブって見える。

 というか、二人ともめっちゃ見覚えがある!


「ルルティにノアール何でここにいんの!?」


 ラゴウの娘のルルティに、バアルの娘のノアールだ。もちろん、二人も親と同じ龍と悪魔で、二人は城によく遊びに来ていて何度も遊んだ仲だ。

 けれど、それとこれとは話が別。何で俺の部屋にいるんだよ!?


「あれ? トト様から聞いてない?」

「私が、私たちが、フェイの魔王就任祝いだよ。ほら、胸にラッピングのリボンもつけてる。かわいい」


 なるほど。そう言えばそんなこと言ってたな。贈り物を届けたから、自由に使えって。

 そうかそうか。娘が贈り物か。

 娘を好きにしてくれってことか? サプライズだったら大成功だよ。酔狂なことをする二人じゃないか。

 ふっ、まったくあの二人は――。


「ラゴウ! バアル! 何してくれてんの!?」


 俺は久しぶりに解放した魔王モードのせいで、襲いかかってくる疲れを吹き飛ばすように全力で叫んだ。

 けど、そんな俺の叫びは完全に無視される。


「何するのってこうするのよー」

「甘美の世界へご案内」


 頭を抱えて叫ぶ俺は二人の悪魔に挟まれて、ベッドの中へ飲み込まれた。

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