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いじめられっ子の魔王様

 昼の鐘がゴーンと鳴ると、俺の背中が誰かに小突かれた。


「おい、フェイ今日も頼むわ」


 名前を呼ばれて振り向くと、ニタニタと俺を見下すような笑みを浮かべる男がいた。

 傷一つない小綺麗な顔と、見せびらかすようにつけられた魔法のピアスと指輪が光を反射してキラリと光る。


「また金持ってくるの忘れてさ。貸してくれよ? な? 俺たち親友だろ?」


 その言葉に俺は無言で目を反らした。


 何故かって? だって、このアストンという男は、俺の親友でもなんでもないからだ。むしろ、出来れば一緒にいたくない人間と言ってもいい。


 しかし、このアストンという男は、魔法省の大臣の息子でこの学院に随分顔が利くらしく、反抗的な態度を取ると色々な圧力がかけられて、みな自主的に学院を追い出されてしまう。先日も一人不可解な成績を下され、留年をつきつけられて退学した。


 だから、アストンの次のターゲットが俺に移ったということだろう。

 最高の魔術師を育てる学院なのだけれど、意外とゲスな人間はいた。


「親友の頼みが聞けないって言うのか?」


 そう言ってアストンが俺の胸ぐらを掴む。

 親友にする頼みじゃないだろうに。

 そう言い返さず、俺は黙って銀貨一枚を取り出す。


「違う。違うんだよフェイ」

「え?」

「今日のお昼の賭けは昨日の負け分を取り戻すために、ハイレートで勝負するんだ。銀貨一枚じゃ足りない」


 銀貨一枚あれば、お腹いっぱい食べることが出来る十分な高額貨幣だ。

 金貨一枚になったら一人で一週間は生活出来る額だぞ?


「勝ったらちゃんと返すからさ」


 もちろん返す気なんてさらさら無いことを、俺は知っている。

 こいつは人の物を全て自分の物だと思っているのだから。


「僕がこれだけ言っているのに貸せないっていうのなら、君の家に直接請求しようかな? そうだなぁ。例えば、僕を侮辱したことにして侮辱罪の和解金を――」

「これで良いんだろ?」


 俺は袋から金貨を一枚取り出すと、アストンの前に差し出した。


「ありがとう親友。それじゃあ吉報を待っていてくれ」


 アストンは乱暴に俺から金貨を奪うと、取り巻きを連れてどこかに立ち去った。

 やれやれ、酷い目にあった。

 それにしても、何でこんな目に会い始めたんだっけ?

 そう思って今までの仕打ちを思い出してみる。

 たかりに、集団無視に、教本が水浸しにされてゴミ箱の中に突っ込まれていたこともあったぞ。

 教室の外だと寮の部屋の前には大量のゴミ袋が置かれて、バリケードみたいになったこともあったな。

 一個一個順番に何が起きたかを思い出していると、またもや不意に声をかけられた。

 今度は女の子の声だ。


「あ……あの、フェイ君、ごめんなさい。私のせいでこんな目に……」

「ウルカさん? どうして君が謝るの?」


 ウルカさんが申し訳無さそうに頭を下げている。

 ウルカさんは茶髪のサイドテールが特徴の女の子で、優しい笑顔がよく似合うかわいらしい女の子だ。

 しかも、この学院では珍しく平民の家の出で、コネではなく実力だけで選ばれた優秀な魔法使いの卵だ。

 学院の特徴上、良家のお嬢様が多いけど、俺はこの地味で平凡な子が一番好きだった。そのこともあって、声をかけられただけでドキッとしたよ。


「アストンが私にお付き合いを迫ってきて困っていた時、フェイ君が助けてくれた後から、フェイ君がアストンにいじめられているから……」


 そう言えば、そんなこともあったな。

 確かアストンがウルカさんの顎に触って、「野にも美しいバラは咲くものだな、その美しさに免じて、今日から俺の隣を歩くことを許可してあげよう。光栄に思うが良い」とか何か言っていた。それに対して俺が、「嫌がっているから止めとけ」って言ったんだ。


 言われてみれば、それくらいの時期から色々始まったような気もする。

「もし、そうだったとしても、ウルカさんのせいじゃないよ。それにそんなこと言ったらそのせいで、ウルカさんもみんなに避けられているように見えるけど」

 ウルカさんに誰かが声をかけようとすると、アストンが睨み付けたり、取り巻きがジッと見つめる姿をよく見た。

 そのせいで、ウルカさんに声をかける人はほとんどおらず、ウルカさんから声をかけても無視されるという状況が続いている。


「フェイ君、私と一緒に先生に相談しようよ」

「あー、ムダだと思うよ。前の人も相談したけど相談した先生たちが結局裏切ってたし。魔法省の大臣って、随分学院に顔が利くみたいでさ」

「そんなのんきなこと言って大丈夫なの? だって、あんなに酷いことされたのに……。家の人に相談はした?」

「それだけは絶対無理」


 家にこのことがばれたらまずい。色々な意味でまずい。

 というか、俺に対する嫌がらせに耐えているのも、実家に情報がいかないようにするためだ。

 俺が虐められているなんてことが、人生が終わる。

 だって、俺の実家は――魔王城なのだから。


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