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鬼姫吟味書付  作者: あしき わろし
1/12

プロローグ

あるライトノベル系の文学賞に投稿するにあたり、ほぼ書き上げた時代小説の主要な登場人物4人のうち、2人までを無理やり女性にしてしまうという、我ながら「どうかしていた……」作品ですが、結局のところ1次を通過してくれたのはこの子だけとなります。FC2などにも掲載してました。

 むせ返るような血の匂いが、湿気の多い屋敷に立ち込めていた。

 暗がりに横たわる死体は、すべて心臓をひと突きにされている。


 その傍らに、がっくりと膝をつく若者がいた。



「私は―――なんてことを―――」



 ひゅっ―――。


 と、部屋の片隅で風を斬る音がした。

 刀を振って血を払ったのは浪人風の侍だった。


 この凄惨な現場に平然とたたずんで、むしろ、かすかな微笑さえ浮かべている。

 死体は店主から奉公人までざっと二十人余。最後のひとりまで物音ひとつたてずに殺された。

 すべてこの男の仕業なら、相当な使い手ということになる。


 闇のなかを、男が小走りに寄ってきた。



「先生、すべて積み込みましたぜ」


「ふむ―――いかほどであった」


「へへ、ざっと三千両は下りませんよ」



 浪人は、うちひしがれる若者に声をかけた。



「聞いたか、おぬしの手柄だ」


「私の―――?」



 つぶきながら浪人を見あげる若者の目は、すでに尋常の色ではなかった。



「先生、こいつは―――」


「ふむ。もういかぬか」



 浪人は心を動かしたそぶりもなく、



「仕方なかろう」


「あとで口を割られても面倒でさ」


「いかにも―――おい」



 そう呼びかけると、



「どれ、早速だが報酬をやろう。おぬしが待ちわびたものだ。はずんでおくぞ」


「お―――おお、おお!」



 しかし―――。


 若者が這い寄った瞬間、



(ころり―――)



 と、その首が落ちた。



「おみごと」


「なに、こんなもの、斬ったうちにも入らんさ」


「いやいや。いつ見ても、ぞっとしまさあ」



 浪人はぱちりと刀を鞘におさめた。

 首を刎ねたられた胴体から、おびただしい血がほとばしる。

 しかしその亡骸は、這いつくばった姿勢のまま動かなかった。



「へっ。野郎、首を刎ねられたことすら気づいちゃいませんぜ」


「ふん」


「見なせえ、いまごろ胴が倒れていきやがら」



 だが浪人は、目もくれようとしない。



「どれ、引き上げよう。そろそろ夜が明ける」


「おっと、いけねえ。先生との仕事はこれだから」



 と、配下の男は頭をかきながら、



「先生、まだ小雨が降ってますぜ。ついでに傘も失敬していきましょうや」



 と、口を歪めて笑った。

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