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魔王転生  作者: あさま勲


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8/10

開戦

 夢の中で母は語りかける。

 イーファの母とは違う顔だ。でも、それが自分の母であるという確信は何故だか持てる。

『アナタは、ホントは双子だったのよ?』

 母の言葉によれば、産まれて、すぐに息を引き取った双子の姉がいたのだそうだ。

 双子で産まれてくる事は最初から分かっていた。だから二人分の名前を考えていたのだと。

 でも、残ったのは一人だけ……死んだ一人の事を忘れないため、残った一人に二人分の名前を与えたのだと。

 その名前は、イーファリーファ……


 巨大な力が開放される気配。

 それを感じ、イーファは飛び起きた。

 先程まで見ていた夢の事など、頭の中から消え去ってしまった。

 魔王や勇者ではない。それとは異なる第三者の気配である。

「シャドウ、出て来なさいっ!」

 自らの影に向かって呼びかけるが、シャドウは姿を現さない。

「シャドウっ!」

 再度の呼びかけに、一枚の板きれが影から飛び出す……シャドウからの手紙である。

『旅に出ます、探さないでください。お腹が空いたら帰ります』

 板には、そう書かれていた……腹立たしいほどに達筆である。

 魔王としての力、その残滓を使ってシャドウの書き置きを捻り潰す。

 最近、普及し始めた紙を丸めるより容易に、その板きれは粉砕できた。

「シャドウ……アナタは私の影でしょう? 影なら影らしく、アタシに付き従っていればいいのよっ!」

 そうは言うが、恐らく今の自分よりシャドウの方が強い……それは、何となくだが解っていた。

 その身に内包する力はシャドウと同じだろうが、力の使い方という点では、全くシャドウには及んでいない。

 知識と経験、その二つで決定的なまでにシャドウと差を付けられているのだ。

 転生の度に記憶の大半を無くす魔王に対し、その影は記憶を失わない……となると、真の意味で魔王と呼べるのは、魔王自身ではなく影ではないだろうか?

 そんな疑問も生じてくる。

 シャドウがイーファ自身の行動に干渉してくる事はない。が、単に、それを自覚できていないだけで、知らぬ間にシャドウの思惑に乗せられているのかも知れない。

「シャドウ……アナタは何者なの?」

 呟くが、答えは見つからない。



 ……この世界は綻びだらけだ。

 シャドウは呟く。傍らには、簡素な鎧を纏った勇者イーファの姿があった。

 その綻びを利用し、二人は一足飛びにシルドラが力を振るった場所まで移動したのである。

 綻びの別名……それは『旅の扉』。飛び込む事で、離れた場所へと一瞬で移動できる不思議な泉だ。

 シルドラが吹き飛ばしたかつては山だった場所、そこは見事に更地になっていた。

「あえて街を外した……その判断は正しいようで間違っています」

 シャドウは、傍らに立つ勇者リーファに語る。

 人々の恐怖を煽りたいなら、街へと舞い降り破壊活動を行うべきだった。もしくは、街を丸ごと吹き飛ばしてしまうかだ。

 人口が減れば、世界の容量……リソースに余裕が出る。それだけ世界崩壊までの時間が稼げるのだ。が、山を一つ吹き飛ばしただけでは、十分なリソースも稼げず人々の恐怖も煽れない。

 シルドラは神竜と呼ばれ崇められている。人々が望めば、天候をも操り雨も降らせた……それ故、山を一つ消した所で、神竜は深謀遠慮で以て山を吹き飛ばしたとしか認識されていないのだ。

「と言うより、シルドラは人殺しなんかしたくないんだと思う」

「魔王、失格ですね」

 リーファの言葉にシャドウは答える。が、実際にシルドラが人的被害を出さなかった理由はそれだろう。

 シルドラは、自分を頼りとしてくれる人間達を好いていた。孤独な最後の竜は、自らを頼りとしてくれる人間達を心の支えとして生きてきたのだ。

 それを手に掛けるなど、できようはずもない。

「シャドウ……アナタなら魔王になれる?」

「私は単なる影ですよ?」

 シャドウの返答に、リーファは声を殺して笑う。

 リーファは、シャドウが事実上の魔王と言える存在である事を知っているのだ。

「まあ、アナタはシルドラほど人間に対し思い入れはないみたいだけどね」

 リーファの言葉をシャドウは無視する。

 実際、シャドウは人間に対し、大した思い入れは無い。魔王を今のまま制御下に置き続けられれば、それで良いのだ。

 その結果、世界が滅びようと知った事ではない。

 リーファは空を見上げつつ剣を抜く。

 かつて千年魔王を倒したと伝えられる勇者、彼も使った聖剣である。

 二人の頭上を巨大な影が覆った。銀竜シルドラである。

 シルドラは、嵐のような強風を伴い二人の前に舞い降りた。

「久しいな……我が盟友よ。こうやって顔を合わせるのは、何百年ぶりか?」

 低い、地鳴りを思わせるようなシルドラの声。

「間もなく千年になりますかね。シルドラ……大きくなりましたね」

 シャドウとシルドラは言葉を交わす。

 が、旧知を温める、と言った雰囲気ではない。シルドラには、その気はあるようだがシャドウには全くその気は無いのだ。

 隙あらば、躊躇無くシルドラを殺すつもりである。無論、シルドラも、シャドウの殺意には気付いているはずだ。

「サーラは、あまり変わらんな……纏った気配が老成したぐらいだ」

 シルドラはシャドウに呼びかける。

 サーラ……千年魔王と刺し違えたと伝えられる勇者の名前である。そして、その勇者の騎竜がシルドラだったのだ。

「今は魔王様の影、シャドウと名乗っています」

 シャドウの言葉に、シルドラは笑ったようだ。

「魔王と勇者は表裏一体……それを利用しシステムに介入。魔王と勇者を交替で演じさせる事で世界を騙そうとした。が、世界の容量は間もなく限界に達する。故に役立たずの魔王ではなく、世界を剪定できる真なる魔王が必要なのだ」

 真なる魔王。その候補としてシルドラも名乗りを上げたわけだ。

 が、シルドラは魔王候補としては不適格だ。

 そもそもシルドラ自身は世界を憎んでなどいない……魔王足る力はあれど、魔王たる資格は未だ無いのだ。

 だが、資格など後から付いてくる。

 世界の剪定者が躊躇などしては話にならない。それ故、魔王は純粋な破壊者となれるよう心を壊されるのだ。限界まで大きくなった世界を、小さく剪定し直す存在が魔王。そんな魔王が情などに絆されては話にはならない。それ故の処置である。

 もし、魔王が情に絆されるとすれば、魔王を止める安全装置たる勇者。その勇者と相対した時ぐらいだろう。

 魔王は勇者を前にした時、正気に戻り死を選ぶ……それが適わぬ場合は、魔王の力に制約をかけ勇者に倒させる。そうシステムに組み込まれているのだ。

「シルドラ……私たちを止めたいのなら、魔王たり得る恐怖を集めてから行動を起こすべきでしたね。恐れられてこその魔王です。恐れられる事で、世界は……システムは貴方を新たなる魔王に選びます」

 が、シルドラは十分な恐怖を集めてはいない。

 魔王となる前の、今のシルドラ相手ならばシャドウ達にも勝機はあるのだ。

「我と対になる勇者はサーラ……貴様だ。故に、魔王となった我には貴様は倒せぬ。そして貴様は、我に世界を剪定する猶予など与えてはくれまい?」

 魔王の暴走を止める安全装置、それが勇者である。

 確実に魔王を正気に返す引き金として機能させるべく、勇者は魔王と繋がりの深い者から選ばれるのだ。

 神竜シルドラと最も深い繋がりを持つ存在、それがシャドウなのだ……そう言っているわけだ。

「システムは、そこまで甘くありませんよ。早く動きすぎた勇者には、安全装置は働きませんし、システムは十分な力を与えてくれません」

 故に、今ならば……魔王としての力を得る前のシルドラならば勝機があるのだ。

 シルドラは、未だシステムの介入は受けていない。竜族の伝承の範囲でしかシステムの事を知らないのだ。

 対しシャドウは、システムの介入を受け、同時にシステムにも介入している。だから、システムに関する知識はシルドラの比ではない。

 そして、システムに介入する事で、シルドラをも超える力を得る事もできる。

 ……それをやると、私が本当に『魔王』になりかねないので、できれば避けたい所なんですけどね。

 が、そんな甘い事を言っていられる状況ではない。

「シルドラの止めは、アタシが刺そう……と言うか、それしかできないわね。シャドウは不死身なんだし、何とかシルドラの動きを封じて」

 リーファの言葉にシャドウは頷く。

 それしかないだろう。

 シャドウは魔王と命を共有しているため、今の魔王が魔王として存在し続ける限り死ぬ事はない。

 が、勇者リーファは違うのだ。

 魔王の力の源たる『永遠』を奪いはしたが、魔王と命を共有しているわけではない。『永遠』のおかげで老いる事はないが、殺せば死ぬのだ。同様に、魔王イーファ自身も殺せば死ぬ。

 そして、リーファに死なれては、勇者がシャドウの制御から離れてしまう。結果、魔王も制御できなくなるだろう。

 シャドウは、大きく息を吐いた。

 ……とは言え、十分な時を生きた事ですし、そろそろ、お終いにしても良いかも知れませんね。

「シャドウ……アナタが辛いなら、もう、お終いにしても良いわよ?」

 リーファに言われ、シャドウは先程の考えを振り払った。

「私は、魔王様と永遠に共にありたいと思ってますので、お終いなど考えていませんよ?」

 シャドウの言葉にリーファは笑う。

 どうやらリーファは、やる気のようだ。ならば、シャドウも全力で、それに応えよう。

 狡いやり方だ……内心そう思いつつ、シャドウはシルドラへと向かって駆け出した。

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