第九十一話 人斬り狐と灰色の少女
『ゾッ帝の個人的な考察No.7』
原作『ゾット帝国』シリーズに登場するキャラクターの名前の由来は何でしょうか?
作者である裕p先生は『ジョー』は映画『マッドマックス 怒りのデスロード』からとったと述べていました。
また、ジンとカイトの由来は『H×H』からかと聞かれ、違うとも言っていました。
他のキャラクターは特に元ネタらしきものは見当たらないので、オリジナルなのでしょうか。
この外伝である『丘の民』ではキャラクターや地名などは全て『例のアレ』カテゴリーからとられています。
・メノウ→パワーストーンである瑪瑙石
・ツッツ&カツミ→カッツッツー
・センナータウン&イオンシティ→泉南イオン
といった感じです。
単純ですね。
港町キリカの郊外にある廃墟。
かつてこの場所には『ディオンハルコス教団』のキリカ支部があった。
数年前にメノウとスート、そしてキリカ警察の手によりその教団は壊滅。
かつて教団の活動場所となっていたこの場所はすっかり寂れてしまった。
いまでは近づく者すらいない。
…はずだった。
「…くッ!」
「ひはははは!斬っちゃうよー?」
しかし、この日は違った。
廃墟と化した教団支部にて戦いを繰り広げる者がいた。
以前、メノウの下に現れた灰色の装束を纏った謎の少女グラウ。
彼女と対峙するのは、魔王教団の眷属と化した人斬りミサキ。
「避けてばかりじゃ勝てないよー?」
教団支部の建物の屋上を足場代わりに戦う二人。
塔、居住区の宿舎、集会場、次々に飛び移りながら互いに攻撃をかわしていく。
「避けてばかりではないさ」
籠手に仕込んだ撃剣を二本取り出しミサキに向け投擲するグラウ。
撃剣自体は小さいが貫通力は非常に高い。
身体で受けるのは得策では無い。
「そんなもの!」
持っていた刀でそれを弾くミサキ。
二本の撃剣は軌道を大幅にずらされ、あさっての方向へと飛んで行ってしまった。
しかしこの撃剣は単なる囮でしかない。
放ったグラウ自身、この攻撃が通るとは思ってすらいない。
「ハッ!」
近くの送電鉄塔を足場代わりに蹴り、離れた位置にいるミサキの下へと距離を詰める。
グラウの本当の目的。
それは彼女の持つ刀『天生牙』による一撃だった。
「…っ!?」
天生牙をミサキに振りかざす直前、身体を捻り攻撃を中断するグラウ。
数メートル下の地上へと着地し、建物の影へと隠れその場から距離を取った。
それと共に、近くの建物の壁が突如爆発を起こした。
「仲間を呼んでいたか…!」
「誰が一対一って言ったの?」
爆弾が仕掛けられていたというわけではなさそうだ。
となると魔法攻撃の類だろうか…?
「後方からの射撃か…」
今の爆発には僅かだが魔力が込められていた。
遠距離からの銃での狙撃に魔力を加えることで、爆発を起こすほどの威力にしてあるのだろう。
狙撃主を始末するにも、ミサキがそれをさせないだろう。
幸いにも今は夜。
命中率はそこまで高くないはずだ。
爆発にさえ気をつければ致命傷にはならないだろう。
「銃を撃つ専門家を呼んであるからねー」
「銃など当たらなければ死にはしない」
「そうだね、私も狙撃でキミを倒せるなんて思ってないよ」
再び建物の屋根を飛び移りながら戦いを再開する二人。
狙撃を警戒しつつ動くグラウ。
そしてそんな彼女に対して言うミサキ。
恐らくミサキの狙いは、仲間からの狙撃によってグラウの移動を封じることにあるのだろう。
直撃しなければ、確かに死にはしない。
しかし警戒させることはできる。
「それにしてもキミ、珍しい武器を使うねぇ、驚いたよ」
「撃剣のことか?」
「そうそう。私の国でもそれを使う人はもういなかったよ」
互いに攻撃を交えながら対話する二人。
残りの撃剣でミサキの刀による斬撃を受け流しつつ、鎖付の撃剣を投擲する。
投擲した撃剣は外れたが、別の建物のカベに突き刺さった。
それを支店とし、また違う建物の屋根に飛び移って行く。
「撃剣は東方の武器。そういえばお前の故郷は極東の島国だったか…」
「私のことよく知ってるねぇ!?そっちのほうが驚きだよ」
教団跡地の中央にある最も高い塔、その上からグラウを見下ろすミサキ。
その言葉と共に彼女は刀を構える。
「これでどうかな!?炎舞折朱!」
以前メノウとの戦いの際に使用した幻術技『炎舞折朱』を放つ。
幻術により炎の幻惑を見せ、攻撃を加える技。
見た目は派手な炎だが、それはただの幻術による実体の無い単なる幻。
実際は攻撃を受けた者の肉体を必要最低限の魔法炎で燃やし、大きなダメージを与える技だ。
「炎…!?いや、これは…」
初見の者ではほぼ確実にその炎の幻に惑わされてしまう。
以前ミサキと戦ったカツミですらその幻術に掛ってしまったほどだ。
グラウも一瞬惑わされかけるも、その技の本質を見抜き攻撃用の炎を鎖付撃剣で打ち消した。
「幻術も効かないとはやるねぇ」
そう言って塔から降り、地上へと着地するミサキ。
下で決着をつけようというのだろうか。
と、そこへ…
「グラウ!それに人斬りの…!」
「この二人が戦っていたのか」
先ほどの爆発を見て駆け付けたショーナとジン。
一緒にいたはずのメノウの姿が見えないが…
「ショーナ、そしてそこの騎士!狙撃主がこちらを狙っている。気をつけろ!」
「なんだって!?」
「人斬りと狙撃主、厄介だな」
今の会話で一瞬ではあるがグラウの注意がミサキから彼らへと移ってしまった。
それを逃すミサキでは無い。
刀を構えすぐさま攻撃を仕掛けた。
「霞蒸折朱!」
刀身に熱を帯びさせての斬撃。
仮に撃剣で受け流しても熱でダメージを与えることが出来る。
そしてこのミサキの攻撃を合図に狙撃主もジンに狙いをつけ銃を撃つ。
「魔力の込められた銃弾か…」
その銃弾を剣先で受け流し、軌道を逸れさせ避けるジン。
その銃弾は教団跡地の庭園に置かれていた巨大石柱に命中。
爆発した。
「助太刀しよう、名も知らぬ少女よ」
「…感謝します」
さらにミサキの霞蒸折朱を剣から放った斬撃波でかき消すジン。
彼は魔法こそ使えないが剣術の腕はこのゾット帝国でも最高クラス。
その彼がグラウの加勢に加わってはいくらミサキといえども分が悪いと言える。
「腕が立つ剣士さんだね…」
ここに来て初めてミサキの顔に焦りが浮かぶ。
一方、狙撃主は次なる狙いをショーナに向けるが…
「名前は忘れたが、お前さんとは昔に会ったことがある気がするのう」
狙撃主の前に現れたのはメノウだった。
街中から郊外にあるディオンハルコス教団跡地に向かう途中、妙な魔力を感じ取った彼女は一旦ショーナ達と別行動をとった。
そしてこの狙撃主の下へと向かったのだった。
灌げ機種は近くの給水塔の影に隠れ狙撃をしていた。
メノウは足元に合った長距離射撃用の銃を蹴り飛ばし、給水塔から落下させた。
「俺はよーく覚えているさ…」
「ほう、どこでいつ頃会ったか…?」
「あの時は朱色の髪のガキも一緒だったよなぁ!」
そう言ってメノウに殴り掛かる狙撃主の男。
それはかつて、この西アルガスタを中心に活動していた列車強盗団『バッタリー一味』のリーダー。
ヤーツァ・バッタリーだった。
彼の言う朱色の髪のガキとはカツミのことだろう。
以前、東アルガスタへの旅時の中メノウはカツミと共にヤーツァ達と交戦。
彼らを倒し警察へと引き渡したのだった。
「…あの時の列車強盗か」
「思い出したか!あの後一味は解散、俺は刑務所行きだった!お前とあのガキのせいだ!」
「だからと言って魔王教団の眷属になることはないじゃろうに…」
「もう一人のガキは一緒じゃないみたいだな。もう死んだか?」
「そんなわけないじゃろう」
ヤーツァに手刀を喰らわせようとするも、それを避けられてしまう。
シェン達と同じくあの紋様を彼も刻んでいるのだろう。
とはいえ元々の身体能力はシェンほど高くは無い。
たとえ紋様の力を持っているとはいえ、その力はメノウには遠く及ばない。
ヤーツァもそれは理解しているのか、積極的な攻撃はしていない。
腰のホルスターからオートマチック銃を取り出し数発発砲した。
「今さら銃ごときで…」
銃弾をローブではじくメノウ。
しかしその銃弾は先ほどグラウに向けて放った物と同じく魔力が込められていた。
着弾と同時に小さな爆発を起こしメノウをかく乱させる。
「ヌッ!?」
僅か一瞬だったが、ヤーツァが退路を作るには十分すぎる時間だった。
給水塔から飛び降り、彼はその場からすぐさま去っていった。
そしてすぐさまミサキの方へと向かっていく。
「おいミサキ!計画狂いすぎだぞ!」
「黙ってよヒゲのオッサン!こいつらが来るなんて予想外だよ」
「メノウのヤツも来やがった!」
「いつもなら戦いたいけど、この状況は…ねぇ…?」
ジン、グラウ、ショーナ。
そしてメノウ。
この四人に対し、ミサキ達は二人。
戦いになればまず勝てない。
「ここは逃げるぞミサキ!」
「メノウちゃんとは再戦の約束してたのにぃ~」
そう言いながらその場から急いで逃走していく二人。
そこに入れ替わるようにメノウが到着した。
「追わないのか?」
「ええ。深追いは無用です」
メノウの問いに対しグラウはそう言った。
一方、ジンは初対面となる彼女に対し軽く挨拶をし自身の紹介を済ませた。
「そういえば、名は?」
「本名は言えません。とりあえず『グラウ』と呼んでください」
ジンに対し敬意を払い接するグラウ。
彼女はジンに対し、ある物を手渡した。
それは一枚のフロッピーディスクだった。
「フロッピーディスク…?」
「はい」
「軍用のものか。そしてこの印はディオンハルコス教団の物…」
「魔王教団、そしてそれと結託するもう一つの勢力。その秘密がそれに入っています」
「…何故これを私に?」
「あなた達でなければいけない。そうとしか言えません」
このフロッピーディスクは元々このディオンハルコス教団キリカ支部の廃墟に置かれていた物だ。
それを奪取した直後にミサキ達と遭遇。
戦闘になったらしい。
「奴らが来たのは偶然か、それとも何かを狙っていたのか…?」
あの二人のの真意は分からないが、少なくともしばらくはこの西アルガスタにいるつもりだろう。
ミサキの捨て台詞からすると、単にメノウに再選を挑むつもりだったのかもしれない。
「この西アルガスタの討伐大会は私が護ります。あなた達は次の会場となる地区へと向かってください」
「なぜじゃ?」
「次の会場は『北アルガスタ』、そこであなた達は『ある人物』と出会うことになるでしょう」
「ある人物…?」
「はい。できれば急いでいただきたい…!」
そう言ってグラウはその場から去って行った。




