第八十九話 『旧友』とのひととき
『ゾッ帝の個人的な考察No.5』
ゾッ帝の原作キャラクターにはファミリーネームがほとんどありません。
何か深い意味があったのでしょうか?
それとも考えていなかっただけか…
この外伝である『丘の民』ではファミリーネームありのキャラクターと無しのキャラクターが混在しています。
過去の大戦で戸籍などが無くなり、皆好き勝手な名前を名乗っているようなイメージです。
ツッツやショーナなどはそのパターンです。
カツミには一応苗字があり、『カツミ・ミゴー』という名前になります。
漢字に直すと『御郷 勝美』です。
西アルガスタの港町キリカ。
ゾット帝国でも有数の高級住宅街が立ち並び、他の地区からの旅行者も多いこの街。
その地にてショーナは、旧友の少女レオナと再会した。
時刻は丁度昼を回ったくらいだった。
「あッ!」
「ショーナくん!?」
「レオナ!」
こんなところで会うとは思わなかった、そう思う二人。
数週間前の東アルガスタの討伐大会予選でも会ったが。あの時はメノウがいた。
二人きりで会うのは以前の再会の時を除けば数年ぶりになるだろう。
「レオナ、なんでお前がここに?」
「父の別荘がこの街にあって、遊びに来てたの。観光よ」
「あ、そっかぁ…」
「このキリカの街は来るたびに新しい名所ができているの。来るたびに新鮮な気分になれるわ」
近くのベンチに座り、改めて話を続ける二人。
どうやらレオナは観光の途中だったらしい。
「そうなんだ…」
父という言葉を聞き、改めて彼女が養子として迎えられたことを思い出すショーナ。
キリカは景色はいいし、魚介類が新鮮で美味しい。
遊ぶ所もある。
しかし、金持ちしか住めない街でもある。
「ショーナくんはどうして西アルガスタに?」
「一応仕事…かな」
「あ、そうか。ショーナくんて今の東アルガスタ四重臣の…」
「ああ、D基地の隊長さ。でも今回はちょっとそれとは関係ないな」
「メノウちゃんは一緒じゃないの?」
辺りを軽く見まわし、メノウがいないことに疑問を覚えたレオナ。
以前ショーナと会ったときは二回ともメノウが近くにいたが、今日はいなかった。
「仕事だってさ」
「仕事してるんだ、あの子…」
「ああ見えてアイツ、俺達より年上だからな」
「あ、そうなの!意外ね…」
「まぁ、正確にはいろいろとあって…話せばすごい長く…」
「え?」
「いや、なんでもないよ。それよりさ…」
わざわざメノウの過去を話のタネにすることも無い。
少なくともあの話は、本人にとってもあまりいいものではないということは知っている。
そう考えたショーナはそれ以上は話を続けようとしなかった。
適当に話をごまかし別の話題に移す。
「レオナ、今日って時間空いてるか?」
「ええ、軽く街を回ろうと思ってただけだったから…」
「俺、この街に来たばっかでさ。一緒にどっか行かないか?」
この港町キリカのことをショーナはあまり知らない。
パンフレットなどの書籍で、軽く街の説明や名所の写真を見たことはある程度だ。
話を聞く限り、レオナは今までに何回かこのキリカを訪れているらしい。
彼女に案内してもらえればこれほど心強いものは無い。
「え、ええ!喜んで」
「よかった。今日はメノウがいないからゆっくり遊べるぜ」
「何かあったの?」
「西アルガスタって治安悪いからあまり出歩くなってさ」
正確には魔王教団と遭遇しないようにするため。
しかし一般人であるレオナに余計な心配を掛けたくない、そう思ったショーナは簡潔にそう言った。
「確かに治安はあまりよくないわね。今でも犯罪は多いし…」
「そうなのか」
「でも大丈夫。私が安全でいい場所にいろいろと案内してあげるから!」
「本当か!助かるよ」
「じゃあ早速行きましょう。ちょうどお昼ですしね。いい料理屋を知ってるわ」
「マジか!」
レオナの案内の元、ショーナは新鮮な魚介類を出すという料理屋へと向かった。
この港町キリカでも比較的有名な店らしい。
レストランと言うほどでもない、港の片隅にある小さな店だった。
高級すぎず、かといって大衆食堂のような雑多とした印象でもない。
隠れた穴場、そういった印象を受ける店だ。
「さ、入りましょう」
「おお」
大海を航海する船の船内を模した、落ち着いた雰囲気の店内。
建物は二階建てだが、一階部分と二回が吹き抜けになっている。
窓に近い席に座り、適当に料理を注文していく。
「ショーナくん、確か魚の料理好きだったでしょ?」
幼いころ、ショーナはよく村の近くの川で魚を獲っていた。
それをレオナは覚えていたのだ。
あまりきれいな川では無かったが、それでも食べれる魚は一応いた。
「ああ。村にいたときはよく川で魚を獲ってたっけ…」
「友達みんなで木を煮詰めて『根』を作ったわね」
「そうそう!根、よく作ったなぁ!」
「ふふふ…」
昔話に花が咲く中、早速料理が運ばれてきた。
生魚の薄い切身にオリーブオイルがかけられたクルード、そしてパンが少し。
魚と野菜のスープ、そして瓶詰めの水。
それらを食べながら二人は昔話に興じていた。
「ショーナくんは何であの村を出たの?」
「あそこにいても未来は無いだろ。あんなところにいるくらいなら座敷牢の方がまだマシさ」
「環境も悪かったし、何もすることが無かった。確かにそうね」
「村を出て一年と少し、南アルガスタの辺境でアイツと出会ったんだ」
「…メノウちゃんね」
「アイツと出会ったおかげで今の俺がいる。もしアイツがいなければ、俺は…」
もしメノウがいなければ、ショーナは盗賊に襲われ野たれ死んでいたかもしれない。
ショーナにとって彼女はかけがえのない存在だ。
「メノウちゃんはショーナくんにとってとても大切な人なのね」
「ああ」
「メノウちゃんはいいなぁ、大切に思ってくれる人がいて」
少し皮肉を込めて言うレオナ。
それと共にクルードを口に運び、パンを少しかじる。
ショーナは水を軽く飲み、話を続けた。
「アイツはいろいろ一人で抱え込む癖があるんだ。少しくらい話してくれてもいいのにな」
以前、禁断の森での特訓の際にメノウから伝えられた言葉。
メノウという存在の成り立ち、そして真実。
『全てを話す』
あの時、確かに彼女はそう言った。
しかしショーナには、あの時メノウが言った言葉が『全て』だとは思えなかった。
明らかにまだ何かを隠している、そう感じとったのだ。
「メノウちゃんは皆に心配を掛けたくないのよ」
「全部自分で片付けようとするんだ。アイツは…」
まだ皿に残っていた料理を平らげ、水を飲むショーナ。
金を払うと店を後にし、次なる目的地へと向かった。
「次はここにしましょう」
「げ、ゲーセンかよ!?」
この街にはいわゆる『ゲームセンター』と呼ばれる施設がある。
施設に置かれているゲームは殆どが軍からの払下げ品だ。
数年前、西のアルガスタの支配者であるジョーの率いる軍が訓練用に制作したらしい。
ジョーが失脚した後、それらは別の地区の軍や民間へと流れた。
「こんなところにゲーセンが…」
「王都ガランでもあまり見かけないわ、ゲームセンターって」
そういいながらゲームセンターへと入る二人。
珍しい施設であるがゆえに、意外と他の観光客も何人かがいた。
施設内に置かれている筐体は、軍に所属する者ならば必ず見たことがある物ばかりだった。
射撃訓練用の装置を流用したガンシューティングゲーム、運転練習用の装置を改造したレースゲーム。
筋力測定器を改造したパンチングマシーン。
外装こそ変えてはあるもののの、殆どが軍で使用されていた物ばかりということがショーナには一目でわかった。
「南アルガスタ軍でも同じ機械使ってたよなぁ…」
ガンシューティングの筐体を見ながら小声で呟くショーナ。
恐らくこの筐体もジョーの軍が使用していた射撃訓練装置の改造品。
払下げ品の同型の装置を、ショーナの所属する南アルガスタ軍でも使用しているのだ。
当然、ショーナもその装置を使って訓練したことがある。
「同じ感覚でできるかな?」
「やってみる?ショーナくん」
「ああ、やってみるよ」
ためしにゲームをプレイしてみることに。
淡々とターゲットを撃ち続けるだけの訓練機と、ある程度ゲーム性が追加されたこのゲーム筐体。
多少の違いはあれど元々は同じ装置。
何度も訓練で使用したことのあるショーナにとっては難なくクリア出来る程度の代物だった。
「なんだ、これで終わりだったのか」
「すごーい!最高記録だって!」
「そう言われてもなぁ…」
「私もやってみようかしら」
軍で同型の装置を何度も使用したことがある、そう言いにくい空気になってしまった。
レオナのプレイを見ると、どうやらこのゲームは初心者には難しいものだったらしい。
彼女が凄いというのも無理はない。
「次はあれ!」
「レースゲームかぁ」
こちらもやはり軍で使用していた訓練機を改造した物だった。
操作性もほぼ同じ、やはりショーナにとっては軽くクリアできる代物だ。
「こっちも最高記録だって!」
最高記録に興奮するレオナに対し、少し醒めた顔を見せるショーナ。
しかしレオナが楽しんでくれるならそれでいい。
彼女が喜んでくれるのならば、ショーナも嬉しい。
一通りゲームをプレイした後、ある物が ショーナの眼にとまった。
「お、あれは…」
それは単純な射的だった。
空気弾で賞品を落とすだけの単純なゲームだ。
「やってみる?ショーナくん」
「そうだな、賞品も貰えるしな」
空気銃を店員から受け取り、ゲームを開始する。
弾は五発、それで落とせるものを探し、命中させるのだ。
「メノウにアレを!」
この場に居ないメノウへ渡すためショーナが選んだもの、それは小さなドッグタグだった。
あまり過剰なアクセサリーは好まぬメノウ。
スチール製の小さなドッグタグくらいの方が彼女も喜ぶだろう。
「同じものをもう一つ!」
自分用に同じドッグタグを落とすショーナ。
そして…
「レオナ、何か欲しい物あるか?」
「わ、私!?じゃ、じゃあ私も…」
「あの砂時計とかいいんじゃないか?それ!」
レオナが言い終わる前に、小さな砂時計を狙い撃つショーナ。
残り三発全てを使い切り、なんとかそれを落とすことが出来た。
三センチほどの小さな砂時計だ。
それをレオナに渡し、ショーナは二つのドッグタグを小さな袋にしまった。
「はい、砂時計」
「あ、ありがとう…」
「意外と楽しいものだったなぁ、ゲーセンも」
遊んでいるうちに時間は過ぎ、もうすぐ日が落ちる程になっていた。
日が傾き始め、街には帰宅する者達で溢れかえり始める。
ゲームセンターを出ると。、既に人通りが少しづつ増え始めていた。
激しい喧騒が辺りを包み始めた。
「もうこんな時間か、久々にレオナと遊んだから時間を忘れちまったよ」
「楽しかった…?」
「もちろんだ、今日はありがとうな」
「いいえ…」
「本当に楽しかったよ。また今度遊ぼうな。。その時はメノウやみんなも連れてくるよ」
「え…」
「ん、どうした?」
「ショーナくん、もしよければ今夜これから…」
その言葉を聞いてか、聞かずか、ショーナはその場から離れていった。
屈託のない笑顔を見せ、手を振りながらレオナに言った。
「じゃあな!」
そう言って彼はその場を後にした。
後に残されたのはレオナだけだった。
裕P先生ことシャムさーん!
復活してくださーい!
それまで待ってます!




