第八十七話 西アルガスタの忘れ形見
『ゾッ帝の個人的な考察No.3』
ゾット帝国内の科学力はどの程度発達しているのでしょうか?
武器はオートマチック銃など、比較的近代的な武器が登場します。
また、携帯電話などもあるようです。
街にはコンビニがあり、こちらも近代的です。
しかし一方ではホバーボードといったものが、子供が所持できるレベルで普及していたりします。
未来的な一方で、城や魔物といった中世てきなものも普通に登場します。
MMDゾッ帝から入った人はこの辺りで混乱するでしょう。
僕もそうでした。
近未来冒険活劇なのか中世ファンタジーなのか、その辺りは一貫して欲しいものです。
この外伝である『丘の民』では、数十年前に起きた世界的な戦争のせいで文明の発展が中途半端に止まってしまったという設定になっています。
魔物といった中世要素はロストテクノロジーに近い存在、魔法は実用性に乏しい物好きが使う技、といった扱いです。
「俺が予選に出ている間にそんなことがあったのか…」
「ああ、ミサキのヤツも奴らの眷属になっていたとは思わなかったぞぃ」
そう言いながら列車から降りるショーナとメノウ。
二人は今、次の予選が行われる西アルガスタの中央都市『キリカ』へとやってきていた。
愛馬のアゲートも一緒だ。
数年前、ツッツと共に旅をし、数多くの強敵と戦いを繰り広げたこの地。
ツッツだけでは無い、魔術師スート、賞金稼ぎタクミ・ウェーダー、そして疾風の少女カツミ。
この地で出会った者は多い。
「西アルガスタ、久しぶりじゃな…」
「メノウ来たことあるのか?」
「ああ、数年前じゃがな」
そう言って駅の高台から港町キリカを眺めるメノウ。
数年前のあの時と変わらない、古き良き街並みが広がっていた。
自然に溢れ、今と昔が調和した街。
とはいえ、やはり数年前と同じく金持ちが住むという点は変わらないらしい。
「まぁ、人まではそんなに変わらんか」
あの時とは違い、今のメノウは金に余裕があった。
数年前の西アルガスタの旅の時は砂漠を抜けた後ということもありボロボロの格好だった。
そのせいで妙な目で見られたことを覚えていたのか、ある程度身だしなみを整えて来たのだった。
いつものローブとベールは変わらないが、首に巻くのはシルクのストール。
左腕に翡翠とエメラルドのバングル。
カバンもそこそこ高価な革製のモノを用意していた。
「港町キリカはゾット帝国でもトップクラスの人気のリゾート地だからなぁ。住んでる奴も金持ちが殆どさ」
「数年前いやというほど知ったわ。そんなこと」
一方のショーナは南アルガスタD基地所属を意味する軍の制服を身に纏っていた。
とはいっても、私服の上から軍服の上着のみを羽織っているだけだが。
ラフな格好ではあるが、いざというときに身分を証明することが出来るため都合がいいという。
「アゲートのヤツも列車から降ろさないとな」
「馬用の列車はなかなか無いから探すの大変じゃったな」
「まぁな、俺が連れてくるよ」
「おう、任せたぞぃ」
「表で待っててくれよ」
「ああ、わかった」
愛馬のアゲートを列車から降ろすため一旦場を離れるショーナ。
「さて、迎えが来ると聞いておったが…」
辺りを見回すメノウ。
しかしどこもそれらしき人物はどこにもいなかった。
駅の中を探索するも見当たらない。
ルビナ姫の話によると、各地方にメノウの知り合いを向かわせてあるという。
以前のショーナとミーナのようにだ。
「ん?」
駅の前の道路に何やら人だかりができていた。
どうやら何かトラブルが起きているらしい。
「おーい、メノウ!アゲート連れて来たぞ!」
「おお、ありがとうな」
「何か人が集まっているみたいだな」
「いってみるか?」
気になった二人はそこに向かっていった。
人混みをかき分け、その中心へと進むメノウ。
アゲートに乗るショーナはさすがにそこには入っていけないため、当巻きにそれを見ていた。
「こういうとき体が小さいと楽じゃな」
そう言いながらメノウがトラブルを起こしている者の下にたどり着いた。
そこにいたのは…
「ウェーダー、何をしておるお前さん」
「め、メノウか!ちょうど良かった!こいつらに説明してやってくれよ!」
そこにいたのは、西アルガスタの賞金稼ぎタクミ・ウェーダーだった。
彼も以前メノウと共に一時的に旅をしたことのある人物。
ルビナ姫から直々に大会関係者の護衛を依頼された者の一人だ。
しかし、その彼が何故か警察官数名に囲まれていたのだ。
周りの人だかりはそれを見に来た野次馬だった。
「この男の乗っていた車は西のアルガスタの元支配者、ジョーの配下が駆っていた物だ!」
「貴様、ジョーの一味の残党か!?」
銃を突きつけながらウェーダーを押さえつける警官たち。
彼の乗ってきたのは、以前西アルガスタで手に入れたという黒い装甲車だった。
警察官の言うとおり、実はこの車は西アルガスタのかつての支配者である『ジョー』の配下の者が乗っていたものだった。
廃棄されていた物を修理しウェーダーが使用していたのだ。
「ズール砂漠で拾ったんだよ…」
「詳しく調査をする必要がある、おい!この男を連行しろ!」
「お、おい!いくらなんでも強引じゃ!」
メノウが訴えかけるも警察官はそれを無視しウェーダーを連行しようと手錠を取り出す。
以前のディオンハルコス教団事件で知り合った警察官がいれば話も通じたのだが、残念ながらこの場にはいなかった。
しかしそこに一人の救世主が現れた。
「その男を離してやってくれないか?」
それはゾット帝国親衛隊所属の騎士、ジンだった。
ルビナ姫の護衛を一任されているおり、民衆からの信頼も厚い男だ。
彼の顔を見たとたんに辺りの野次馬たちが騒ぎ始めた。
この西アルガスタという場所にとって、彼は特別な人間なのだ。
「じ、ジンさん!しかしこいつはジョーと関係が…」
「彼の身元は私が保証する。頼む」
そう言って警察官達に頭を下げるジン。
ジンはかつて、この西アルガスタを救ったこともある英雄。
それを知らぬものはここにはいない。
彼の頼みとあらば、それを断る者もいないだろう。
「あ、頭を下げる無いですよ!ジンさん!」
「…すまない。昔の癖が出てしまったか」
「わ、分かりました。この男は解放いたします」
ウェーダーを解放すると、警察官たちはその場を去って行った。
さすがに有名人ということもあり、集まっていた野次馬たちもジンに話しかけようと彼に群がり始めた。
それをなんとかなだめ、ジン達はメノウ達と共に静かに話せる場所へと向かうことにした。
「ここならいいでしょう」
人のあまり来ない郊外の公園に腰を下ろすジン。
ベンチが数個あるだけのほぼ自然林のような公園、こんなところにまで野次馬はこないだろう。
さきほどの礼を言いつつウェーダーが訪ねた。
「さっきは助かったよ。しかしアンタ一体…」
「昔この地区でいろいろあってな」
「いろいろ、ねぇ…」
「ああ。そうだ」
「けど、助けられたのは事実だ。感謝するよ。ありがとうな」
かつてジンは、ルビナ姫と共に悪政を敷いていた支配者ジョーを倒した。
そのことを知るこの西のアルガスタの民たちからは彼は英雄の様に慕われている。
ある意味ではメノウと同じ、また別の意味ではメノウとは真逆の存在ともいえる。
メノウもかつて南アルガスタを救ったが、その活躍を知る者は少ない。
彼女自身、あまり目立つことを好まない性格だからだ。
「この地区の人たちはまだ忘れられないんだ。ジョーの恐怖を…」
「それよりジンさん、カイトのヤツは一緒じゃないのか?」
「カイトにはルエラ姫の警護を任せてある。城の周りにもネズミが多いからな」
これまではジンがルエラとルビナの護衛をしていたが、今回に限りカイトに代わってもらった。
メノウ達が西のアルガスタに向かうと聞き慌てて飛んできたという。
「カイトのヤツに務まるのか…」
「しかしジン、なぜお前さんがここに?」
「メノウ、キミに頼みたいことがある。そのためにこの西アルガスタに来た」
「ワシに?」
「西アルガスタの予選までまだあと二週間、その間にある場所を調査して欲しい」
「どこじゃ、それは」
「ジョーの研究所跡、だ」
--------------------
メノウたちが西アルガスタにたどり着いたちょうどその頃。
同じ西アルガスタにあるとある街の裏路地にて…
「おいおい、ダメじゃないか。小さな女の子がこんなところ歩いてちゃあ」
少女に絡むチンピラ風の男、この西アルガスタはゾット帝国内でもっとも治安の悪い地区。
港町キリカなどの金持ちが住む場所の治安は比較的安定しているが、貧困層の住む街まではそうもいかない。
スラム街をさらに悪化させたようなような地ではこういったことなど日常茶飯事だ。
何人かがその横を通り過ぎていくも、皆がそれを無視し通り過ぎていく。
「やめ…やめてください」
「いいじゃん、いいとこ案内してやるからよー」
「やめて…人を待ってるの」
「それにしてもこの辺りで黒い髪なんて珍しいな、こりゃあ高く売れそうだぜ」
嫌がる少女に無理やり絡むチンピラの男。
この場所には似合わぬ、小奇麗な黒いローブを身に纏ったその少女。
連れ去って身ぐるみを剥いで売り飛ばそう、この男はそう考えているのだろう。
「来いって!」
「やだ…」
「おやおや、こんな真昼間に人攫いかい?チンピラくん」
「あ、誰だテメー!?」
そこに現れたのは魔王教団の一員の少女アスカ。
ミサキをゾット刑務所から脱獄させ、悪戯狐を再び野に放った。
大きな鷲を肩にとめていた。
ペットだろうか?
彼女が現れたのを見て、チンピラの男に絡まれていた少女が安堵の表情を見せる。
「その子の友達だよ」
「まぁいい、お前も売りとばして…」
「しばらく眠ってなよ」
そう言って軽い睡眠魔法をかけるアスカ。
それを受けた男は簡単にその場に倒れた。
「人間の社会って面倒だものだね。こんな奴でも殺すとすぐにケーサツがやってくる」
「睡眠魔法使ったの?」
「そう。こんな奴放っておいて行こうじゃないか、アルア」
「…ありがとう」
アルアと呼ばれた少女が軽い笑みを浮かべながら礼を言った。
それを笑みで返し、明日香はアルアを連れてあるばょに向かって歩き始めた。
「何を言っているんだい?友達を助けるのは当然のことじゃないか。
それにキミだって魔法が使えるだろう。
あんな奴簡単に始末できたはずだが?」
「…私、争いは嫌い」
「おお、そうだった。これは失礼した。次からは忘れないようにしよう」
「もうみんな揃ってるの?」
「ジードのヤツは欠席らしいね。討伐大会に生気の方法で参加するって意気込んでたよ」
会話を続けながらとある建物の中に入って行く二人。
それは既に廃業したバーの跡地だった。
かつて酒が並んでいた棚には空き瓶が転がり、床板は跳ね上がっている。
「今着いたよ。さぁ、今回の作戦について話そうじゃないか」
西アルガスタと東アルガスタの話を同時に書いていたら遅くなってしまいました。
ごめんなさい。
…謝りました(達成感)




