第八十四話 雨の中の邂逅
マジメくんキャラってあまり書いたこと無いんですよね。
「雨、止まぬのぉ…」
「そうだなぁ…」
「大会に影響が無いといいが」
「俺、雨って嫌いだよ…」
部屋の窓から外を眺めるメノウとショーナ。
朝からずっと止まぬ雨を前に、ずっと二人はこの調子だった。
ショーナが雨が嫌いなのには理由がある。
彼は、こんな雨の日になると生まれ故郷である村のことを思い出すという。
「俺の生まれた村のことって話したことあったっけ?」
「貧しい村だったとは昔聞いたが…」
「あぁ。何もないくせに戦争の爪痕だけはあった。最低の場所だったよ…」
かつては雨の多い地域に住んでいたショーナ。
雨になると山肌の剥き出しになった山が崩れることなど日常茶飯事。
それと共に昔の兵器工場や鉱山の汚染物質などが流れ出してくる。
まさに掃き溜めのような村だった。
「何もかもが停滞してた。あのまま村にいたら俺は何も成し遂げられず死んでいくだけだった…」
「お主にもいろいろあったんじゃな」
「まあな。でも村を出たおかげでメノウ達と会えたし、学校にも通えるようになった。人生って何が起こるかわかんねぇよな」
「ふふふ…」
軽い笑みを浮かべながら、机の上に置いてあったクッキーに手を伸ばすメノウ。
数日前に購入した物であるため既にしけっていたがそれでも構わず口に放り込む。
パサパサとして決しておいしいものではないが気にせず水で流し込んだ。
「乾いておる…」
「ははは…」
「笑うでないわ」
「そろそろ食料、買い出しに行かないとな。俺が買ってくるよ」
「雨が降っておる。今日のところは適当に残り物で何とか…」
「でもさ、ろくな食べモン残ってないだろ?」
ショーナの言うとおり、家の食料はほとんど消費してしまった。
元々買いだめなどしていなかったため、少しの保存食程度しか家にはおいていなかったのだ。
現在、家の中にある物と言えば瓶詰が数個。
そして水くらいのものだ。
「大丈夫だって、一人で行ってくるからさ」
「…身体の方は?」
「ああ。もう大丈夫だ」
「そうか、気をつけてな」
「すぐそこの店で買ってくるだけだよ、大丈夫さ」
窓の外から見える、少し離れた店を指さしながらショーナが言った。
この程度なら傘もいらない、そう思ったのか彼はそのまま家を飛び出していった。
「さっさと買いに行かないと」
雨が降っているため、表通りとはいえ人通りは少なかった。
走って店に飛び込み、食料を選んでいく。
保存の効く干し肉と缶詰と瓶詰。
必須品となる固パン、砂糖と塩、その他飲み物など。
そして野菜を少々。
メノウの好きなひよこ豆も購入した。
「生のひよこ豆と水煮の瓶詰、両方買っておくか」
子供二人で食べるとはいえ、数日分をまとめて購入したためそこそこの量と値段になった。
金を払い、それらを全て紙袋に詰めていく。
両腕で二つの紙袋を抱えながら、ショーナが店を出る。
「傘を持たなくて正解だったな。これじゃあ持ちきれねぇもんな」
そう言いながらメノウの待つ家へと戻ろうとするショーナ。
と、そこに…
「あ…」
大通りを挟んだ向かいの歩道にいた一人の少女。
傘を差し、片手に紙袋を抱えた彼女がショーナを見てふと立ち止まった。
ショーナも彼女のことは知っている。
彼女の名、それは…
「レオナ…」
ショーナが彼女の名を呟く。
レオナと呼ばれたその少女は大通りを横切り、彼の下へと走ってきた。
大きな目に美しさの中にどこか強さを感じるその顔立ち。
どこか高貴な気品を感じさせるその姿。
雨の降る中、傘をただ持っているだけでも絵になるほどだ。
「し、ショーナくん!」
「よ、よお。久しぶり」
久しく会っていない、ためか二人の態度はどこかそっけない。
よそよそしい、不自然な態度だった。
目を会わせようとせず、しばし沈黙が二人を包む。
「げ、元気だった?」
「うん。俺は元気だったよ」
何とか間を持たせようと話を続けようとするショーナ。
しかし、やはりその会話はどこかそっけない。
話し相手であるレオナという少女もそれは感じているらしい。
「私ね、今回の大会に出るんだ。昔から棒術とか得意だし…」
「え!?」
「意外だった…かな…?」
「い、いや。そんなことないよ。俺も『昔から』知ってたからさ…」
「あの、それでもしよければ…私の…」
レオナがそこまで言いかけたその時だった。
「お~いショーナ!なにしておるんじゃ」
「め、メノウ!」
「濡れるじゃろうに。傘、お主の家から持って来たぞ」
そう言ってショーナを傘に入れるメノウ。
遅くなっていた彼を心配して来たのだろう。
それを見たレオナが不思議そうな顔をしてショーナに尋ねた。
「ショーナくんの妹さん?」
確かに一見だけだと、二人が並べば兄妹に見えないことも無い。
「い、いや、違うよ!」
「あら、そうなの。どこか雰囲気が似てたから」
軽い笑みを浮かべながらレオナが言った。
この場にメノウが現れたことで、少し空気が和んだようだった。
レオナとショーナから、先ほどのぎこちなさは消えていた。
「ワシ、メノウ。お前さんは?」
「私はレオナ。ショーナくんの昔の同級生よ。よろしくね、メノウちゃん」
「む、頭を撫でるな」
「ふふふ。あ、さっきそこでクッキー買ったんだけど一個食べない?」
「子ども扱いするでないわ。…でも欲しい」
「はい、じゃあチョコクッキー」
レオナからクッキーをひとつ受け取るメノウ。
どうやらチョコをクッキーの表面に塗ったもののようだ。
傘を片手に持ち、もう片手で抱えていた紙袋の中身はクッキーだったというわけだ。
「チョコかぁ、久しぶりに食べるのぅ…」
「南アルガスタだとあまり手に入らないからね」
「ありがとうな、レオナ」
「いえいえ」
「レオナ、もしよければ俺にも…」
「しょうがないわね、じゃあ一個だけ」
「サンキュー!」
「ショーナくんって昔から甘いもの好きだよね」
「はは、まぁな」
「なんじゃ、二人は昔からの知り合いなのかのぅ?」
「うん、私とショーナくんは…あ!」
そこまで言いかけたレオナだったが、突然話を中断した。
もともと彼女はなにか用事の途中だったらしく、急いで戻らなくてはならないらしい。
「ごめんなさい。また話は今度ってことで!それじゃあ、私はこれで!」
そう言ってレオナは二人に軽く頭を下げた。
雨霧の中、彼女は街の中へと消えていった。
「じゃあなー!」
先ほど貰ったクッキーを食べながらメノウが言った。
雨も少し強まってきたため二人はそのまま家に戻ることに。
自室に戻ると、ショーナが彼女について話し始めた。
「アイツの名前は『レオナ・ミーオン』っていうんだ」
「ほう」
「アイツは俺の住んでいた村の近くの町の出身でな…」
住んでいた場所こそ違うが、幼いころからたまに遊ぶくらいには仲が良かったショーナとレオナ。
ただしその頃は二人とも『友達の知り合いが連れてきた誰か』程度の認識でしかなかった。
やがてレオナは別の街の金持ちの夫婦の下に養子に行った。
「あんな最低の場所にはもったいないくらい綺麗なヤツだったからな、誰も反対はしなかった」
もともと親がいなかったレオナ。
本人もその夫婦の養子として街を出ることを望んだ。
そして反対する者もいなかった。
停滞した地区で腐るよりは、別の場所でその可能性を伸ばした方が良い。
周りの大人はそう考えたのだ。
ショーナもその時は『遊び相手が一人いなくなった』としか思わなかった。
「それから少しして俺は村を出た」
「そして、ワシと出会った」
「ああ。その頃にはレオナのことなんて忘れていた」
「ほう」
「数年後、俺はレオナと王都ガランの学校で再会したんだ」
南アルガスタでの黒騎士ガイヤとの戦いの後、マーク将軍やミーナの支援もありショーナは学校へ通うことが出来た。
必死で勉強を重ね、僅か半年で入学に必要な最低限のレベルにまで自身のレベルを高めることが出来た。
そして入学した学校でショーナはレオナと再会した。
これは全くの偶然だった。
「他に知り合いなんていなかったから、学校ではレオナとよく話していた」
「ほう」
「まぁ、そんなだったかな」
王都ガランの学校といえば、上級国民のみが通うことの出来る場所。
いくら将軍の支援があったとはいえ、下級国民のショーナは浮いた存在だった。
「レオナのおかげで、他の奴らとうまく打ち解けられた」
幼いころはなんとも思わなかった存在だった。
だが、他に誰も知り合いがいないとなるとやはり話し相手としてはちょうどよかった。
彼女自体は他の生徒たちとも仲が良かったため、ショーナが他の生徒たちと打ち解けるきっかけにもなっていた。
「休日は一緒に遊んだり勉強したり…」
「ほうほう」
学校卒業後、久しぶりの再会ということですこし会話がはずまず戸惑っていた二人。
そこにメノウが来てくれたおかげで彼女と打ち解けることが出来た。
「明るくていいヤツだよ、アイツは」
「ふふふ、そうか」
「そう言えばアイツも討伐大会に出るって言ってたな…」
「もしかしたら戦うことになるかもしれんの」
「その時は手加減せず全力で戦う。知り合いだからって手は抜かないさ」
「しかしそれにしても雨、止まぬのぅ…」
「そうだな…大会に影響が出ないといいけど…」
窓の外を眺めながら呟く二人。
降り注ぐ雨はますます強くなっていく。
止むのはしばらく先になりそうだった。
レオナ・ミーオン 性別:女 歳:十六歳
ショーナの幼馴染の少女。
その華麗な容姿は出会う男性の殆どを虜にさせるほど。
(ショーナは昔からの知り合いであるため、特に意識はしていないらしい)
棒術や護身用の格闘技などある程度武術にも長けている。