第七十三話 蘇る『悪戯狐』! 黒幕は…?
黒幕?
誰だよ(ピネ)
数年後に蘇るという魔王教団、それを止めるためメノウ達はこの場に呼ばれた。
古びた教会にて王女ルビナと謁見、その話を聞かされた。
ここまでの話の流れに対し異論を述べる者はいなかった。
しかし…
「協力といっても、まず俺たちは何をすればいいんだ?」
ウェーダーが言った。
ただ漠然と協力を求められても、相手は全容も掴めぬ集団。
まず何をすればいいのかが分からなければ、行動のしようが無い。
「そうですね、まずはそちらから話さなければなりません」
「ああ、頼むぜ王女サマ」
「恐らく、現在の魔王教団は強力な力を持つ『兵力』が圧倒的に不足している状態です」
「何故そう言いきれる?」
「百年前に魔王とともに戦った魔族たちはいずれも『一騎当千の力を持つ者』と記録には残っています…」
もしそのような者達が現在も魔王教団に残っているとしたらこのように裏で暗躍したりなどしない。
仮に残っていたとするならば、王族や権力者などを次々と暗殺し国を掌握。
魔王復活の時をゆっくりと待つ、ということも簡単にできてしまうだろう。
「…そんな奴らが沢山いるわけがないってか」
「そうです」
これをよく表しているのが、以前のメノウとアリスの出会いだろう。
あの戦いでアリスは操ったスート達とシヤンを使ってメノウを始末しようとした。
魔王教団の実力者を大勢集め闇討ちすれば、多大な被害は出るであろうが彼女を始末することは難しくは無い。
それをしなかったのは単純な『人員不足』が原因だろう。
「話は変わりますが、皆さんは『討伐大会』をご存知ですか?」
ルビナの言った『討伐大会』、それは魔王封印祭と同時に開催される催しである。
百年前に魔王を倒したアルガスタ公国の勇者たちを称えるための祭りが起源とされている。
あれから百年間、国名はアルガスタ公国からゾット帝国へと変わり時代も変わった。
しかし、封印祭と同じく毎年開催されている。
封印祭はパレードや演劇、その他様々な出し物が披露される祭り。
そして討伐祭は…
「討伐大会ってあれだろ?毎年やってる武術大会」
「正解です、カイトくん」
「へへ…、確か半年後に封印祭と一緒にやるんだよな」
カイトの言うとおり、魔王討伐大会とは封印祭と共に行われる武術大会だ。
東西南北のアルガスタで一か月おきに予選を行い出場者を選出。
王都ガランで行われる本戦の優勝者には莫大な賞金と名誉が与えられる。
「はい、数か月の予選期間を置いてね…」
「で、その討伐大会がどうしたんだよ。全く関係ないぞ」
「カイトくん、人員不足な時にあなたならどうしますか?」
「そりゃあ足りない分は別に集めるに決まってるだろ」
「強い人をたくさん集めたいなら?」
「強い奴がたくさんいるところへ…あッ!」
彼が言った『強い奴がたくさんいるところ』、つまりそれが討伐祭ということになる。
ルビナの話によると、既に出場予定の武術家が数名襲われていたらしい。
「魔王教団の狙いは恐らく討伐大会を利用しての人員補給と邪魔者の抹殺でしょう」
仲間になりそうな者は魔王教団へ引き入れ、それを拒否した物は以前のスート達の様に操る。
あるいは障害にならぬように抹殺する、それが狙いだとルビナは推理した。
もっとも、以前のスート達に行われた洗脳行為自体がそこまで大々的に使用できるとは考えにくい。
となれば、ただ単に魔王教団への引き入れか抹殺の二択となるだろう。
「私の願い、それは魔王討伐大会を無事に成功させること。そのためにあなた方の力を借りたいのです」
今年行われる討伐祭は魔王教団の介入が必ずある。
それを防ぐため、ルビナは信用のおける者達をここに集めたのだ。
魔王討伐大会と魔王封印祭は国の威信をかけた催し、中止する訳にはいかない。
「よし、そうとわかればこの俺が討伐大会で優勝して…」
「アホか、お前さんは」
カイトの言葉に対し、メノウが冷たく言い放った。
それを聞き一瞬カイトの眼がさざ波のように揺れた。
しかしすぐさまメノウに反論をぶつけた。
「なんでだよ!」
「普通に考えて、お前さんが出場して何かメリットがあるのか?」
「そ、それは…」
言葉に詰まるカイト。
ルビナは二人の会話が終わったのを確認すると、会話を再開した。
「私の頼みは討伐大会を成功させること。出場者のボディガードを依頼したいのです」
「ボディガードか…」
「ええ。もし可能であれば襲撃してきた魔王教団の者達を捕えていただければ…」
「そこから芋づる式に一網打尽にできるってか」
「はい。討伐祭と並行して行われる封印祭の方でも何か仕掛けてくるかもしれません」
「そちらは心配ありません、ルビナ姫。このわたし、ジンの所属するゾット帝国親衛隊が命に代えても封印祭を成功させます」
「ありがとう、たのもしいわ」
その言葉を受け、ルビナを軽く一礼するジン。
事のあらましを説明され、各々がそれぞれの思いを巡らせる。
と、そこへ…
「あら、電話が…」
ルビナの所持していた携帯電話に連絡が入った。
この荒廃した世界に携帯電話というのも不釣り合いだが、これには理由もある。
かつての大戦時に使われていた軍事用通信ネットワークの一部を復旧させ、民間企業の通信に流用しているのだ。
そのため、主要都市内であれば電話としての利用ができる。
「あら、ルエラじゃない。どうしたの?」
「お、ルエラからか」
電話の主はカイトとミサの友人であり、ルビナの妹。
王女ルエラ姫からだった。
何やら急ぎの電話のようだが…
『姉さん!討伐大会の最初の予選が行われる地区が決まったわ!』
「本当!」
東西南北の地区でそれぞれ一か月おきに行われる討伐大会の予選。
その予選が開催される最初の地区が決まったという。
『南アルガスタのシェルマウンドからよ、一か月後に開かれるわ』
一か月後の南アルガスタで第一回目の予選が行われ、その後、一か月おきに東、北、西でも行われる。
国の威信をかけて行われる封印祭と討伐大会。
魔王教団の介入を、メノウ達は阻止しなければならないのだ…
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……時刻は数時間前に遡る。
北アルガスタの果てにある『ゾット刑務所』、そこには国内で犯罪を犯した者が収監されている。
大戦時の収容所の施設を流用したこの建物は通常の方法では絶対に脱獄は不可能。
これまでに逃げ出したものは一人もいないと言われている。
軽犯罪者は各地区にある別の刑務所に送られるため、ここに入れられるのは重犯罪者や危険思想の持ち主、性犯罪者などだ。
「ここにいると心が減るんだよね…」
ゾット刑務所の女子房に収監されているこの少女もそう。
かつて南アルガスタを荒らしまわった恐怖の悪戯狐、人斬りの『汐之ミサキ』だ。
あれから数年、彼女はこの刑務所に放り込まれていた。
生まれ故郷である東方の島国からの追手から逃れようとこの国にやってきた彼女、しかしその逃亡先でも御用となってしまった。
「あっあっあっあっあ」
彼女のいる牢獄は対幻術、魔術師用の特別房。
派手な色彩で塗られ、その上から幾何学模様が描かれた壁。
部屋に取り付けられたスピーカーからは甲高い奇声と意味の分からない音楽が一日中流され続けている。
さらに壁には常に不気味な映像が投影され続けている。
脚の生えた謎の肉、猫のような謎の二足歩行の生物、丸い鶏が踊り続けるだけという意味不明な動画だ。
「あっあっあっあっあ」
彼女は幻術を使用することが出来る。
いや、『できた』のだ。
最初はそれを使い脱獄を考えていた。
しかし、刑務所側も対策済みらしく幻術を使うことはできなかった。
幻術を使うには集中力と揺るぎなく、落ち着いた精神が必要。
それらを削り取るため牢獄は常に、気を狂わせるような環境になっている。
四六時中不気味な映像と音楽が流れた。幾何学模様に覆われた牢獄。
常人ならば一か月もせずに発狂してしまうだろう。
「あっあっあっあっあ…」
ミサキはそれを数年に渡り耐え続けた。
しかしさすがの彼女にもそろそろ限界が近づいていた。
終ることの無い、牢獄の中でただ無駄に時間を消費するだけの日々。
最近になり、時間の感覚がうっすらと消え、独り言が多くなったような気がした。
「(きりたい…)」
時が経とうとも、その醜悪な本性が消えることは無かった。
いや、むしろそれはさらに強くなっていった。
あの時その場にいた、メノウとカツミに対する恨みと共に徐々に強みを増していく。
「復讐したい?」
その声と共に、ソイツは突然現れた。
独房の壁に寄りかかりながらミサキに話しかけた。
「…ッ!」
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか、ボクは敵じゃあないよ」
ミサキより一回りほど年下の、灰色のツインテールの、その少女。
この刑務所という場に似合わぬ、華やかな着物とマント。
脚は素足で草履という、昔のミサキを思わせるその姿。
そして手にはパワーグローブを嵌めていた。
「勝手にお邪魔してごめんね」
「(わたしが気配を感じ取れなかった…!?)」
ミサキは目の前の殺気だけでは無く、闇の中の一筋の針ほどの気配をも察知できるほどの感覚の持ち主である。
そんな彼女ですら、この少女の気配を察知することはできなかった。
一体いつからそこにいたのか、それすらわからなかったのだ。
「落ち着きなよ、東方の悪戯狐の名が泣くよ?」
「…キミ、なにもの?」
目の前のこの少女は幻でも夢でもない。
間違い無くその場に存在している。
この発狂ルームに閉じ込められていたミサキにとって、その事実だけでも一筋の希望のように見えた。
「ボクは『アスカ』、魔王教団って…知ってるかな?」
「しらなーい」
アスカと名乗ったその少女は魔王教団の目的をミサキに話した。
そして自分たちが『強い人材』を求めている、ということを…
「出してあげようか、この牢獄からね」
「出してくれるの!?ここから?!」
「ボクたち魔王教団の下僕になるならね」
「なんでも…なんでもするから出してよ!」
「ん、今なんでもするっていったよね?」
ミサキのその声を聞きアスカが不敵に微笑む。
それとともに、やってきた看守がミサキの牢獄の鍵を開けた。
「…なんで看守が?」
「ボク一人だけでここまでのことが出来るわけないだろう?」
アスカには既に協力者がいた。
魔王教団に手を貸す『人間』の協力者が…
「この国の『影の支配者』とも呼ばれる『黒幕』がボク達、魔王教団についているのさ」
「…へぇ、これは面白そうだ」
名前:アスカ 性別:女 歳:十四 一人称:ボク
恰好:頭は灰色のツインテール。服は華やかな着物で、マントを羽織り、脚は素足で草履。
武器:オートマチック銃
魔王教団の一人。
お洒落に興味があり、銃の攻撃を得意とするボクっ娘。