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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第4章 交錯する3人の主人公たち
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第七十二話 ゾット帝国親衛隊ジンがゆく!

もしよければ評価お願いします。

それが励みになり、対馬状態になってホテルURSMのポッキーシンセサイザー状態になれます。

 

 酒場で始まった賞金稼ぎタクミ・ウェーダーとゾット帝国騎士団カイト、二人の喧嘩。

何事かと他の客たち数人も二人を囲む。


「店の中だと周りに迷惑がかかる、表に出な!」


 ウェーダーが言った。

酔っているとはいえ、最低限の気配りは出来るようだ。

カイトはそれに応じ店の外の通りへと出た。

賞金稼ぎと騎士の喧嘩ということで、物珍しさからか周囲を歩いていた者達も集まってきた。

二人を囲むように十数人の野次馬が輪を作る。


「俺が勝ったら、俺とミサの食事代を払ってもらうぞ!いいな!」


「勝った方が相手の代金を持つってことか!おもしろい!」


 その声と共にウェーダーがカイトに殴り掛かった。

拳を左腕で受け流すカイト。

だが、衝撃で吹き飛ばされ酒場の壁に叩きつけられてしまう。


「殴る姿美しい!」


 酔いによりハイテンション状態になってしまったウェーダー。

左手を握り締め、肩より上の高さで手の甲を正面に向け、ガッツポーズをとりカイトを挑発する。

しかし所詮は酔っ払い、その姿は隙だらけだ。

壊れた壁板の破片を拾い上げるカイト。


「いくでぇぇぇぇぇ!」


 カイトはウェーダーの謎ガッツポーズの隙に、全身の力を込めて彼に体当たりを食らわす。

突然のことに回避も出来ず、体当たりを喰らったウェーダーは派手に尻餅をついてしまう。

 空にカイトは素早く屈み込んで、街路樹の砂を握りしめる。

そしてウェーダーの両眼に向け、砂を放り投げた


「ずおぉぉ!?」


 砂の入った眼を右手で擦りじたばたと暴れるウェーダー。

その隙に先ほど拾い上げた木の破片でカイトが殴り掛かった。

壁板というだけあってそこそこの長さのものだ。


「オラァ!」


「なめんじゃねーぞクソガキ!」


 そう言ってカイトを蹴り飛ばすウェーダー。

再びカイトが飛び掛かるも、また吹き飛ばされる。

それを何回か繰り返すこと数分。

あまりにも見苦しい喧嘩に飽きれて、野次馬たちもだんだんと離れていった。

最終的にその場に残ったのはアズサとメノウ。

そしてカイトの連れの少女であるミサだけだった。


「酔っ払いとバカの喧嘩ね…」


「ワシは見てて楽しいぞ」


「あの、なんか…すいません!」


 そう言って二人に頭を下げるミサ。

しかし今回の喧嘩の発端はウェーダーにも原因はある。

別にカイトのみが悪い、というわけでは無い。


「あ、謝るのはこっちの方だって!ウチの酔っ払いが…」


「いえ、カイトったら昔からずっとあんな調子で…いつまでたっても子供なんだから…」


 飽きれた様子で言うミサ。



「…そう言えばさっき『お祝い』って言ってたけど?」


「カイトの昇進祝いです、騎士団の…」


 アズサとミサがそんな話をしている間にも、ウェーダーとカイトの見苦しい喧嘩は続いていた。

ひたすら砂を投げつけるカイトとネックハングをひたすら狙い続けるウェーダー。


「ワシが止めてこようかのう?」


 道に座り込んで喧嘩を見ていたメノウが言った。

これ以上続けさせても時間の無駄にしかならないのは明白。

二人を仲裁しようとメノウがひょいっと立ち上がった。

しかしその時…


「この場はわたしに任せてくれないか」


「なんじゃ?お前さんは?」


「ヤツの知り合いだ」


 カイトを指さしながら、一人の青年騎士がメノウに言った。

ウェーダーとカイトの間に割って入き、二人の喧嘩を止めた。

カイトと同じくゾット帝国騎士団の鎧を纏い、どこか清廉さを感じさせる男だ


「カイト、何をしているんだ。こんな街中で」


「ジ、ジン!?」


「仮にもゾット帝国騎士団に所属する者が一般男性に拳を振るうなど…」


「だけどあいつはならず者だ!」


「ならず者…?」


 カイトに『ジン』と呼ばれたその男は、彼をなだめ次に視線をウェーダーに移す。


「あーはきそ…オロロロロロロロ!」


「…う、うーん?」 


「絶対ならず者だって!」


「あーさっぱりした」


 吐いて楽になったのか少し平静さを取り戻したウェーダー。

酔いを醒ますため、水をもらいに店に入って行った。


「まぁ…いいか。ところでジン、なんでここに?」


「ああ、ちょっと知り合いに呼ばれてな」


「知り合い?」


「私だ」


 そう言って現れたのは、酒場の二階で仮眠をとっていたスートだった。

先ほどの騒ぎで眠れなくなってしまい、ちょうど外に出てきたところだったようだ。


「お久しぶりです、ジン殿」


「スートさん、貴方と最後に会ってから一年になりますか」


「ええ」


 軽く挨拶をかわしつつ、ジンに何かを伝えるスート。

それを聞くとジンはその場にいたメノウ達に言った。


「皆さん、わたしについてきてください」


「わかったぞぃ」


「カイト、ミサ、君たちもだ」


「私たちも?」


 ミサが豆鉄砲を喰らったような顔で言った。


「ここで会ったのも偶然とは思えない」


「いいですけど一体どこへ…?」


「王女ルビナ姫の下へだ」





 ジンに案内されたどり着いた場所。

それは裏路地を抜けた先にある、古びた小さな教会だった。

しっかりとした造りだが、薄汚れた壁と雑草の生い茂った庭園。

長い間放置され、もはや廃墟同然の建物だ。


「汚い教会だな、こんなところに何の用があるんだよ」


「ここで待ち合わせということになっているが…」


「本当かよジン?」



 辺りを見回すも



「私も詳しくは聞いていないんだ」


「そうかよ」


 カイトが教会の鉄柵を蹴り飛ばしながら言った。

軽く蹴ったつもりだったのだが、錆びついた鉄柵は簡単に折れ、崩れ落ちてしまった。


「うわっ!?」


「あ、カイト!」


「わ、わざとじゃねぇよ!」


 本来ならば責められるべき事象だが、他に仕えそうな入り口も無かったため、崩れた鉄柵から一行は敷地内に入った。

手入れのされていない庭園を進んでいく。

と、そこでメノウがあることに気付いた。


「何か聞こえるな…?」


「…気のせいじゃないみたいだな」


 メノウだけでは無くウェーダーにも何かが聞こえたようだ。

本来ならば誰もいないはずの廃墟同然の教会。

しかしその中から何かが聞こえてくる。


「何かの楽器みたいだけど…?」


「パイプオルガンの音色ですね、アズサさん」


「そうなの?ミサちゃん」


「ええ、けどこんな古い教会で…?」


「入ってみればわかるわよ」


 そう言ってアズサが教会の扉を静かに開けた。

古びた室内、所々跳ね上がった木製の床。

ヒビの入ったガラス。

一目見て廃墟と言い切れるであろう教会。

しかしオルガンの音はなり続ける。

本来ならばいないはずの『修道女』が、オルガンを演奏をしていたのだ。


「こんな廃墟にシスター…?」


「ミサ、シスターってなんだ?」


「カイトは黙ってて」


 彼女の奏でる美しい音色が教会を包み込む。

しかし今はそれを聞いている時では無い。

失礼を覚悟でメノウが演奏を続ける彼女に話しかけた。


「すまないがちょっといいかのう?」


 メノウの言葉を聞き、その修道女は演奏を止めた。

先ほどまでとは打って変わり、静寂が辺りを包み込む。


「待ち人を探しているのじゃが…」


「そうですか」


 椅子から立ち上がり、段の上からその修道女がメノウ達に目を下ろした。

割れた天窓から日の光が差し込み彼女を照らす。

その少女の顔はスートとジンが…

いや、カイトとミサもよく知る者の物だった。 


「お、お前は!」


「ルエラのお姉さん!?」


 修道女の姿を借り皆の前に現れた少女。

それこそが王女ルビナ姫だった。

そう遠くない未来、この国を背負うことになるであろうその少女。

まだどこか幼さを残しながらも威厳に満ち溢れたその姿。

肩までのミディアムヘアと黄金色のカールが、教会内に舞い込んだ一陣の風に靡いた。


「ええ、私が王都ガランの王女、ルビナ。スート達から話は聞きました」


「みなさん。ここからは姫とこのわたし、ジンが全てをお話しいたします」


「俺も聞かないといけないのか!俺は関係ないだろジン!」


「大人しく聞きなさい、カイト。ゾット帝国騎士団の名に懸けて」


「チッ!わかったよ。それを言われちゃ仕方ないな」


 カイトが教会の椅子に大股で座り込む。

それに合わせメノウ達も空いている椅子へと腰を掛ける。


「皆に問います。貴方たちは何故ここに集められたのですか?」


「そんなこと、魔王教団に関わりのある、あった者だからだろう?」


「メノウちゃんは魔王教団に狙われた、そして私たちは…」


「言うなアズサ!思い出したくもねぇ!」


 ウェーダーとアズサが苦虫を噛み潰したような表情で言った。

みすみす敵の手に堕ち、メノウを襲ったことなど思い出したくも無いのだろう。


「貴女の言うとおりです。しかしそれ以外にも理由はあります」


「理由?なんだよ?」


「気付きませんか?何故ルビナ姫がわざわざこのような場所を面会の舞台に選んだかを」


「…あ!」


 王女ともあろうものがこのような廃墟で人を待っているなど、普通に考えればありえないことだ。

城の謁見の間や、そうでなくてもそれにふさわしい場所はいくらでもある。

このような場所でわざわざ変装して待つなどありえないことだ。


「…正直なところ、城にはもう信じられる人間がいないのです」


「魔王教団は一般人に化け、この人間社会に紛れているといいます。信用の置く者しか身の回りに置けないというのが現状…」


 仮に城で謁見をした場合、魔王教団の手の物にそれを聞かれる恐れがある。

そうでなくともその最中に襲撃をかけられぬとも限らない。

 逆に城から離れたこの場所ならば、誰にも聞かれることは無い、ということだ。

ルビナ姫が城を抜け出し、城下町にお忍びで遊びに行くというのは親衛隊の間では有名な話。

魔王教団の尖兵も当然そのことは知っているだろう。

少し長めの外出をルビナがしても、いつもの『お忍び』とみなされ、敵に問題視されることは無い。


「ジンとスートは信用が置ける私の部下です」


「そしてカイトとミサの潔白はこのジンが保証する」


「俺とアズサは一度操られて元に戻ったからいいってか?」


「…ならばワシはどうなんじゃ?信用のおける理由など何もないぞ」


 メノウが言った。

確かに彼女の言うことも正論だ。

しかしそれに対しルビナはこう言い放った。


「貴女がこれまで成し遂げた奇跡、それを知るからこそよ」


「ほう」


「南アルガスタの黒騎士ガイヤとの戦い、西アルガスタでのディオンハルコス教団キリカ支部の壊滅、東アルガスタでの死の商人、大羽との決戦…挙げればきりがないわ」


「そこまで調べているとは…」


「ここにいる者は私が絶対の信用を置く者。それは揺るがない事実です」


 ルビナが皆に言った。

それを聞き黙って頷く一行。


「魔王教団の目指す魔王復活まであと数年、それは絶対に阻止しなければなりません!そのためには皆さんの力が必要なのです!」



名前:ジン 性別:男 歳:十九歳 一人称:わたし

恰好:アルガスタ親衛隊の鎧を装備している。

アルガスタ親衛隊所属の騎士。本が好きでよく鍛錬をサボっている。

王女ルビナ姫に密かに想いを寄せている。

原作『ゾット帝国親衛隊ジンがゆく!~苦悩の剣の運命と真実の扉~』の主人公であり、『監禁室からの脱出』から三年後の姿である。

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