第七十話 小さな灰色の少女-リトル・グレイ・ガール-
昔、私が書いた、ある小説が全シリーズ合わせて百話くらい。
次に書いた別の小説が外伝を入れて五~六十くらい。
この小説は外伝抜きで七十。
結構な量ですね。
百話以上書こうかな(死刑宣告)
アリスが造りだした魔獣シヤン。
元々はただの犬のぬいぐるみだが、魔力が加わることによりその姿は豹変。
恐らく、かつて東アルガスタで戦ったビャオウの操る白虎型ハンターと大きさ、戦闘能力は共に互角だろう。
「すぐに終らせるぞぃ!疾風の裂脚!」
シヤンとの距離を一気に詰め、疾風の裂脚を放つメノウ。
ハンターと違い所詮はぬいぐるみが変異した魔物、この技を当てることが出来れば十分に倒せる。
そう考えての行動だった。
『…避ケル!」
「は、速い!」
その大きさからは想像できぬ速さでメノウの攻撃を回避するシヤン。
体勢を立て直しメノウに飛び掛かった。
全身の毛がまるで針のように尖り、仮に受け止めたとしても多大な傷を負うだろう。
当然この攻撃は避けるしかない。
『オ前、速イ…』
「まぁの」
『攻撃スルカ?』
「…素手での攻撃はさすがにキツイのぅ」
かつて西アルガスタで全身の装甲に刃を仕込んだ飛竜型ハンターと戦った際、メノウはその刃ごとハンターを破壊。
大破とまではいかなかったが、ほぼ戦闘不能にまで追い込んだことがあった。
しかしその戦いの後しばらくは傷のせいで、腕もまともに動かせぬ状態となってしまった。
流石にあの時のような無茶をもう一度することはできない。
「もう一度!疾風の裂脚!」
再び疾風の裂脚を放つメノウ。
だが当然、先ほどと同じく軽く避けられてしまう。
記憶だけを頼りに再現した付け焼刃のコピー技では、本家の技のキレのまでを真似ることはできないようだ。
しかしそれがメノウの狙い。
「最初のは囮、四回目の疾風の…!」
『ヌッ!』
「あ…ちょっと!」
わざの構えに入る途中で超スピードでその場から離脱するシヤン。
急いでメノウもその後を追う。
廃墟と化したビル群に姿を隠しつつ、彼女の様子をうかがう。
探しに来たメノウを待ち伏せして攻撃をする気だろう。
「(…来るか!)」
『ガァァッ!』
廃ビルの壁を突き破り、シヤンが雄たけびを上げメノウに襲い掛かった。
それを避け反撃に転じようとメノウが体勢をとる。
しかし、それと同時に再びシヤンは別の廃ビルへと姿を隠した。
ビルの内部をさらに高速で動き回っているらしく次はどこから現れるのかが分からない。
「(地形を生かした戦いか…!)」
あの巨体でビルの中を移動できるとは思えない。
シヤンはある程度、自身の大きさを操作できるのだろう。
魔力で生み出された魔物であるが故にできる芸当だ。
それに加えこの『廃墟』という地形。
メノウにとって、非常に戦いにくい条件が重なり過ぎている。
「(次はどこからくる…?右か…左か…)」
『上ダ!』
叫び声をあげながら、シヤンが廃墟ビルの上階からメノウに飛び掛かった。
メノウにとってこの攻撃を避けるのは容易いこと。
しかし、たとえ避けたとしても再びシヤンはビルを隠れ蓑にして攻撃を続けるだろう。
「たとえ傷を負ったとしてもここで倒すしかない!」
地を蹴り、宙にいるシヤンに向かいメノウが飛び掛かった。
空中ならば互いに自由は効かない。
相手の攻撃も受けることになるが、自身の攻撃も確実に当てることが出来る。
『グアァァァッ!』
「幻影光りゅ…」
『イマダ!』
メノウが攻撃態勢を取ったその瞬間、シヤンがメノウの眼に向け攻撃を放った。
自身の尖った針のような毛を矢のようにし、狙い撃ったのだ。
「な…にッ!?」
首を捻りギリギリのところで避けることが出来た
そのせいで幻影光龍壊の構えに乱れが生じてしまう。
だが中断すれば、攻撃の的となる。
不発覚悟で幻影光龍壊を放つ。
二人がほぼ同時に空中で攻撃を放ち、その後地面に降り立つ。
「どうなった…?」
『グゥゥ…』
メノウの幻影光龍壊は外れた。
だがその際に発生した衝撃波と真空波が、シヤンの左半身を抉った。
抉られた個所からシヤンの魔力が漏れ出す。
恐らくこのまま持久戦に持ち込めば魔力切れでメノウが勝利できるだろう。
「ワシの攻撃は外れたが、傷は与えられたようじゃな」
『ウ…オォ…』
止めを刺すべくメノウが再び攻撃の構えを取る。
だがそれよりも一歩速く、シヤンは動いた。
だが、メノウに攻撃をするためでは無い。
狙いは…
「しまった!」
シヤンの最後の狙い、それは倒れているスート達を人質に取ること。
真は矢正面からの戦いではメノウに勝つことは不可能。
それを悟ったのだろう。
メノウのスピードでは、死力をかけ地を駆けるシヤンに追いつくことはできない。
「届け!疾風の裂脚!」
メノウの攻撃もシヤンには届かない。
それでも彼女は追いかけるしかなかった。
「届かなかった…」
『ガァァ!』
「(せめてまだ戦える者がいてくれれば…)」
今までメノウはずっと仲間と共に戦ってきた。
だが今回は違う。
オオバとの戦いのときのように、カツミも助けには来ない。
この状況では最悪の事態を想定せざるを得ない。
だが…
「あれは…?」
敵か味方か、『ソイツ』は唐突に表れた。
走るシヤンの前に突如現れた一人の小柄な人物。
全身を灰色の布とマントで覆い、素顔も見えない。
その佇まいから恐らく少女であると思われるが、真相は分からない。
『ジャマダァ!』
「…ツ!」
すれ違い様に攻撃を放とうとしたシヤン。
しかしソイツは一撃でそれを下し、攻撃を放ったシヤンごと斬撃波で両断した。
『ガッ…ガガ…!』
「斬撃波…!?」
メノウがその人物へと近づいて行く。
シヤンを倒したのは何者か、それを確かめるために。
既に魔力は消え失せ、シヤンの姿は元のぬいぐるみに戻っていた。
「真っ二つじゃ…」
両断されたぬいぐるみを拾い上げたメノウ。
そしてその謎の人物とついに対峙する。
「……」
全身を灰色の布とマントで覆った謎の人物。
背はあまり高くは無く、体格も良くは無い。
ちょうど『数年前に別れたときのカツミ』と同じくらいだろう。
「……」
「お前さんは一体…?」
不思議とメノウはこの人物に対しては警戒をしなかった。
敵では無い、そう何かが教えてくれているようだった。
歩み寄ろうとメノウが足を進めた。
「…!」
その時、身に纏った灰色のマントを翻しその少女はその場を去って行った。
たった一瞬の出来事だった。
「(誰なんじゃ…でも…)」
メノウはその少女を『知っている』ような気がした。
たんに知り合いと雰囲気が似ているだけなのか、それとも…?
「…そ、それよりスート達を起こさないとな!」
魔王教団の二人、アリスとヤクモ、そしてその使い魔であるシヤンを一旦退けたメノウ。
しかし、今の段階では何が起こっているのかまるで分らない。
現在メノウに必要なモノ、それは情報だ。
操られていたスート達三人に、何があったのかを聞くことにした。
「まずお前さんたちに何があったのか教えてくれ」
目が覚めた三人にそう言うメノウ。
変電施設に合った事務所跡で話を聞くことになった。
幸い三人とも大きな外傷も、後遺症も無かった。
「そう言われても…私、記憶が曖昧で…」
「俺もだ…自分が何をしていたのかも思い出せん…」
アズサとウェーダーが頭を抱えながら言った。
この様子では仮に思い出したとしてもそこまで詳しいことは分からないだろう。
「それよりもメノウちゃん、あんまり成長してないみたいだけど…」
「数年前に西アルガスタで会った時と…ほとんど変わってねぇな…」
「それは…」
「あ~頭痛ぇ…気のせいか?」
「あ~…あんまり…栄養あるもの食べて無かったから…かのう?」
竜の力を持っているメノウは歳をとることは無い。
しかし詳しく話すと長くなるのでここでは適当に流しておくことにした。
話題を戻し、唯一冷静さを保っているスートに何があったのかを尋ねることに。
「スート、お前さんは?」
「…まさか魔王教団の駒として使われてしまったとは」
「魔王教団について何か知っておるのか?」
「ん…」
メノウの言葉を聞き、一瞬言葉を詰まらせるスート。
何か話したくない理由があるのだろう。
しかし少し考え込んだ後、ついに口を開いた。
「…隠していても仕方がありません」
「と、いうと?」
「実は以前から、私は王女から直々の命を受け魔王教団について調査をしていました」
「王女から?」
「ええ…」
このゾット帝国の王女は姉のルビナ姫。
そして妹のルエラ姫。
スートはその姉の方の王女、ルビナから命を受け魔王教団を調査していたという。
「内密の調査だったのであまり言いたくは無かったのですか…」
かつてアルガスタ全土を戦乱の渦に巻き込んだという魔王。
魔王教団とはその魔王を狂信する者達のことだ。
所属するメンバーたちは全員が何らかの特殊な力を持っている。
「国はずっと彼らを秘密裏に監視していましたが、数年前までは特に動きはありませんでした」
「動きが無かった…?」
「今考えてみると、恐らく察知されぬよう極秘に動いていたのでしょうね…」
しかし、近年になりその活動が徐々に顕著になってきた。
アルガスタの人間に化け、今日まで魔王復活に貢献してきた彼らが行動を開始したのだ。
あと数年で魔王が封印され百年になる。
何としてでもそれに間に合うようにしなければならない。
そうなればもはや手段を選んでいられない、ということだろう。
「たとえ魔王復活の活動が公になったとしても、その結果復活させることが出来れば彼ら魔王教団の勝利です」
スートが言った。
魔王が復活したら、この世界は闇に包まれるという。
伝承であるため漠然としたことしかわからないが、少なくともアルガスタの民にとっての脅威となることには違いない。
それを阻止すべく、スートや他のゾット帝国所属の一部の者達は動いていたのだ。
「魔王教団について有力な情報を持つ者がいると聞いて会いに行った辺りで私の記憶が消えています…」
「そこで奴らに操られたというわけか」
「恐らくそうです」
それを聞き、アズサとウェーダーも自身の操られる直前のことを思い出したようだ。
アズサは店に来た客の相手をしていた途中。
そして、ウェーダーは盗賊と戦い、それを連行している途中に。
恐らく、その『客』と『盗賊』がそれぞれ魔王教団の手の者だったのだろう。
「相手が何者か見抜けなかったなんて。忍者失格ね…」
「いいようにされてしまったとは、面目ない…」
魔王教団は主要メンバーこそ少ないが、それら全員がアルガスタ全土に散っている。
恐らくこれからも様々な手をつかい魔王復活を狙ってくるだろう。
そして、メノウの命も…
「しかしなぜメノウさんは狙われたのでしょうか?」
「それは…」
メノウは先ほどアリスが言ったことを思い出した。
しかし、それだけが理由というわけではないだろう。
今のメノウの身体には、魔王の力と記憶の一部を受け継いだ『魔竜オオバ』の力がある。
恐らく彼らの狙いは、メノウの持つこの力だ。
「(大羽め、もしやこれを狙って…?)」
死に際の大羽が、何故最後にメノウへ力を与えたのか。
その狙いは恐らくメノウを魔王教団との戦いへと巻き込むため。
彼の狙いが魔王教団の勝利なのか、それともメノウの勝利なのか…
消えてしまった今となってはもはやそれもわからない。
「ワシが奴らの計画にジャマなんじゃろう。腕に自信のある者は仲間にするか殺す、ということじゃないのか?」
あまり複雑なことをスート達に話しても理解されない。
そう思ったメノウは簡単にその話を流した。
例えどれだけ柔軟な頭を持つ者でも、ラウル帝国やドラゴンの話をされていきなり理解できるものはいないだろう。
「…恐らくはそうでしょうね」
「詳しくは分からんがのぅ」
メノウの言葉をそのまま受け止め納得するスート。
「魔王復活まであと数年。こちらも手段は選んでいられません」
「と、言うと?」
「メノウさん…いや、ここにいる皆さんには私と共に来てほしい場所があります」
その言葉を聞き、メノウだけでは無くアズサとウェーダーも目を丸くして驚く。
「え?」
「私たちも?」
「そうです、王都ガランにいる王女ルビナ姫の下へと…」
名前:魔獣シヤン 性別:- 歳:-
容姿:全身を真紅の棘のような体毛で覆った犬
元は単なる犬のぬいぐるみだったが、アリスの魔力を受けて変異。
小さな耳が尖った耳に変わり、つぶらな瞳から、眼は左眼が三角の形に変わり、右眼がバツ印の眼に変わる。
口には鋭い牙が、手足にも鋭い爪が、全身から鋭利な棘が何本も生えている。
以前、メノウが東アルガスタで戦った、ビャオウの操る白虎型ハンターと大きさはほぼ同じ。
あちらと戦闘能力もほぼ互角。
防御能力ではあちらの方が上だが、こちらはスピードで圧倒的に優位に立てる。




