第六十九話 暗躍の『魔王教団』…!
過去キャラ出すのって楽しいですね
「メノウさん、貴女は私達『魔王教団』の障害となりうる者。仲間にならないのならば、消えてもらうまで!」
スートの言い放った言葉、その中に含まれる『魔王教団』という単語。
それが何かはメノウには分からない。
だが、それが重要なキーワードであるということは分かる。
「ん…?魔王教団…?魔王…!」
『魔王』という言葉を聞き、メノウはあることを思い出した。
それは数年前、カツミと東アルガスタを旅していた時のことだ。
大羽との戦いの後、ずっと入院していた二人はある日、街で行われていた『祭り』を目撃した。
その祭りの名は『魔王封印祭』、毎年ゾット帝国中で行われるという催しだ。
約百年前に魔王を封印したことを祝う祝祭だと地元の者から聞いた。
「まさかあの…?いやまさか…」
「魔王をこの地に呼ぶのは数年後、今はまだ準備期間というわけです」
ヤクモが静かな口調で語る。
ゲームのカードを弄りながらも、その行動と語りには隙が無い。
「さぁ、メノウちゃん、アナタも私たちの仲間になる気になった?」
「俺達と共に来れば、このような素晴らしい力が手に入るぞ」
アズサとウェーダーが言った。
軽く四人を見回しメノウが言った。
彼女の答えは…
「当然、断る!」
その叫びと共にメノウは地面を…
いや、今立っている『ビルの屋上』に拳を振りかざした。
先ほどのヤクモのカードの爆発により僅かにできていた亀裂。
その部分に拳を入れ魔力を瞬時に送り込む。
メノウの立っていた部分のみが砕け、彼女は下の階へと脱出した。
「な…」
「姑息な手を…追え!」
悔しそうな表情を浮かべながらスートが叫ぶ。
攻撃に対する反撃は想定していたが、このような方法での逃亡は想定外だった。
ウェーダーとアズサがメノウを追う。
「さっさと降参した方が身のためだぜ!」
そう言いながらビルの一室でメノウに殴りかかるウェーダー。
拳を避けても、そこから放たれた衝撃波が彼女を襲う。
ビルの壁に叩きつけられ、その場に倒れかける。
「次の攻撃は喰らわん!」
「チッ…!」
追撃をギリギリで回避し、反撃の一撃を彼の腹に向けて放つ。
大した攻撃では無かったが、今の一撃により、彼と距離を取ることが出来た。
その隙にビルから出るメノウ。
「…もしかして」
今のウェーダーの攻撃の受け方を不審に思うメノウ。
大した攻撃ではないとはいえ、一般人がメノウの攻撃を受ければ間違い無くなんらかのダメージを負うはずだ。
傷は追わないまでも気絶くらいはするだろう。
「考え事?随分と余裕ね!」
そう言いながらメノウに向けて分銅鎖を投げつけるアズサ。
左腕を鎖で拘束され攻撃の自由が奪われる。
「うっ!?」
「追い詰めたぜぇ、メノウ!」
さらにそこに再びウェーダーが現れる。
鎖でメノウの左手の動きを封じられている今、先ほどの様に上に逃げることはできない。
「どう?私達と一緒に来る気になった?」
「だから言ったじゃろう、『断る』とな」
メノウがアズサの誘いをざっくりと切り捨てる。
「だってさ、ウェーダー」
「そうか、じゃあここで消えてもらうしかないな」
ここにきてメノウの疑惑が確信に変わった。
この二人の様子は最初からどこかおかしかった。
態度、力、そして魔王教団…
「(この二人からは自分の意思が感じられん…!)」
まるでハンターか何かと戦っているような感覚。
いや、本能で戦う分ハンターの方がまだ意思のようなものを感じられる。
だがこの二人からはそれすら感じられない。
与えられた命令を遂行するだけの人形。
言い表すのならばまさにそれだ。
「(この二人は何者かに操られている…!ならば、その繋がりをここで断つ!)」
「終わりよ!」
「死ね!」
「死なんわ!お前さんがこっちに来いほら!」
アズサの分銅鎖を勢いよく引き寄せ、彼女の攻撃を中断させる。
そしてそのままの勢いでそれを振り回し、ウェーダーに激突させた。
悲鳴を上げその場に倒れこむ二人。
今なら二人から反撃を受けることは無い。
「二人とも元に戻れ!無色理論!」
洗脳、暗示、先入観。
その他諸々を無にするメノウの魔法『無色理論』、普段ならは被術者に触れなければならないが今回は例外だ。
アズサの分銅鎖を伝わり二人に直接魔法をかけることが出来た。
無色理論を受けた二人は意識を失いその場に倒れた。
「あの二人がやられるとは…」
以前、西アルガスタで出会った時よりもメノウは遥かに強大な力を手に入れている。
それを確信したスート。
あの事件から約一年でこれほどの力を身に着けるとは俄かに信じがたい。
だがこの光景を目にしては信じるしかない。
「次はお前さんじゃ」
「くっ…!」
「いいのか?ワシに魔法攻撃は効かんぞ?」
魔導杖を変えるスートに対しメノウが言い放つ。
ドラゴンの力を持つメノウに対して魔法効果は全て無力と化す。
自分以外の魔力を全て打ち消す、ドラゴンの特異能力によるものだ。
このことを知る者は、カツミ以外殆どいない。
しかしスートはそれをハッタリなどでは無く事実だと見抜いた。
「ならば!」
その声と共に魔導杖から隠し刃が飛び出した。
「仕込み刀!?」
「その通り!」
さらに、スートは刀身を対象に吸熱魔法を使用。
メノウ自身に魔法は効かない。
だが、魔法を使用した攻撃は有効。
氷刀と化した仕込み刀を手にメノウに斬りかかった。
「(…やはりこやつも)」
当初、メノウはこう考えていた
『スートがウェーダー、アズサ、そしてヤクモを操っている』、と。
しかし彼と対峙してそれが間違いであることに気が付いた。
「(本当に操っているのは…)」
「どうしましたか!?反撃の手でも考えていますか?」
「お前さんの相手をしている暇は無い!『ウォーターボール』!」
ジャンボシャボン玉を生み出す魔法、ウォーターボール。
それをスートに対して使用し、彼をジャンボシャボン玉の中に閉じ込める。
水とは言えその強度はかなりの物。
並みの通常兵器の攻撃でも数発ならば耐えてしまうほど。
「これで攻撃を封じたつもりか!」
凍気を纏った刀をウォーターボールに突き刺すスート。
それと同時に徐々に、ジャンボシャボン玉が凍り始める。
所詮は水、凍ったあとに軽い衝撃を当てれば軽く砕けてしまう。
だがこれこそメノウの狙い。
「刀をジャンボシャボン玉に突き刺したな?」
「…は!」
金属は魔力を伝達する。
そしてウォーターボールにより発生したジャンボシャボン玉はメノウの魔力により生み出されたもの。
仕込み刀の柄は木製だがその程度なら問題なく魔法を通すことが出来る。
「ウォーターボールの魔力を全て無色理論に変換させてもらうぞぃ!」
「しまっ…」
急いで刀を引き抜こうとするも既に凍り付いているためそれは不可能。
手を離す、その考えが思い浮かんだ時にはすでに手遅れだった。
「無色理論!」
「うぉッ!?」
ジャンボシャボン玉が消滅し無色理論の魔力に変換される。
先ほどの二人と同様、スートもその場に倒れた。
これで三人は元に戻った。
「さて、次は…」
「ふふふ、私にもそれを使いますか?」
「いや」
一連の戦いを眺めていたヤクモにメノウは目を向ける。
スートが操っていたわけではないのならば、真に操っていたのは彼ということになるが…
「お前さんは正気じゃろう?」
「そうですよ」
「しかしお前さんがあの三人を操っていたわけでもない…」
「そこまで見抜きましたか…」
「あの三人を操っていたのは、貴様じゃ!」
「そこは…!」
「開陽奥義『疾風の裂脚』!」
脚部から放たれた斬撃で、ヤクモの後方にあった変電設備を両断したメノウ。
かつてカツミの使用した開陽拳の奥義『疾風の裂脚』、蹴りと共に脚部から斬撃を放つ、基本的な奥義だ。
技の名前こそカツミは叫ばなかったが、彼女が多用していたためメノウもそれを真似ることが出来た。
その狙いは…
「隠れていないで出てこい!」
「あ~あ、見つかっちゃったぁ」
切断された変電施設の残骸の影から現れたのは一人の少女だった。
箒を肩にかけたその少女は、先端のカールした黒いとんがり帽子を被っていた。
淡い桃色のストレートヘアと左の瞳が澄んだ蒼色で、右の瞳がエメラルドグリーンのオッドアイ。
加えてひどく白く冷たい肌の色。
それらのせいでどこか病的な雰囲気が漂っていた。
「お前さん、魔王教団か?」
開陽拳の構えを少女に向けるメノウ。
一見するだけでは、単なる少女にしか見えない。
だが自分と同様に魔法無効化の力を持っているかもしれない。
ならば、魔力の介入する余地のない開陽拳の奥義が今使うには最適。
メノウはそう考えた。
「そそ、アリスは魔王教団の一員なのでありますっ」
「アリス…それがお前さんの名前か…」
今メノウの前にいる、アリスという少女。
ただ彼女と対峙しているだけにもかかわらず、メノウの身体に悪寒が走る。
「お前さんがスート達を操っていたんじゃな」
「魔王教団は人手不足、メノウちゃんを仲間にするためには仕方の無かったことなのです」
「何故にワシを狙う?」
「アリス知ってますよぉ~?南アルガスタのガイヤと東アルガスタのオオバを倒したのがメノウちゃんってこと」
「なッ…!」
「魔王教団への協力者を探すこと、それが目的なのです」
南アルガスタの事件はともかく、オオバとの戦いは当事者であるメノウとカツミ、そして四聖獣士であったザクラとビャオウしか知らないはずだ。
何故そのことをこのアリスという少女は知っているのか。
その疑問にはヤクモが答えた。
「私が教えたんですよ」
「ヤクモ!お前さんが!」
「私は元々、魔王教団と繋がっていたんですよ。南アルガスタ四重臣として活動していた時からね…」
無能であるモール・エレクションを傀儡の軍閥長とし、南アルガスタを実質的に支配下に置く。
そして裏では魔王教団への協力者を探し出す。
それが数年前のヤクモの狙いだった。
しかし、権力を持ったモール・エレクションの暴走による圧政。
メノウの戦いや、元四重臣の猫夜叉のミーナの裏切り、黒騎士ガイヤの死亡。
その他諸々の理由が重なり、その計画は失敗に終わった。
「当初の計画は失敗しましたが、確かに成果はありましたよ」
「おっと、残念じゃがワシは仲間にならんぞぃ」
「ふふふ、そうですね。それは分かっています」
そう言うヤクモ。
彼の言葉の後に、アリスが言う。
「メノウちゃんは可愛いから、戦力兼ペットがわりにアリスの手元に置いておきたかったのです」
「だから仲間にはならんと…」
「わかっています。アリスのものにならないものは…壊すしかありません!」
「ならば、ここで戦うか!?」
「まさかっ。アリスは戦うのは嫌いなのです」
アリスはどこからか取り出した小さな犬のぬいぐるみをメノウに見せる。
大きさは片手で持てる程度、そのぬいぐるみを床にちょこんと地面に座らせた。
武器か何かを取り出すかと思えば、出てきたのはただのぬいぐるみ。
特別な仕掛けなども無さそうだ。
「…なんのつもりじゃ?」
「メノウちゃんの相手はこれにまかせるのです」
すると、地面に置かれた小さな犬のぬいぐるみがみるみる巨大化した。
小さな耳が尖った耳に変わり、つぶらな瞳から、眼は左眼が三角の形に変わり、右眼がバツ印の眼に変わる。
全身の毛が真っ赤に染まり、口には鋭い牙が何本も生えている。
手足にも鋭い爪が、全身から鋭利な棘が生えてきた。
以前、東アルガスタ戦った、ビャオウの操る白虎型ハンターと大きさはほぼ同じ。
これは完全な推測だが、あちらと戦闘能力はほぼ互角だろう。
「…これはッ!」
「アリスのコレクションの一つ、『シヤン』くんなのです」
「魔物の一種か…?」
「時間が無いので今日はとりあえず帰るのです。まったね~」
その声と共に、アリスはその場から姿を消した。
同時にヤクモの姿も消えた。
恐らく彼の技の一つである、縮地法を使ったのだろう。
アリスの残していった犬の魔物、シヤン。
元がぬいぐるみとは思えぬ猛き声を上げ、メノウに襲い掛かる。
「…ッウォーターボール!」
ウォーターボールをバリア代わりにし攻撃を防ぐメノウ。
先ほどの三人との連戦、そしてこの魔獣シヤンとの戦い。
療養生活を送っていたメノウにとっては、久しぶりの激しい戦いとなる。
「久々の戦いがこれほどのものになるとはのぅ…」
そう言いつつ構えを取り、魔獣シヤンと距離を取るメノウ。
謎の組織、魔王教団との戦いが始まった…
名前:アリス 性別:女 歳:13 一人称:アリス
恰好:黒いとんがり帽子を被り、帽子の先がくるんと曲がっている。
髪は淡いピンクのストレートヘア。髪の先っちょを紅く染めている。
前髪にハートのヘアピンを留め、左の瞳が澄んだ蒼色で、右の瞳がエメラルドグリーン。
耳にはハートのピアスをつけ、首にはハートのネックレス。
黒いワンピースを着て、胸に小さな紅いリボンをつけ、右手首にブレスレットを嵌めている。
お尻の辺りに大きな紅いリボンを付けて、縞のニーソックスを穿き、紅いリボンパンプス。
武器:傀儡魔法
キャラ説明:一人称が名前のぶりっこ娘。
とにかく可愛く見られたい。
しかし、魔力が高く、実力は本物。
ぬいぐるみを武器に戦う。
この小説の原作である『ゾット帝国親衛隊ジンがゆく!~苦悩の剣の運命と真実の扉~』登場のキャラクター。
原作の3年前にあたる。
(原作の文を時系列に合わせるため一部改編)
ずんぺいのオリキャラは服装の説明がくどすぎる