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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第六十七話 第三章完結 メノウの安らぎ

三章終わった


 大羽との戦いから約一週間が過ぎた。

ビルの崩壊は、世間には地震によるものと発表された。

もちろんそれでは説明のいかない事象ではあるのだが、それ以上のことは何も公にされることは無かった。

大羽は行方不明、しばらくは捜索が続くそうだが意味は無いだろう。


「…う、う~ん」


 東アルガスタの港町にある病院。

その一室にてカツミは目を覚ました。

あの戦いから約一週間、彼女はずっと意識を失っていたのだ。


「ここは…?」


 清潔感のあるベッドから体を起こし、辺りを見渡すカツミ。

少し広い部屋に寝ていたらしい。

室内はカーテンで数個に仕切られている。

失礼を覚悟で右隣のカーテンをめくった。

そこにはツッツが寝かされていた。


「ツッツ…」


 ここで初めてカツミは、自身が病院にいることを理解した。

改めて自身の身体を見ると、体に受けた傷に包帯が巻かれていた。

軽く体の傷を摩るとまだ少し痛む。


「確かメノウは治癒魔法が使えたな…」


 カツミの口から出たメノウの名。

…そこで彼女はこの場にメノウの姿が無いことに気が付いた。

一週間以上昏睡状態にあったため、まだ頭が本調子でないようだ。

あの戦いの後から何があったのか、必死で記憶の糸をたどっていく。

だが、何も思い出せない。

竜と化したオオバの腕を斬り落としたことならば覚えているが…


「メノウ…あいつにきけば…」


「呼んだか?」


 左隣のカーテンをめくり、メノウが顔を出した。

いつものローブ姿では無く、上半身は裸、。

その長い髪は後ろで結ってあった。

カツミ以上に、その体には包帯が巻かれている。

右上半身と右腕、胸は完全に包帯が巻かれ、左足は骨折しているのかさらに多量の包帯が巻かれていた。


「メノウ、何か久しぶりな気がするなぁ…」


「約一週間じゃ」


「何が?」


「その間、ずっとお前さんは寝ていたんじゃ」


「そうか…一週間か…」


「それより、聞きたいことがあったんじゃないのかのう?」


「あ、ああ。そうだったな」


 メノウはカツミに対しこれまでのことを話した。

大羽を倒した後、四聖獣士のザクラとビャオウに救われたこと。

そのまま街へ行き、ヤマカワと合流したこと…


「ヤマカワさんは今どこに?」


「連日の看護疲れで寝ておる」


 メノウが部屋の隅を指さす。

そのままではカツミにとって死角になっているので、少し体の角度をずらして覗く。

確かに、壁にもたれかけてヤマカワが寝ていた。


「…待て、なんで四聖獣士の奴らがあたし達のことを?」


 カツミにとってこれは理解できないことだった。

いや、彼女だけでは無い。

メノウにとってもだった。

彼らを問い詰めようとしたが、既にその時にはメノウの体力も限界が近づいていた。

結果、問うことも出来ずそのまま二人のなすがまま港町の病院へと預けられたのだった。


「この街の病院はここしかないらしい。ツッツとも同室になれてよかった」


「あの二人、一体何を考えていたんだ…?」


 ビャオウとザクラにとって二人は敵のはずだ。

助ける理由などどこにも無い。

強いて言うならば、この二人はシェンやヴォンと違い『明確な敵意』を持っていなかったということか。

ビャオウはメノウ達を認めるような言動をとってはいた。

ザクラはツッツを攫いはしたが、直接戦闘をしたわけでは無い。


「あの二人はシェン達とは違う…か…?」


「だからといってそれが助ける理由にもならないじゃろ」


「…確かにな」


 これ以上考えても仕方が無い。

彼らはメノウ達を病院に預けた後、すぐに行方をくらませてしまったのだ。

今更あの二人に聞くことも出来ない。

深いことは考えず、素直にあの二人へ感謝の意を持つとしよう。


「…ツッツはずっと眠ったままか?」


「ああ…精神的な傷が大きいとか、医者は言っておった…」


「そうか…」


 眠り続けるツッツにめをやるメノウ。

彼女を守れなかったという自責の念から怒りに任せ、ハーザットを手にかけた。

そして合成魔獣型ハンター、大羽も。

しかしそんなことで罪の意識が消えることは無い。


「気持ちはわかるが、あまり思いつめるなよ」


「ああ、わかっておる…」


 そうは言うが、やはりツッツをこんな目に合わせてしまったのは自分だ。

彼女が旅について来ると言った際に、無理やりにでも断ればよかった。

そう思うメノウ。


「…カツミ、一つ聞いていいか?」


「あ、ああ」


 唐突な話題の転換に戸惑うカツミ。


「…お前さんはワシと大羽の話をどこから聞いていた?」


 カツミはあの戦いで、途中から乱入しメノウの窮地を救った。

その少し前にメノウは大羽と、ラウル古代遺跡にルーツを持つ話をしていた。

メノウの身体の秘密…

彼女が『人間』でも『異能者』でもないという話を。


「…ビルを上っている途中、大羽(ヤツ)の声が聞こえてきた」


「…そうか」


「全部、聞こえたよ」


 一瞬の静寂が辺りを包む。

それを遮るようにメノウが口を開けた。

たったの一瞬のはずが、とても長い時間のようにも感じられた。


「どう思う?」


「どうって…」


「ワシの身体は半分人間で半分がドラゴン。ワシの正体はそんなチグハグの存在じゃ…」


 人間の体に竜の四肢。

ラウル帝国にかつて存在した魔法により、完全に融合したそれは一見人間のそれと何ら変わりない。

しかしその性質はまるで異なる。

ドラゴンに匹敵しうるパワーと回復力。

人間の知恵と思考。

それは普通の人間から見れば間違い無く『化け物』に違いない。


「おぞましい化け物か?人の姿をした野獣か?」


 人間というのは排他的なもの。

自分と異なるものを排除しようとするということをメノウは知っている。

異能者であるツッツも、もしそのことが公になればまともに生きてはいられないだろう。


「どう思う!?カツミ!」


 怒りと悲しみが混ざった声で叫ぶメノウ。

自分の正体を友達にだけは知られたくは無かった。

そう思って今までメノウはこのことを誰にも話さなかった。

もし話せば、仲間が自分の下から離れていく。

そう思ったからだった。


「答えてみろ!カツ…」


「うるせぇ」


 カツミが一喝する。

それを聞きメノウの声が止まる。


「だって…」


「そんなこと関係ねぇよ!メノウはメノウだ!」


「ワシの正体を知ってもなんとも思わんのか…?」


「当たり前だろ。あたしも…いや、ツッツだってそう言う!」


 それを聞き、落ち着きを取り戻すメノウ。

カツミはさらに畳みかけるように話を続ける。


「あたし達だけじゃない。アンタのこれまでのお仲間全員、そう言うだろうさ」


「カツミ…」


「少なくとも、あたしはそう思うよ」


 そう言ってカツミは話を締めた。

それを聞き、メノウは眼に涙を浮かべる。

カツミに抱きつき、彼女の腕の中で泣いた。


「メノウ、お前は全部一人で抱えすぎなんだよ。少しは仲間を信用してもいいんじゃないか?」


「ああ…そうじゃな…」


「まぁ、お前が意外と歳食ってるのには驚いたが…」


「実質十三歳だからノーカンじゃ!」


 メノウが竜の巫女となったのがちょうど十三歳の時だった。

それから彼女の成長は止まっている。

その後数百年ほど禁断の森でずっと一人で過ごしていたが、それを除けば十三歳。

…というのが彼女の言い分だ。


「へへ、怒るなって」


「ふん!…カツミ、もう少しこうしていてもいいか…?」


「ああ、いいよ」


 そんな二人のやり取りを、先ほど目を覚ましたヤマカワは部屋の隅でこっそりと見ていた。

二人に悟られるよう、眼を閉じまだ寝ている素振りをしながら。


「(いい友を持ったな…二人とも…)」







----------------





 同日、同時刻。

中央アルガスタ、王都ガランへの検問所。

王族や貴族たちの住む、この王都ガランはゾット帝国で最も栄えている都だ。

騎士団の戦士達が街を守り、王族の住む城を親衛隊が守護する。

それだけでは無い。

このゾット帝国の東西南北に存在するそれぞれの地区は全て王都を守るための防衛ラインに過ぎない。


「職をもらいに王都ガランへ行こうとしたのはいいが…」


「やっぱり混んでるわ」


 検問所にできた列に、小型の軍用トラックに乗り並びながらつふやく二人。

それは元東アルガスタ四聖獣士のヒャオウとザクラだった。

あの戦いの後、大羽の敗北により四聖獣士の権力も消滅。

無職となった二人は仕事を求めて王都ガランを目指していたのだ。


「社長が負けるとは信じがたい…もしかしたら…?」


「そんなわけないわ、流石に死んだでしょ」


 助手席に座るザクラが、トラックを運転するビャオウを軽く笑い飛ばす。

大羽を主君として認めていたビャオウと違い、ザクラはただ単に金のために仲間に加わっただけ。

ハンターを操る資質が偶然会ったため、破格の待遇で四聖獣士に入ることが出来たのだ。

主君である大羽に対しては、雇い主以外の感情は持っていない。


「…それもそうだ」


「まぁ、私たちは東アルガスタの四聖獣士。王女サマにでも頼めば働き口くらい見つかるでしょ?」


「だといいがな」


 彼らは一年ほど前、軍閥長であった大羽と共に四聖獣士として王都ガランを訪れたことがある。

詳しくは彼らにも知らされなかったが、何やら国の要人を集めての会議に出席するためだったらしい。

 ゾット帝国の軍閥長全員が招集命令を受けたが、当時それに応じたのは南アルガスタの元軍閥長であるモール・エレクション。

そして大羽の二人だけだった。

大羽は東アルガスタ四聖獣士、エレクションは南アルガスタ四重臣をボディガード兼権威の象徴としてその会議に同行させていた。

 一年前のことを軽く思い出す二人に、トラックの荷台にいた何者かが声をかけた。


「王女である『ルビナ姫』に頼むよりは、その妹君である『ルエラ姫』に頼む方が確実だと思いますよ」


 どこか不思議な雰囲気の少年だった。

顔の右半分を覆う仮面のような物を付けている。

東洋の狐を模したデザインのものだ。


「助言感謝するよ」


「いえいえ」


「…それにしてもお前は一体何を考えているんだ?」


「そうよね、私たちがあのメノウって子たちを助けたのもあなたの依頼があったからだし…」


 ザクラとビャオウが崩れゆくビルからメノウ達を助けた真の理由。

それはこの少年に大金で依頼されたからだった。


「…そうですね、まぁいろいろあるんですよ」


「いろいろ…ねぇ…」


「それより、次ですよ。検問の順番」


「あ、本当だ」


 二人は身元がはっきりしているだけあり検問をすぐに抜けることが出来た。

元とはいえ、流石は四聖獣士と言ったところか。

トラックの荷台の少年の身元もビャオウが保障した。

中央アルガスタの領地に入る一行。

しかし…


「では、僕はここで下させてもらいますよ」


「ああ、そう言う約束だったな」


 少年との依頼内容。

それはメノウ達の救出だけでは無く、中央アルガスタまで依頼主である少年を送り届けることだった。

前金は既に渡してあるため、残りの金をビャオウ達に渡す少年。


「じゃあ、私たちは王都ガランへ向かうわ」


「ええ、お達者で」


「それにしても、別に身分隠さなくてもよかったんじゃないの?」


「ふふふ、そうですね。でもさっきも言いましたが、いろいろあるんですよ」


「そう…」


「おい、もう行くぞ」


 会話を続ける二人に、止めるよう言うビャオウ。

それと同時にトラックは勢いよく走りだした。

彼らは王都ガランへと向かうが、この少年は違う。

トラックが去った後、少年は地平に映る山々を眺める。


「…メノウさん、まだ貴女には生きていてもらわないと困りますからね」


 その少年…

いや、かつての南アルガスタ四重臣の一人『ヤクモ』は一人小声で呟いた。


「『魔王復活の紅月』まであと数年…そろそろ本格的に動き出しましょうか…」



次は四章ですね

いままでこの小説に当時要したキャラクターはもちろん、原作のキャラクターであるカイトやジン、魔王教団の愉快な仲間たちも出ますよ。

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