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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第六十四話 疾風のバトルフィールド

もうすぐこの章は終わりそうです。

 

 人とドラゴンの融合により人工的に生み出されたドラゴニュート、メノウ。

大羽の口から語られた衝撃の事実だった。

しかし、大羽の正体はその衝撃をも上回った…


『このドラゴンの身体こそ、我が真の姿だよ…』


 魔竜と化したオオバが言った。

ワニのように長く、鋭い牙を持った大きな口、鷹のように鋭い眼光。

手のように動く巨大な鉤爪のついた前脚は、魚食性の恐竜であるテリジノサウルスの物を彷彿とさせる。

後脚は肉食恐竜ティラノサウルスのそれよりも遥かに発達した強靭さを。

ドラゴンの翼はその圧倒的存在感に息をも飲むほど。

そして全身を覆う赤褐色の、鉱物のごとく固く、鈍い輝きを放つ鎧のような皮膚。


「ど、ドラゴン…」


『何も驚くことは無いだろう…キミも数千年前はよく見たはずだ』


 メノウの遠い記憶に刻まれたドラゴンの姿。

曖昧な記憶の奥には、確かにラウル帝国のドラゴンの姿があった。


『かつてラウル王ウィリアムに仕えた二体のドラゴン。メノウ、君はその代替品として『造られた』存在。

人間の知恵と竜の力、それらを併せ持つドラゴニュートをラウル帝国は人造的に生み出そうとしていた…』


 数千年前、ラウル帝国に仕える二体の姉妹のドラゴンがいた。

『ディーネ』という白きドラゴン、そして黒きドラゴン『フィーネ』。

ドラゴンでありながら人間以上の知恵を持ち、当時のラウル帝国を守護していたという。

 しかし、そのような高度な知恵を持つドラゴンは極稀にしか生まれない。

メノウはその代替品として、数千年前のラウル帝国で人工的に生み出された。

それが『竜の巫女』と呼ばれる存在。


『繁殖の難しいドラゴンと違い、ドラゴニュートは人間と同等の生殖機能を持つ。

それゆえ、雌のドラゴニュートは竜の巫女として神のように崇められていた』


 数千年前の当時のラウル帝国の最終目標。

それは人工的に生み出されたドラゴニュートによる世界制覇だった。

二体の守護龍、ディーネとフィーネは所詮ただの気まぐれなドラゴン。

『オーブ』と呼ばれる『主』の証の持ち主以外には従わない。


『だが、ラウル帝国滅亡と同時にその力は遺跡に封印された。

オーブという『鍵』を残して…』


 当時のラウルの王だったウィリアムが暴走し、王国を滅亡させた…

二体の守護龍、ディーネとフィーネ。

彼女たちは王国の滅亡と共に封印された。


「あまり聞きたくない話じゃな…」


『ほう、これは意外だ』


「そのせいでワシは数百年ほど禁断の森に引きこもっていたんじゃ」


 一方、メノウはその二人の眠りを守る番人として永い時を過ごした。

禁断の森の中に引きこもり、やがてそれが無駄とわかると自身を封印したという。


『君が先ほどの合成魔獣型ハンターとの戦いで見せた豹変、あれはドラゴンの血が覚醒したのだろう?』


 メノウが合成魔獣型ハンターとの戦いで見せた豹変。

それはドラゴンの血の覚醒によるもの。

ドラゴニュートの四肢は魔法で変化しているものの、元々はドラゴンの死体から移植されたもの。

当然、流れる血はドラゴンのモノ。

極限の命の危機に瀕した時、それが目覚めることがあるという。


『ここまで話せば私の正体にも察しはつくだろう?』


「…ラウル帝国滅亡と共に封印されていた、古代のドラゴン」


 メノウが言った。

知恵を持ち、人間への変身能力を持つドラゴン。

それはかつてのラウル帝国に存在した守護竜の特性そのものだったのだ。


『数千年前、私はラウル帝国の守護竜の一人として国を守っていたのでね…』


「そういうことか…」


『一つ訂正するとすれば、私はラウル帝国滅亡時には封印はされていないということだ』


 オオバはラウル帝国の滅亡が濃厚になるとともに国を捨て逃亡。

その後 永きにわたり世界を放浪したという。

そして幾千の時を経たのち、東方大陸の寺院に自身を封印した。


「ワシが目覚めたのは数年前。お前さんはいつ頃じゃ…?」


『私はキミよりも半世紀ほど早く封印が解けた。何故そうなったのか、キッカケは分からないが』


 流れるように、流暢な語りで、かつて禁断の森に存在したラウル帝国の歴史を語るオオバ。

そして、その語りにより明らかとなった真実…


『ドラゴニュート、まさに理想的な兵器だ。『ハンター』や『異能者』など足元にも及ばない』


 西のアルガスタの支配者、ジョーが集めていた異能者。

そして大羽が利用していたハンター。

そのどちらよりも、ドラゴニュートは兵器という観点から見れば優れている。


「ワシ…ワシは兵器などでは無い!」


『ならば何だ?人知を超えた力を持つ化け物か?」


「ウグッ…」


『あのツッツという異能者の少女もそうだ。人知を超えた力を持つモノは所詮化け物か兵器でしか無いのだよ』


 ドラゴニュートはハンターとは違う。

しかし、『生きる兵器』という点では同じ。

そして異能者も…


「…ならばお前さんも『化け物』か『兵器』ということになるが、それは大丈夫なのかのぅ?」


 メノウが言った。

それを聞き、オオバに動揺が走る。

彼自身、メノウを遥かに超える力を持つ古代のドラゴン。

彼の持論に従うならば、それを言った『大羽自身』も『化け物』か『兵器』ということになる。


『そうだ!私は化け物だ!かつては崇められていたこの力も今の世では単なる畏怖の対象に過ぎない!』


 その声と共にオオバが、その右腕の鋭く長い鉤爪でメノウに攻撃を仕掛ける。

攻撃を避けたメノウ、たが腕を振ると同時に発生した衝撃波が彼女に叩きつけられる。

単に腕を振るだけでも、これだけの威力。

直撃すればひとたまりもない。


『だから私は行動を起こした!邪魔者は全て消し、人間よりも遥かにこの力を使い、『世界の理』を変えるために!』


 先ほどまでの態度から一転、その声を荒げ叫ぶオオバ。

尋常ではないその様子にメノウが言った。


「お前さんの身に一体…何があったのじゃ…?」


 数千年の間、メノウはラウル古代遺跡に封印されていた。

その間にこの男に何があったのか。

本来、知恵を持つドラゴンは非常に高潔な精神を持つ神にも近い存在。

このような思想に至るとは思えなかった。


『知りたいか?』


 オオバがその鋭い眼光をメノウに向ける。

見つめられるだけで背筋に寒気が走り、恐怖が体を支配する。

なんとかそれらをかみ殺し、メノウは黙って頷いた。

 だがオオバは軽く笑みを浮かべメノウにこう言い返した。


『価値観などとても些細なことで変わる物だ』


「…?」


『何を言っているかわからない、そう考えているようだな?』


「あたりまえじゃ」


『いずれキミにもわかる時が来るだろう…』


 そうとだけ言うと、オオバはそれまでとっていた攻撃態勢を解いた。

そして最終警告とばかりにメノウに言った。

もっとも、その答えは彼自身ある程度は予想がついていたようだが…


『私と共に…いや、君がこの問いに同調するわけが無いか…』


「ああ、当然じゃ」


『ならば君は私にとって敵となる存在。ここで消えてもらうしかない…!』


 そう言うと再び攻撃の態勢を取り、メノウを見据えるオオバ。

現在、バトルフィールドとなっている屋上はメノウから見てもかなり広い。

ヘリポートだけでなく、輸送ヘリや戦闘機の格納庫や倉庫などもあり、ちょっとした運動場ほどの面積があるだろう。

十数メートルの巨躯を持つ魔竜オオバが暴れまわっても、ビルの下に落ちる心配はなさそうだ。


「(体力、魔力。どちらも全快というわけではないが、まだ十分に戦えるだけはあるみたいじゃな…)」


 自身の身体を見つめるメノウ。

合成魔獣型ハンターとの戦いで見せたドラゴンの血の覚醒により、魔力などはある程度回復している。

そして回復魔法の重ねがけにより、通常時とほぼ変わらぬ動きができるほどになっている。

だが…


「(相手は最強のドラゴン、ワシに勝ち目はあるのか…?)」


 一瞬、メノウの脳裏に不安がよぎる。

だがそれを必死にかき消し、目の前に立ちはだかる『最強のドラゴン』であるオオバに目をうつす。

見るだけでもわかる。

先ほど戦った合成魔獣型ハンターなどとは比べ物にならぬほどのパワーをオオバは持っている。

ハンターのような機械仕掛けの魔物などとはレベルが違う、もはや比べることすらおこがましいほどに。


「ふ、幻影(ファントム)光龍壊!」


 いきなり自身の持つ最強必殺技である、幻影(ファントム)光龍壊を放つメノウ。

いつもはここぞというときに使う技だが、出し惜しみをしていたら勝つことはできない。

そう悟った彼女はセオリーを破りこの技を使用した。

 もちろん、この技を選んだ理由はそれだけでは無い。


「(オオバは当然、、幻影(ファントム)光龍壊がワシのとっておきの技であることは知っているはず…)」


 とっておきの必殺技である技をいきなり使用してくるわけが無い、オオバはそう考えているはず。

相手の不意を突けば、たとえ途方もない力量差があったとしてもダメージを与えることが出来る。


…はずだった。


 その考えはあまりにも甘かった。

幻影(ファントム)光龍壊を使い、突撃してくるメノウをオオバはその片手で受け止めたのだ。

多少の衝撃を与えるくらいはできたが、ダメージは殆ど与えられなかった。


「な…!?」


『そのような攻撃を私が読めぬと思ったか?』


 確かに幻影(ファントム)光龍壊は強力な技だ、直撃さえすればオオバに対しても有効だとなりうるほどに。

だが、当然弱点も存在する。

幻影(ファントム)光龍壊は直線的な攻撃ゆえにそれ以外の方向からの攻撃に弱いのだ。

オオバは攻撃を受ける瞬間にメノウを手で握り込む形で、幻影(ファントム)光龍壊の威力を相殺。

その攻撃を無力化したのだ。


『ふん』


 握りこんだメノウを放り投げるオオバ。

メノウは、何とか耐性を建て直し反撃の機会を伺うも差になる追撃が彼女を襲う。

格納庫に置かれていた送電車を、オオバがメノウに向かって蹴り飛ばした。

それを何とか避けるメノウ。

だが、それとともにオオバが距離を詰めメノウに襲い掛かる。

 両腕の鉤爪で斬りかかるオオバ、一回でも直撃すればいくらメノウといえど細切れにされる。

幻影を展開し避けるも、それがいつまで続くかわからない。


「(ワシは勝てるのか…?)」


 メノウの思考を恐怖が支配していく。

彼女の知りうる限り、このような強敵に出会ったことは無い。

全ての攻撃が通用せず、自分の全てを知り尽くしているこの男。

最強のドラゴンを相手に勝つ手段は、無い。


「うぅ…」


 攻撃を全て避けきるメノウ。

しかし、もはや彼女に戦意は残されていなかった。

僅かに交戦しただけだが、この勝負にメノウは勝つことが出来ない。

それを理解してしまったのだ。


「ダメじゃ…これ以上は…」


『意外とつまらない終わり方だな、残念だよ』


「勝つのは無理…じゃな…」


『これが結末か…』


 オオバが鉤爪をメノウに振りかざす。

それを避ける動きすら、彼女は見せようとはしない。

勝利を確信するオオバ。


 だがそこに、一筋の朱の風が吹き抜けた。

 

オオバの攻撃が空を斬る。

あの状況で外すなどありえない。

ならば何故攻撃は外れたのか。


「無理じゃない、『勝つ』んだよ」


 オオバの前に立ち、メノウを救った人物。

それは『疾風の少女』カツミだった…





名前:『魔竜』オオバ 性別:雄 歳:不明 一人称:私

数千年の眠りから目覚めた古代ラウル帝国出身のドラゴン。

褐色の鉱石のような肌、巨大な翼と尾、強靭な手足を持つ。

ドラゴンの中では最強ランクの力を誇る。

数千年前、ラウル帝国の滅亡を予感した彼は国を捨て世界を放浪する旅に出た。

その旅の間で受けた差別や人間の態度、文化に絶望し今に至る。

旅の中で身に着けた知恵を使い、この現代において軍閥長の地位にまで上り詰めた。


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