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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第六十三話 数千年の眠りから目覚めし者 メノウの真実

ちなみにメノウの好物はひよこ豆です。

 

 合成魔獣型ハンターの前足の、銀色に輝く白虎の爪。

それが倒れているメノウにめがけて振り下ろされた。

彼女の命を奪い取るために。

もはやメノウにこれを避けるだけの力は残されていない。


 だが、その時『メノウの身体』に異変が起きた。


 もはや魔力はおろか、拳を握るほどの力も残されていなかった彼女の身体。

意識も朧げになり、その命の灯は放っておいてもいずれ消えそうなほど。

そんな彼女の身体が『動いた』のだ。

 それもただ動いたのではない。

振り下ろされた白虎の前脚を、その細い腕で受け止めたのだ。

重量と速度、その他諸々を考慮すればその衝撃は大型トラックの突撃にも匹敵するであろう、その一撃を。


「……ッッ!!」


 言葉にならぬ声と共に合成魔獣型ハンターを威嚇するメノウ。

その眼と佇まい、それはいつもの彼女とはまるで違って見えた。

まるで獲物を狙う野獣、いや、それ以上の渇望を持つ『何か』のよう。

 その殺気を感じたのか、僅かに後退をする合成魔獣型ハンター。

本来ならば自我など持たぬハンターだが、その身に残った本能がそうさせるのだろうか。


「ガアアッッ!!」


 メノウの、もはや人の声とは呼べぬ咆哮が辺りに響き渡る。

その姿は、つい先程まで死にかけていた者とはとても思えない。

もはやそれは、本当の意味での『魔獣』そのものといってもいい。

その変貌により、体中に満たされた魔力が彼女の身体を突き動かす。


「ハアアアアアアッッッ!」


 その叫び声と共に、以前までとは比べ物にならぬ速度で高速移動を繰り出すメノウ。

幻影魔法を使わずとも、残像が発生するほどにその動きは速い。

朱雀の眼を持つ合成魔獣型ハンターですら、その動きは見極められぬほどに。

完全に姿と気配を殺し、姿を消すメノウ。

 合成魔獣型ハンターは実体の見えぬメノウに対し威嚇を繰り返す。

変貌したメノウを、獲物では無く己の脅威であると認識したのだろう。


「…ッ!」


 その時、一瞬だけメノウの気配が合成魔獣型ハンターの後ろに現れた。

待っていたとばかりに合成魔獣型ハンターは後方へ体勢を変え、攻撃を放とうと武器を展開する。

だがそれはメノウの罠だった。


「ガアァッッ!」


 後ろに現れた気配、それは合成魔獣型ハンターを引き付けるための囮。

合成魔獣型ハンターが後ろを向いた瞬間、メノウの攻撃が発動した。


「ガグアアッッ!」


 幻影光龍壊をも遥かに超える一撃が合成魔獣型ハンターの頭部を貫いた。

その攻撃を受け、合成魔獣型ハンターの顔の半分が原形をとどめぬ程に吹き飛んだ。

思考を司る頭部を完全に破壊された合成魔獣型ハンター。

物言わぬ亡骸となった合成魔獣型ハンターは、静かに崩れ落ちた。


「ガアハアアアアアアッッッッ!!」


 それでもなお、メノウは攻撃を止めようとはしない。

叫び声を上げ、自身の拳で合成魔獣型ハンターの頭部を何度も右腕で殴りつける。

拳の骨が砕け、皮膚が裂け、当たりにメノウの鮮血が飛び散る。

腕が自身の血で染まろうとも、それを止めようとはしない。

何度も、何度も、何度も殴り続けた。


「ガグッアアッッ!」

 

 自らの血肉が削り取られようとも、メノウはその手を止めようとはしない。

それを止めるべき者は今、ここにはいない…


『カンッ…』


 その場に乾いた、鈍い金属音が響き渡った。

メノウはその音を聞き、攻撃の手を止めた。

キョロキョロと、警戒するように辺りを見回す。


「……?」


 その音を立てたモノ、それはメノウの所持していた『多節混』だった。

合成魔獣型ハンターに吹き飛ばされた際、背負っていたものが残骸の上に吹き飛ばされたのだろう。

それが偶然、地面に落下。

周囲に響くような、乾いた音を鳴らしたのだ。

南アルガスタにてマークから受け取り、ヤマカワとの戦いで使用したこの多節混。

かつて共闘した友、ミーナが使用していた物の複製品だ。


「…っうぅん!?」


 一陣の風が辺りを吹き抜ける。

それと共に、メノウが首に巻いていたストールがほどけ宙を舞う。


「あっ…!」


 飛ばされたストールに手を伸ばすメノウ。

なんとか、遠く飛ばされる前に上手く掴めた。


「……やってしもうたか」


 ストールを掴んだメノウが、合成魔獣型ハンターの残骸を見下ろしながら小声で呟いた。

その眼は先ほどまでのような野獣の眼とは違った。

いつものメノウのような…

いや、その眼にはどこかいつもと違う、哀しみが宿っているように見えた。


「ふぅ…」


 軽く息を吐き、呼吸を整える。

辺りを見回し、改めて自身のボロボロになった腕を見つめる。

肉が抉れ、内部の血管はズタズタに引き裂かれている。

メノウはこれまで、何度も体を酷使してきた。

今回の傷も確かに深いが、今更驚くほどのものでもない。


「こんなんじゃあ、口が裂けても『人間』とは言えぬなぁ…」


 そう冷たく言いながら、先ほどの殴打で負傷した右腕に、切り裂いたストールの布を巻きつける。

意味深な言葉ではあるが、確かに先ほどのメノウの行動はとても人間とは呼べるものでは無かった。

一部を包帯代わりに巻き、残りを再びストールとして首に巻く。

戦っている最中は魔力、体力ともに限界まで使い切っていたはずだった。

たが今のメノウの身体には普段とほぼ変わらぬほどの量の魔力と体力が残っている。


「ありがとうな、ミーナ。ワシを『人間』に戻してくれて…」


 そう言って、地面に転がっていたミーナの多節混の複製品を拾い上げるメノウ。

単なる複製品ではあるが、これはメノウとミーナの数少ないつながりでもある。

多節混を背負い、軽く深呼吸をする。


「…いくか」


 そう言って吹き抜けとなっているビルの上階を見つめるメノウ。

包帯代わりのストールに魔力を込めたことにより、傷が段々回復していく。

先ほど大羽が使った階段で屋上を目指す。




 

 最上階、屋上への扉を蹴破るメノウ。

屋上の中心は大きなヘリポートベースとなっており、その中央に大羽はいた。

ヘリポートという場所には似合わぬ、戦闘機の機体に体をもたれかけながら。


「来たか、竜の巫女よ…」


 絶対的な自信に満ち溢れたその表情。

対峙する相手がメノウであろうと、その態度を崩すことは無い。

部下である四聖獣士、ツッツ、ハーザット、合成魔獣型ハンター…

全ての駒を失ったにもかかわらず、彼の顔から『余裕』が消えることは無い。


「大羽あああああ!」


 大羽の名を叫びながら彼に駆け寄るメノウ。

彼女には知りたいことが山のようにあった。

何故、自分のことを知っているのか?

何故、ラウルの技術や文字を解読できたのか?

何故、ハンターの隷属化という技術を手に入れたのか?

上げていけばキリが無い。


「合成魔獣型ハンターは倒した、残るはお前さんだけじゃ」


 そう言い放つメノウ。

もはや大羽には残された駒は無い。


青龍(シェン)玄武(ヴォン)朱雀(ザクラ)白虎(ビャオウ)、皆私の下を去って行った…」


「そうじゃ、もうお前さんに味方する者はこの場にはいない…」


 メノウの言うとおり、この場に居るのは彼女と大羽の二人のみ。

彼の身方はゼロ人、誰もいない。

俺がいる、そう言って参上する忠臣も、誰もいないのだ。


「さぁ、話してもらおうかのぅ…」


「そんなに知りたいか、私の秘密を…」


「ああ…」


「ふふふ…」


 そう鼻で笑う大羽。

のらりくらりとした態度に、メノウは怒りを隠せない。

本来ならば追いつめられているのは、後の無い大羽のはずだ。

しかしこの様子ではどちらが追い詰められているのかわからない。


「さぁ、はやく話してもらおうか!」


 メノウが脅しの意味も込め、大羽に殴りかかる。

もちろん、本当に殴るつもりは無い。

しかしその威力と迫力は本物。

これを見ればさすがに話すだろう、そうメノウは考えた。

だが…


「あまり焦らないことだ、どうせ時間はたっぷりあるのだから…」


 メノウの拳を左手で軽く受け止め、大羽はそう言い放った。

先ほどまでの表情を崩さず、軽い笑いを浮かべながら…


「なッ…!?」


 驚嘆の声を上げたのは殴り掛かったメノウだ。

いくら当てる気が無かったとはいえ、巨大な岩をも粉砕するほどの力を込めたはずだった。

それをこの男、大羽は軽く受け止めたのだった。


「所詮、『紛い物』ではこの程度だろうな…」


 メノウの拳を逆に握りしめ、彼女をヘリポートの隅にある照明設備に投げつける大羽。

そこから立ち上がったメノウに対し、大羽はさらに話を続ける。


「ラウル帝国に封印されていた人造竜人『ドラゴニュート』、それが君の正体だろう?」


「なッ…!?」


 その言葉を聞き青ざめるメノウ。

それは今となっては当人であるメノウしか知らない事象。

そして、彼女が最も嫌う過去だった。


「数千年の間、遺跡に封印されていた竜の巫女が今になって甦った過去の遺物…」


 メノウのそれは心の奥底でトラウマとなっているものだ。

彼女の心境の異変を感じ取った大羽は、それを抉る意味も込めてさらに話を続ける。


「キミは大怪我を負い、瀕死だった竜飼いの奴隷の娘とドラゴンの死体を合成して生み出されたのだったな…」


「ああ、そうじゃ!この肉体はドラゴニュートのものじゃ!ワシは数千年の時を超えて、この世界へと舞い戻ってきた!」


 開き直ったメノウが叫んだ。

この事は今まで誰にも話さなかった。

ショーナやミーナ、そしてカツミにも…


「遺跡の封印を解いてか…」


「ああ、そうじゃ。なぜ解けたかは知らんがのう」


「四肢を一度切断し、竜の四肢と入れ替え魔法で同化させる。

考えただけでゾッとするねぇ…」


「ウグッ…」


 かつてメノウ自身が受けた凄惨な体験を思い出し、思わず目を閉じてしまう。

それを尻目に、大羽はさらに話を続ける。


「何故ここまで私がラウル帝国のことに詳しいか知りたいかな?」


 メノウは黙って頷いた。

彼女からすれば当然の答えだ。


「お前さんは…一体何者じゃ…?」


「…知りたいか?」


 一瞬の静寂が辺りを支配する。

それと共に、夜空を照らし続けていた満月が雲に隠れ見えなくなる。

普段ならなんとも思わない月の雲隠れ。

この時ばかりは何故かとても不気味に感じられた。


「私も同じだよ、君と同じドラゴンの力を持つものだ…」


「な…!?」


「ただし!」


 大羽が声を荒げる。

それと共に、体内の魔力を一気に開放する。

周囲一帯が大羽の放った魔力により爆炎に包まれる。


「な、なんじゃあ!?」


「言っただろう?私もドラゴンの力を持っていると…」


 そう言いながら、大羽が爆炎の中から現れた。

しかしその姿は先ほどの『人間』の姿では無い。

赤褐色の鉱石のような肌を持つ、巨大な翼と尾、強靭な手足を持つ『ドラゴン』の姿だ。

先ほどメノウが戦った合成魔獣型ハンターと肩を並べるほどの巨躯、常に体内から湧きあがる魔力。

その姿は異国の伝説に登場する悪しき竜そのものだ。


「私は生まれついての『ドラゴン』!パワー、スピード、魔力!その全てがあの『ディーネ』と『フィーネ』を超える!私こそが最強のドラゴンだ!」




オーブなのかオーヴなのかはっきりしろよ

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