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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第六十一話 決着、そして…!?

ちかれた


 

 メノウの拳がハーザットを貫いた。

そのまま彼女は、無言で彼の身体から拳を引き抜いた。

ハーザットの赤い鮮血がメノウの身に返り血となって降り注ぐ。


「こッ…こ…わ…が…っ」


 ハーザットは肺を含む内臓をもを破壊され、もはや喋ることすら出来ぬ体になっていた。

だからといって憐れみも感じず、嬢も一切かけたりはしない。

メノウは彼の身体を、積まれたコンテナの山から叩き落とした。


「じゃあの」


 ハーザットの身体の骨が砕ける音と共に、メノウもコンテナの山を下りた。

そして、それとほぼ同時に、カツミと戦っていたツッツの身体にある異変が起き始めた。

それは戦っている当人であるカツミから見てもわかるような大きな異変。


「(身体が…思ったようにうごか…ない…!?)」


「ツッツの動きが鈍くなってきた…!」


 ツッツ自身のイメージする動きと実際の身体の動きが徐々にズレていった。

最初は僅かなほころびだったが、少しづつその動きの誤差が広がっていく。

ハーザットの再起不能により、何らかの不具合が生じたのだろう。

思考や身体に刻まれた彼の呪縛が、解かれようとしている。

これを見逃すカツミでは無かった。


「これだ!」


 動揺するツッツに向けて衝撃波を放つ。

破壊力自体は無いが、その衝撃で彼女の身体が吹き飛ばされる。

彼女のとばされたその先には…


「メノウ!今ならイケるぞ!」


「おう!」


 その先にいたのはメノウ。

今の彼女には、カツミが何のためにツッツを吹き飛ばしたのかが手に取るようにわかる。

カツミの衝撃波で飛ばされたツッツを、メノウが受け止めた。

予想外の衝撃に一瞬ぐらつくも、何とか踏みとどまる。


「あの時、お前さんを守れなくて悪かった…ツッツ…」


「え…?」


「すまん…」


 そう言うと、メノウは先ほどは失敗した無色理論(クリアセオリー)をツッツに放った。

ハーザットの呪縛が消えた今、もはや効かない道理はない。

無色理論(クリアセオリー)を受けたツッツはその場に倒れ、気を失った。


「やったか!?メノウ?」


「ああ。やってやったわ…あのハーザットとかいうヤツものぅ…」


「あいつか…」


「西アルガスタでの大型肉食恐竜型ハンターとの戦いを思い出して、もしやと思ってヤツを倒してみたが…」


 ハーザットを倒せば呪縛が消える、メノウがこの考えに至ったのには理由があった。

それは西アルガスタでの名も無き追跡者、そして大型肉食恐竜型ハンターとの戦いにヒントがある。

ラウル帝都を防衛するために作られた、防衛型である大型肉食恐竜型ハンターは本来ならばあのように戦うものでは無い。

だが、あの時の戦いにおいて大型肉食恐竜型ハンターは非常に好戦的な性格になっていた。

理由は簡単、大型肉食恐竜型ハンターは追跡者の男が操っていたからだ。


「大型肉食恐竜型ハンター…あの時のか!?」


「ハーザットはハンターを操るのと同じ方法で、ツッツも操っていたんじゃろうな…」


 西アルガスタでのシェンとの前哨戦にて、ハンターを操るには人工オーブを使用していることが分かっている。

ハーザットもその方法を使っていたのだろう。


「あの野郎…!」


「カツミ、こんな時にあれなんじゃが…」


「な、なんだ?」


「頼みがある」


 気絶したツッツをカツミに渡したメノウ。。

身体だけでは無く、恐らく精神にも傷が残っているはず。

すぐに病院にツッツを連れて行って欲しい。

そう彼女は言った。


「…何故あたしだけに任せる?お前はどうするんだ」


 カツミは知っていた。

メノウは全てを自分で背負い込む癖があることを。

重要時には仲間を突き離し、自分一人で解決しようと尽力する。

西アルガスタから旅に出る際もそうだった。

そして、それ以前にもそんなことがあったのだろうことは容易に想像できた。


「ワシにはまだやるべきことがある」


「大羽か…」


「ああ、ヤツには聞きたいことが山ほどあるからのう」


 何故、大羽はラウル古代遺跡に残された『失われた技術(ロストテクノロジー)』を使うことが出来るのか。

竜の巫女の伝説を何故彼は知っていたのか。


『学者さんががんばって解読したんだよ。大変だったって』


 以前シェンはそう言っていたが、それが本当だとはとても思えない。

かつてラウル帝国で使用されていた言語は、現代に残るどの言語とも異なる文法が使用されている。

いくら学者といえど、そう簡単に解析できるものではない。


「…わかった。ツッツのことはあたしに任せろ」


「…また貸しを作ってしまったな。何回目じゃ、これで?」


「さぁな。いいよ、そんなことは」


 今更メノウの考えを曲げることはできない。

たとえ強硬手段をとったとしてもそれは同じだろう。

出来ればカツミもメノウと共に進みたい。

だが、今はそれができない。

救い出したツッツの安全を確保までは…


「じゃあ、とりあえず向こうの街の病院に行ってくるぜ」


「ありがとうな…カツミ…」


 そう言ってツッツを、乗ってきた船に乗せるカツミ。

陸の港町の病院に送り届けるという。

去り際に一言、彼女は言った。


「死ぬなよ、メノウ…」


 ツッツとカツミを乗せた船は静かに海原を渡って行く。

それを少し眺めたあと、メノウは一人その場を後にした。




--------------------

 

 この島で最も高いビル。

それは島のちょうど中心にあった。

先ほどメノウとカツミが怪しいと睨んだビルだ。


「三ツ矢サイバービルの時と同じじゃな…」


 そう行ってビルの中へと入って行く。

あの時と同じく、人の気配も何もない。

広いフロアに吹き抜けの天井、作りもどことなく三ツ矢サイバービルと似ている。

 恐らく、所有者である大羽の趣味なのだろう。

あるいはどちらのビルも同じデザイナーがデザインしたのか。

唯一、あの時と違う点を上げるとすれば、それはただ一つ。

メノウには今、共に戦う仲間がいないということだろう。


「…いくかのう」


 誰もいないビルのエントランスにメノウの足音だけが響く。

機械音すらしない完全な静寂。

照明も落とされ、ビルの中は薄暗い青色に染まっていた。

 警戒しつつ、上のフロアへの階段を探すべく辺りを見回す。

と、そんな中、メノウはあるものに気付いた。


「ん…?」


 エントランスの隅にある従業員用のカフェコーナー、そこに一瞬、人の気配を感じた。

殺気などではなく、ただ純粋に人の気配を感じただけだ。

退避しなかった研究員か何かだろうか。

 観葉植物の影にいたその人物に近づこうとしたメノウ。

ふと、足音を立ててしまった。


「ん…?」


 それに気づいたのかその人物は、持っていたカップをテーブルに静かに置いた。

そこにいたのは、ビジネスマン風の東洋人の男。

180cmという中々の身体に程よい肉付き、黄色い肌に鋭く、深く黒い瞳。

そしてこのビルのエントランスに合った服装であるビジネススーツ…


「ついにここまで来たか、『竜の力』を持つ少女よ…」


 その言葉を聞き、動きが止まるメノウ。

そこにいたのは紛れもない、東アルガスタの軍閥長、大羽だった。

ラウル古代遺跡の謎を解き、竜の伝承をも知る男…


「てっきり最上階で待ち構えていると思っていたんじゃがの」


「これは妙なことを言う。社長である私が自社ビルのどこにいても勝手だろう?」


 そう言って大羽は、テーブルに置いたカップを再び手に取り、残っていた飲み物を喉に流し込む。

敵対者であるメノウが目の前にいるというのに、この男は殺気も何も感じさせない。

この男が何を考えているのか、メノウには分からなかった。


「…お前さんに尋ねたいことがある。山ほどな」


「遠路はるばる来てまですることは尋ね事か。『人生』はもっと有意義に使うべきだと私は言いたいがね…」


「…話すのか、話さないのか。答えろ」


 いつにも無く、真剣な顔つきで言うメノウ。

しかしそんなメノウを前にしても、大羽は一切動じることは無かった。

顔に笑みを浮かべつつも、その眼の奥は笑ってなどいない。


「話すさ。君が今、知りたいことなら何でもね…」


「何でも…」


「私は全てを知っている。ラウル帝国のことも、君が『何者なのか』もね…」


「…ッ!」


 それを聞き、メノウの表情が厳しいものに変わる。

今までメノウは、自身の過去を誰にも話したことは無かった。

彼女にとってそれは、思い出したくも無い忌むべき過去。


「…ッ!?」


 ショーナやカツミ、その他の誰にも語ったことは無い。

その誰にも語らなかった自身の過去を、この男は知っているというのか。


「メノウ、私もキミと同じ存在だよ」


「同じ…じゃと…?」


「ふふ。出来ればもっと話していたいが、そうはいかないようだ…」


 大羽のその声と共に、ビルの壁が大きく崩れ始める。

巨大な『何か』が、ビルの外から壁に攻撃を加えたのだ。

突然の出来事に戸惑いつつも、攻撃をしたその者を確認するために外へと出るメノウ。


「なんじゃ、コイツは…?」


 そこにいたのは、全高十五メートルはあろう巨大なハンターの姿だった。

これまでの四聖獣をデザインモチーフとしたハンターたちとも、既存の生物をモチーフとしたものとも違う。

全くの異形の姿をした『何か』だ。


「合成魔獣型ハンター、『TYPE-3.4 Origin(オリジン) Almenu(アルメニウ)』、四聖獣士の戦闘データを元に作り上げた、私のオリジナル魔獣だよ」


 メノウの前に現れた巨大な魔獣、Origin(オリジン) Almenu(アルメニウ)、大羽がラウルの古代技術と現代科学を融合させて作り出した最凶の『合成魔獣型ハンター』だ。

強いて言うならば、その姿は異国の幻獣『キマイラ』に少し似ている。

後脚と後翼は青龍型ハンターの物を、前脚と頭部は白虎型ハンターのものだ。

そして全身の装甲は玄武型ハンター、前脚の爪と前翼、頭部の装飾は朱雀型ハンターのものと同じ。

どの部位も、これまでメノウが出会ってきたハンターのものだ。

 しかし、その全ての部位が以前戦ったハンターのものよりも数倍はスケールアップされている。


「合成魔獣型ハンター…じゃと…!?」


 ハンターとは既存の生物が魔力により変化した存在。

そのため、必ず生物の姿をしているのだ。

しかし今目の前にいる合成魔獣型ハンターはその枠組みに当てはまらない。

 もはやこの異形の『合成魔獣』をハンターと呼んでいいのかすらわからない。


「魔獣は『古代王』が生み出した存在、だが私はその古代王の力すら超越することが出来る!」



合成魔獣型ハンター

TYPE-3.4 Origin(オリジン) Almenu(アルメニウ)

大羽が人工的に作り出したハンター。

これまでにメノウ達が出会ったハンターよりも遥かに強大な力を持つ。

使用されているハンターのパーツは以下の通り。

いずれも元のハンターのものよりも数倍の大きさになっている。

・後脚と後翼は青龍型ハンター

・前脚と頭部は白虎型ハンター

・全身の装甲は玄武型ハンター

・前脚の爪と前翼、頭部の装飾は朱雀型ハンター

どの部位も、これまでメノウが出会ってきたハンターのものだ。

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