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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第五十八話 玄武を越えた先にあるもの

MMDゾッ帝だいすき

 ツッツがいると思われる法輝火麗(ほてるかれい)海洋の人工島。

それが嶺塔活(れいとうかつ)島だ。

ビャオウから聞き出したその島は、軍閥長である大羽が自社のために作り出した巨大な海洋上の実験室だ。

面積だけならばシェルマウンドやキリカといった大都市にも匹敵するだろう。

 メノウとカツミは、船を手配しその島を目指し海洋上を船で走っていた。

ビャオウとの戦いから十日ほどかかってしまったが、これでも可能な限り早く到着を目指したつもりだ。


「海かぁ~。船旅はあたし、はじめてだぜ」


「ワシもじゃなぁ。随分と広いのぉ、海は…」


 自動操縦の小型高速船の甲板から遥か彼方の水平線を眺める二人。

初めて感じる海洋上の潮風に少々の感動を感じる。

 ビャオウと戦った荒野を早々に抜けることが出来たのは彼女たちにとって幸運だった。

そしてもう一つの幸運が二人におとずれていた。


「あとは玄武を倒してツッツを連れ戻す…」


「ああ、絶対にのう」

 

 本来ならば残りの四聖獣士である『朱雀』と『玄武』との戦いは彼女達にとって避けられない。

カツミの言う『玄武』のみでは無く、『朱雀』の属性を持つザクラとも戦わなければいけないはずだ。

しかし、ビャオウの話によるとどうやら少し話は違うらしい。

 戦いの最中、メノウ達を戦士と認めたビャオウ。

彼は自分の知るすべての情報を二人に託したのだ。


『ザクラは戦闘では無く、諜報と情報収集を兼ねた四聖獣士の参謀。恐らくキミ達と交戦することは無いだろう』


 朱雀の属性を持つザクラは戦闘は行わない、ビャオウはそう言った。

確かに彼女の操るハンターは戦闘向けでは無い鳥型が主だった。

そう考えると仕方が無いのかもしれない。


『玄武は人工島、嶺塔活(れいとうかつ)を守る守護者。自分から戦うことは無いが、島に近づく敵は必ず殲滅するだろう』


 島を守る守護者『玄武』、確かにその存在は脅威だ。

しかし逆に言えば、それさえ突破してしまえばもう彼女たちを止める者はいない。

ツッツにかけられた洗脳を解き、彼女を連れ戻す。


「軍閥長の大羽はどうする?倒すか?」


「そうじゃな、少なくともキツイ仕返しをしてやる必要はある」


そう言って、人工島嶺塔活(れいとうかつ)を目指す二人。

高速船のスピードを上げ、海原を進んでいく。

メノウの広範囲探索魔法のおかげで、この海域周辺には特に何も敵対する者がいないことは分かっている。


「てっきりサメ型ハンターとかが出てくると思ったんだけど、意外だったな」


「ハンターは海水には対応していないからじゃろう」


「そうか、ハンターはもともとラウルに住んでいたんだよな」


「そうじゃ。ラウル古代遺跡には精々淡水の湖があるのみ…」


 現時点で大羽は海洋対応のハンターを量産することはできないのだろう。

さすがにこの広範囲に水中機雷を設置することも出来ない。

彼らができることと言えば、精々飛行能力を持つハンターを偵察機として飛ばすくらいだ。


「まぁ、飛行偵察機くらいは仕方が無いな」


「敵さんも待ち伏せくらいはしておるしゃろう。元々その程度は覚悟の上じゃ」


「ああ、そうだな、確かにそうだ…」


 そう呟く二人。

その視線の先に突如、大羽が仕向けた最後の四聖獣士が現れた。

『玄武』の属性を持つ最後の四聖獣士だ。

ヤツはそれまで一切の気配を感じさせず、メノウにも感知されなかったのだ。


「チッ!いきなりかよ!」


 水柱を上げ、海底から姿を現すその魔物の姿は巨大な二足歩行の亀の姿をしていた。

大型肉食恐竜型ハンターの骨格フレームをベースに陸ガメの甲羅と後ろ足、ウミガメの前ヒレと頭部、そして尾。

その大きさは以前戦った青龍型ハンターよりも一回りほど上回っている。


「シェンもビャオウもザクラも使えん奴らばかりだな…」


「お前さんは…?」


「最後の四聖獣士、『ヴォン』だ。これまでの奴らとは一味違うぞ」


 玄武型ハンターの中から現れたのは最後の四聖獣士『ヴォン』、操るハンターと同じく『玄武』の属性を持つ。

彼の操るのは、防衛仕様でありながらも非常に高い攻撃性能を誇る玄武型ハンター。

現在、唯一の海でも活動できるハンターだ。

地上戦でも、純粋なパワーのみならば青龍型ハンターとほぼ互角。

しかし…


「邪魔じゃ!」


「どけ!」


 最後の四聖獣士も、先を急ぐ二人の前には些細な障害でしかなかった。

その障害を排除すべく、メノウとカツミの二人は最大の力を使い攻撃を放つ。


開陽虎狼殺(かいようころうさつ)!」


幻影光龍壊ファントムこうりゅうかい!」


 防御する暇を一切与えず、玄武型ハンターを瞬殺。

これまでのハンターとの戦いの経験から、長期戦に持ち込むのは危険ということが分かっている。

海上では足場が無いため、二人にとっては最悪の状況。

それならば、この一瞬で倒すしかない。


「な、玄武が一瞬で…うッ!?」


 腹に風穴を開けられた玄武型ハンターは海上で爆破炎上した。

もしメノウ達の狙いを悟られ、防御を固められていたら勝てなかっただろう。


「邪魔者は片付いたな」


「ああ、行くかの!嶺塔活(れいとうかつ)島へ!」



-------------



 非戦闘要員であり、正真正銘の最後の四聖獣士であるザクラは焦っていた。

既に四聖獣士の三人が敗れているという残酷な現実に。

非戦闘要員というのも、自らが諜報などの役目を常に買って出ているからだ。

そのため、戦闘の仕事などは常にシェン、ヴォンなどに。

ザクラはそれを押し付け諜報。

ビャオウは社長であり軍閥長でもある大羽の警護を担当していた。


「あの三人がやられたんじゃ、私に勝ち目なんてあるわけ…」


 ザクラは非戦闘要員ではあるが『戦わなくても良い』という立場というわけではない。

非常時ともなれば、当然出撃の命令が下されることとなる。

他の三人は、ザクラの戦闘能力が低いということを把握していた。

そのため、出来る限り彼女を戦わせないようにしていたのだ。


「し、しばらく姿を隠さないと!」


 嶺塔活(れいとうかつ)島にある自室にて、荷物を纏めるザクラ。

彼女はこういった立ち回りが妙に上手い。

昔から自身の保身のためにしか動かない、損得勘定の速い女だった。

 自分に命令が下される前にどこかへ高飛びしてしまおうという考えなのだろう。

しかし、部屋を抜け出した瞬間をある男に見られてしまった。


「どこへ行くんだい?ザクラちゃん~?」


「は、ハーザット…博士…ッ」


 ザクラはこのハーザットという男が苦手だ。

この男はどうも、他人のことを単なる道具か何かとしてしか見ていない節がある。

それは大羽やジョーと言った、自身よりも各上の存在に対しても例外ではない。

 しかも厄介なことに、そのハーザットの傾向は女性に対して特に強く表れる。

彼にとって女性とは、食欲、性欲、睡眠欲、その他様々な欲求を満たすだけの道具でしかないのだ。


「ど、どこって…ちょっと朱雀型ハンターの調整に…」


「それで?それだけかな?」


「…ッ!」


 妙に上から目線でザクラに話しかけるハーザット。

逃げ出そうとしていたことがバレたのだろうか。

このままにしておくと厄介なことになる。

それならば、ハーザットを殴り飛ばすという強硬手段に出るという手もある。

四聖獣士である以上、彼女もある程度は格闘技の心構えはある。

その隙に逃げ出せば…


「あ、今キュンと来たね?」


「は?」


「怒らないでよー冗談だから」


 ふざけた態度でザクラを挑発するハーザット。

それに対抗するように彼に怒号を浴びせようとザクラも大声を上げる。


「おい!ひッ…」


「ソソソ、ちょっとザクラちゃんに『あるもの』を見せたくてね…」


 そう言ってザクラを研究用の闘技場へと案内するハーザット。

どうやら逃亡しようとしていたことがバレた、というわけではないらしい。

最初から彼は、ザクラに『あるもの』を見せるのが目的だったのだ。


「あるもの?」


「ソソソ…」


 そう言って、ハーザットは懐から小型の携帯端末を取り出す。

軍などでの採用を検討に大羽が開発した、映像なども録画できるタイプものだ。

もっとも、原材料さんはされておらず、これはあくまで試験機。

まだ数機しか作られていないものであるため、ザクラも大羽が持っているもの以外は見たことは無かった。

ハーザットは、その中に録画された『ある映像』を彼女に見せた。


「これは…」


「昨日とった映像だよ」


 そこに映し出されたのは、試験場で戦う二人の人物の映像だった。

片方は四聖獣士の一人、『青龍のシェン』だ。

メノウとの戦いで死にかけていたが、ハーザットの治療により奇跡的に回復したのだ。


『さすがの僕も死ぬかと思ったよ、メノウちゃんは強かったね…』


「シェン!生きていたの!」


 驚くザクラ。

シェンは青龍型ハンターを駆りメノウと戦ったが、その際に戦死したと聞いていた。

まさか生きていたとは、完全に予想外だっただろう。


『ここでキミに勝てば、僕はハーザットさんに認めてもらえる!』


 映像の中のシェンが叫ぶ。

ハーザットによると、シェンには従来の研究で得られた人体強化の手術を施しているという。

とはいえ、副作用が出ない程度の薬物を投与した程度だが。


「相手はだれ!?」


 ザクラがそう言った直後、映像が切り替わった。

その相手は…

 

「あ、この子は!」


「ザクラちゃんが連れてきたあの子だよ」


 シェンと戦っていたのは、ハーザットの配下となったツッツだった。

青龍刀で斬りかかるシェンの攻撃を全て軽く避けるツッツ。

攻撃が当たらないことに苛立ち、さらに激しい攻撃を繰り出すシェン。

だが、それも全て避けられてしまう。


「あの子、私が連れてきたときとはまるで別人…」


 隙を見てシェンの後ろをツッツがとった。

咄嗟のことに一瞬、何が起こったかわからず、映像の中のシェンは困惑の表情をとる。


『どこに行ったんだよ!?ツッツちゃん!』


「…後ろよシェン!」


 思わず叫ぶザクラだったが、録画映像の中のシェンに届く訳も無い。

彼が後方確認をした瞬間には既に遅し。

ツッツの手刀がシェンの身体を貫いていた。

それは以前、メノウに放ったあの手刀と同じだった。

 映像はそこで途切れた。


「シェン…」



名前:ノービィ・ハーザット 性別:男  年齢:三十二歳

西アルガスタの支配者、ジョーの部下の研究者。

様々な分野に精通した天才だが、性格にはかなり難がある。

大羽も彼の扱いにはかなり手を焼いている。

しかし、友好関係にあるジョーから借り受けた手前悪くすることも出来ない。

他人を道具としか考えぬ傍若無人な性格であるが、逆に言えば他人がいなければ何もできないということだ。

自身の戦闘能力は皆無。


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