第五話 悪夢の夜を超えろ!業人に生きる価値は無い!
~前回のあらすじ~
南アルガスタ四重臣の一人『猫夜叉のミーナ』。
彼女との戦いの中、突如吊橋が爆発。
ミーナとメノウは激流の中に消えた…
あれからどれだけの時間が経ったかわからない。
爆発に飲まれ、行方知らずとなったメノウ。
だが、今そのメノウがショーナの下へ戻ってきた。
たき火の前で待ち続けていたショーナがメノウの元へ駆け寄った。
「メノウ!無事だったんだな!よかったぜ!」
「あぁ、大丈夫じゃったよ」
満面の笑みを浮かべながら抱きつく二人。
そしてメノウは自身の纏っていた白いローブなどを脱ぎ捨てた。
彼女の素肌が露わになる。
「お、おいメノウ!?」
「んふふふ~」
たき火の揺らぎ続ける明かりのためか、どうも彼女の顔かはっきりとは見えなかった。
…不思議な違和感を感じるショーナ。
「何だ…この感じ…」
「ショーナァ…ワシの身体、ボロボロになってしまってのぉ…」
ローブの下から現れたメノウの素肌は、爆風によって焼け爛れていた。
顔の半分も焼け、右半分はもはや顔と呼べるような状態ではなかった。
右腕の神経が機能を無くしたのか、だらりとぶら下がっている。
さらに、指も数本が消失していた…
「な、なんで…!さ、さっきまでは…そんなんじゃ…」
「なんであの時、ワシを助けなかったんじゃ…」
「探した!俺は探したんだ!でも…」
「でも…?なんじゃぁ…?」
ショーナに覆いかぶさり、顔を近づけるメノウ。
焼け爛れた醜い顔に、思わず目を逸らす。
「誰のせいでこうなったと思っている…」
「ご、ごめ…でも探した…俺は…」
「何故お前はワシを助けなかった!」
メノウが右腕で殴り掛かろうとする。
だが、腕としての機能を失ったソレはただの肉塊。
殴り掛かることすらできなかった。
「メノウ…お、俺…ご…」
「謝ってももう何もかも遅いわ…」
メノウがショーナを突き飛ばす。
いつの間にかたき火の火が消え、辺りは暗闇になっていた。
今、この場にいるショーナ以外の生物たちの気配は一切無かった。
「ご、ごめ…」
尻もちを突きながら、地面を後ずさりするショーナ。
幾らか下がったところで、ショーナは何かにぶつかった。
木か何かだろうか?
いや、違う。
ショーナは恐る恐る、後ろを振り返った。
「よぉ、クソガキが…」
そこに立っていたのは、かつてメノウに倒された四重臣の一人シヴァだった。
全身が黒く焼け爛れ、かつての隆々としていた筋肉は失われていたが…
メノウほどでは無いにしろ、非常に痛々しい姿となっていた。
「そやつが…いや、他にも何人かお前に言いたいことがあるヤツがいるらしくてのぉ…」
そう言うメノウの横には、二人の男が立っていた。
以前、禁断の森の近くで遭遇した馬賊、そしてシヴァの配下のD基地の隊長の男だ。
「俺の馬を奪いやがって…おかげで家業は廃業…どうしてくれるんだぁ…」
「俺はお前のせいで何もかも失ったんだ…お前さえ現れなければ…」
血の気を失った顔でショーナに詰め寄る二人。
そして…
「アタシも…アンタさえ来なければ…」
メノウと共に爆発に巻き込まれた四重臣の一人、『猫夜叉のミーナ』。
あの時、メノウと同じく爆発を受けたのか身体は凄惨な状態になっていた。
武器として使っていた棒を杖代わりにし、もはや辛うじて人間の体の状態を保っている状態だ。
ミーナも血の気の引いた顔で馬賊、隊長、シヴァと共にショーナに詰め寄る。
「お前、かなり怨まれとるのぉ…酷い奴じゃ…」
ミーナ、シヴァ、D基地の隊長、馬賊、そしてメノウ。
それぞれがショーナに対し怨念の言葉を吐き続ける。
「アンタさえ来なければ…」
「ガキが…」
「返せ、すべて…」
「俺の馬ぁ…家業…返せ…」
それを聞き。その場に蹲るショーナ。
それを見たメノウが最後に言い捨てた。
「お前は最低の屑じゃ」
メノウの言葉がショーナの言葉に刺さる。
「(メ、メノウ…)」
だがその時、ショーナはあることに気が付いた。
「(ま、まて…そういえば…アゲートはどこだ?)」
基本的にショーナ達が野宿をする際、アゲートの手綱は近くに結んでおく。
木や破棄された電柱、看板、標識などにだ。
今日も同じように手綱を木に結んであった。
今まではメノウたちに気を取られて気が付かなかったが、そのアゲートがいない。
「(奴らが逃がした…いや…違う…)」
何かが違う。
決定的な何かが。
ショーナはあることを確信した。
そして、蹲るのを止め立ち上がる。
その眼は今までの死んだ魚のような眼から、生きた人間の眼へと変わっていた。
「ほぉ~、お前は…」
「黙れ!」
そのショーナの叫び声が辺りに響き渡る。
それを聞き後ずさりするシヴァ達。
「メノウ。いや、『お前』!」
「ワシかぁ?」
メノウが自身を指さす。
顔の半分が失われてはいるが、その顔は邪悪な笑みを浮かべていた。
いつものメノウからは想像できないほど邪悪な笑みを…
「お前は…誰だ?」
「何を言い出すかと思ったら。ワシはメノウ…」
「違う!」
はっきりと、それでいて堂々としたすっきりした口調で叫ぶ。
ショーナにはある『確信』があった。
それは…
「メノウは…本物のメノウは…
一度も俺のことを『お前』などと呼んだことは無い!」
その言葉と共に、ショーナの周囲の空間に亀裂が走る。
亀裂の間から差し込む光が『メノウ』や『シヴァ』、『ミーナ』達だった『モノ』に降り注ぐ。
呻き声をあげながら消滅する『モノ』達。
そして…
「早く来い!戻れなくなるぞ!」
その声と共に、その空間にさらに大きな一筋の裂け目が現れた。
「メノウ…いや、この声は…!?」
やがて周囲が光に包まれていく。
電気の光などでは無い、太陽の光だ。
あまりの眩しさに眼を閉じるショーナ。
やがてその輝きが収まった時、その場にいたのは…
「良かった、気が付いたみたいだな」
「お前は…猫夜叉のミーナ!」
昇る朝日を背にして立っていた少女、南アルガスタ四重臣のミーナ。
先ほどショーナの前に現れた『モノ』達とは違い、その姿は以前のままだ。
ただし、背中は爆風を受け火傷を負い、片腕を負傷している。
そしてその横には、黒尽くめの服を着た気絶した中年の女がいた。
「お前はコイツの妖術にかかっていたんだ」
「こ、こいつは…?」
「『幻術師のサヨア』、アタシの部下だった女だよ」
「アンタの部下…どういうことだよ」
ショーナの問いにミーナが答える形で語りだした。
まだミーナは十四歳、C基地を治めるには実力があるとはいえ幼すぎる年齢だ。
それに反感を持ったC基地の者たちがC基地の副司令官の指示の元、ミーナの抹殺を企んだのだ。
…メノウ抹殺作戦中の事故に見せかけて。
「全部このサヨアから聞き出したんだ。さすがのアタシも少しショックだよ…」
「軍も結構大変なんだな…」
「こうなったら、C基地に乗り込んでアイツら全員に目にモノ見せてやるわ…」
そう言いながら、サヨアを少し遠くへ投げ飛ばすミーナ。
殺してこそいないが、骨を複数箇所おられている。
サヨアはしばらくは再起不能だろう。
「…ミーナ、メノウは!メノウはどこにいるんだ!?」
「メノウか…」
「アンタが無事ならメノウも、メノウもきっと無事なはず…」
メノウよりも至近距離で爆発を受けたミーナが無事だったのだ。
それならばきっとメノウも無事なはずだ。
それを聞き、ミーナは頷いた。
サヨアからメノウに関する情報も聞き出していたのだ。
爆破された橋の向こうの、小高い山の上にある洋館を指さすミーナ。
「あの洋館はC基地の副司令官、『マイホム』の館。あの館にメノウは運ばれていったんだ」
「あの館に…メノウが…」
暗い夜は去り、太陽と共に朝が来た。
メノウを救い出すためショーナ闘いが、そしてミーナの復讐劇が始まろうとしていた。
「…まさかこれも幻術じゃねぇよな?」
それを聞いたミーナは多節混でショーナを殴り飛ばした。
木に叩きつけられるショーナ。
その衝撃で、木に結ばれていたアゲートが目を覚ました。
アゲートがショーナに息を吹きかける。
「へへへ…幻術でも、夢でもないか…」
ショーナは一人、満面の笑みを浮かべた。
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ちょうどそれと同じころをメノウは山の上の洋館の一室で目を覚ました。
ここはC基地の副司令官『マイホム』の館。
つまり、メノウの敵。
普通ならメノウは牢獄のような場所に閉じ込められているだろう。
地下の冷たいコンクリートの壁に包まれた牢獄や、奴隷を無造作に詰めるだけのような場所に、だ。
しかし、今は違った。
「ふぁ^~」
メノウが寝ていたのはふかふかのベッドの上。
辺りを見回すと、かなり豪華な一室のようだ。
ローブはベッドの横に畳まれて置かれていた。
ミーナから受けた打撲傷を治すための包帯が巻かれているなど、誰かが手当てをしてくれたようだ。
「ここは…?」
自身に何が起きたかわからず、記憶を探るメノウ。
ミーナとの対戦時、メノウは吊橋に爆弾が仕掛けられていることに最初から気が付いていた。
爆弾のサイズが比較的小型であったため、爆破で殺すというよりは橋を爆破させて谷に落として殺す気だったのだろう。
爆風の影響を最も来ない場所を中心とし、メノウはミーナと戦っていたのだ。
ミーナが爆風の影響を軽減できたのもそのおかげだ。
「そうじゃ、確かミーナとかいうヤツと戦って…橋が爆発した後は…」
橋が爆発した後は、崖から生えていた木や草で衝撃を軽減させながら谷下へ落下。
比較的水深の深そうな地点に着水する予定だった。
だが…
「あの時、ミーナのヤツがワシにぶつかったんじゃ!」
気絶したミーナが上から爆風と共に勢いよく降ってきた。
そしてそのままメノウと衝突。
メノウとミーナは二人ともそのまま気絶してしまったというわけだ。
ミーナはそのまま流されていったが、メノウは近くの岩場に引っかかっていたため流されなかった。
そこをC基地の者に助けられたのだ。
「怪我はほとんど治っておる、あのミーナに受けた打撲以外は…」
メノウの身体には複数の秘密がある。
異常なパワーやスピードもそうだが、傷の回復力もその一つ。
よほどの傷でない限りは一晩ぐっすり寝れば治ってしまうのだ。
「ちょっと部屋の外へ出てみるかのぅ…」
メノウはこの時点ではここが敵の館だとは知らない。
部屋のドアを開けを外に出ようとした。
と、その時…
「わッ!」
ちょうどメノウがドアの前に立ったその瞬間、ドアが開いた。
その向こうに立っていたのはこの屋敷の主である、C基地の副司令官の男マイホム。
肥満体特有の出っ張った腹を撫でながら、彼はメノウに語りかけた。
「おぉ、お目覚めですか。ご無事でよかった」
「お、驚かすでないわ…!」
「私はあなたを介抱した者です」
そう言いながら、マイホムは不気味な笑みを浮かべた。
不思議の少女メノウに、悪の魔の手が忍び寄ろうとしていた…
名前:ミーナ 性別:女 歳:14 一人称:アタシ
恰好:極東の国の着物
武器:ディオンハルコス合金ワイヤーを仕込んだ多節混
キャラ紹介:南アルガスタ四重臣の一人。
C基地の司令官だったが、少女ゆえに求心力やカリスマ性に欠け部下全員に裏切られてしまう。
結果、C基地の司令官の座を奪われ、暗殺されかけてしまった。