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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第五十五話 ビャオウを破れ!牙を剥く白虎

 ツッツの裏切りから一週間が過ぎた。

メノウとカツミは開陽の寺院を後にしていた。

以前のツッツの不意打ちにより受けたメノウの傷も完全ではないが、ある程度は治った。

ガウド達から旅の餞別を少し受け取り、東アルガスタの荒野を歩いていた。


「メノウ、本当に傷の方は大丈夫なのか?」


 気にかけるようにカツミが言った。

脇腹が貫通するほどの攻撃を受けたのだ、気にしない方がおかしいだろう。

しかし、尋ねられた当の本人は大して気にする様子もないようだ。


「これくらい、へでもないわ」


 改めてメノウの回復力に対し驚きを隠せぬカツミ。

ただ、やはり多少は痛むようなのか、包帯の上から軽く傷口をさすってはいたが。


「それにしても、もう一度『あそこ』に行くことになるとはな…」


「そうじゃなぁ~」


 こうなってしまった以上、ツッツに対する手がかりはあの場所しかない。

シェンと戦ったあの『三都矢サイバービル』だ。

現在、二人の手元には何も手掛かりがない。

一番有力な手掛かりがつかめるのは、三都矢サイバービルしかない。


「ここからじゃと、かなり遠いのぉ…」


「車でも通れば、それを拾って何とかしてもらうさ」


 もっとも、こんな辺境の荒野を歩いていても車などめったに遭遇するものではない。

事実、開陽の寺院を出発してから今日まで一度も車など見ていない。

メノウ達と同じ旅人と思われる者が数人いたのみだ。


「通るといいがのぉ…」


「到着は速い方がいいだろうからな」


 カツミがそう言ったその直後、二人の頭上を何かの影が横切った。

鳥か何かとも思ったがそれにしては大きすぎる。

そして、肌をつくようなこの殺気…


「悪いが、君達二人はここから先に進むことはできない」


 そう言って二人の頭上から現れたのは、四聖獣士の一人であるビャオウだった。

機械翼を装備したホワイトタイガー型ハンターに乗り、メノウ達を見おろしている。

元々陸戦タイプであるため本格的な空戦はできないが、単なる移動ならはこれで十分だろう。


「お前さんは一度、カツミに負けておるじゃろうに」


「負けてはいない、撤退しただけだ」


「逃げた、の間違いだろ?」


 以前、ビャオウはカツミと交戦し蒸気様が不利になるとともにそのまま逃亡していた。

本人はあくまで撤退と言ってはいる。

しかし、メノウ達からは明らかに逃亡だと思われている。


「前回はとある事情ゆえに手を抜かざるを得なかった。今回は本気でやらせてもらおう」


 単なる言い訳にも聞こえる言葉だが、確かに前回の戦いはどこかおかしかった。

前回のビャオウの戦いがあまりにもお粗末すぎた。

メノウ達の戦力を分析し損ねたとも思えない。


「事情?」


「時間を稼げ、それが以前与えられた指令だった。だが…」


 その声と共にビャオウの乗ったホワイトタイガー型ハンターが地に降りる。

戦闘態勢を取り、まるで本物の虎のように唸り声を上げる。


「以前戦った相手だ、ここはあたしが…」


 そう言ってカツミが前に出る。

以前戦った相手だから、とカツミは言った。

しかし、彼女の行動には別の理由もあった。

 メノウの傷はまだ完全には治っていない。

下手に戦って再び傷を受けてはマズイ。

そう考えたのだ。


「動きのパターンはある程度覚えている。少なくとも苦戦はしないさ」


「…どうかな?」


 彼らの頭上に再び一つの影が横切る。

先ほどと同様、その影の主が地上に降り立つ。

機械翼を装備した別のハンターだ。


「二体目のハンター、ホワイトライオン型だ」


「二体目かよッ!」


 思わず叫ぶカツミだが、一呼吸し冷静さを取り戻す。

ホワイトタイガー型ハンターとホワイトライオン型ハンター、恐らくこの二体にはそこまで大きな戦力差は無い。

モチーフとなった動物が違うのみで戦闘パターンなども似通っているだろう。

二体に増えたところで大した脅威ではないと。

カツミはそう推測した。

だが…


「一体が二体になったところで変わらない、そう思っただろう?」


「…ッ!」


「確かに君達のように優れた拳士ならばそう思うだろう。実際、この二体の戦闘能力はそこまで高くも無い。だが…」


 ハンターが二体、この布陣にメノウは見覚えがあった。

それは以前のシェンとの戦いだった。

序盤、シェンは大型肉食恐竜型ハンターを使用しメノウと戦っていた。

しかし戦いの最中、既に撃破されていた飛竜型ハンターと融合。

青龍型ハンターとなり再びメノウに襲い掛かったのだった。


「ハンターが二体、来るぞカツミ!」


「…そういうことか!」


 メノウの声を聞きカツミもそれを理解する。

ホワイトタイガー型ハンターとホワイトライオン型ハンター、この二体も合体をするタイプのハンターなのだ。

合体される前に攻撃をしようとするカツミ。

だが、ホワイトライオン型ハンターが身に纏っていた機械翼を彼女とメノウに向けて放った。

軽く避ける二人だが、合体の時間を稼ぐにはそれで十分だった。


「虎と獅子の融合(キメラ)は『タイゴン』や『ライガー』と呼ぶらしいが…」


 ホワイトタイガー型ハンターにホワイトライオン型ハンターのフレームが合わさりより強固な物へ。

合体により増えた重量にも耐えれるほどのものだ。

装甲、武装は共にホワイトタイガー型ハンターをベースにしつつ、ホワイトライオン型ハンターが強化パーツとしての役目を果たす。


「白き獅子と虎、二体の融合で『白虎』と呼ばせてもらおう」


 二メートルほどだったそのハンターの体は二回りほど大きくなり、もはや別物と呼べるほどに変貌していた。

スピードを得るために細くしなやかだった脚部は近接戦闘用の太く強固な装甲へと覆われた物に。

全身の装甲は、数倍の強度へと。

代償としてホワイトタイガー型ハンターの装備していた機械翼は飛行ユニットとしての役目を失った。

この巨体を動かすには少々、出力が足りないのだ。

 しかしその代わりに、機械翼はフレキシブルアームに接続され簡易的な盾の役割を果たす。

無防備になりがちな体の側面を防御する。


「こちらは二体のハンターを融合させた。これならば以前のようにはいかないのではないかな?」


 仮にこの白虎型ハンターが以前の青龍型ハンターと互角の力を持つと仮定しよう。

もしそうなると今の状態でカツミが一人で戦うのは決して良い手とは言えない。


「カツミ、一人でやるとは…もう言わせんぞ」


「…ああ、一緒に戦ってくれ。メノウ」


 白虎の属性を持つ四聖獣士ビャオウ、そしてそれと対峙するメノウとカツミ。

二人目の四聖獣士との戦いが今始まった…




-------------------




 時を同じくして東アルガスタの某所、軍閥長である大羽が所有する企業の高層ビルの一室にて。

大羽は四聖獣士のザクラから一連の報告を聞いていた。

軍閥長としての業務、そしてビジネスマンとしての顔を持つ大羽。

裏の顔である死の商人としての業務はその合間を縫って行われている。


「何か変わったことは無かったか?」


「三日前の報告以外には特に何も」


「ならば報告書を見るだけでいいな」


 一週間前にメノウ達に叛逆し大羽の手の元へ帰還したツッツ。

報告書には、その日から現在までの彼女の健康状態や精神鑑定などが事細かに書かれていた。

大羽は、何十枚もあるそれを僅か数分ですべて読み終えてしまった。

決して流し読みしているわけでは無く彼にとってはこれで十分なのだ。

僅かに見たものでも鮮明に記憶することの出来る、超人的な記憶力と処理能力を持っている。


「それと、報告書にある『例の物』だが…」


「これです」


 大羽の言葉を受け、ザクラは懐から小さなガラスケースを取り出した。

中には赤い布のような物が入っていた。

ザクラの提出した報告書によると、ツッツが持ち帰った物だというが…


「これが龍の巫女である『メノウ』の血が染み込んだ布か」


「ええ…」


 ツッツがメノウに与えた一撃、あの時の攻撃は単にダメージを与えるものなどではない。

メノウの血液を採取するためという目的もあったのだ。

カツミを庇い攻撃を受けたメノウだったが、それが敵の目的だったというわけだ。


「ありがとう、ザクラ。多数の仕事を押し付けてしまい大変だっただろう」


「いえ、青龍の抜けた穴を埋めるのは私の役目です」


「そうか。青龍、シェン…」


 そう言ってビルの窓から空を見詰める大羽。

彼としてもシェンに対し想うことがあるのだろう。


「シェンには悪いことをしたな…」


「仕方が無いでしょう。それも彼の運命として受け止めるしかないのですから」


 しかしいつまでも感傷に浸っている場合では無かった。

突如部屋のドアが開き、とある人物が入ってきた。

その際に何かが大破するような音が聞こえた。

よく見ると大羽が入り口近くに置いていた装飾用の酒瓶が割れている。

ドアを開けた際の衝撃で落下して割れたのだろう。

 普通の者ならばすぐにそれを謝罪するだろう。

だが、今この部屋に入ってきた者は違った。


「失礼しますよ。大羽さん、ザクラちゃん~」


「…チッ」


 ザクラが明らかに嫌悪感丸出しで見詰めるその男。

それは大羽が以前、西のアルガスタの支配者であるジョーから借りうけた彼の部下の一人。

魔法学者『ノービィ・ハーザット』博士だ。

骨が浮き出るほどに痩せたその身体を壁に寄りかからせ

大羽に語りかける。


「大羽サン、頼まれてた娘の調教終わりましたよん」


「…調教?そこまでやれとは言っていないが」


「完全にコントロールできる方がいいでしょう?」


 ハーザットの言う『娘』とは、当然ツッツのことだ。

もっとも、大羽はあくまでツッツの異能者としての能力の完全解析のみを彼に依頼した。

確かにコントロールできるに越したことは無いが、それをこんな短期間に可能としてしまうとは完全に大羽の予想外だった。


「ああ、そうだな」


「どんな命令も思いのまま、好きなように動かせますよ」


 自慢げに言うハーザット。

実際のところ、大羽は彼のことを嫌っている。

彼が自分では無くジョーの部下であると言うこともあるが、なによりもその態度が気に食わなかった。

しかし、そのようなことを表面に出すことは決してしない。

仮にも今は自分の部下である彼に対し、ねぎらいの言葉をとばす。


「ご苦労、君の仕事の速さには驚かされるよ」


「ふへへ…」


「今は白虎のビャオウがメノウという例の少女と交戦中のようだ…」


「ほう」


「しばし待とうではないか…」







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