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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第五十四話 飛翔せしブラックバード

 それはあまりにも突然の出来事だった。

ツッツの放った一撃がカツミの不意をつく。

完全に意識外からの攻撃に対応できないカツミ。

当然、反応が追いつかず防御することもない。


「(なッ…!?)」


 この一撃が当たれば自分は大きな傷を受ける。

理解していながらも、脳からの指令が体に追いつかない。

このままツッツの放った致命の一撃がカツミの身体を貫いた…

かのように思えた。

 しかし、それは違った。

一瞬の出来事に理解が追いつかぬまま、カツミを守るべくその攻撃をメノウが受けたのだった。


「うぅ…」


 ツッツの攻撃を受け、その場に倒れるメノウ。

脇腹を貫通した手刀を無慈悲に引き抜くツッツ。

その眼は焦点が定まっておらず、どこか目に光が宿っていないように感じられた。


「やっぱり、メノウさんなら絶対庇いますよね」


 倒れるメノウを小馬鹿にするように言い放つツッツ。

普段の態度からは想像も出来ぬおぞましい態度に息を飲むカツミ。


「お前、何やってんだ!」


 その様子を見ていたカッカが叫ぶも、それを無視しツッツはメノウの方に目をやる。

脇腹から溢れる血を手で押さえるも、意識を保つだけで精一杯のようだった。

その場にいる全員が…

いや、『ツッツを除いた』全員がその状況を理解できないでいた。


「貴様、一体何者だ!?」


 あきらかに普通では無い、そう感じたヤマカワがツッツに襲い掛かる。

メノウの落とした多節混を拾い上げ棒に戻す。

そして玉衝拳の連続突きを繰り出す。

この間、僅か一秒。

相手が並の拳士ならば、これだけで倒すことが出来るだろう。

だが…


「誰って?メノウさんの『元』仲間ですよ!」


 ヤマカワの連続突きを全て避けきるツッツ。

これほどの回避能力は常人では決して得ることの出来ないものだ。

予想外の出来事に驚きを隠せぬヤマカワ。


「全て避けきっ…」


「遅いですよ!」


「な、グアッ!?」


 ツッツの反撃を受け道場の壁に叩きつけられるヤマカワ。

メノウとヤマカワ、両者ともにかなりの強者である。

戦いの後で怪我と疲労が溜まっていたとはいえ、それをツッツは一方的に倒したのだった。

両者がこうも簡単に倒されてしまったことに戸惑いを隠せぬカツミ達。


「ツッツ!お前気でも狂ったか!?」


 カツミが叫ぶ。

だが、これが乱心によるものならばどんなに良かったことか。

ツッツの身体能力、そして反射神経、その他諸々…

それらはすべて常人のそれを超えている。

彼女に何らかの『異変』があったのは明白だった。


「そういえばお前、この山を登る時も全く疲れた素振りを見せなかったな」


「ええ、そうですよ。まぁ捕まった間に『いろいろ』あったんですよ」


「…ッ!」


 底知れぬ恐怖がカツミを襲う。

今まで感じたことの無い、得体のしれぬ『恐怖』に。


「聞きたいですか?」


「知るか!」


 ツッツの話を割って彼女の間合いへと入り込むカツミ。

一瞬で距離を詰め、懐まで入り込む。

そして不意打ちの掌底波を放とうとするが…


「読んでますよ、単純な一撃ですね」


「なッ…」


 そのカツミの動きを完全に見切り、彼女の頭部に軽く反撃の一撃を与える。

ヤマカワやメノウに放った物よりは軽いが、彼女の気を失わせるには十分だった。

無言のままその場に倒れこむカツミ。

三人を倒し、そのままその場を後にしようとするツッツ。


「…何が目的だ?」


 それを制止するように、残ったガウドがツッツに語りかける。

ツッツは歩みを止め、その問いに答える。

振り向きはしなかった、ガウドに顔を見せずゆっくりと口を開く。


「目的…もくてき…?」


 ツッツの口調が少し乱れる。

それを振り払うように彼女は走りだし、その場を後にした。

追うことも出来たが、ガウドはそれをしなかった。

彼にはまたやるべきことが残っていたからだ。


「つ、ツッツ…」


 メノウが無理矢理起き上がろうとする。

脇腹からは大量の血が溢れだしており、意識を保っているのが不思議なくらいだった。

身体に力を入れるたびに手で押さえた傷口からさらに血が流れ出る。


「動いてはいかん」


 このままではまずいと察したガウドがメノウを止めた。

しかし…


「キズか、こんなもの…!」


 ガウドの制止を振り切り、なおも動こうとするメノウ。

自らの受けた傷を無視しているためか、痛みなどもはや彼女の頭には無かった。

 彼女の使用した回復魔法により、その傷は瞬く間に塞がって行った。

わずか数秒で腹に開いていた大穴は姿を消した。

傷跡は残ったが、それも時間が経てば消えてなくなる程度の物。


「痛ッ…!」


 痛みを堪え、ツッツを追うメノウ。

周りの者など、今のメノウには見えていなかった。

ただただツッツを追う。

それだけがいのメノウを突き動かしていた。

 そして少し走ったところでついにツッツを見つけた。

以前カッカ達と戦った、開陽の古い建物のある広場の真ん中に彼女は佇んでいた。


「あは、来たんですか?」


「あたり…まえじゃ…」


 少し走っただけですでにメノウの息は切れ切れになっている。

先ほどの傷が影響しているのだろう。


「悪いですけどメノウさん、貴女とはここでお別れですね」


 そのツッツの声と共に、彼女の頭上から巨鳥型ハンターが闇夜を切り裂き現れる。

これは以前、四聖獣士のザクラが使用していた物と同型のタイプだろう。

ただしカラーリングは黒になっている。

夜間戦仕様と言ったところだろうか。


「ハンター…ということは…」


「驚きましたか?


 巨鳥型ハンターの背に飛び乗るツッツ。

メノウを見おろしながらさらに語りかける。


「メノウさん、もしよけれは僕と一緒に来ませんか?」


「なん…じゃと…?」


「貴女を連れてくればご主人様も喜びます。それに…」


「それに…?」


「僕たち『友達』でしょう?」


 ツッツは大切な仲間。

そして友達。

確かにそうだ。

しかし…


「ふざけるな!」


 メノウとツッツの間に割って入る者がいた。

…カツミだ。

ツッツに向けて衝撃波を放ち、メノウを抱えて間合いを取る。


「邪魔が入りましたか…」


 軽い舌打ちと共に軽蔑の目でカツミを見るツッツ。

衝撃波はツッツの片腕ではじかれてしまったが、時間稼ぎにはなったようだ。


「まぁ、いいですよ。少なくとも僕の目的は果たせましたからね!」


 そう言うとツッツは巨鳥型ハンターと共に闇夜に消えていった。

黒色のハンターを闇夜で追うのは不可能だ。

しかしそれでもなおメノウは追おうと立ち上がる。


「ま、待て…」


 そう言いながらなんとか立ち上がるメノウ。

ボロボロの身体を引きずりながらツッツが去って行った方向へと歩いて行こうとする。


「メノウ!お前、そんな身体でどうしようって言うんだよ!」


「…カツミ、お前さんも来るか?」


 先ほどのメノウの回復魔法はあくまで『体の表面』を治したにすぎなかった。

体内の傷は殆ど治っておらず、なおボロボロのままだ。

カツミはそれに気づいていたのだった。

 普通なら見抜けぬことだが、カツミはそれに気づくことが出来た。

メノウの魔法の特性をよく知るカツミだからこそだと言えるだろう。


「そんなボロボロの身体で追ったとしても、アイツにやられるだけだぞ」


「『アイツ』とはツッツのことか…?」


 メノウがカツミに尋ねる。

こんな状況に何を当然のことを聞くのか、そう思いながらカツミはメノウに言う。

当然の答えを。


「当たり前だ、アイツはあたし達を…」


「ツッツは…そんなことをする奴では無い!」


 メノウが叫ぶ。

しかし自身の声が傷口に響いたのかすぐにその場に膝をついてしまった。

傷口を抑えているところを見ると、やはり先ほどのカツミの指摘は当たっていたのだろう。

傷の表面だけを治しても体内の損傷は残ったままなのだ。


「何か…何か理由があるはずじゃ…」


「理由…?」


 メノウの言葉を聞き、カツミは先ほどのツッツの言葉を思い出した。

『捕まった間に『いろいろ』あったんですよ』

ツッツはそう言った。

その『いろいろ』というのが何かは分からない。

しかし、それがツッツの異変の原因だとしたら…?


「それじゃ…それがツッツの…」


 メノウはこう考えた。

恐らくツッツは攫われている間に魔法、或いは妖術や幻術の類を受けたのではないか、と。

一度それらをツッツにかけた後は、わざとメノウ達の下に返す。

 その後、何らかの行動がトリガーとなったかあるいは時限式により術が発動。

メノウ達を襲ったのではないか…?


「時間差で発動する術…そんなものがあるのか?」


「見たことは無い。だが、聞いたことはなら…」


 そう言うメノウ。

もしツッツの異変がこの時間差魔法によるものならば、まだ解決策は存在する。


「ツッツの異変を消し去り、元に戻す魔法がワシにはある」


 それは以前メノウの使用した魔法の一つ『無色理論(クリア・セオリー)』 のことだ。

この魔法は被術者の『決め事』を一度無色に変える魔法。

約束事などの思考のリミッターを全て外すことができるのだ。

 一番の利用法は『自身の意思とは関係なく、口を割らせることができる』ことだった。

しかし、魔法などから被術者を正気に戻すということにも応用はできる。


「これを使えば…うぅ…」


 メノウを再び激痛が襲う。

もし普通の人間が受けていれば即死級の攻撃を受けてしまったのだ。

無理も無いだろう。

このままツッツを追うのは不可能だった。


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