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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第3章 攫われの少女を追って…
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第五十二話 我が名はヤマカワ!開陽の技を持つ男

 メノウ達が開陽の寺院を訪れてから『一週間』が過ぎた。

敵の追っ手が来ないか、最初の数日はメノウ達も警戒していた。

以前のビャオウのこともあるため油断はできない。

 しかし、今回は特に敵らしき者は姿を見せなかった。

さすがのハンターも、この場所まで来ることはできない。

ということか…


 ツッツはこの寺院で預かるに当たり、雑用係を任せられることとなった。

この寺院は食料や人手もあまり足りていないのが実情。

娘であるカツミの頼みとはいえ、いつまでもツッツを客人として置くことはできない。

多少の労働はしてもらわなければならないようだ。

 それはメノウとカツミも同じ。

二人は昼食を食べ終わり、寺院の近くにある滝の近くに来ていた。


「水汲みなんて修行時代以来だな…」


「まさかこんなに立派な滝があるとは思わなかったぞぃ…」


「滝行でもするか?」


 カツミがメノウに冗談交じりに言った。

ここの滝は水量も多く、寺院の生活用水としても活用されているほど。

皆は『ナチの滝』という愛称で呼んでいる。


「メノウ、いつごろ出発する気だ?」


 水を汲みながらカツミが尋ねる。

そしてそれを同じく水を汲みながら聞くメノウ。


「用も済んだし長居は無用だ」


「そうじゃな。あ、下山分の食糧だけなんとか用意しないといけないのぅ…」


「確かにな。いくらあたしの家とはいえ、さすがに食料まで分けてもらうのは気が引ける」


「まぁの…」


「あ、そうだ」


 そう言って滝壺の岩場に飛び移るカツミ。

人一人が立てる程度の細く、長い奇妙な形をした岩だ。

滝壺を見るとそのような細長い岩が何本か立っていた。


「この岩は足場代わりにこんな形になっているんだ」


「ほう」


「昔はあたしがよく修行場として使っていたのさ。よく下流の方で釣りとかもしたな…」

 

 そう言って辺りを見回すカツミ。

昔のことを思い出しているのだろうか。

それを見たメノウは、カツミの立つ岩とは別の岩に飛び移る。


「修行か…」


「どうした?」


「そう言えば、以前の約束を忘れておったな…」


メノウがふと言葉を漏らす。

この東アルガスタへ来る道中、メノウとカツミか交わした約束。

それは…


「あ、『アレ』かぁ」


「そう、しばらくは時間もあるようじゃ。この機会にやってやるわ!」


「ああ、頼む!」








------------------------






 最初は水汲みに来た二人だったが、すっかりそれに夢中になってしまった二人。

気が付くと既に日は沈みかけていた。

しかし、約束の『アレ』は既に果たされたようだった。


「まさかこんなことまでできるとは…」


「どうじゃ、すごいじゃろう?もっと褒めてもよいぞ」


「ああ、ありがとうよ…」


 そう言って岩から飛び降りる二人。

汲んだ水を少し飲み、水桶を台車に何個も乗せる。


「仕事さぼっちまったの怒られるかな…?」


「まぁ、その時はその時じゃ」


 そう言って台車に最後の水桶を乗せるメノウ。

と、その時…


「メノウさーん!カツミさーん!」


 寺院の方向からツッツが叫びながら走ってきた。

ただならぬ様子に二人も彼女の下へ急いで駆け寄る。


「どうしたのじゃ、ツッツ!?」


「また四聖獣士か!?」


「いえ!それが、道場破りのようです!」


「なんだと!」


「と、とにかく来てください!」


 そう言われ、急いで寺院へと戻る二人。

一体なにがあったのか、ただ事ではないだろう。


「あ、あれです!」


 寺院前の広場を指さすツッツ。

そこに広がっていたのは驚きの光景だった。

修行生十数人辺りに倒れ、その中央に佇む一人の男。

長身、やせ形の青年だ。

身長は190ほどか…?


「なんだ…一体…?」


「またカッカたちの勘違いで客人を襲ったとかじゃ…」


「いいえ、あの人は自分から『道場破り』だと言っていました」


 開陽の寺院は東洋武術を知る者ならば一度は耳にしたことのある流派。

実態がどのようなものかを知らぬものは多いが、その名を狙い道場破りをしようとする者も多いという。

しかしその大半は、この孤冠の山に阻まれそれを断念する。

それを乗り越えてやってきた者も僅かにいたが、それも大半が撃破されている。

 だがこの事態はその逆。

伝承者候補では無い修行生相手とはいえ、あの青年は十数人を相手にし一方的に勝利している。


「グッ…」


 その場に残ったのは、修行生の中では一応は最強の実力を持つカッカ。

数年後、もし伝承者候補を決めるのならば真っ先にその名を上げられるだろう。

しかし今の段階ではあくまで他の修行生より少し腕が経つという程度。

まだその可能性を完全に開花させているわけではない。


「あの開陽拳の腕も名も落ちた物だ、まさかこの程度とはな…」


 以前のカツミと同じようなことを口走る男。

速く鋭い、そして正確な動きの拳でカッカを圧倒する。

それを必死で避け続けるカッカ。

彼の動きは他の修行生よりは確かに速い。

しかしそれでも道場破りの男と比べるとかなり見劣りしてしまう。


「逃げ続けるだけで勝負になると思っているのか…!?」


「うお!?」


 男の拳を紙一重で避け、反撃の一撃を与えるべく拳を握るカッカ。

体勢を一瞬崩し、男の攻撃圏内から外れる。

地面ギリギリから体をバネのように伸ばして男の顎へ今持ちうる最高の攻撃を放った。

 

「やった!」


「…ッ!」


 一瞬油断し、目の前の相手から視線を外したカッカ。

しかし、今の一撃が男に怒りの炎を与えてしまった。

そんな彼の腕をつかみ、カウンターを放つ道場破りの男。

男は、道場へ続く階段に向かって彼を投げとばしたのだ。


「危ない!」


 道場の階段は石で作られている。

激突すれば大怪我は免れない、そう感じたメノウがカッカの身体を受け止める。

しかし、自分より二回りは大きい彼の身体を受け止めるのは少々難があったようだ。

体勢を崩し、階段ギリギリの位置でその場に倒れこんでしまった。

だがなんとかカッカの激突を避けることはできた。


「ふぅ、何とか大丈夫だったみたいじゃな…」


「あ、ありがとうよ…悪いな、格好悪いところばかり見せて…」


「それよりあいつは何者じゃ?」


「あ、アイツは…うう…」


 カッカがそう言いかけたその時、道場の扉を開け、ガウドが現れた。

辺りを見回すと、道場破りの男に語りかける。


「久しぶりだな、『ヤマカワ』…」


「ふふ…」


 道場破りの男『ヤマカワ』、なにやらガウドと既知の仲のようだ。

それも当然のこと。

彼はかつてカツミと伝承者の座を争った男だ。

しかし…


「ヤマカワだって!?」


 カツミが驚嘆の声を上げる。

彼女の知るかつてのヤマカワと、今目の前にいる道場破りの男。

それが同一人物だと、カツミには到底思えなかったからだ。

 かつてのヤマカワは、少なくとも彼女の知る限りでは真面目に修行に取り組む男だった。

それが、このような道場破りまがいのことをするとは…


「何でこんなことを!?あんた、こんなことするようなヤツじゃ…」


「黙れ!」


 ヤマカワが叫ぶ。

その迫力からか、思わずカツミが圧倒される。


「あの伝承さ…伝承者争いの中、何故お前が伝承者になれたと思う?」


「何故…?それは…」


「あの時点では俺の方が実力は上だった、違うか?」


 ヤマカワの言葉を受け、返しの言葉に詰まるカツミ。

確かに当時のカツミとヤマカワの実力はほぼ同じ。

だが、僅かにヤマカワの方が上だとは感じていた。

もっとも、修行をすれば追い越せる、その程度にしか当時のカツミは考えていなかった。


「た、確かにそうかもしれないが…」


「ふふ、そうだろう?」


「…ッ!」


「お前が伝承者になれた理由、それは…」


 そう言うとヤマカワは再び視線をガウドに向ける。

憎しみを込めた冷たい眼だった。


「ガウド、お前は『他人』に開陽拳を伝承するのが恐かった!違うか!?」


 …ヤマカワの持論はこうだ。

実の娘ではないとはいえ、カツミはガウドの娘。

一方、ヤマカワは弟子とはいえあくまで赤の他人。

伝承者を決める瀬戸際になり、ガウドはヤマカワを信じることが出来なくなった。

もし万が一、ヤマカワが自分に牙を剥いたらどうなるか…


「娘であるカツミならばそんなことは無い。拾ってもらった恩だってあるしな…」


「ヤマカワ…」


 それを聞き、哀しむような眼でヤマカワを見るガウド。

当時の彼は決してそのように考えていたわけではない。

『ヤマカワ』では無く『カツミ』を選んだことにも理由がある。

だが、彼はそれを話そうとはしない。


「め、メノウさん!どうしましょう、これは…」


 ツッツがメノウの下へと駆け寄る。

メノウもできればヤマカワを止めたい。

しかしこれは彼らの問題。

外部者であるメノウが口を挟んでいいことではない。

 かと言って止めなければ争いが起きることは確実。

まさに一触即発の状態。

どうすることもできず、その場に立ち尽くすメノウとツッツ。

だが…


「メノウ…」


 先ほどメノウに助けられたカッカが口を開けた。

戦いの傷でボロボロのはず。

意識をとりもどしただけでも大したものだ。


「勝手な願いかもしれないが…ヤツを…止めてくれ…」


「カッカ…」


「ガウド先生はそんな考えを持つ男じゃない…」


「ああ、それくらいワシもわかる…」


「ヤツとカツミ、ガウド先生を戦わせてはいけない…アンタじゃないと…止められないんだ…」


 カツミとガウド、誰が戦ってもヤマカワとの間に確執が残ってしまう。

それを断ち切れるのは完全な外部のものであるメノウしかいない。

カッカはそう考えたのだ。

 それを聞き、メノウの迷いは断ち切られた。

彼をツッツに任せ、ヤマカワの前に立ちはだかるメノウ。


「お前は…?」


「何の関係も無い、ただの旅人じゃ」


「関係無いのならば口を挟むな!どけ!」


「どかぬ!」


「退け!」


「退けぬ!」


 先ほどカツミを圧倒したヤマカワが、今度は逆にメノウに圧倒されている。

今のカツミには若干の精神的動揺が見られる。

そのような状態の者を戦わせるわけにはいかない。


「ワシは…カツミ達の友じゃ!友達を傷つけるヤツは許せん!」


「ほう…友達…か…」


 そう言うとメノウを軽く嘲笑するヤマカワ。

それと同時に彼女と距離を取り開陽の構えを取る。


「ならば、貴様が俺を止めてみろ!」


 ヤマカワとメノウ。

二人の戦いは夜の訪れと共に始まった…

名前:ガウド・ミゴー 性別:男  年齢:六十代?

カツミの義父。

激情の開陽拳の先代伝承者。

娘であるカツミとは異なり、力強い技を得意とする。

年老いた今でもその技が鈍ることは無く、さらに鋭さは増す。

伝承者にしか伝えられないという秘奥義を伝授した。

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