第四十八話 白虎のビャオウ!
新しい小説のアイデアを考えていたら遅くなってしまいました、申し訳ございません。
女体化シャボさんって需要有りますかね?
三都矢サイバービルの死闘を勝ち抜いたのはメノウだった。
囚われのツッツを救い出すことに成功した。
戦いの影響で半壊状態となったビルを後にし、その場から逃げるように立ち去る三人。
少し離れた位置にある車道を横に並び歩きながら、これからのことを考える。
ツッツを救い出した今、彼女たちがこの地にいる必要も無い。
面倒事に巻き込まれる前に早々に立ち去るのが良いだろう。
「カツミ、お前さんはどうするのじゃ?」
「あたしか?」
「そうじゃ…」
「何でそんなことを聞くんだ?」
「行くのか、復讐をしに…?」
カツミの旅の目的、それは故郷を滅ぼした男への復讐。
西のアルガスタの支配者である、ジョーを殺すこと。
メノウ達との旅が終われば、彼女はその手を地に染めるための旅を始めるだろう。
しかし、カツミの反応はメノウの予想とは違った。
「復讐か、もういいよ。そんなこと」
「…そうか」
メノウたちと出会ってカツミは変わった。
復讐のために死肉を漁るハイエナは誇り高き狼へと姿を変えた。
今の彼女にはかつての盗賊としての面影はない。
激情の開陽拳を正当に継ぐ、伝承者としての少女としての姿がそこにはあった。
「それに約束しただろ、ずっと一緒にいてくれるって」
「ふふふ、そうじゃの」
「…なんか今の喋り方、あのうさんくさいヤツに似てるなぁ」
「そうかのぉ…?」
そんな会話を続けながら、街まで乗せて行ってくれそうな車を探す。
しかしここは荒野のど真ん中を通る一本の道路。
三都矢サイバーの関係者以外はほとんど通らない。
来るときに乗せてもらったときは、人の多いナンバで探したためすぐに見つけることが出来た。
しかしこの状況で見つけるのは難しい。
結局、しばらく会話を続けながら歩くことになった。
「そう言えばツッツ、お前さんは捕まっている間、どうしていたのじゃ?」
大型肉食恐竜型ハンターを操っていた追跡者や、朱雀のザクラはツッツを『異能者』の素質があると言っていた。
もしそれが本当ならば、ここでツッツを手放すとはどうも思えない。
ツッツが捕まっている間、なにをしていたかを知ることができればなんらかの敵の意図が掴めるはずだ。
「それが…僕にもよくわからなくて…」
ツッツによると、病院のような施設で検査を受けた後は高層ビルの最上階に監禁されていたという。
その検査も特に変わったことはしていない、それ以外は特に何かをされたわけでもなかった。
「アイツらの勘違いってことは考えられないか?きっと異能者と間違えて捕まえちまっただけさ」
「僕もそう思います、だって僕にそんな特別な力なんてないですし…」
「メノウもそう思うよな?」
カツミが言った。
確かにそうならば辻褄は一応あう。
メノウ達をこの地に呼んだのはツッツを引き取らせるため、シェンとの戦いはただ単に彼自身の暴走。
そう解釈すればすべてが解決する。
だが、とてもそうとは考えられなかった。
それにメノウは先ほどのシェンとの戦いの最中でツッツの言葉を聞いていた。
『メノウさん、動かないで!』
あのツッツの叫びが無ければメノウは大怪我、最悪の場合死んでいたかもしれない。
カツミは少し離れた位置にいたため聞こえなかったのだろう。
ツッツ自身も咄嗟のことだったので覚えていないかもしれない。
もしくは無意識に出た言葉か…?
しかし、メノウははっきりと覚えている。
あの時の声の抑揚、発声までも正確に…
「メノウ?」
「お、おう。そうじゃな…」
ここでそれを言ってもかえって混乱と不安を与えるだけ。
このことはメノウ自身の胸の中にそっとしまっておくことにした。
「しかし、ワシはもう一つ気になることがある…」
メノウがが一つ気がかりなのは『東アルガスタ四聖獣士』たちだ。
彼らはこの東アルガスタの軍閥長である大羽亜に仕える戦士。
本来ならばメノウ達と交戦する理由なと無いはずだ。
だが、実際はそのうちの二人である『青龍』、『朱雀』と対峙した。
そのうちの『青龍』は敗れ、残る四聖獣士は『朱雀』と『白虎』、『玄武』の三人。
「東アルガスタ四聖獣士か…」
「ツッツ、お前さんは何か知らんか?」
「すいません、僕は何も…」
ツッツが出会った四聖獣士は二人。
彼女を攫った『朱雀』のザクラと世話係だった『青龍』のシェン。
残る『白虎』と『玄武』とは会っていないらしい。
「四聖獣士が敵と言うことは…」
「この東アルガスタの軍閥長が異能者の攫っているということになるのぅ…」
「けど何のためにですか?」
「異能者は人知を超えた力を持つらしいからな、集めれば何だってできるだろうさ」
敵はこの東アルガスタそのもの。
東はこれまでメノウ達が旅をしてきた『南』、『西』とはまるで違う。
この地区はゾット帝国で最も平和な地区だと言われている。
しかしそれは犯罪者を取り締まる強力な軍や警察が存在しているからこそ。
そしてその上に立つ四聖獣士。
『最も平和な地区』とはつまり、『最強の地区』を意味する言葉でもある。
「それこそ異能者でも集めてクーデターでも起こそうとかしてるんじゃないか?」
「く、クーデター!?」
「あくまで予想だがな、ハンターなんてものも持ってるんだ。そんなことしても不思議では無いだろう」
カツミが言った。
もちろんこれはあくまで彼女の予想に過ぎない。
しかし、意外と身近な危機はすぐそこに迫っているものだ。
「くーでたー…?かどうかは知らんが、客は居たみたいじゃな…」
メノウがそう言って道から少し離れた位置にある大岩を指さした。
荒野にはよくある、ただの大岩だ。
だがその傍には一人の男が立っていた。
この荒野には似合わぬ、白髪が鮮明に映える。
「少なくとも一般通過人ではなさそうだ…」
「そうじゃの」
その男はゆっくりとメノウ達の下へと歩いてきた。
何をする訳でもなく、たた歩くだけ。
そして三人の前に立つと軽く礼をした。
「…何者じゃ?」
「我が名は『ビャオウ』、東アルガスタ四聖獣士の『白虎』の属性を持つ者だ」
彼は三人目の四聖獣士『ビャオウ』、白虎の属性を持つということは彼もまたハンターを従えているのだろうか…?
四聖獣士の登場に動揺を隠せぬツッツ。
まさか自分を追ってここまで来たのか、そう思ったため、無意識のうちに後ずさりしてしまう。
「一体、何しに来た?」
「我が主君の命の元に、貴様らと戦いに来た」
「…メノウはそっきの戦いの傷が治ってない、戦うならこのあたしと戦うんだな」
カツミがメノウとツッツを守るように二人の前に立つ。
「もちろん最初からそのつもりだ。手負いの者と戦う趣味はない」
「へぇ、四聖獣士にもまともなヤツがいるのか」
「シェンやザクラか、あの二人が特に趣味が悪いだけだ」
「そうかい。で、どうする?いまからここで戦うのか?」
そう言うカツミに対し、ヒャオウは軽く首を振る。
そして懐に手を入れる。
一瞬警戒をするカツミ。
だが、彼が取り出したのは…
「決闘は明日の正午丁度。この時計が零を指した瞬間だ」
小さい時計を近くの小さい岩の上に置くビャオウ。
タイマーが付いており、時間になると音が鳴るタイプの物だ。
これをみたカツミはふと、以前の南アルガスタでの汐之ミサキとの戦いを思い出した。
あの時のカツミが提示した決闘方法と全く同じ手法だったからだ。
「古風なやりかただな…」
あの時、ミサキから受けた言葉をビャオウへと送るカツミ。
その後ビャオウは明日の戦いの決め事をいくつか提示した。
基本的には何でもアリの戦いだ。
そして…
「勝負は一対一。こちらはハンターを代わりに戦わせる。当然、ハンターの負けはこちらの敗北だ」
「ああ…」
「そちらは仲間からのアドバイスなどは許可しよう」
「わかった」
「では明日、この場所で待つ」
そうとだけ言うと彼は先ほどの大岩の元へと戻って行った。
カツミと四聖獣士ビャオウの戦いが始まる…
------------------
ちょうどその頃、東アルガスタ某所。
軍閥長の大羽亜は四聖獣士『青龍』のシェン敗北の知らせを受け、もう一人の四聖獣士を差し向けた。
それが先ほどの『白虎』のビャオウだ。
「シェンを倒すとはあのメノウという少女、なかなかの腕だ」
「たしかあの少女は竜の巫女…」
「そんなもの、ただの伝説だと思っていたが…」
秘書の言葉に耳を傾け、これまでの自身の考えを改める大羽亜。
当初の目的はツッツのみ、メノウは特にマークしていなかった。
しかし、この一件で十分に調査の価値があると判断したのだろう。
「ビャオウに連絡を入れておけ、ハンターだけでは無くメノウの戦闘データも記録しておけと」
「わかりました」
秘書の女性はそう言い部屋を後にした。
彼女の退室を確認すると、大羽亜は電話を手に取りある場所へと連絡を入れた。
それは…
「どうも、お久しぶりです。西の支配者さん?」
『久しぶり…と言うほどでもないだろう?大羽亜』
彼が電話をかけた相手、それは西のアルガスタの支配者であるジョーだった。
電話越しに大羽亜は異能者であるツッツが奪い返されたことをジョーへと伝えた。
ツッツは後日ジョーの下へ、研究データと共に送られる予定だった。
しかし、こうなってしまってはそれをすることも出来ない。
大羽亜の知らせを聞き、怒り狂うジョー。
『奪い返されただと!?なぜ止められなかった!」
「連れ戻しに来たのはあのメノウという少女です」
『メノウ…?』
「ええ、最近アルガスタで噂になっているあの救世の少女ですよ」
南アルガスタの一連のエレクション事件、センナータウン、イオンシティでの戦い、ディオンハルコス教団キリカ支部の事件。
そして以前の東方の悪戯狐、汐之ミサキとの戦い。
現在、『メノウ』という名は、一部の者達の間で弱きものを救う救世主として噂となっていたのだ。
「残念ながら、私の情けない部下では止めることはできませんでした…」
『そんなことは聞いていない、この落とし前をどうつけるつもりだ?』
「奪い返します」
『当然だ』
「しかし私の部下だけでは頼りない、そこで…」
大羽亜はある提案をした。
それは、ジョーの部下を一人貸して欲しいというものだった。
大羽亜が指名したのは、ジョーの部下の中でもかなりの有能で知られる者。
その名を聞き、軽く笑みを浮かべるジョー。
『獲物を奪われ多だけでは飽き足らず、部下まで貸せと?随分大きな口を叩くものだな』
「しかしそうでもしなければあのメノウという少女に対抗することは出来ない」
『ふ…』
「彼女はいつかあなたの障害となるかもしれない、その時のために今のうちに処分しておくのは決して間違いではない…」
『ふふふ…このオレにそこまでの口がきけるとはな。恐れ知らずか、ただのバカか…』
そうとだけ言い放つと、ジョーは部下の貸し出しを快く承諾した。
そして大きな笑い声と共にその電話を切った。
電話を受話器に戻し、大羽亜は一人小声で呟いた。
「あの少女を、ヤツの手に渡すわけにはいかん…あれかあれば、私は…」
ビャオウ!