第四十六話 VS青龍!(前編)
今回の話と次の話は裕P先生の小説に用いられている技法、『代名詞破棄』をリスペクトして書いてみました。
三都矢サイバービルを目指し数日が経過、メノウ達はついにその地にたどりついた。
広大な敷地には社員用の宿舎や自社工場、その他倉庫や駐車施設などがこの敷地に存在している。
そしてその中央にそびえたつビル、それが三都矢サイバービルだ。
その名の通り、『三都矢サイバー電子工業』という会社の社屋だという
「ようやくついたのぉ…」
「変なビルだな、外側は全部ガラスなのか…」
特に目を引くのは、その全面ガラス張りという奇怪な作りだろう。
小型のガラスを組み合わせるのではなく、巨大な数枚のガラスで構成されているのだ。
これも、東アルガスタの軍閥長である大羽亜の持つ技術の成せる技だという。
ここに来るまでの道中で聞いた話によると、彼の傘下の会社の社屋だという。
しかし…
「なんじゃ?だれもおらんではないか」
「これは珍しい…休日でもないのに…」
そう言いながらビルを見上げる運転手。
彼の話によると、三都矢サイバー電子工業は社員や外来客が常に出入りするような会社。
社員も比較的多い、いわゆる大企業と言われるものだ。
しかし、今は違う。
人の気配ひとつせず、ガラス張りの社屋を外から眺めても、中に何かがいる気配も無い。
「準備は万端ってことか…」
カツミが周囲を軽く見まわす。
恐らくビルの中には『何か』かあるはず。
罠か、それとも気配を殺した敵の待ち伏せか…
とりあえず運転手とはここで別れ、メノウとカツミの二人がこの場に残る。
「どうする、二人で乗り込むか?」
「そうじゃな」
警戒は解かず、二人でビルへと乗り込むつもりのようだ。
ビルの正面にある自動ドアの前に立つ二人。
この建物全体の電源が切られているためか、自動ドアが開くことは無い。
しかし、鍵もかかっていないため簡単に開けることが出来た。
「いくぞ、カツミ」
「ああ」
ビルに入ってすぐにあるエントランスゾーンへとつづく入り口フロアへと足を踏み入れる二人。
どうやらこの建物は吹き抜け構造になっているらしい。
上を見上げると一気に最上階までを見ることが出来た。
フロアもかなり広く、大きめの体育館程度の面積はあるだろう。
「…ワシが先に入る」
後方の警戒をカツミに任せ、メノウが先にエントランスへと入る。
入ってまず感じたのは、その異常な気温の高さだった。
この建物は全面ガラス張りとなっている。
冷房が無ければ日光が直接当たる形になるからだろう。
と、その時…
「久しぶりだね、メノウちゃん!」
空を切る音と共に、ビルの中央ホールへ響く声。
それは飛竜型ハンターを従えた東アルガスタ四聖獣士の一人、青龍のシェンのものだった。
吹き抜け構造のビルの三階から、一階にいるメノウを見おろす形で彼が言った。
「お前さんは…!」
シェンを睨み付けるメノウ。
以前の戦いの記憶が彼女の脳裏をよぎる。
そして、彼の言った『竜の巫女』のことも…
「お、今キュンと来たね?」
「してないわ!」
「…今だ、行け!」
その一瞬の間に、シェンが従える飛竜型ハンターはメノウの命を絶つべくその首筋を狙う。
以前の戦いでメノウにより引き千切られた足は、加速ブースターへと換装、それによりスピードは数段上がった。
その加速力で、飛竜型ハンターは一気に距離を詰めメノウの間合いへと入る。
「(危ねぇッ…!)」
カツミがそれを防ぐべく飛び出そうとする。
この距離でこのスピードの突進攻撃はまず避けることは不可能。
と思われた。
しかしメノウはそれを軽く避け、後ろへ下がることで再び間合いを取った。
以前の戦いでシェンと飛竜型ハンターの攻撃パターンは大体掴むことができた。
それを応用すればこの程度造作も無いこと。
予想外の回避に若干驚きつつも、それを見てこれからの戦いに期待を寄せるシェン。
「もうコイツの動きは見切ったわ!」
「あぁ~やっぱりか~…」
「ツッツはどこへやった!?ここにおるのか?」
声を荒げシェンを問い詰めるメノウ。
いつもの穏やかな喋りは消え、怒りが露わになる。
「ツッツちゃん?ああいるよ」
「どこじゃ!答えろ!」
「このビルの上のフロアに縛り付けてあるよ、助けるならここで僕を倒すしかないね」
メノウを挑発するように言うシェン。
確かにシェンを倒すのはツッツを助け出す最低条件、仮にここで振り切ったとしても必ず彼は追ってくる。
ここで始末しなければならないだろう。
「そうじゃな、お前を倒して先に進むしか…」
そう言うメノウだが、一瞬の隙を突きカツミにアイコンタクトを送る。
当然、その意味はカツミも理解している。
「(…わかった!)」
メノウとシェンが交戦している間にツッツを助け出す、それが今のカツミに課せられた課題。
幸いなことに、シェンは恐らくカツミの存在に気づいていない。
彼がいる角度からはカツミが死角になっている。
そしてカツミ自身も気配は可能な限り消していた。
「ここは広いし戦うにもちょうどよさそうじゃしな」
そう言いつつシェンの注意を自身に引き寄せるメノウ。
その間にカツミは別のルートからビルを上がって行く。
探すのに少し手間がかかるが、気配を探っていけば何とか探せるだろう。
「そうだね、戦うにはちょうどいいよね!」
それに気づかずシェンは飛竜型ハンターを操りメノウに攻撃を仕掛ける。
だが既にこの攻撃パターンは読み切っている。
回避と同時に空へと飛び上がり、落下と同時に飛竜型ハンターの頭部を砕く。
「おぉ!」
シェンの驚きの声と共に、飛竜型ハンターはその十メートル近くもあるその巨体を地に落下させた。
衝撃に耐え切れず、胴体のフレームも破壊された。
それと共に、胴体から翼とブースター、尾などが千切れ落ちる。
さらに、今の一撃で制御盤が砕かれたため、飛竜型ハンターは戦闘不能となった。
以前戦った防衛仕様の大型肉食恐竜型ハンターとは異なり、空戦急襲仕様の飛竜型ハンターの装甲は薄い。
刃の仕込まれた装甲も、メノウにとっては初見でなけれは攻略は容易なことだった。
「さぁどうするのじゃ!?次はお前さんが戦うのか!?」
「まぁそうしてもいいんだけどね…」
シェンは足のレガースに仕込んだナイフを投げつけるも、メノウはそれを簡単に受け止める。
逆に跳ね返されそのナイフは持ち主である彼の下へと再び帰って行った。
投げ返されたナイフはシェンの頬をかすり、背後の柱に突き刺さった。
「ほら、僕が戦っても絶対勝てないでしょ?やっても無駄だよ」
「降参するか?別にお前さんの命まではとりはせんが…」
「降参か…」
そう言いながら、不敵な笑みを浮かべるシェン。
この顔は降参をするような顔ではない。
まだ何か隠し札を持っている、そう伝わってくるようだ。
「する訳ないだろ!そんなこと!」
その叫びと共にビルの壁が砕け、中から大型肉食恐竜型ハンターが現れた。
そもそも彼にとって飛竜型ハンターなど単なる様子見のためのカマセに過ぎない。
真の切り札はこの大型肉食恐竜型ハンターだったのだ。
「大型肉食恐竜型ハンター…!」
「そう、それも青龍仕様のね!」
メノウが大型肉食恐竜型ハンターと戦うのはこれで二回目となる。
しかし、西アルガスタで戦った個体とその姿にはかなりの差異が見られた。
以前の個体は単なる防衛型であるため特別な装備は見られなかった。
この個体は先ほどの飛竜型ハンターと同様の青い刃の装甲に身を包んだ強襲仕様。
全身からは青い刃が飛び出しているため、以前の個体よりも一回り大きく見えた。
爪や牙も一回り大型化している。
「その能力は通常の大型肉食恐竜型ハンターよりも数段上、スピードは二倍だよ!」
シェンの言葉は単なる誇張などでは無い。
確かに以前の個体よりもパワー、スピード、その他諸々の能力が強化されている。
むき出しだったパイプもほぼ全てか装甲で覆われていた。
そして、その巨体からは想像も出来ぬ瞬発力で一気にメノウに襲い掛かる。
挨拶代わりと言わんばかりに、先ほど破壊された飛竜型ハンターの胴体をメノウに向けて蹴り飛ばす大型肉食恐竜型ハンター。
「ヌッ!?」
それを何とか避けるも、すぐに第二波が襲い掛かる。
鞭のようにしなる尾を使いメノウに襲い掛かる大型肉食恐竜型ハンター。
ギリギリでかわすも、エントランスに置かれていた観葉植物や給水器が破壊され粉々に砕け散った。
「速い!以前の個体よりもずっと!」
「当然だよ!」
近接装備だけでは無く、この個体は射撃兵装も装備している。
装甲下に仕込まれた小型機関銃で牽制し、それと共に再び距離を詰めてきた。
銃を何とかかわしていくが、このままでは埒が明かない。
「(シェンを始末するか…?いや…)」
この大型肉食恐竜型ハンターは恐らくシェンが何らかの方法で操っている。
ならば彼を倒せばこの個体も動きを停止するのではないか?
そう考えるメノウだが、この作戦は一瞬で却下となった。
同じことを西アルガスタでの追跡者との戦いで実行したが、様々な妨害があり結局は叶わなかった。
結局、この大型肉食恐竜型ハンターを倒さぬ限りは先に進めないということだ。
「とにかく、こやつを倒さぬと…」
蒼い眼を鋭く光らせ、その口を開け大きな咆哮を上げる大型肉食恐竜型ハンター。
その衝撃だけでビルのガラスに亀裂が入るほどだ。
強大な力を持つ大型肉食恐竜型ハンターを前にメノウはどう戦うか…?
「(攻撃魔法は詠唱に時間がかかる…ならば以前のように幻影光龍壊を…)」
西アルガスタでの戦いで使用した幻影光龍壊は現時点でのメノウが持つ最高の攻撃パターン。
これを当てることが出来れば、いくらこの個体でもひとたまりもないだろう。
「やるしかないのぉ!」
ハンター相手に戦いを長引かせると消耗戦になり確実に負ける。
確実に短期決戦に持ち込み、勝利する。
そのためには確実に相手の間合いに入り込み幻影光龍壊を当てるしかない。
「少し速くなるそ、幻影制光移!」
その叫びと共にメノウの動きが徐々に速くなっていく。
これは彼女の使用した『幻影制光移』の魔法効果にある。
自身のスピードを徐々に加速させていくのだ。
ただし、この魔法を使うにはなんらかの強い『光』が必要。
これは光を使い、幻影を生み出すためである。
そのため建物の中などでは中々使う機会が少ない技だが、今回はこのビルの構造に救われた。
全面ガラス張りと言うこのビルの変わった構造により、エントランスにまで直接日光が当たる形となっている。
「この動きについて来れるか!?」
「…意外と速いみたいだね」
速度だけでは無く、ビル内の壁や柱を駆けのぼり立体的戦術で攻めるメノウ。
大型肉食恐竜型ハンターはその攻撃の性質ゆえに直線的な戦闘をせざるを得ない。
そのため今のメノウのような戦い方をされると翻弄されるのみとなってしまう。
有効な攻撃パターンを見いだせず、ただただ機関銃を乱射する大型肉食恐竜型ハンター。
「ここじゃ!」
一気に壁を駆け上がりそこを足場にすることで大型肉食恐竜型ハンターの頭上へとまわる。
そして落下と同時にその口の中へと狙いを定め構えを取る。
「まずい!逃げろ!」
珍しくシェンが声を荒げる。
いくら強襲仕様の大型肉食恐竜型ハンターといえど、ここで攻撃を受けてしまっては確実に破壊されてしまう。
強化装甲を装備しているとはいえさすがに体内への攻撃は守りきれない。
「幻影…!」
「避けろぉ!」
「光龍壊!」
メノウのの声と共に強烈な光があたりを包み込む。
数秒の時を経て、徐々に光は収まっていく。
そして、そこに立っていたのは…?
大型肉食恐竜型ハンター:青龍仕様 性別:雄
ラウル古代遺跡に潜む魔獣、『大型肉食恐竜型ハンター』を改造した個体。
飛竜型ハンターの装備していた青色の刃が仕込まれた装甲を全身に纏っている
強襲仕様であるため、その戦闘能力は以前の個体よりもはるかに上。
そして、この個体にはある秘密が…?




