第四十五話 東方のアルガスタ
ゾッ帝二次小説や二次創作イラストの増加、いい感じだで
人斬りの剣客、汐之ミサキとの戦いから数日が過ぎた。
南アルガスタを後にしたメノウ達を乗せた列車は特に事件も無く走り続け、目的地へとたどり着いた。
それはゾット帝国の東地区に存在する。
メノウとカツミは攫われたツッツを救うためこの『東アルガスタ』へとやってきた。
「長かったが。ついに到着したのぉ~」
「やっぱり地面に足がついてるっていいものだよなぁ」
列車から降り、駅から出たメノウとカツミが言った。
二人は途中で立ち寄った南アルガスタで所持品を整えていたようだ。
最初にこの列車に乗った時よりも荷物が増している。
「よく考えたらこっちで買いそろえた方が楽だったよなぁ…」
「でも服は買い替えたのじゃろう?」
「まぁ、あれは結構長く着てた服だったしな…」
彼女は南アルガスタで服も買い換えたため、以前のレザー主体のスタイルから東洋風の布主体の服装へと変わっていた。
元々カツミは軍の払下げ品を着ていたが、バッタリー一味やミサキとの戦いで破損。
南アルガスタに立ち寄った際にアズサの提案で買い換えることになったのだった。
「メノウは大体いつも通りだな」
「まぁ、特に変わることも無いしのぅ…」
メノウが、南アルガスタで揃えたのはストールと新しいバンテージ、謎の朱色の棒のみ。
そして列車内で金持ちの婦人から貰った純金製と純銀製のバングルを左腕に付けている。
バッタリー一味とミサキの討伐の功績を称える意味もあるという。
「それにしても、東アルガスタって随分発展してるんだな…」
「確かこの街は…『ナンバ』とか言ったかのぅ…」
駅前から広がる景色を見回す二人。
この東アルガスタ最大の街、『ナンバ』は非常に発展した街だ。
道は常に人であふれ、車などの乗りものが往来をしている。
建物は全てコンクリート製の高層建築物、とても大戦後にできた街だとは思えない。
南アルガスタのシェルマウンドや、西アルガスタのキリカも比較的大きな街だったが、それとはまた違った感じの印象を受ける。
恐らく、王都ガランを除けばゾット帝国で一番の大都市と言えるだろう。
「歩いてる人間もどこか違って見えるな…」
そう言って辺りを見まわすカツミ。
もちろんこれは彼女の錯覚でしかないのだが、そう思わせるほどこの地区は変わっている。
とりあえず今後のことを考えるため歩きながら作戦を練る。
以前、朱雀のザクラから渡された手紙には『三都矢サイバー本社ビル』へと来るよう指示が書かれていた。
そこに行けば攫われたツッツに会えるということだろうか…?
「どう思うメノウ?一応この地は奴らのホームグラウンド、警戒するに越したことは無いが…」
「ワシも本当ならば一刻でも早く助けに行きたいが…」
カツミの言うとおり、この地は四聖獣士たちに有利な地。
そしてメノウ達はこの土地を何も知らない。
どのような者がこの地を治めているのか、そのような基本的なことさえ知らないのだ。
「しかし、今はこの三都矢サイバーとやらに行ってみるしかないじゃろう…」
「やはりそれしかない…か…」
少なくとも、あの手紙には「~までに来い」などと言う期限などは特に書かれてはいなかった。
わざわざメノウ達を誘ったりしている以上、少なくともツッツを殺したりはしないはずだ。
…これはあくまで常識の範囲内での考えだが。
「ま、ヒッチハイクでもしていくしかないな。あたし達、道も知らないし」
「そうじゃな」
そういいつつ、三都矢サイバー本社ビルへ向かうため車に乗せてくれる者を探すことにした二人。
幸いなことに探し始めて十分ほどで乗せてくれる者が見つかった。
とある輸送用トラックの運転手の男がちょうどその辺りを通るらしく、同行させてもらうことにした。
「こんな小さな旅人を乗せるのは初めてだ…」
歳は四十後半、少し白髪交じりの髪の運転手の男が言った。
他にも同乗可能な車は何台かあったのだが、他の者達はどうも不純な目的で彼女たちを乗せようとしているようだった。
年頃の少女の二人旅となれば、そう言うこともあるだろう。
「あまり散らかすなよ」
この運転手に頼んだのは、そう言った考えを持っていなかったからだった。
それに彼の車の運転席には、娘であろう少女と共に撮った写真も飾られている。
そのような者が、邪な考えを持っているとは思えない。
少し無愛想だが、悪人ではなさそうだ。
トラックはよくあるタイプの、運転席の後部座席が簡易的な休憩スペースになっているものだ。
運転手は二人を乗せるとすぐに車を発進させた。
「お前らどこから来たんだ、北アルガスタか?それとも南か?」
「ワシは南アルガスタからじゃな」
後部の休憩スペースに転がりながらメノウが言った。
今まで彼女は、は馬のアゲートと共に旅をしてきた。
それだけに車というものに乗るのは初めてだった。
馬や鉄道とは違った感覚に若干戸惑いと興奮を覚えているようだった。
一方カツミは比較的落ち着いた態度、別に車なと珍しくもなんともないのだろう。
「あたしは西だ、生まれはこの東だけどな」
「ほぅ、生まれはどこだ?」
運転手の男がカツミに尋ねた。
彼にとっては何気ない一言だったのだろうが、カツミにとって故郷の話はあまり触れてほしくないことだった。
「それは…」
「…あまりきかないでやってくれぬか?」
「…何か訳ありみたいだな」
少々ギスギスした雰囲気が車の中に漂っている。
これはマズイと思ったメノウが慌てて何か話題を替えようと思考を張り巡らせる。
しかしこんな時に限って何も思い浮かばない。
いつもはどうでもいいことばかり思い浮かぶのだが…
「(う~ん…おッ!)」
そんな中、メノウはトラックの休憩スペースの中に置いてあった一冊の本を見つけた。
恐らくこの地区で発行されている雑誌だろうか?
「カツミ、これなんじゃ?」
「ん…?ああ、そうかメノウは漢字読めないんだったな」
どうやらその本はニュース誌か何かだったらしい。
内容は最近の東アルガスタで起きた事件、イベントの紹介、その他広告などごくありきたりなものばかり。
メノウが内容を知りたがっているため読み聞かせるか、カツミにとってはあまり面白いものでもなかった。
だがそんな中で唯一、彼女にとっても非常に興味深いものがあった。
「この記事は…」
それはこの東アルガスタの軍閥長、『大羽 亜倉巣』の特集記事だった。
大羽が東アルガスタ中の孤児院に寄付をしたことについて、記者のインタビューを受けている内容だった。
「ああ、大羽亜さんか。いい人だよ、彼は」
運転手が言った。
彼が言うには、大羽亜と言う男は大戦からの復興と住民の暮らしを第一に考える軍閥長だという。
未だにかつての大戦の爪痕が残る地域があれば、ライフラインを整備し環境を整えた。
税金を横流ししていた官僚たちを摘発し、クリーンな政治を行うと宣言。
東アルガスタの民からの人気も非常に高いらしい。
事実、彼を悪くいう者はこの東アルガスタには殆どいないらしい。
「ほぉ~、エレクションやジョーとは大違いじゃのぅ…」
メノウが今までの旅で知った軍閥長は碌でも無い者達ばかりだったが、この男は話を聞く限りでは違う。
少なくとも話だけ聞く限りでは誇り高い人格者のようだ。
「ただ大羽さんには何か「変な」噂があるんだ」
「変な噂…?」
「なんじゃ?」
「いや、くだらない話なんだがな…」
運転手が言うには、大羽亜には誰も知らない秘密があるという。
そもそも、この東アルガスタはかつて誰も住めないような枯れ果てた大地だった。
その地を人の住める大地に作り直し、治めたのが軍閥長の大羽だった。
「当時としては考えられないほど進んだ農業技術を大羽亜さんは持っていたんだよ」
そのほかにも数世代先を行く技術を大羽は持っていた。
法律、産業、流通、上げていけばばきりがない。
それらを使い、彼はこの地を治めたのだ。
「噂じゃ宇宙人か異世界人、神とまで言われてるよ、ハハっ…」
そうとだけ言うと、運転手は無言で車の運転をつづけた。
目的地である三都矢サイバービルへは数日ほど掛るらしい。
列車に続いて次はトラックによる、二人の旅が始まった。
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一方、東アルガスタ某所とある建造物の一室。
この部屋に攫われたツッツは囚われていた。
被っていたキャスケット帽はザクラに蹴り飛ばされたため無くなっている。
「メノウさん…」
ツッツがうわ言のように呟く。
攫われてから数週間が経っているが、あの日からツッツは一度も外に出ていない。
しかし、だからと言って漏刻のようなところに閉じ込められているわけでもない。
彼女が閉じ込められているのは、超高層ビルの最上階の一室。
その部屋も高級な家具や調度品が揃えられた、一見すると高級ホテルかとも思えるような部屋だ。
「ツッツちゃーん、食事持ってきたよー」
食事の時間らしく、その声と共に部屋に一人の少年が入ってきた。
それは以前、メノウと交戦した東アルガスタ四聖獣士の一人である青龍のシェン。
似た年頃だからと言う理由だけで、ツッツの世話係を任されたらしい。
確かに二人は同じ十二歳、しかしだからと言って話が弾むわけでもない。
「…」
「なんか喋ってよ~」
「やだ」
「ねぇったら」
「死ね」
「ごはん毎日持ってきてるでしょ?何か話そうよ」
「まぁ、それは別だから…」
部屋の中央にある大きなテーブルの席に座り、シェンの持ってきた食事を食べるツッツ。
さりげなくシェンは自分の分の食事も持ってきたらしく、向かい合って食べることになった。
「おいしいでしょ?」
「うん…まぁ…」
こう答えるツッツだが、シェンの言うとおり確かにここで出される食事は美味しい。
上等な食材、腕利きの料理人が作った料理。
しかも、ツッツが西アルガスタの辺境の地の出身であることを考慮しメニューを立てている。
その地で使われている香草や料理法を使っている。
「(そう言えば、ここに来るまではお肉なんてずっと食べて無かったなぁ…)」
そう思いながら、皿に盛られた鳥の岩塩焼きを見るツッツ。
それと共に、ツッツは毎回思うある疑問をシェンにぶつける。
なぜ自分はこの東アルガスタに拉致されたのか?
それが疑問だった。
「なんで僕をつれさったのさ?」
「え?いつもいってるでしょ、君が『異能者』の素質があるからだって…」
「そんな異能者なんてもの、僕知らないよ!」
ツッツは今まで自分が特別だと思ったことなど一度も無い。
自分にそのような素質があるなど到底思えなかった。
「気付いて無いだけだって、もし能力に目覚めれば世界かガラリと変わるよ?」
「知らない!」
「いい加減心開いてよ、楽しくないよ?」
「無理矢理攫ってきておいて何言ってんだよ!」
そう叫びながらツッツがテーブルを飛び越えシェンに殴りかかる。
食事を続けているシェンだがそれを軽く見切り、ツッツの攻撃を避ける。
やはり特殊な戦闘訓練を受けたシェンと、一般人の少女であるツッツではやはり動きに差が出てしまう。
ツッツはそのまま床に体を打ちつけてしまった。
「痛つつっ」
「あんまり生意気なことされても困るんだよね…」
そう言いながら、食事に使っていたナイフをシェンは拾い上げる。
それを思い切りビルの窓ガラスへと投げつけた。
このフロアの窓ガラスは人の身長ほどもある大きなタイプの物。
こういった高層ビルの窓に使用されているガラスは非常に強固な素材を使用している。
人が思い切りぶつかった程度では割れない程度には丈夫なのだ。
当然、彼の投げたナイフなど軽くはじかれるはずだった。
だが…
「あんまり僕を怒らせないほうがいいよ?」
窓ガラスはシェンの投げたナイフが突き刺さった場所を中心として粉々に砕け散った。
通常ならは絶対ありえぬ光景に目を疑うツッツ。
「いっそここから叩き落とそうかぁ!?」
先ほどまでの態度から豹変させたシェン。
ツッツを割れた窓の方へと殴り飛ばした。
あと一歩で落ちそうになるところだったツッツだが、何とかその場に座り込む。
「い、一体何を…?」
「少し眠ってろよ!」
ツッツの腹に強烈な蹴りの一撃を入れるシェン。
突然の出来事に対応も出来ず、あまりの激痛にその場に蹲るツッツ。
やがて意識を保つことが出来なくなった彼女は、気を失ってしまった。
「…ちょっと乱暴しちゃったけど、まぁいいよね」
裕P先生の本家ゾッ帝、最高だわ