第四十三話 炎の中に見えた活路!
異世界ユニフォンの設定どうしようかな~
俺もな~
裕P先生にはぜひ小説執筆を再開してこの辺の設定を詳しく紹介して欲しいですね。
メノウ達が達がこのシェルマウンドに訪れてから既に三日。
あのラジオ放送と新聞記事のおかげか人斬りによる被害者は出なかった。
新聞の方には『人斬りを続けるならば最強の男は現れない』といった趣旨の文も掲載しておいた。
これがミサキに影響を与えたのだろう。
それに彼女としても、これ以上の人斬りは意味が無いと判断したのだろう…
そして三日目の深夜二十三時。
ミサキを呼び寄せるため、第8-11号SNNN-ION開発地にてカツミは一人その場に佇んでいた。
周囲二~三百メートルは何もない更地、障害物も何もない戦うにはもってこいの場所だ。
さらに地下にはヤクモが待機している。
ミサキとカツミの戦いが始まった瞬間、彼がとびだしカツミの戦闘をサポートする。
「時刻は二十三時丁度です」
「よし、あと一時間だな」
「(がんばれ…がんばれカツミ…)」
さらに数百メートル離れた位置にメノウとノザキ、イトウが待機している。
メノウは魔法による後方支援、そして万が一の時に備えての憲兵隊の二人。
他の憲兵隊の隊員などはこの場には呼んでいない。
もしヤクモとカツミが敗れ、メノウ、ノザキとイトウの三人の布陣を突破されてしまえば一般の隊員では捕まえるのは不可能。
「もし『最強の男』がこの場にいないとヤツが知り、この場から逃してしまえば…」
「ミサキは再び人斬りを繰り返すじゃろうな…」
「ああ。つまりこの場でヤツを倒し逮捕するしかない」
この機会を逃せば、まず間違いなくミサキは憲兵隊の前に姿を現さなくなる。
彼女の用心深い性格からすれば、それは容易に想像できる。
そうなれば人斬りを止める手段は無くなってしまう…
「…そういえばメノウさん、その右腕の包帯は?」
メノウの右腕に巻かれた包帯を見たノザキが不思議そうに言った。
以前はただ巻いてあっただけだったが、今はギプスと包帯で腕を巻き固定してあった。
一見すると普通の骨折のようにも見える。
「治りが早くなるように薬と塗り薬をして、金属板を添えてあるのじゃ」
「なるほど…」
「こうして動かさないよう固めておけば、少しは治るのが早くなるからのぅ…」
メノウたちの言葉をよそに、待機しているカツミとヤクモは妙に落ち着いた雰囲気をしている。
その場に座り込み、精神と感覚を研ぎ澄ましミサキが訪れるのをただひたすら待つカツミ。
「カツミさん、戦いの前にひとつ戦法のおさらいをしておきましょう」
「ああ、まずあたしかミサキを牽制し僅かな隙を作る。…だろ?」
「はい、そして…」
カツミによって作り出されたミサキの隙、その瞬間にヤクモが地上に飛び出しカツミと共に戦う。
この地は遮蔽物の一切無い更地、二人で戦えば確実に一人はミサキの死角に回り込める。
暗炎剣に純粋なパワーで勝つのは不可能だ。
ゆえに、カツミとヤクモの二人はそれぞれの攻撃力ではなく、とにかくスピードによる手数の多さで勝負に出る。
ヤクモには縮地の技もある、速さならば遅れは取らないはずだ。
「一応、私も元南アルガスタ四重臣の一人。遅れは取りませんよ」
「ああ、期待してるぜ」
「貴女の開陽拳の力も、ね…」
そう会話を続ける間にも、時刻は一分、また一分と過ぎていく。
辺りには段々緊張が走り、空気が少しずつ重くなっていくのを感じる。
「そろそろ時間だな…」
カツミの言葉と共に、夜の闇の中からこの地に一人の少女が現れた。
律儀にもカツミの視線の先から現れるというおまけつきだ。
この時間に全く関係のない人物がこの場に現れるはずもない。
そして、彼女の持つ殺気。
…間違いない、ヤツが『東方の悪戯狐』汐之ミサキだ。
ゆっくりと、しかし確実にこちらへと歩み寄ってくる。
一見隙だらけのようにも見えるが、実際はそうではない。
例え攻撃を受けたとしてもすぐに受け流し、戦闘態勢をとれるようにしている。
背中にある布の巻かれた暗炎剣、その布の一端が彼女の手には握られている。
攻撃を受けた瞬間、その布を引き抜き剣での攻撃に移れるのだ。
「来たか、人斬り狐」
目の前にまでやってきたミサキに対し、カツミが言った。
しかし当のミサキ本人は…
「あれ~おかしいねぇ~?最強の男がいるって聞いて来たんだけとねぇ…」
「そいつはあたしが流した嘘だ。人斬りのお前を倒して英雄になろうと思ってな…」
もちろん、カツミの言ったこの言葉は嘘だ。
もし、本当のことを言えば警戒心が高まってしまうだろう。
カツミ一人しかいないと最初から思わせておけば、ヤクモが戦闘に乱入した際にうまく不意をつける。
そう考えての作戦だ。
「決闘はこの時計が零時になった瞬間だ」
「古風なやり方だね」
「嫌なのか?」
「わかったわかった。好きにしていいよ」
「チッ…生意気なヤツ…ほらよ!」
そう言ってカツミは小型のタイマーが付いた時計を少し離れた地面に放り投げた。
強力な夜光塗料が文字盤に塗ってあるため、この暗い夜空の下でも時間を確認できるというわけだ。
「まぁ、しょうがない。騙されたものは仕方が無いか」
ミサキは意外とポジティブな性格らしく嘘を付かれたことに対し、気にも留めてはいないようだった。
こればかりは意外だったため、内心驚くカツミ。
そんなことは気にも留めず、ミサキは辺りを軽く見まわす。
「へぇ~、つまりこの場にはお前一人しかいないってこと?」
「ああ。このあたし、カツミしかこの場には…」
「ふ~ん…そうなのねん…」
そう言うとミサキは布に包まれた暗炎剣を背中から手に持ち替えた。
剣を抜き攻撃を仕掛けてくるか…?
そう思い攻撃態勢に移ろうとするカツミ。
しかしどうやら違うようだった…
「何を…!?」
「嘘はいけないよ、嘘は」
「ッ…!」
「邪魔者は消しておかないとねぇ!」
そう言うと、ミサキは剣を引き抜き地面に向かって力を込め勢いよく振りかざした。
それと同時に大地は裂け、数十メートルの崩落が更地に生まれた。。
彼女は地下のパイプラインにヤクモが潜んでいたことを見抜いていたのだ。
人工のレプリカとはいえ、その力は並みの剣を遥かに超える。
この程度のことなど造作も無いことだ。
「地下に誰かいたみたいだったから、始末しておいたよ」
「…チィッ!」
その行動を宣戦布告と取ったカツミは、あらかじめ決めていた時計を無視しミサキに襲い掛かった。
戦いが始まるまで本来ならばまだ数分はある。
しかし、そんな約束を守っていては勝てない。
そう思っての不意打ちだった。
「時間までまだ時間あるだろうに…」
「知らん!開陽拳の前に沈め!ビャッ!」
ミサキの斬撃に注意を払いつつ、正面からの攻撃を繰り出すカツミ。
手刀から放たれる無数の真空斬撃波でミサキを攻めるが、暗炎剣の一振りですべてがかき消される。
刀身が紅く輝くと同時に生み出された炎によりカツミの衝撃波は全て無に帰した。
暗炎剣はその名の通り『炎』を操る力を持つ剣。
人斬りの際には使用されなかった能力だが、ここにきて初披露となった。
「なんだよ、悪趣味な手品か何かか…!?」
「暗炎剣くんは元々軍事用に開発された剣、これくらいのことはできるのだ!」
「冗談じゃない!」
当初の作戦では手数の多さで勝負をしかけるとのことだったが、これを見てカツミは確信した。
「(この戦術じゃあ勝てねぇな…)」
ヤクモの援護が無くなった今、頼れるのは自分の力とメノウの援護魔法のみ。
彼の援護が無ければ手数の多さでの勝負はし辛い、となればカツミの持つ開陽拳による致命の一撃を与えるしかない。
しかし、当初のカツミの想定よりもこの少女は『強い』のだ。
「(戦法を切り替える…?だけど…?)」
カツミが致命の一撃を与えるためには彼女の攻撃射程内に入ることが前提となる。
だがミサキは違う。
カツミの攻撃射程外からの炎による遠距離攻撃が可能なのだ。
「次はこっちの番だな!」
そう言って剣を振り、刀身を再び紅く染める。
熱を帯びた剣はその場を不気味に照らし出す。
「ほらほらほらほら!」
軽く振るだけで地面は砕け、残火が砕かれた大地を燃やす。
何とか避けるも、この一撃だけでカツミにとっては致命傷になりかねない。
しかし、ミサキが単に高威力なだけの剣技を使う剣士ならばカツミがここまで苦戦したりはしない。
ここまでの苦戦を強いられる理由、それはミサキの使う剣術である『幻狐流剣術』にある。
「くそ…炎の熱気で…前が…」
暗炎剣は炎や熱を操る剣、そして幻狐流剣術は幻術による残像を操り相手を幻惑する剣技。
炎の熱気により発生した陽炎と幻術により、通常よりも数段厄介な技となっている。
さらにこの熱気に包まれた環境下では、慣れていない者では嫌でも判断力や集中力が鈍ってしまう。
「ハぅ…はぁ…」
「粋をするだけでも辛いって感じだよね?」
「う、うるせー…」
息をするだけで体の中に熱気が入り込む。
カツミは西アルガスタにいたときは砂漠地帯で生活していたためある程度の熱気ならは耐えることはできる。
現在の環境も、常人ならばとっくに倒れていてもおかしくは無い。
その後の攻撃も何とか避け続けるが、このままでは埒が明かない。
苦し紛れに反撃の衝撃波を繰り出すも、全てが炎の壁に阻まれる。
「…このままではカツミさんが!」
その光景を後方から双眼鏡で覗いていたノザキが叫ぶ。
少なくとも、この状況が続くようであればカツミに勝機は無い。
ヤクモの戦力も無くなった今、完全勝利は絶望的と言える。
「…暗炎剣と言ったか、あの剣」
「え、ええ」
「炎…か…」
カツミとミサキの戦いを見ていたメノウが小声で呟く。
裸眼でこの距離の戦いを見ることが出来るメノウ、何かを閃いたようだ。
「せめてあの炎さえ無効化できれば…!」
「あ、メノウさん!?」
ノザキの制止を振り切りメノウが二人の戦っている地点へと向かって走って行く。
それを見た隊長のイトウもその後を追う。
「ノザキ、お前はここに残ってろ!ヤツには何か策があるみたいだ」
カツミを炎の攻撃と斬撃に翻弄する中、二人がその場に向かう。
しかし近づくにつれて熱気が強くなる。
日も暮れた深夜だというのにもかかわらず、明るく照らされている。
カツミ達の戦う一帯のみが暗炎剣により発生した炎によって。
「アイツらの周囲一帯が炎の壁に包まれているのか、これでは入ることも出来ないぞ!」
イトウが叫んだ。
先ほどの地点からでは確認し辛かったが、カツミとミサキの戦っているエリアの周囲は炎の壁に囲まれていて侵入は不可能。
炎の勢いも強く、無理矢理通ることも出来ない…
「いや…それはどうかのぅ?」
「どういうことだ?」
「…こういうことじゃ!」
そう言ってメノウはその炎の中へと勢いよく飛び込んだ。
燃え盛る炎の中、メノウの姿は一瞬で見えなくなった。
しかし、メノウの身体か燃えたわけではない。
それを見たイトウも何かに気付いたようだった。
「幻狐、東方の悪戯狐…なるほど、そういうことか」
一方、カツミはついにミサキの攻撃により追いつめられていた。
炎によって生み出されたこの戦闘領域では圧倒的にカツミが不利。
スタミナの消耗も通常の数倍早く、ただ動くだけで意識か朦朧としてくる。
「体が…動か…ない…」
「凄いよぉ!ここまで私と渡り合うなんて!」
「ハッ…ば、かよ」
ミサキの言葉を聞くうちに、カツミはついにその場に倒れこむ。
この炎と幻惑の環境に適応しているミサキと違い、全く耐性を持たないカツミ。
これも致し方ない。
「まぁ、お前を始末したらさっさと南アルガスタを出るかな、『アイツ』も現れなかったし…ね!」
その言葉と共に、暗炎剣をカツミに向け振りかざすミサキ。
これで勝負がついた、そう思われた。
が…
「させんわ!」
「んなッ…!」
炎の壁を切り裂き、その間にメノウが割って入る。
そして、ギブズで固め包帯を巻いた右腕で剣を受けた。
突然の乱入者に驚くミサキだが、すぐに思考を切り替える。
「(少し驚いたけど、その右腕ごと二人とも斬っちゃえ!)」
暗炎剣の切れ味ならばたとえ岩の塊ですら、まるで果物でも切るかのように両断できる。
少女二人などその勢いのまま両断できる。
はずだった。
「…え?」
ミサキの予想は完全に外れた。
今、彼女の目の前にあるのは両断された二人の死体などでは無い。
あったのは…
「暗炎剣くんが…折れた…?」
真っ二つに折れた暗炎剣、そして切り裂かれたメノウのギプス。
そのギプスの下にあったのは、青い金属の装甲板だった。
以前戦った東アルガスタ四聖獣士の一人、シェンの率いていた飛竜型ハンターの外殻装甲。
それを密かに回収していたメノウが万が一のためにギプスの下に仕込んでいたのだ。
「この炎はお前さんの妖術と暗炎剣との『魔法攻撃』により発生した炎、ワシには通用しない!」
メノウには一部の例外を除き魔法攻撃は通用しない。
炎の壁、その正体がミサキの妖術により威力を増大させた暗炎剣の炎だと気付いたメノウだからこそできた行動だ。
妖術が消えれは、暗炎剣は精々刀身に熱を帯びさせる程度が限界だ。
しかし…
「剣は折れたけど、キミたちを斬るには十分すぎる長さだよ!」
そう言って再びミサキは剣を構えメノウに斬りかかる。
だがその攻撃も不発に終わった。
「させ…ない…ぞ」
カツミが最後の一撃を振り絞り、ミサキの腹に掌底波を放ったのだ。
残った体力を全て使い切った一撃だった。
「なに…グェ!?」
不意の一撃を喰らい、ミサキは数メートル吹き飛び気絶。
同時に、周囲に展開していた炎の壁も消滅、ミサキはイトウに取り押さえられ逮捕された。
それは午前一時丁度の出来事だった…
汐之ミサキ 性別:女 年齢:14歳
格好:炎と狐をモチーフとした柄を入れた着流し
人工の邪剣『暗炎剣』を所持する少女。
一見するととぼけた人畜無害な性格だが、その本性は残忍そのもの。
東方大陸の島国に伝わる『幻狐流剣術』を使用する。
好物は魚介類を使用した寿司。
彼女は一体、どこで暗炎剣を手に入れたのだろうか…?




