第四十話 不可解な謎
ゾット帝国二次創作流行らせコラ!
メノウたちが南アルガスタへ訪れた二日目。
再びこの街に衝撃が走った。
一日に二回の人斬りがあったのだ、それも当然のことだろう。
昨日の午後四時ごろに一回、そして夜にもう一回だ。
「『昨日二回の人斬り、シェルマウンド危うし』…か」
昨日はマーク将軍の屋敷で開かれた食事会で夕食を済ませたメノウ達。
その後は憲兵隊の屯所に戻り夜を明かしたのだった。
配達された新聞を読み、昨日の夜に怒ったもう一件の『人斬り』の事件について整理する。
新聞を囲む形でメノウとカツミ、ノザキが意見を出し合う。
「一日に二件…今までこんなことは無かったのに…」
ノザキが以前までの事件の資料を見ながら言う。
今まではどんなに多くても一週間に一回程度、このようなことは前代未聞だ。
事件の傾向が変わったのか、何らかの理由があるのか…?
「カツミ、新聞には何とかいてあるのじゃ?」
「…あ、そうか。この新聞は東洋文字だからな」
東洋文字は複雑な文字が多く、ゾット帝国内でも南アルガスタの東洋街の住民と東アルガスタの移民などの少数の者しか読み書きができない。
カツミは元々は東アルガスタの月影の村出身であるため一通りは読むことが出来る。
しかしメノウは普段使用する公用語と呪文などに用いるラウル古代語しかしない。
そのため新聞は代わりにカツミに音読してもらうことにした。
「すまんが、代わりに読んでくれんか?」
「ああ、いいぞ」
カツミによると、昨日の二つの事件は昼の事件と夜の事件でかなり特性が違うという。
まず昼の事件とは、メノウ達が紅の一派の根城を襲撃したあとに起きたあの事件だ。
こちらは今までの大多数の事件と同じく凶器の刀剣が事件現場に残されていた。
もちろん盗品であり足がつかないよう指紋なども全て消されていた。
「そして夜の事件の方の事件の記事の記述だが…」
夜の事件は犯人が、証拠を持った被害者を取り逃がすという失態を犯している。
今までの事件では犯人の姿を見た、あるいは見たと思われる犯人は全て殺されている。
そして、斬られたのみで命を奪われなかった者は生存している。
もちろん事件からの生存者は証拠など何一つ持っていない。
犯人特定の証拠が少なかったのもこれが原因。
犯人による、徹底した証拠隠滅だと言える。
「一方で夜の事件ではこれまで現場に残されていた凶器が無かった…」
今までの事件では、被害者の生死を問わず犯行現場には凶器である刀剣が残されていた。
実際、昼間の事件ではガンショップから盗まれた銃剣用の小刀が残されていた。
しかし、一方の夜の事件では凶器は残されていなかった。
「昼の事件では凶器が残されていたが、夜の事件では凶器が残されていなかった…とな…?」
「事件の傾向が変わった…と言われればそれまでだが…?」
「これまでの事件ではどんなことがあっても凶器は現場に残されていました、今回に限ってそんな…」
その点に少し何やら疑問を感じる一同。
確かにカツミの言うとおり単に事件の傾向が変わっただけなのかもしれない。
事件の頻度を上げるため凶器を毎回は捨てなくなった、などの理由も考えられるが。
とその時…
「あ、この夜の事件の方の被害者って…」
「どうしたんだ、ノザキさん?」
ノザキは新聞に書かれていたあることに着目した。
新聞には、この事件の被害者はとび職人集団『桜一家』の一人と書かれていた。
カツミは特に気にも止めず流し読みしていた部分だが…
「とび職人集団『桜一家』は南アルガスタにいる『紅の一派』の表の姿です」
「…つまり『紅の一派』=『桜一家』ってことか?ノザキさん?」
「カツミさん、その通りです」
被害者が紅の一派の構成員であるならば、昨日の昼間の事件を理由に半ば強引にだが取り調べができる。
少し悪い気もするが、被害者の入院している病院に行って話を聞くこともできる。
病院側には憲兵隊からの見舞いとでもいえばいいだろう。
「この被害者は街の中央病院に現在入院しているそうです」
「話を聞く価値はあるな」
「よし、行ってみるかのぅ」
そう言ってメノウ達は屯所を後にし中央病院へと向かった。
しかしそれを物陰から眺める者が一人…
「ふふふ、なにやら面白いことになっていますねぇ…」
メノウ達はその者の気配に気づくことは無かった。
自身の気配を街の雑踏に紛れこませていたのだ。
「では、行きましょう…」
気取られない距離程離れた後、その者はメノウ達の追跡を開始した。
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南アルガスタで最も規模が大きい医療施設である『シェルマウンド中央病院』。
この荒廃した時代ではあるが、大戦前の医療設備を修復した物や新たに開発した物を用意しているという。
かつては軍事目的で作られた化学研究所の施設を流用しているため、器具や薬品、資料なども多くある。
建物自体は古いが改装されているからか、外見からはその古さを感じさせない。
比較的清潔感のある方の建物と言えるだろう。
「昨日の事件で入院された方は364号室にいるようです」
「364号室ってことは三階か」
憲兵隊権限で病院の者から情報を聞き出したノザキ。
一般人であるメノウ達ではこうはいかない。
階段を上がり三階の364号室へ入る。
どうやら一人部屋らしい。
「…ん、誰か中にいるみたいじゃな」
中からは数人の声が聞こえた。
最初は見舞い人かとも思ったがどうやら違うようだ。
なにやら言い争いをしているようにも聞こえるが…?
「ちょっと失礼しますよ…」
ノザキが戸に耳を当て中の会話を聞く。
「ん、この声は…?」
「どうしたのじゃ?」
「あたしも聞いてみよ」
ノザキの反応に合わせメノウ達も耳を当てる。
中で話していたのは三人にとって聞き覚えのある者達の声だった。
それを知り、三人は遠慮なく部屋に入る。
「うお!な、なんや!?」
「あ、お前はサイトウ!」
「あんときの小娘二人か、ワイに何か用か!?
そこにいたのは昨日の事件の被害者である、桜一家棟梁であり、紅の一派の首領であるサイトウ。
メノウ達は新聞による情報しか得ていなかったため彼が被害者だとは知らなかったのだ。
身体の殆どを包帯で巻き、ベッドに固定されているなか、突然の来訪者に驚くサイトウ。
そして…
「よお、ノザキ。お前たちもこいつに目を付けていたか」
サイトウと共にいたのは、憲兵隊の一番隊隊長であるイトウだった。
上からの情報で被害者が紅の一派首領の男であることを知った彼は調査のためにここへやってきたのだ。
だが、彼はサイトウから証言を得ることはできなかったようだ。
元々敵対していた二人、貴重な情報をそう簡単に渡したりはしないだろう。
「そんなに犯人の情報が知りたいんやったら、『コレ』をぎょーさん持ってくることやな」
サイトウは指で輪を作り、笑いながら言った。
先ほどからこの調子で一向に調査は進まないという。
「なんとか口を割らせたいがそうもいかん、さすがに怪我人相手に強硬手段をとるわけにもいかんしな…」
「誰が喋るか、ワイの気は変わらんで!」
「喋ってはくれんのか?」
「緑色の小娘か、当たり前や!」
先ほど病室の外から聞いた声もこの一連のやり取りだったのだろう。
このままでは埒が明かない。
そう思ったメノウは、サイトウに『あの』魔法を使用した。
「デノイナテレワイ・トナスツウ・ハーキョ!」
古代語の詠唱と共に、メノウがサイトウの額に指先を当てる。
聞いたことのない言葉に戸惑うサイトウ。
イトウの横にいたノザキも何が何だかわからず困惑している。
そんな一同をよそに、メノウがサイトウに再び問う。
「もう一度聞くぞぃ、喋ってはくれんのか?」
「喋って…何が聞きたいんだ?…あれ?」
先ほどまでとは打って変わり、サイトウの強張った態度が一変した。
本意ではない行動に、本人も戸惑いを隠せぬようだ。
「これは一体…?」
「さっきの詠唱はメノウの魔法、『無色理論』さ」
カツミが言った。
この魔法は約束事などの思考のリミッターを外し、被術者の口を割ることが出来るのだ。
他にも多様な使い方ができるがこれが主な使い方だ。
「さぁ、昨日の夜の事件について全部話してもらおうかのぅ」
「ああ、何が聞きたいんだ?」
「ノザキ、メモを取れ」
「はい、隊長!」
メノウの魔法にかかったサイトウは昨日の事件の一部始終を語りはじめた。
人斬りの少女と出会ったこと…
その少女が『邪剣』を所持していたこと…
持っていた爆弾を使い何とか逃げ延びたこと…
「切り傷では無く火傷を負っていたのはそのせいか…!」
包帯の下の傷はほぼ火傷であり、古傷を除けば切り傷は全くなかった。
サイトウが一切話さなかったため、なぜなのかわからなかったがメノウのおかげで理由がわかった。
自身が持っていた爆弾を煙幕代わりにして逃げ延びたからだったのだ。
その代償がこの全身の大火傷というわけだが…
「あのガキはとんでもないヤツや…」
「それほどの腕前なのか」
「ああ、剣は交えてへんがわかるわ」
そう言うサイトウ。
しかしその後、彼は奇妙なことを口にした。
「ただ一つ気になることがあるんや」
「なんじゃ、それは?言うてみぃ」
メノウが問い詰める。
昨日、サイトウが出会った少女は『何かが違う』らしい。
姿こそ人間の少女だが、もっと大きな『何か』がある。
彼はそう語った。
無色理論下での会話であるため、冗談や嘘を付ける状態では無い。
これはサイトウ自身が感じた、嘘偽り無いものだ。
「ワイが言えるのはこれだけやな」
「そうか、礼を言うぞ」
これ以上、彼からは有益な情報もカタルシスも得られない。
そう思ったメノウはその場を後にすることにした。
カツミとノザキもそれを追うが、一番隊の隊長であるイトウだけはその場に留まることにした。
「メノウ、魔法の効果はどれくらい持続する?」
「そうじゃな…常人なら二~三時間という所じゃのぅ、イトウ」
「…それだけあれば十分だな」
イトウはこのついでに魔法にかかった状態のサイトウから、紅の一派に関する情報を一気に聞き出す気らしい。
彼らを病室に残しメノウ達は病院を後にすることにした。
病院前の自然公園を兼ねた広場で一旦状況を整理する三人。
サイトウから情報は得られたが、断片的過ぎるものばかりだ。
しかしそれだけの情報があれば、推理をするには十分だった。
「人工邪剣…か…」
人斬りがサイトウに使おうとしたのは『人工邪剣 ダークインフェルノ』という剣だ。
明らかにこれまでの犯行に使われてきた刀剣の類とは異なる。
そしてサイトウの感じた妙な気…
メノウの頭の中でこれまでの考えが一本の線のようにまとまっていく。
とそこへ…
「ふふふ、貴女たちも『アレ』にたどり着いたようですね…」
そう言ってメノウ達の前に『ある男』が現れた。
それはメノウがかつて出会ったあの男だった…
四十話以上続けようかな(死刑宣告)