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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2.5章 過去からの挑戦 決戦の南アルガスタ、再び!
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第三十八話 人斬りを追え!

東アルガスタへ向かう道中、再び南アルガスタのシェルマウンドを訪れることとなったメノウ達。

そこで彼女たちは憲兵団一番隊の隊長であるイトウから、このシェルマウンドで最近起きている『無差別人斬り事件』の話を聞かされた。

僅か五日間の滞在になるが、彼女たちはその事件の解決に力を貸すことになった。


「邪魔者も始末したし、情報収集にでも行くか」


店の前で暴れまわっていた大柄な男を倒したカツミが言った。

とりあえずアズサの案内の元に何か情報を得るため街へ繰り出そうとする。

しかし、大柄な男を警察に突き出すためアズサは店に残らないといけないらしい。

困り果てたメノウとカツミにイトウが救いの手を差し伸べた。


「事件の資料なら憲兵隊の一番隊の屯所にある。案内は俺の部下のノザキに代わりにさせよう」


「よろしくお願いします。ノザキと申します。屯所で事件について話しましょう」


「任せたぞノザキ」


イトウはこの後別の仕事があるため同行はしなかった。

しかし、彼の部下であるノザキがメノウ達を代わりに憲兵隊の一番隊の屯所へと案内することとなった。


「アゲ…馬は連れていっても大丈夫かの?」


「ええ、屯所には馬止めもありますので…」


本部はシェルマウンドの東洋街(オリエントタウン)の中心街にあるようた。

一年前とはずいぶん様変わりした街を見てまわるカツミとメノウ。

以前はゴーストタウン状態だった再開発地区も、徐々に建物が建てられているようだ。

前軍閥長の作った悪趣味な施設はほぼ全て取り壊されていた。


「どうですかメノウさん、以前のシェルマウンドとは雰囲気もかなり変わっていたでしょう」


「ああ、随分といい街になったみたいじゃな」


以前のシェルマウンドは住民のことなどまるで考えられていない、元軍閥長のために存在しているような街だった。

しかし今は違う。

今やこの街はゾット帝国内でもトップクラスの住みやすい地へと変貌していた。

それは、以前のこの街を知らないカツミでも理解できるほどだった。


「あたしは以前の街は知らないけど、結構この街は気に入ったぜ」


「ありがとうございます、そう言っていただけると嬉しいです」


そう言いながら街を歩くこと数十分、一番隊の屯所が見えてきた。

東洋的な作りの木造建築の平屋建て、しかし中々広いようだ。

剣や格闘技の修練のための道場があるのも確認できる。

この東洋街(オリエントタウン)に調和した建物のようだ。


「ここが屯所です、表門からどうぞ」


「結構広いのぅ…」


アゲートを馬止めに止め、中に入る。


「そこの戸を開けてすぐの一番左の部屋が客室になっています、僕は事件の資料を取ってきますので先に待っていてください」


屯所の客室へと二人を通すノザキ。

事件に関する資料を取りに行くといいその場を二人に任せた。

彼に通された部屋は畳が敷かれた八畳ほどの和室だった。

部屋の中央に置かれた机の周りに置かれた座布団の上に座る二人。

暫くしてノザキが資料が纏められた書物を持って部屋に入ってきた。


「これが事件の資料です」


ノザキの持ってきた数冊の書物には多数の情報が纏められていた。

それは新聞の切り抜きなどの一般の情報から、事件の第一発見者の証言、凶器として使われた刀剣の製作者など細かな情報まで様々。

事件前後数日の間にこのシェルマウンドへ出入りした人間や物品の情報などもあった。

しかしこれだけ多くの情報があるにもかかわらず、犯人に対する直接的な手掛かりは無いという。


「メノウさん、どうですか?」


「ほうほう、ふむふむ…」


資料を流し読みし、おおよその事件の流れを掴んでいく。

その後ろではカツミが凶器に使用された刀剣類の写真を眺めていた。

一通り資料を流し見たメノウ、僅か三十分足らずで資料の内容を全て頭に刻み込んでいった。

そこからさらに時間をかけ、頭の中で事件の内容について整理、仮説を立てていく。


「この事件、怨恨や窃盗の類などでは無いな。事件の傾向からしてまだまだ続くじゃろう」


この一連の事件に置いて、盗品などは殆ど無い。

数件だけ財布が抜き取られるなどはあったが…


「イトウ隊長と同じことを…」


「盗品というのは恐らくチンピラか何かが被害者から抜き取ったのじゃろう。人斬りの犯人が抜き取ったわけではない」


「なるほど…」


被害者は若い女性から老人、老若男女問わず。

中には陸軍の士官や東洋街(オリエントタウン)の剣道場の師範、旅の賞金稼ぎなども被害者リストに入っていた。

命こそ盗られてはいないものの、あえて大出血や強烈な痛みを発生させる斬り方がされている者がほとんどだった。

これらは非常に高い技術を必要とすることから、犯人は相当の手慣れであることが容易に想像できる。


「それにこの資料には…」


僅かな証拠品の写真などから仮説を立てていくメノウ。

その的確な指摘に驚くばかりのノザキ。

しかしそのメノウでもたったこれだけの資料から犯人を特定するのは不可能。


「お前さんたちの考えはとうなのじゃ?」


「僕たち一番隊支部は過激派組織である『紅の一派』が怪しいと睨んでいます」


「紅の一派?」


「なんじゃ、それは?」


「『サイトウ』という男が率いる、南アルガスタを根城に国家転覆を狙う輩です」


ノザキはそう言って資料がまとめられた本を取り出し二人に見せた。

どうやら『紅の一派』というのは正式名称が不明のため、憲兵隊の間で呼ばれている仮の名であるようだ。

表向きは大工や博打の元締めなどの仕事を請け負う団体だが、裏の顔は犯罪組織である。

紅の一派とは、この南アルガスタを根城にゾット帝国の国家転覆を狙う者達の集まりだ。

しかしその構成員はほぼすべてが単なるならず者。

単に国に対する不平不満を述べながら好き勝手に暴れまわるだけの集団らしい。


「なぁメノウ、この紅の一派って西アルガスタのディオンハルコス教団にすこし似ていないか?」


「ディオンハルコス教団のキリカ支部か…」


ディオンハルコス教団のキリカ支部は、宗教団体というのを隠れ蓑にしていた犯罪集団だ。

以前メノウとスート、ツッツにより壊滅させられている。

確かに表の顔と裏の顔を持つ犯罪組織という点では二つの組織は似ているかもしれない。

しかし紅の一派はあちらとは違い、大々的な活動はあまりしていない。

所詮、単なるチンピラの集まりに過ぎない紅の一派と犯罪組織であるキリカ支部とではスケールそのものが違う。


「ディオンハルコス教団のキリカ支部の事件は僕も知っています。しかし今回の事件のケースとは少し違うと思います」


「そうだよなぁ…」


カツミが資料を乱雑にめくりながら言った。

そこでふとあることに気が付いた。

ノザキの用意した資料には紅の一派についての記述が殆ど無いのだ。

あるのは違法賭博の取り締まりをした際に数名を捕まえた、無銭飲食の者を捕えたなどの比較的どうでもいい資料のみ。

これについてノザキに尋ねると…


「紅の一派が怪しいというのは現段階では憶測でしかありません。証拠も何もない以上調査もできませんし…」


「強制捜査とかもできないのか?」


「はい。そのような権限は現在の憲兵隊には…」


それならば別件の事件で構成員を逮捕し、その際に取り調べればないのか?

そうカツミが言うも、それもノザキに否定されてしまう。

紅の一派は構成員が非常に多く、街のチンピラの半数が所属していると言っても過言ではない。

さらに、ここシェルマウンド以外の地域にいる者達も含めるとその数はかなりの規模となる。


「その膨大な数の中から数人を捕まえ、無理矢理取調べを行ったところで証拠など得られるとは思えません」


「そうか」


なんとか紅の一派についての情報を得たいが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。

憲兵隊というのも意外と動きづらい組織なのだろう。


「つまりは『紅の一派についての情報を手に入れればいい』のじゃな…?」


「…メノウ、やるか?」


メノウとカツミが言った。

その言葉の意図を掴めないノザキはただ困惑するばかり。


「ノザキ、この資料によると紅の一派は再開発地区にある潰れた酒場を根城にしているらしいが…」


そう言ってメノウは紅の一派の構成員が再開発地区で起こした事件について書かれた新聞の記事をノザキに見せた。

事件内容は単なる窃盗事件、特筆すべきことは何もない。

しかし、その記事には手書きの注釈で紅の一派の根城がその付近にあると書かれていた。

恐らくイトウが書いた物だろう。


「ええ、いつもはそこにリーダーと取り巻きの男たちがいるようです」


「それならば話が早い!」


「いくか、メノウ!」


「え、ちょッ…!?」


戸惑いを隠せぬノザキを尻目に二人は屯所を飛び出し、アゲートを駆りある場所へと向かった。

向かった先は再開発地区にある紅の一派の根城と思われている酒場。

薄汚れたビルにある古い飲み屋をそのまま使用しているらしい。

遅れてノザキも屯所の馬を使いメノウ達に追いついた。

少し離れた工場跡にて、ビルを監視するメノウとカツミ。


「いったい何をする気ですか…?」


ノザキが訪ねる。

もっとも何をするかは彼も薄々気付いてはいるが…


「決まっておるじゃろう、アヤツらの根城に殴り込み…」


「証拠を探してくる。簡単だろう?」


この行動は『メノウ』と『カツミ』がするからこそ意味がある。

国家権力である憲兵隊は理由が無ければ大々的な行動をすることが出来ない。

それが今まで紅の一派を調査できなかった理由だ。

しかしメノウとカツミはあくまで『一般人』に過ぎない。

チンピラ相手に問題を起こしても特にお咎めなど無い。


「ワシらが騒ぎを起こし証拠を集める。その後憲兵隊が問題を起こした紅の一派の構成員を捕まえる」


「これでどうだ?」


「し、しかし…」


「お前さんは他の憲兵隊たちを連れてこい!乗り込むぞぃ、カツミ!」


「ああ!」


そう言ってノザキの制止を振り切りメノウとカツミが紅の一派の構成員がいると思われるビルへとなぐりこんだ。

古い扉を蹴破り中へと侵入する二人、部屋の中にかび臭い埃の臭いが充満している。

どうやら一階部分は通路以外使われていないようだ。

二階へと駆け上がり、人の気配がする部屋に勢いよく飛び込む二人。

厚手のカーテンで閉め切られた部屋には十人ほどの男がいた。


「な、何だぁ!お前らは!」


「殴り込みか!?」


部屋の中にいたのはいかにもチンピラといった風貌の男達。

こんな昼間から酒と博打に溺れる者、何かしらの不当な商売で得た利益を数える者、部屋の隅で寝ている者…

それらが一斉にこちらに向かって襲い掛かってきた。

一応は国家転覆を狙う過激派集団というだけはあり、部屋の中には刀などの武器が隠されていたようだ。


「お~怖いのぅ~」


「あたしが片付けるからメノウ、お前が何か証拠になるような物を探せ!」


しかし武装したところで所詮はただのチンピラに過ぎない。

カツミが片手を軽く振るだけで数人が吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「うおぉ!?なんだこいつ!」


「怯むな相手はガキだぞ!」


他の者達が襲い掛かるも、今度はカツミに一人ずつあしらわれていく。

ビルの窓を突き破り外へ放り出される者、床に強くたたきつけられそのまま一階へ落ちていく者…

その場に残った一人にカツミが詰め寄る。


「おい、お前!さっさと証拠になるような物をよこせ!」


「な、何の証拠だよ!?と、賭博か?武器の密輸か!?」


「とぼけるな!顔面切り裂くぞ!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」


これではどちらが悪人かわからない。

一方のメノウも別室を回って何か証拠になるような物を探していた。

しかし、裏賭博などの証拠以外は何も見つからなかった。


「あの人斬り事件はお前らの仕業だろ!答えろ!」


「知らない!そんなこと知らない!」


そう言い続ける構成員の男。

メノウが見る限りではどうやら嘘はついてはいないようだ。

と、とこにある男が現れた。


「お、お頭!」


「小娘らが、ワイの部下たちにエライことしとるけど、度胸あんなぁ。普通なら斬られとるでぇ」


男は金髪の逆毛で、額に長い紅いはちまきを巻き、頬に古い刀傷がある。

首に数珠を掛け、鞘に納めた刀を両肩に載せて、両手を鞘の上に載せている。

紅い桜柄の半被はっぴを羽織り、腹に白い腹巻を巻いている。

下は大工が穿くような黒いズボンで、黒い足袋に草履。


「…お前さんは?」


「ワイはこいつらの頭、『サイトウ』っちゅうもんや!覚えときや」


男は半被を半脱ぎし、メノウ達に背中を見せた。

そこには見事で勇ましい龍の入れ墨が彫ってあった。

その際、僅かに彼の身体が着物の間から見えた。

無数の斬り傷が刻まれた歴戦の『サムライ』の身体がそこにはあった。

今でこそならず者ではあるが、恐らく一昔前は有名な剣客だったのだろう。

剣の実力も相当なものに違いない。


「(サイトウ…ノザキが言っていた紅の一派の頭か…)」


部下がやられているというのにサイトウには全く焦りも怒りも感じられない。

やられたことへの恨み等よりも不甲斐ない部下への失望の方が大きいのだろう。


「単刀直入にきくぞ、サイトウ」


「なんや?緑色の嬢ちゃん?」


意外にもサイトウは素直にメノウの言葉に応じた。

戦っても無駄だと思ったか、それとも…?


「お前さんは『無差別人斬り』事件について何か知っているか?」


メノウが尋ねる。

しかし、サイトウはその問いに対し首を横に振る。

彼の目を見るメノウ。

…嘘は付いていないようだ。


「あれほどの剣の腕を持っとんのは、この南アルガスタでワイだけ。そう考えたやろ?」


「いや、別に…」


「まぁええわ、それより今回の事件は本当にワイらは関係ないんや」


「…」


と、そこまでメノウとサイトウが話をした丁度その時、部屋の中に息を切らせたノザキが入ってきた。

何やらひどく慌てているようだが…?


「め、メノウさん!中心街で再び人斬りが!」




名前:ノザキ 性別:男 一人称:僕 年齢:十七

憲兵隊一番隊に所属。

メノウ達の案内を任された。

剣の腕は平凡。

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