第三十五話 カツミの記憶
二章終わったらとりあえずまた設定集的なのを書こうと思うのですが、案が思い浮かびません。
こうしたらinじゃねーの?的な案があれば教えていただけると嬉しいです。
メノウが目覚めたとき、既に時刻は深夜零時を回っていた。
数日間寝続けていたため食事をルームサービスで注文しようと思ったが時間が悪かった。
一応、料理は注文出来るがあまり手の込んだものは作れないという。
軽食程度の物しか用意できないため、とりあえず注文できる可能な限りの料理を注文した。
そして十数分後…
「結構な量だな…」
運ばれてきた料理の数々をみて驚きの声を上げるカツミ。
出てきたのはサンドイッチやフライドポテト、パスタと言った物が殆どだった。
現在、列車で使用されている主要な調理器具は、明日に提供される料理の仕込みのために使用されているらしい。
そのため、この時間帯になるとどうしても簡易的な物しか作れないようだ。
ちなみにこの列車にはカフェも用意されているので、そちらでもこれらの料理は食べられる。
「この程度、へでもないわ」
「本当かよ」
用意された食事は軽く十人分はある。
この数日の抜かれた食事を取り戻すかのように次々と目の前の食事を口の中に放り込んでいく。
「あたしにも少しくれ」
「ほい、カツサンド」
右手のフォークでパスタを突き刺し巻き取り、左手でカツサンドをカツミに投げつける。
受け取ったカツサンドを頬張るカツミ。
しかし一口食べたところで、ふと気になることがあった。
それはメノウの左腕についてだ。
数日前の戦いのせいで左腕はズタボロになっていたはずだった。
しかし今のメノウの左腕はその時の傷からは想像できないほど普通に動いている。
「メノウ、もう左腕は大丈夫なのか?」
「腕か?ああ、ある程度は大丈夫じゃ。完治はしていないがのぅ」
腕を軽く回しながらメノウが言う。
既に傷は殆どふさがっており、その傷跡を包帯で隠しているような状態だ。
一時期は飛竜型ハンターのせいで引き裂かれ、腕の内部の骨が露出していたほど。
しかし、数日たった今ではそれも治っている。
この特異な治癒能力を見た者は大抵驚くものだが、カツミは違った。
「回復がやけに早いが、それも魔法が関係してるのか?」
「まぁ、そんなところじゃな~」
正確には少し違うのだが、説明すると長くなってしまうので『魔法』ということにしておいた。
それを聞き納得したのか掴んでいたカツサンドの残りを口に放り込むカツミ。
何気なしに窓の外に目をやると、ある物が彼女の身にうつった。
「嫌な月だな…」
カツミが小声で呟く。
山の間から覗く月は綺麗な三日月、何にそのような嫌悪感を示すのかメノウには理解できなかった。
「何が嫌なのじゃ?」
「…あの月を見ていたら、『アイツら』が来るような気がしてな」
それを聞き、メノウはそれ以上の詮索をしようとはしなかった。
今のカツミの声色などからして決していい思い出などでは無いだろう。
誰にでも話したくない過去はある、それを察し、メノウは深い追及はしないと決めた。
しかし…
「いい機会だ。メノウ、少し話し相手になってくれないか?」
「…無理に話さなくてもいいのじゃぞ」
嫌な記憶だとするならば、それ話すのは本人にとって苦痛以外の何物でもないはずだ。
これまでのカツミの経歴などはメノウには分からない。
十五歳という年齢で盗賊をしていたことから察するに、決して人並みの人生を送っていたとは言えないだろう。
それにもかかわらず、カツミはメノウに聞いてもらうことを選んだ。
「メノウ、この話はお前に聞いてほしいんだ」
「なぜじゃ?」
「あたしってさ、これまで『仲間』って呼べるヤツがいなくてさ…
裏切ったり裏切られたり…
気を許せるヤツってのはメノウが初めてだったんだよ」
「ほう…」
「それにさ、メノウと一緒にいると安心するというか…
落ち着くっていうか…
だからこそ、聞いてもらいたいんだ」
メノウは黙って頷いた。
カツミは軽く礼を言うと三日月にまつわる『過去』を語り始めた。
「あたしは東アルガスタの山奥にある『月影』という村で生まれたんだ…」
カツミによると、月影村は東方大陸からの移民やその子孫が住む村らしい。
使用される文字も東方大陸の物がそのまま使用されている。
これを聞き、メノウは南アルガスタに会った東洋街を思い出した。
やはり、東アルガスタはあの町と同じような雰囲気を持つ地なのだろう。
「月影の村は平和で豊かな村だった。今でもはっきりと思い出せるよ…」
月影の村は大戦後に作られた村である。
そのため近代化はされておらず、電気も通ってはいなかった。
畑や水田が広がり、人と動物が共存していたという。
「あたしは道場主である父の下で育てられた。格闘技の基礎もそこで学んだ」
月影の村で生まれ、家族にも境遇にも恵まれていたカツミ。
勉強はあまりできなかったが、格闘技のセンスは抜群だった。
このままずっと平和なまま時が流れていくと思われた。
「全てが変わったのはあの日、今日みたいな三日月の日だった…」
カツミが七歳の誕生日を迎えた丁度その日、月影の村は滅びた。
最新兵器で武装した兵士たちが突如、村を強襲した。
村人も当然抵抗したが彼らは所詮一般人。
抵抗むなしく、一夜にして月影の村は滅びたのだった。
「父はあたしを逃がすため奴らと戦った、もう生きてはいないだろうな…」
カツミはただ一人、村の生き残りだった。
村の川から下流まで流され、何とか生き延びたのだ。
「なぜ襲われたのじゃ?一体誰がそんなことを」
「理由は分からない。だが、その強襲部隊を率いていた男ならば知っている…」
成長したカツミはその村の出来事について徹底的に調べ上げた。
表向きは山火事による悲劇ということになっているようだが、それが偽りであることは彼女が一番知っている。
月影の村を襲った男、それは…
「西アルガスタの支配者『ジョー』、ヤツがあたしの村を襲ったんだ」
月影の村のあった東アルガスタとは対極の位置に存在する西アルガスタ。
その支配者のジョーが月影の村を襲ったという。
理由は分からないが、どうせ兵器の実験か何かだろう。
カツミの父は最期、ジョーに戦いを挑んだ。
娘であるカツミを逃がすために。
「唯一逃げ延びたあたしは下流にある寺院に拾われた…」
カツミはその寺院で激情の『開陽拳』を学んだ。
疾風を操り、幻空と現空の差圧によって万物を切り裂くという東洋の秘拳。
それを彼女は僅か十一歳の時にマスターした。
普通ならば習得までに十五年はかかると言われている。
それを可能としたのは天才的な格闘センス、そして復讐心だった。
「開陽拳を学んだあたしはそれを完全習得するとすぐに寺院を出た、村を滅ぼした奴らに復讐するために…」
その後のカツミの生き様は凄まじいものだった。
復讐のためには手段を選ばず、あらゆる手段を使って金と情報を集めた。
人こそ殺さなかったが、それ以外の犯罪にはほぼ手を染めたと言っていいだろう。
ゾット帝国の各地を旅をしながら、同じ旅人から金を巻き上げる。
傭兵として戦うこともあれば盗賊として悪事を働くこともある。
「けどそんな生活を続けているうちに『自分』が『自分』でなくなるような気がしていた…」
カツミが悪の道に進むうちに復讐心はより増大していった。
そんな時、彼女はメノウ達と出会った。
「最初はメノウ、お前を変なヤツだと思ってたさ。けど…」
ツッツとの会話を見れはすぐにわかる。
メノウはただの変な喋り方の少女では無い。
「こうしてメノウ、お前と一緒にいると悪事に手を染める以前に戻れた気がするんだ」
それがカツミの感じた『安心』の元だった。
メノウと共にいると、不思議と心が安らぐ。
彼女はカツミが初めて『友』と呼べる人物だった。
「だからさメノウ、これから…あッ…」
話しに夢中になっていて気付かなかったが、メノウは机に顔を伏せ既に眠っていた。
怪我人相手にこれだけ長い話をしていたのだ、無理も無い。
カツミは黙ってメノウに毛布を掛けた。
とその時…
「…大丈夫じゃ、全部聞いておったよ
こんなワシでよければずっと一緒にいてやるわ」
虚ろな目をこすりながら、メノウが言った。
「…そうか、ありがとう」
カツミは窓のカーテンを閉めた。
三日月の光に邪魔をされたくなかったから…