第三十四話 メノウの記憶
若干グロ&リョナ注意かもしれんわ、もしくは違うか。
どっこいどっこいやな、どっこいどっこい。
今回の話は大人向けやね。
「ここは…?」
気付くとメノウは暗闇の中にいた。
どこにいるのかは分からないが、背中の感触から冷たい石畳の上にいるのは分かった。
布の感触が無く、いつものローブは何故か着ていない。
一糸纏わぬ状態で、石畳のような場所に仰向けで寝ているような状態になっている。
先ほどまで東アルガスタ四聖獣士の一人、シェンと戦っていたはずだがその後の記憶が曖昧になっているのだ。
しかもなぜか身体の自由もきかない。
「誰か…いないのか…?」
身体中に力が入らず、言葉も満足に出ない。
かすれたような声がなんとか出た程度だ。
しかし、まるでその声に呼ばれたかのように、メノウの周囲に人が数人集まってきた。
ここで気付いたが、どうやらメノウは石の台のような場所に寝かせられていたようだ。
『--竜--殺--』
『水---骨--』
暗闇の中にも関わらず、その者達は何らかの作業を的確にこなしていく。
会話をしているのも聞こえるが、断片的過ぎて彼女には理解できなかった。
何も見えない暗闇の中、たった一つだけメノウの眼に写った物があった。
「なッ…!」
『--裂--取り--』
それは小型のナイフのような刃物だった。
暗闇の中、それを持つ者の腕だけかはっきりと見えた。
メノウには不思議と、その者か刃物で何をするのかが理解できた。
「や…め…」
メノウのかすれた声など気にも留めず、その者は刃物をメノウの左腕に深く突き立てた。
腕の骨に当たり、刃は貫通せずに止まる。
しかし、そのまま刃物を縦に引きメノウの腕を切り裂いた。
その一連の行動を作業的に淡々とこなす、その者。
「ぎぃやぁあぁぁぁあぁぁぁッッッ!」
今まで声が殆ど出なかったメノウだったが、あまりの激痛に出せる限りの叫び声を上げる。
石の台にメノウの鮮血が広がっていくのが見える。
傷口を無理やり広げる、その者。
血はその間にも流れていき、台下の石畳に滴り落ちていく。
「ぐぁああぁぁぁあッッぎぃぃぃ!」
『--下に--いれ--』
左腕だけに留まらず、刃物を持つ者の手は下半身にものびていく。
別の人物がさらに突き立てる。
『ああぁぁッッ!キツッ!キツッ!キツイ!』
カリカリカリ…
カリカリ…
「ひぎぃぃぃぁああああ!やめろおぉぉぉ!」
カリカリカリ…
カリカリカリカリカリカリ…
メノウの暗闇を切り裂くような叫び声が辺りに響き渡る。
それに呼応するかのように周囲の景色が歪んでいく。
そして…
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「おい!メノウ!大丈夫か!起きろ!」
聞き慣れた少女の声と共に、目の前の景色が霧のように消えていく。
次の瞬間メノウの眼に写ったのは先ほどまでの地獄のような光景では無かった。
「よかった、凄いうなされているみたいだったから心配したんだぞ」
その声の主はカツミだった。
メノウはクッチャ・ピッチャ・ニッチャ号の一室にあるベッドで寝かされていた。
シェンとの戦いで受けた傷には包帯が巻かれており、治療の跡が確認できた。
先ほどの光景は夢だったのか、そう思い刃物で切り裂かれた部分を触ってみるも傷は無かった。
「悪夢でもみてたか?」
「カツミ…ここは…どこじゃ?」
「寝ぼけてるのかよ、列車の中だぞ」
カツミの話によると、あの後メノウはヤーツァから奪った中型獣型ハンターに乗り列車に戻ってきた。
しかし、戦いの傷のせいで意識が朦朧としており危険な状態だったという。
「乗客の中に医者がいてな、治療してくれたんだよ」
「そうじゃったか…後で礼を言わないとな…」
「まぁ、意識が混濁するのも無理はないか。ここ数日間、ずっと寝続けてたんだからな」
「数日間もか!」
今まで気づかなかったが、窓から見える外の景色は既に荒野では無く山岳地帯になっていた。
時刻も夜になっている。
数日間ずっと寝ていたことに信じられず、メノウは動揺を隠せない。
「まぁ、あの一日の間にあれだけの出来事があればそうなっても仕方ないさ」
思い返せば、あの日…
いや、港町キリカに来てからだろうか。
メノウは多数の事件に巻き込まれてきた。
スートとの出会い…
ディオンハルコス教団キリカ支部…
大型肉食恐竜型ハンターとの交戦…
東アルガスタ四聖獣士『朱雀』ザクラとの邂逅…
ツッツ誘拐…
ジョーの暴走…
ヤーツァ・バッタリー一味との戦い…
そして、東アルガスタ四聖獣士『青龍』シェン…
「そうじゃったな…ここ最近いろいろな出来事があったわ…」
「最近…?」
「そうか、カツミには話して無かったな…」
カツミはメノウが大型肉食恐竜型ハンターと交戦した日に仲間になった。
それ以前のことはよくは知らないのだ。
「ほれ、港町キリカに趣味の悪い建物があったじゃろ?」
「…ああ!あの時のか!」
「あれはディオンハルコス教団キリカ支部といってな…」
二人が大型肉食恐竜型ハンターと交戦し、ザクラにツッツが攫われた直後に見たあの建物。
それがメノウの言うディオンハルコス教団キリカ支部だ。
メノウはカツミにディオンハルコス教団キリカ支部での事件を話し始めた…
「あれは魔術師スートとの出会いがきっかけじゃったな…」
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あの日、メノウとツッツは港町キリカの外れで宿泊する宿を探していた。
ディオンハルコス教団キリカ支部を通りかかった時、彼女たちはその男と出会った…
『なんですか?これ?』
『さぁ…?趣味悪いことで…』
あまり見ていて気分のいいものではない。
それよりも宿泊する場所を探すのが先だ。
そう思い、その場を離れようとする二人。
しかしその施設の正門から離れようとしたその時…
『あ、門が開いた』
門が開き中から一人の男が、大柄な男に抱えられながら出てきた。
そして、大柄な男はその抱えていた人物を外に放り投げた。
放り投げられた人物は、白いローブを纏った中性的な見た目の男だった。
『二度と来るな!』
怒号を浴びせると大柄な男はメノウ達には目もくれずさっさと門を閉めた。
見たところ先ほどの大柄な男はあの施設の関係者だろう。
彼の着ていた装束のデザインの意向がこの施設全体に施されている物と同じだった。
しかしこのつまみ出された人物はいったい何者なのだろうか…?
『だ、大丈夫ですか…?』
ツッツがアゲートの背から降り、つまみ出された彼に駆け寄る。
擦り傷などを除けば特に目立つ怪我などはしていないようだった。
『え、ええ。大丈夫です』
壁に手を着きながらよろよろと立ちあがる男。
ツッツはどこか彼からメノウと同じような雰囲気を感じた。
恐らく、彼とメノウの服装が少し似ていたからだ。
二人とも白いローブをその身に纏っている。
長旅にはちょうどいいファッションなのだろうか。
そう考えつつ、彼に手を貸すツッツ。
『無理しない方がいいですよ』
『ありがとうございます。けど本当に…』
そう言い残しその場からそそくさと離れようとする男。
しかしその足取りはおぼつかず、今にも倒れそうなほどふらついている。
見かねたメノウはアゲートの後ろに乗るように言った。
このまま怪我人を放っておくわけにもいかない。
だが、さすがにアゲートに三人の人間を乗せることはできない。
ツッツは下に降りての歩きになってしまうが仕方がない。
『狭い馬上じゃが、我慢してくれ』
『僕は歩きますから』
『本当に申し訳ない…』
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「これがスートと初めて会った時の出来事じゃ」
「ボロボロにやられてるけどスートって兄さん、強いのか?」
「高等魔術師スート、その魔力は並みの魔術師程度では歯が立たんわ…」
スートが本気を出せば並の人間など赤子も同然。
さらに、王都ガランで魔法を学んでいたという天才魔術師『ピアロプ・トロシード』ですらかなわない。
逮捕から脱走したピアロプを再び捕まえることが出来たのもスートがいたからこそだった。
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宗教家という皮を被り様々な悪事を働いていた魔術師ピアロプ・トロシード。
一旦は警察隊に逮捕されるが、電子手錠を電脳溶解の魔法を使い解除。
パトカーを奪い逃走していた。
逃亡しているピアロプを許すわけにはいかない。
メノウはアゲートを駆り、スートはホバーボードを使いピアロプを追っていった。
借りた警棒を構え、魔法を使用する構えを取るスート。
『生視噴射と指砲切断、そしてウォーターボールの重ね魔法!』
『重ね魔法じゃと!』
スートは三種の魔法を同時発動するという驚愕の手に出た。
それぞれが全く種類の異なる魔法を同時に発動するのは至難の業。
高度瞑想中ならば不可能ではないかもしれない。
しかしそれをホバーボートでの移動中にやってのけるのは、現代の並の魔術師ではまず不可能といっていい。
』生視噴射でピアロプを探し指砲切断で遠隔攻撃!それと同時にウォーターボールによるジャンボシャボン玉でツッツさんの安全も確保する!』
生視噴射は生物がどこにいるかを遠隔透視することができる。
その後に使用した指砲切断は先ほども使用した精密、高威力の切断技。
相性は抜群だ。
『手ごたえあり…!』
スートが叫ぶ。
どうやら遠隔魔法攻撃は見事当たったようだ。
しかし、移動中に高度な魔法を使用したことにより彼の体力は大きく減ってしまった。
ホバーボードから転げ落ちるスートを、アゲートから降りたメノウが受け止めた。
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「…その後、ワシがピアロプを捕まえたんじゃ」
「魔法か…あたしは苦手だな…」
「そう言えば、カツミと初めて会ったときもやけに警戒しておったのぅ!」
メノウか笑い転げながら言う。
そしてカツミと初めて出会ったあの日のことを思い出しながら語り始めた…
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ツッツの村センナータウンから、砂漠の交易都市イオンシティへと向かう道中にメノウ達とカツミは初めて出会った。
東洋武術を使う盗賊少女カツミと交戦することとなったメノウ。
カツミの放つ斬撃波は確かに厄介。
近接戦闘に持ち込んだとしてもその斬撃波を警戒しながら戦わなければならない。
ならば…
『久しぶりに魔法を使ってみるか…!』
そう言うと、メノウが小声で何かの呪文を詠唱する。
『(魔法の類!?やばい!)』
カツミはそれを見て速攻で勝負を仕掛ける。
魔法の種類によってはこのまま持久戦に持ち込まれる恐れがある。
仮に回復魔法や風を打ち消す魔法などならばカツミ側に不利になる。
斬撃波ではなく、掌底からの衝撃波によりメノウを気絶させようと目論むカツミ。
一瞬でメノウの間合いに入り衝撃波を放とうとするが…
『魔法…やっぱりキャンセル!』
『なッ…!?』
呪文の詠唱を突如止め、メノウはカツミに強烈な一撃を放った。
元々高速戦闘が得意な彼女に魔法を当てられるとは思っていなかった。
そして真の目的であるこの一撃への囮として使った。
もっともここまで魔法を警戒してくるとは想定外だったが。
何とかその拳を受け止めるが、更なる連撃がカツミを襲う。
『(対抗手段が追いつか…ない!)』
初弾を止めても後続の攻撃をまともに喰らってしまう。
メノウの放つ全ての攻撃を避ける手段は無い。
全身に複数の拳を叩きこまれ、数メートルの距離を吹き飛ばされてしまう。
さらに追撃とばかりに距離を詰めるメノウ。
この攻撃を避ける手段は無い…
『ならば避けない!』
メノウの拳が直撃する瞬間、カツミは掌底からの衝撃波を放った。
それにより二人が吹き飛ばされ、改めて間合いを取る。
お互いのポジションは最初の位置に戻った。
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「いくらなんでも魔法にビビりすぎじゃ」
「魔法なんて噂でしか聞いたことが無かったからな、どんな攻撃かも想像がつかなかったからな…」
魔法は詠唱時に隙が生じるため戦闘に使用するのは不向きなのだ。
事実、スートは移動中に使用しているしメノウも戦闘中に魔法はよほどのことが無い限り使用していない。
魔法と戦闘の相性を知っていれば、カツミは掌底波など使用しなかっただろう。
「魔法はそこまで万能でもないんじゃよ」
「そうなのか、しかし警戒することに越したことは無い」
「じゃったら、魔法が効かなくなる方法教えてやろうか?」
「そんなことできるのか?」
「そう言う魔法があるのじゃ、今度教えてやろう」
「本当か!?」
「ああ、ワシのケガが治ったらな」
そこまで話した二人だったが、ふとメノウの腹の音が鳴った。
数日間寝続けていたため何も食べていないのだ、それも仕方が無いだろう。
「…とりあえず何かたべようかの」
「…どうせ料金は切符代に含まれているからな」
裕P先生と実際に会って話した方によると、先生はどうやら両親にパソコンを取り上げられてしまったようですね…
裕P先生によるゾット帝国の公式続編は絶望的かもしれません。
でも二次創作は盛んですよ、初見さん。
裕P先生も草葉の陰で喜んでいるでしょう。




