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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2章 西の支配者と東の皇
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第三十二話 西アルガスタからの旅路(中編)

「…なるほど、ハンターについては大体分かった。礼を言う」


そう言って器に入っていた水餃子を全てのみ込むカツミ。

食事を終え、空いた食器を全て部屋の隅に寄せる。

あとで係の人間が来たときに下げてもらおうというわけだ。


「お、いつの間にか窓の外が…」


ふと窓から外を除くメノウ。

そこに広がっていたのは荒野地帯。

どうやら既にキリカの周囲を抜けており、現在はズール砂漠の近くを通っているようだ。

ズール砂漠と言えば、以前ツッツと訪れた砂漠の交易都市イオンシティのある地。

そしてさらに進めばカツミと最初に戦った荒野、そしてツッツの村センナータウンがある。


「数日間、列車はこのまま荒野を走るみたいだな」


「数日…か…」


「そして荒野を抜け山岳地帯へ入り、森林地帯へと入る」


メノウにとっては今までの旅路を逆に戻っていくような道順。

その道をたどり、まだ見ぬ地『東アルガスタ』へと彼女たちは向かっている。

すこし懐かしさを感じつつ、新たな地への期待を隠せない。

ツッツが攫われていることを考えると少々不謹慎なのだが、それでもこれは元来のメノウの性格からくるもの。


「(東アルガスタ…一体どんな場所なんじゃ…?)」


以前聞いた話では、東アルガスタには東方大陸からの移民が多いらしい。

南アルガスタの中央都市、シェルマウンドにあった東洋街(オリエントタウン)は東アルガスタの移民が多く住む町だった。

おそらく、東アルガスタの街もあの東洋街(オリエントタウン)と同じような感じなのだろう。


「まぁ、東アルガスタに着くまで結構な日数がかかるんだ。焦らずゆっくりしようじゃないか」


「そうじゃな…」


腹が膨れて少し気が楽になったのか、部屋に備え付けのベッドに寝転がるメノウ。

こうして寝ていても、やはりここが列車の客室とはとても思えない。

さきほとも感じたことだが、改めてそれを思い知らされる。

しかし、それもほんの束の間のことだった。


メノウとカツミの安息を遮るように、それは突然訪れた。


どこからかガラスの割れる音がした。

一つ二つなら偶然で済んだだろう、しかしそんなものではない。

数十枚のガラスが一気に割れた音だ。


「何事だ!」


そう言って客室を飛出すカツミ。

感覚を研ぎ澄ましてみると、列車の周囲を多数の殺気が囲っているのがわかる。

さきほどまで食事をしていて気付かなかったのだ、これは大きなミスだ。

列車の車両連結部から顔を出し辺りを見回す。

その眼前に広がる光景に彼女は絶句した。


「な、これは…」


カツミの眼前に広がる光景…

それは青灰色の狼のような魔物の群れだった。

しかもそいつらはこの列車を取り囲むように群れを作っている。

その数およそ二十はくだらないだろう。

しかもそのうちの半数、十体ほどには盗賊と思われる人間が乗っている。

先ほどのガラスの割れた音はこの盗賊たちが行った投石や投鎖によるものらしい。


「狼か!?いや、それにしては…」


「あれは小型獣型ハンターじゃ…!」


「あいつらもハンターなのか!」


「ああ、しかし量が多すぎる!これだけのハンターはワシも見たことが無いぞ!」


メノウが叫ぶ。

それと同時に、彼女たちに避難を促しに来た客室乗務員と鉢合わせしてしまった。


「お客様、早く安全な場所へ!奴らは、あの『バッタリー一味』です!」


「バッタリー一味…?なんじゃそれは…」


「ヤーツァ・バッタリー率いる凶悪な列車強盗団です!」


西アルガスタ一帯の鉄道を襲う列車強盗団のリーダー、それが『ヤーツァ・バッタリー』だ。

もう一度盗賊たちの群れを見ると、一人だけ小型獣型ハンターではなく中型獣型ハンターを駆る男がいた。

中型獣型ハンターは馬に似た姿をしているが、そのおかげなのだろうか一際スピードが速い。

客室乗務員に確認を取ったところ、どうやらあの男がヤーツァのようだ。


「あたしは聞いたことあるぞ、西アルガスタ一帯を根城にする盗賊だな…」


「そうです、しかしヤーツァと共にいるあの狼の大群は一体…?」


客室乗務員の言う狼とはつまりハンターなのだが、そんなこと彼は知る由も無い。

しかしどこでヤーツァはあの小型獣型ハンター達を従えたのだろうか。

彼は元西アルガスタ軍所属の優秀な銃士だったが、軍の兵器を別の地区に大量に横流し。

自身も大量の兵器と金と共に脱走。

現在の『バッタリー一味』を築いたという話は西アルガスタでは有名な話だ。


「列車後部の貴重品保管車の連結を外せ!そうすれば命だけは助けてやる!」


拡声器を使い、ヤーツァが自分たちの要求を言った。

もし要求を飲まなければ魔物を列車に突撃させ、破壊するとも。

彼の部下の乗る小型獣型ハンターの体躯は2メートルほど。

しかし、ヤーツァ自身の駆る中型獣型ハンターはそれより一回り大きい3メートルはある。


それほどの体躯の魔物が列車とほぼ同じスピードで走っているのだ。

列車内の他の一般人から見たらそれは恐怖の後継でしか無いだろう。


「あのヤロ~好き勝手言いやがって…」


「カツミ…!」


「ああ、ヤーツァからハンター共の出所を聞きだす必要があるな…」


先ほどの追跡者の操る大型肉食恐竜型ハンター、そしてヤーツァ達の率いる小型獣型ハンター部隊。

それはいったいどこからやってきたのだろうか?

ラウル古代遺跡にしかいないと言われる小型獣型ハンターを何者かが捕獲し改造。

それを利用している…?

謎は尽きない。

それを聞きだすため、メノウ達はヤーツァの率いる盗賊と小型獣型ハンター達に先制を仕掛けた。


「あ、お客様!?」


客室乗務員の制止も聞かず、メノウが小手調べとばかりに最も近くにいた小型獣型ハンターに飛び移る。

列車のスピードと小型獣型ハンターの走行速度はほぼ同じ、彼女ならば造作もないことだ。

疾風にその長い髪とローブを靡かせ、飛び移った先の小型獣型ハンターの頭部を思い切り踏みつぶす。

さらにその際の衝撃を利用し別の小型獣型ハンターに飛び移る。


「な、なんだ!?」


「いきなりガキが!」


近くにいた小型獣型ハンターに乗る盗賊の男達が叫ぶ。

あまりにも突然の出来事に驚きを隠せないようだ。

それを無視し、その二人を蹴飛ばすメノウ。

二人は叫び声を上げなから地面に転げ落ちていった。

カツミも同じく小型獣型ハンターを足場に盗賊へと襲い掛かる。

盗賊たちの頭上から数人を纏めて蹴り飛ばす。


「落ちろ!」


「ヒェッ…!」


「ああ、ここから逃れられない!」


「落ちたな…」


馬上の不利ならぬ、獣上の不利。

このような超接近戦ともいえる状況ともなると盗賊たちに反撃の機会など無い。

どうやら小型獣型ハンターを駆る盗賊自体はそこまで強くは無いようだ。

これならばすぐに殲滅できるだろう。


「チッ、なんだ?あんな小娘どもが用心棒としているなんて聞いてないぞ?」


そう言いながら、その光景を見ていたヤーツァは腰のホルスターからオートマチック銃を取り出す

同じ轍を踏まぬよう二人からある程度距離を取るよう中型獣型ハンターを少し後退させる。

ただのオートマチック銃では無い、在軍時代に特殊な改造を施したものだ。

ブレを電子制御で無くし、命中精度を極限まで高める。

ヤーツァがこの改造オートマチック銃を撃てば、馬上や車上からの射撃でも地上での射撃とそう変わらない精度になる。


「(小娘だからと言って手は抜かん、その頭打ち抜いてやる…)」


そう言ってメノウの頭にオートマチック銃の銃口を向けるヤーツァ。

いくらメノウとはいえ、オートマチック銃による不意の一撃を受けてはたまったものではない。

ヤーツァがゆっくりとオートマチック銃の引き金に指をかける。

しかし…


「させんぞ!」


カツミが斬撃波でヤーツァの持つオートマチック銃をバラバラに切断した。


「何ィ!?だがまだ…」


カツミの攻撃にも動じずヤーツァは自身の持つもう一つの銃、ポンプアクションショットガンを取り出そうと手を伸ばす。

だが、それも無駄に終わった。

次の瞬間、彼の腹にメノウの拳の一撃が入ったのだった。


「うげぇ…!」


情けない声を上げ、中型獣型ハンターの背中で気絶するヤーツァ。

ヤーツァには懸賞金が掛っているため、カツミはあえて突き落さなかった。

しかしその時、彼の率いていたハンターたちは皆徐々に自身の走る速度を落とし始めた。

今メノウとカツミが足場にしている、ヤーツァの中型獣型ハンターも同じだ。


「なんだ!?」


「司令塔のヤーツァが気絶したからじゃ…!」


メノウ達を追跡して来た、大型肉食恐竜型ハンターを操る追跡者は大型肉食恐竜型ハンターの死と共に致命傷を負った。

それと同じく、ヤーツァが気絶してしまったため彼の操っていた獣型ハンターも動きを止めようとしているのだ。

しかし、先ほど何体かの小型獣型ハンターを破壊したがヤーツァ自身は特に傷を負っていない。

小型獣型ハンターはあくまで端末ということだろうか。


「このままだと列車に置いてかれるぞ!」


速度がだんだん遅くなる獣型ハンター達。

一方、列車はその速度を維持し二人との距離をさらに離していく。

このままではカツミの言うとおり、この西アルガスタの荒野に置き去りになってしまう。

それを防ぐべく、メノウは更なる手を打つ。


「分かっておる!電脳溶解サイバー・ソリューション!」


メノウの魔法詠唱と共に、動きを止めかけていた中型獣型ハンターは再び走り出した。

電脳溶解サイバー・ソリューションは電子機器を操るハッキング魔法。

簡易的なプログラムで動くハンターならこれで操ることが出来る。

以前出会った旅人『スート』から教えてもらった魔法だ。

王都ガランで開発された魔法であるため、ディオンハルコス教団キリカ支部の『ピアロプ・トロシード』も使用していた。


「走れ、列車を追うんじゃ!」


小型獣型ハンターが動きを止める中、メノウ達の乗る中型獣型ハンターは速度を上げ続けた。

その全力の走りは先ほどまでとは比べ物にならないほど早い。

かなりの距離を離されていたが、僅か数分で先ほどの列車に戻ることができた。

カツミが列車に飛び移り、ヤーツァを引き渡す。

そして前方の車両に避難していた客達に向かって言った。


「ヤーツァ・バッタリーの率いるバッタリー一味はあたし達か討伐した!」


それを聞き客たちは歓喜と驚嘆に包まれた。

まさかこの少女たちがあのバッタリー一味を倒したというのか、という驚嘆。

それと同時にもうあの盗賊や魔物に襲われることの無いという歓喜。

客たちから感謝の言葉を投げられるメノウとカツミ。


「メノウ、お前も早くこっちにこいよ!」


カツミが中型獣型ハンターに乗りつづける彼女に対し言った。

列車に並列して中型獣型ハンターを駆るメノウ。

しかし、メノウはカツミの言葉を拒否した。


「カツミ、少し時間をくれ。後で必ず追い付く…」


「何故だ?」


「頼む…」


メノウの言葉を聞き、カツミは『何か』を察し黙ってうなずいた。


「…必ず戻って来いよ」


中型獣型ハンターの走るスピードを緩め、列車から離れていくメノウ。

やがて列車が見えなくなる頃、その場に中型獣型ハンターを止めた。

そのメノウを上空から『何者か』が見つめていた…

ヤーツァ・バッタリー 性別:男 年齢:32歳

元西アルガスタ軍士官の男。

自身の立場を利用し軍の兵器を横流し。

その後、盗賊団『バッタリー一味』を作り上げた。

銃の腕は高い。


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