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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2章 西の支配者と東の皇
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第三十一話 西アルガスタからの旅路(前編)

裕Pさん復活してください

アゲートを駆るメノウは僅か数分でキリカ中央駅に到着した。

キリカ市街の惨劇から、列車の運行に何らかの影響が出るかとも心配したがそんなことは無いらしい。

搭乗者に対する簡単な荷物検査などがあるだけで列車の運行の遅れなどは無いようだ。

しかし全く影響が無いというわけでもなく、駅には人がほとんどいなかった。

おそらく別の列車で来たであろう旅人がただの数人、閑散とした駅内にいるだけだ。


「やはりあれだけの事故があると人も少ないな…」


「あちらに人が集中しておるんじゃのう」


中央入口から入ってすぐの広場から駅内を見回す二人。

普段ならばこの駅は大勢の人が行きかっているのだろう。

しかし今は職員や清掃員などの方が目立つ有様だ。

駅自体が非常に広く、豪華な作りであるためにさらにそれが際立ってしまう。

どうやらメノウ達が乗る列車は一番線から出るようだ。

この街に来た際に高架線が見えたが、そこを走る列車らしい。

壁にかかれた駅の地図を見ながら一番線を探す。


「あっちの階段を上がって…右じゃな」


もうすぐ列車の発車する時間だ。

買い物と手続きを済ませ、ホームへと急ぐ。

二人の乗るのは古風な蒸気機関車だ。

アゲートを駅員に預け、馬専用の貨車に乗せると二人も列車に乗り込む。

駅とは違い、列車内には大勢の乗客がいた。

それも見るからに金持ちそうな人物ばかりだ。


「カツミ、手癖の悪いことはするんじゃないぞぃ?」


「流石に場をわきまえるさ。わかってるよ」


そう言うメノウとカツミの前に、客室乗務員がやってきた。

どうやら、二人を客室に案内するらしい。

ザクラの用意した切符はご丁寧にも最高クラスの席の切符だった。

この列車自体もゾット帝国の中でも一、二を争うほどの高級列車。

個室の用意された客車も当然ある。


「客室?列車に客室があるのか?」


「この蒸気機関車『クッチャ・ピッチャ・ニチャ号』は国内でも唯一の客車を持った列車ですので…」


客車の個室に案内される二人。

その案内の道中に客室乗務員からこのクッチャ・ピッチャ・ニチャ号の命名の由来や歴史を聞かされる二人。

しかしそのどうでもいい話は二人の耳には一切入ってはこなかった。


「…こちらになります」


案内されたのはなかなか豪華な部屋だった。

人数分のベッドと簡単なキッチン、シャワーなども完備している。

この列車というもの自体が珍しい、荒廃した世界にこのような列車が運行しているというのも驚きだ。


「はぇ^~すっごい広い…」


「ベッドの枕が異様に大きいな…!」


部屋の内装に驚く二人をよそに客室乗務員は事務的に説明を続けていく。

食事などは部屋に備え付けの電話から注文できるという。

それらの代金もあらかじめ切符代に含まれている。

基本的に内線専用なのだが、一応外部にも連絡できるようだ。


「では、良い旅を」


そう言い残し、客室乗務員は一礼をしその場を後にした。

それと同時にカツミは部屋内を軽く見まわし、不審物がないかを確認する。

だが特に怪しいものは無いようだった。

一方メノウはそんなことを気にせず、部屋に置かれていたルームサービスの食事メニューをみている。


「お~いカツミ、何か食うか?いろいろあるぞ」


列車内ということで対して期待はしていなかったが、その考えはいい意味て裏切られた。

この列車には一流の料理人が乗っているらしくメニューの量、質ともに高水準の物なのだという。

保存の効く食べ物程度しかないと思っていた二人には嬉しい不意打ちだ。


「お、本当だ。鮮魚に野菜まであるのか…」


「さて、何を食べるか…」


メニュー表を見ていたメノウにふとあるものが眼に入った。

それは『岩魚のマリネ』、以前ツッツがトロムの宿屋で注文していたものだ。

意識したわけではないが、ふとその時のことを思い出してしまった。

ツッツを救うという意味も込め、あの時と同じ料理を選択する。


「よし、ワシは岩魚のマリネとイカ墨焼きを貰うぞ」


「あたしは水餃子をもらおうか」


部屋の電話を使い、それらを注文するメノウ。

いつごろ持っていくかの希望の時間を聞かれたが、メノウは『すぐに』と答えた。

だが、メノウの注文した岩魚のマリネとイカ墨焼きが作るのに時間がかかるらしく少し遅れるらしい。

カツミの注文したカレーはすぐ出すこともできるらしいが、どうせならば二人一緒に食べたい。


「なぁカツミ…」


「別に少しくらい遅れてもいいぞ」


カツミの許可を得て、マリネに時間を合わせてもらうことにした。

食事が来るまで部屋の中央のソファに座る二人。

走行中の揺れも少なく、ここが列車内だということを忘れさせるほど。

高級なホテルのような感覚だ。

しかし列車の利点が消えているというわけでも無い。

ふと窓の外に目をやると、そこには一面の大海原が広がっていた。


「窓からの景色は最高じゃな~」


「この地図によるとしばらくは海が見えるみたいだぞ」


そう言ってカツミは手に持っていた地図を手渡す。

部屋内に置かれていたパンフレットのようなものだが、路線図などが詳しく書かれていた。

渡された地図を斜め読みするメノウだが、ふとある記述が眼に入った。


「ん、この列車は一気に東アルガスタまで行くのではないのか?」


「ああ、各アルガスタの中央都市の駅に停車するようになっているらしい」


カツミの言うとおり、この列車はゾット帝国内の東西南北のアルガスタの中央都市の各駅に停車する。

中央アルガスタ以外の全ての地区へと移動できるのだ。

西アルガスタの港町キリカ、東アルガスタの難波、そして…


「南アルガスタも…じゃな?」


「そうだ、確かお前が言ってたラウル古代遺跡のある…」


この列車の路線は西、南、東、北のアルガスタの順番で一巡する大きなリング状になっている。

つまり次に停車するのは『南アルガスタ』ということになる。

かつてメノウが旅をし、ミーナや黒騎士ガイヤといった強敵と死闘を繰り広げた地だ。


「南アルガスタ…か…」


「どうした?」


「いや、ちょっとな」


そう呟くと、メノウは突如立ち上がり部屋の電話を使いある場所へと電話をかけ始めた。

カツミには何を話しているのかよく聞こえなかったが、話している相手とはとても親しい仲なのだろう。

少しの間話を続けると、軽い別れの挨拶を告げメノウは電話を切った。


「南アルガスタの近くのラウル地区はワシの故郷でな、知り合いも多いのじゃ」


「電話相手はその知り合いってわけか?」


「まぁの」


その言葉を聞き、ふとカツミはメノウに対して持っていたある疑問を彼女に対してぶつけた。

前々から持っていた疑問だが、聞くタイミングが無かった。

いや、彼女と出会ってからの怒涛の出来事の連続に尋ねるタイミングを失っていたと言った方が正しいだろう。


「メノウ、お前は一体何者なんだ?」


「ん?どういうことじゃ?」


「とぼけるなよ、お前の身体能力に魔力そして知識。それらは明らかに普通の人間のものではない。違うか?」


メノウの特異な能力の数々は通常の人間よりも数段優れた特殊なもの。

それをカツミは、彼女が『異能者』だからではないかと考えていた。

しかしそれは謎の女ザクラの行動によって否定された。

メノウは彼女の探し求めている『異能者』とは違うのだ。


「お前はいったい何者なんだ?なぜ誰も知らないはずのハンターのことを知っていたんだ?」


「それは…」


カツミの問いに言葉を濁すメノウ。

普段はおどけているメノウの顔が段々と追い詰められたような顔になっていく。

まるで罪人が尋問を受けるような、そんな表情に…

それを見て何かを察したのか、カツミはそれ以上の詮索を止めた。


「まぁ、いいさ。誰にでも話したくないことの一つや二つはある」


「すまんの…」


「あたしこそ悪かったよ。無理に聞き出そうとして…」


「…代わりに、ワシの知っているハンターについての知識を全てカツミに話そう」


「ハンターについて…?」


「ああ、ワシは以前はハンターの住む禁断の森に住んでおったんじゃ」


もし、またハンターとの戦いになった時のために予備知識を得ておくことは決して損では無い。

メノウの申し出を断るカツミでは無かった。

ちょうどそれと同時に、先ほど頼んだ料理が彼女たちの元に届いた。

とりあえず食事をしつつ、メノウの知るハンターの知識をカツミは聞くことにした。


「まず魔物…通称ハンターについての基礎知識じゃ」


注文したイカ墨焼きを齧りながらメノウが言った。

料理にかかっていたイカ墨ソースがさらに滴り落ちる。

そのソースをナイフの先端で広げて、皿の上に簡単な犬の絵を描いて行く。


「ハンターは基本的には動物の形をしておるんじゃ」


「ああ、さっきの恐竜や鳥みたいなやつだな」


禁断の森に生息するハンターは基本的には動物の姿をしている。

しかしその力は通常の生物のソレを遥かに超える。

種類は千差万別、羅列するだけでも大型肉食恐竜型ハンター、小型獣型ハンター、翼竜型ハンター、水棲獣型ハンター。

もちろんこれら以外にも多数のバリエーションが存在する。


「元々ハンターは古代人が作り出したラウルを守る守護獣じゃ」


メノウが先ほどイカ墨で描いた犬の背に、岩魚のマリネに添えられていた細切りセロリを数本のせる。

ハンターは限りなく機械に近い金属生命体であるため、人工兵器を装備することが可能。

銃や剣などの武器を装備した者もいる。

しかしカツミはそちらよりもさらに気になることがあった。


「ラウル古代遺跡について詳しく説明して欲しいんだが…」


「おっと、話していなかったな。ラウルは禁断の森の奥に存在した古代帝国じゃ」


「古代帝国…」


「ああ、とっくの昔に滅んでいるがのぅ」


かつては栄華を誇ったラウル帝国。

しかしメノウの話によると、ラウル帝国最後の王が自ら国を滅ぼしたという。

…多くの遺産を残して。

文明が滅んだ今も、遺産であるハンター彼らはラウルをかつてと同じように守り続けているのだ。

しかしここで一つの疑問が浮かび上がる。


「ハンターはラウル帝国外では活動できないはずなんじゃが…」


「どういうことだ?」


「ラウルの外に出るとハンターの思考がシャットダウンされるのじゃ」


先ほど描いた犬の絵の頭を、イカ墨で黒く塗りつぶすメノウ。

ハンターはあくまでラウルを守護するためだけの存在。

ラウル外では活動できない。

ここで気になるのは先ほどの大型肉食恐竜型ハンターを操っていた追跡者だ。

彼か言った一言『自分とハンターは一心同体」という言葉だ。

意味深な言葉だが、それが何を意味するかは分からない。


「恐らく何らかの方法でハンターを操っているんじゃろうが…」


「そこまではわからない、ということか」


「ああ、そうじゃ…」


犬の絵にイカ墨でバツ印を描く。

他にもメノウはハンターが簡単なプログラムで行動していること、共食いをすることで力を増すことなどを伝えた。


「…成程、だいたいわかった」


「質問は無いかの?カツミ?」


「そうだな、弱点とかは無いのか?」


「特に無い…」


「何か無いのか?何でもいい」


「強いて言うなら普通の生物と同じく頭や腹に重要な器官があるくらい…じゃな…」


そう言うとメノウはさらに残っていた岩魚のマリネを全て口に入れた。

しばらく口をもぐもぐ動かしそれを飲み込む。

メノウが話せることは全て話したのだった。


巨鳥型ハンター 性別:雌

東アルガスタ四聖獣士の一人、ザクラの操るハンター。

その姿は東方大陸に伝わる伝説の生物『朱雀』をモチーフにしている。

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