第二十八話 大型肉食恐竜型ハンター!?
あの裕P先生伝説的キャラクターである『大型肉食恐竜型ハンター』が今回は登場します!
メノウ達の前に現れたのは、『禁断の森』のラウル古代遺跡に生息する魔獣の内の一種…
大型肉食恐竜型ハンターだった。
その名の通り姿形は肉食恐竜、特にティラノサウルスに似ている。
体長は十メートルほど。
だがその圧倒的存在感によりさらに大きくも感じる。
発達した後ろ足とは対照的に細い腕、大きな口と鞭のようにしなやかな尾。
ここまではティラノサウルスとほぼ同じ。
だが、大型肉食恐竜型ハンターとティラノサウルスとの大きな違いはその構造にある。
「なんだ、この金属のバケモン…!」
大型肉食恐竜型ハンターを見た盗賊少女、カツミがそう呟く。
通常の生物と違いハンターは金属の外骨格を持つ。
それを動かすための強固なフレーム。
筋力や肺活量、その他諸々の機能…
それらがハンターの能力を通常の生物とは比べ物にならないほどにまで高めている。
「ヤツは『ハンター』といってな、ラウル古代遺跡を守る魔物じゃ」
あ然とするカツミに対し、そう言ったのはメノウ。
彼女はラウル古代遺跡で長い間生活をしていた。
当然ハンターという存在についても精通している。
「ハンター…?魔物だと…!?」
大型肉食恐竜型ハンターの全身には血管のような細いパイプが覆っている。
それはまるで全身にエネルギーを供給するための血管のようにも見える
パイプ内を不気味に光輝くゲル状の物質が移動しているのが確認できた。
「人口の武装は装備していないようじゃな。防衛型か」
大型肉食恐竜型ハンターにはキャノン砲の類を持つ者もいる。
身体の一部に手を加えることで人工の武装を追加することも可能なのだ。
この個体はそういった装備はしていないようだが。
一方、カツミは大型肉食恐竜型ハンターを息をのみながら見る。
「(魔物だと…そんなものが実在するとでもいうのか…?)」
魔物という存在など、彼女は今まで聞いたことも無かった。
精々おとぎ話か何かだけの存在だと思っていた。
アルガスタに魔物がいるなんて噂ですら聞いたことも無い。
明らかにこの魔物は通常の生物とは『違う』なにかを持っている。
「そう、こいつは『魔物』だ…」
そう言って木の陰から一人の男が現れた。
手には最大有効射程距離を伸ばすためのカスタムが施されたオートマチック銃が握られている。
先ほどラーダを射殺した銃だろう。
その男が出てきたと同時に唸り声を上げていた大型肉食恐竜型ハンターが急に大人しくなった。
「お前さんは一体…?」
メノウがその男に言った。
今までに感じたことのない、何か妙な『気』をこの男からは感じる。
先ほどカツミがハンターから感じたのとは違う、また別のものだ。
「俺もソイツと同じだ、『監視』では無く『捕獲』だけどな…」
「捕獲じゃと?」
「そう、『異能者の少女』の捕獲。それが俺の任務だ」
異能者はアルガスタの民に忌み嫌われる。
しかし、その異能者を求める者がいる。
その事実は一体何を意味するのだろう。
「一つ聞きたいことがあるが、聞いてもいいか?」
何故この場所にハンターがいるのか。
今のメノウには正直どのような疑問よりも、こちらの方が気になっていた。
ハンターは禁断の森の奥、ラウル古代遺跡にしか存在しない。
それが何故、西アルガスタのこのような場所にいるのだろうか。
しかし、それを答えてくれるほどこの男は優しくは無い。
「それを教える必要は無い…!」
その言葉と共に、動きを止めていた大型肉食恐竜型ハンターが再び活動を再開する。
身体中を走るパイプにゲル状の物質が送り込まれる。
巨体からは想像もできないようなスピードで高くジャンプし、メノウとカツミの二人に襲い掛かる。
その姿はまるで、暗い夜空を光を纏いながら飛ぶ竜の様だ。
鋭い牙と強固な装甲は中途半端な攻撃では突破できない。
「素直に『異能者の少女』を渡せば、他の二人は見逃す。しかしどうせ抵抗するのだろう?」
「当たり前だ!」
カツミが叫ぶと同時に跳び上がり、大型肉食恐竜型ハンターの攻撃を避ける。
メノウも避けて近くの木に飛び移る。
しかしカツミは違った。
そのままの体勢からの手刀の衝撃波で、大型肉食恐竜型ハンターに攻撃を仕掛ける。
「(どうなる…?通用するか…!?)」
流石にその一撃で大型肉食恐竜型ハンターを倒せるとは思っていない。
だがその威力は、人間が被弾すれば原形を留めぬほどに破砕されるほど。
この技が果たしてどこまで通用するのか。
その試験的な意味も込めてある。
衝撃波は大型肉食恐竜型ハンターの左足の装甲板を大きくへこませるが、貫通まではしなかった。
同じ個所に再び攻撃を当てることができればダメージを通すことはできるかもしれない。
だが、何度もうまくはいかないだろう。
「異能者では無いが、貴様も中々の腕だな」
その状況を見ていた男が言った。
大型肉食恐竜型ハンターはラウルの魔物の中でも上位に位置する存在。
同じハンターでも、こいつに勝てる個体はそうはいない。
大抵は一撃で粉砕されるのがオチだろう。
しかしカツミはハンターの攻撃を見切りつつ、攻撃を放つ力量を見せている。
もし弱個体のラウルの魔物とカツミが戦ったならば間違いなくカツミが勝つだろう。
「魔物を戦わせて、自分は高みの見物か!?」
カツミが叫ぶ。
それと共に大型肉食恐竜型ハンターが紅い眼を鋭く光らせた。
大きな口を開けながら大きく尻尾を振り突進を繰り出す。
メノウとカツミはそれを再び避ける。
だがここで、カツミの言葉を聞いたメノウはふとあることに気付いた。
今までなぜこのことが気にならなかったのか不思議なくらい基本的なことだ。
それは…
「(何故、ハンターはこの男に従っている…)」
少し大型肉食恐竜型ハンターから距離を取り、木の上からカツミとの戦いを観察するメノウ。
本来ハンターとはラウル古代遺跡を守るためだけに存在するものだ。
そのため自分の意思などは持たず、ただ本能のまま敵を攻撃するのみ。
もちろん、ラウルを傷つけないという絶対条件の元においてだが。
本来ならば、そのようなハンターを『ラウルの外』で戦わせるのは『絶対に不可能』なのだ。
守る対象のいないハンターは単なる鉄屑同然。
「(この男が何らかの方法でハンターを操っているのじゃろうか…?)
ためしにメノウは木から降り、近くに落ちていた石を拾い投げてあの男に投擲する。
単なる石とはいえ、これが当たれば骨折。
打ち所が悪ければ大怪我を負うだろう。
だが…
「…!」
カツミと交戦していた大型肉食恐竜型ハンターが突如身を翻し、その石からその男を守ったのだった。
そのため、カツミの放った衝撃波を装甲の少ない胴に受けてしまった。
しかし、それにも大型肉食恐竜型ハンターは全く動じようともしない。
「あの男を…守った…?」
「(やはりあの男がハンターを操っておるのか…)」
何らかの術を使ってハンターを操っているのか、それともハンターを改造し遠隔操作しているのか。
それは分からないが何らかの方法で操っていることは確かだ。
それを確信したメノウはカツミに傍により、ある作戦を伝えた。
「この魔物…ハンターを操っているのは恐らくヤツじゃ」
「なるほど、それでどうする?」
「しばらくお前さんはハンターを引き付けていてくれ!」
そう言うと、メノウはハンターを無視し一直線に操っている男のもとへと向かう。
奴さえ倒してしまえば、恐らくハンターも行動を停止するはずだ。
カツミもそれを理解したのか、メノウから距離を取り戦いを再開する。
「お前さんを倒せばハンターも止まるじゃろう!」
「俺が司令塔だということに気付いたか…」
やはりメノウの考えは当たっていた。
この男は何らかの方法でハンターを操っていた。
そうでなければハンターがあのような不自然な動きをするはずがない。
「今、ハンターはカツミがひきつけておる!お前さんを守る者はいない!
そう言ってメノウは男に拳を腹に一発叩き込む。
命までは奪わないが、この一撃を喰らえば確実に大きなダメージを与えられる。
今までもこの一撃で多くの敵を倒してきた。
だが…
「はッ!」
その男はメノウの拳を読み、掌で抑えながら受け流したのだ。
そしてその反撃と言わんばかりにメノウに蹴りを入れる。
反撃など想定していなかったメノウはそれを喰らい、地面に叩きつけられてしまう。
「う、うぅ…」
ハンターを操り自身はただ高みの見物をしているだけの男だと思い、若干の油断がメノウにはあった。
しかしそれを抜きにしてもこの男は強い。
素の実力も並みの人間を遥かに超えている。
今の蹴りもただの蹴りでは無い。
的確に攻撃が最も有効になる箇所を狙った、無駄のない動きだ。
先ほどの石も本当は避けられたのではないか?
そう思うほどだ。
「ならこれでどうじゃ!」
メノウが男の頭上まで跳び上がり、身体を大きく捻り上空から延髄切りを仕掛ける。
しかしそれも避けられ、カウンターの一撃を喰らう。
今の一撃を避けるのは達人ですらまず間違いなく不可能。
それほどの高速の動きだったにもかかわらず、この男は避けて見せた。
「お前さん、な、中々やるのぉ…」
「無駄なことを…」
先ほどから積極的な攻撃はしてこず、メノウに対しては反撃の身をする男。
どうやら彼自身は好戦的ではないらしい。
大型肉食恐竜型ハンターを戦わせるのみで、自身は高みの見物。
そのスタイルは崩さないつもりのようだ。
「(さて、どうするかのぅ…)」
このままこの男と戦い続けても状況が良くなるとは思えない。
カツミは大型肉食恐竜型ハンターと戦い続けているが、そちらも決して良い状況とは言えない。
彼女一人では消耗戦に持ち込まれると圧倒的に不利だ。
体力やスタミナでは大型肉食恐竜型ハンターに軍配が上がるからだ。
「となれば!」
メノウは男のいる地点からいったん離れカツミのもとへと向かう。
この男を先に倒すより大型肉食恐竜型ハンターを倒す方が先だ。
男と戦うのはその後でいい。
さきほどカツミに大型肉食恐竜型ハンターを任せたと言ったメノウ。
前言を撤回し彼女のサポートに回るのも少々格好が付かないが仕方が無い。
「カツミ!」
「メノウ、アイツはいいのか?」
「スマン、先にこちらを方付けたが早そうじゃ」
そう言ってメノウは大型肉食恐竜型ハンターと対峙する。
カツミとの戦いにより、腹と右足の装甲がへこんでいる。
一部のパイプが壊れゲルが流出しているのが痛々しいが、恐らく見た目ほどのダメージは無いのだろう。
その他の部位も僅かに傷がついているが、大きなダメージは見られない。
「(あれは…)」
そんな中、メノウは腹の装甲に着目した。
あの部分は特に装甲が薄い部分。
また、ゲルを送り出す『心臓』のような部位が存在する場所でもある。
そこを攻撃できれば大型肉食恐竜型ハンターを倒せるかもしれない。
「気付いたか?」
「腹の部分、じゃろぅ?」
腹に目をやった瞬間、大型肉食恐竜型ハンターが二人に攻撃を仕掛ける。
一度目のカツミの腹への攻撃は通った。
しかしさすがに二度目は攻撃を受けてはくれないみたいだ。
そのしなやかな尾を鞭のようにして二人を攻める。
何とか避けるも、その攻撃を受けた数本の木がいとも簡単に根元から折られる。
「あの具合だ、腹を狙っても攻撃のチャンスが無い」
「けどこのまま消耗戦になったら…」
「確実に負けるな…」
大型肉食恐竜型のハンターは距離を置く二人に対し牙を向けながら吠えて威嚇している。
腹と言うのは生物にとって頭部と共に最も重要な守るべき部分。
重要な器官が多く存在しているため、本能的にそこを守ろうとするのだ。、
それは魔物である大型肉食恐竜型ハンターも、通常の生物も変わりがない。
しかし、逆に言えばそこを攻撃できれば確実に大型肉食恐竜型ハンターを倒せるということだ。
だが警戒心が高まっている今、大型肉食恐竜型ハンターの腹を攻撃するのは至難の業。
近づけば間違いなく反撃を受けるだろう。
「ならば…」
そう呟くと、メノウは加速を付け一気に大型肉食恐竜型ハンターとの間合いを取る。
「何をするつもりだよ!?」
カツミが叫ぶ。
警戒心がカツミの攻撃した腹に集中している今、他の部位に若干の隙が生まれるはず。
それにメノウは賭けた。
自身の持つ魔力を四肢に集中させ、攻撃の機会を伺う。
そして大型肉食恐竜型ハンターがメノウを噛み砕こうと大きな口を開ける。
その瞬間、メノウはその口めがけて拳を構えて跳び上がる。
「噛みつかれたら骨ごと砕かれるぞ!」
そのカツミの声も聞かず、メノウは突進を続ける。
大型肉食恐竜型ハンターは本能的に危険を感じ、慌ててその口を閉じる。
鋭い牙の隙間からメノウの四肢がはみ出していた。
「噛み砕か…いや!?」
しかし、それは彼女の魔力が生み出した『幻影』に過ぎない。
この不気味な光に包まれた竜を倒す技、それは…
「『幻影光龍壊』!」
メノウの叫びが辺りに轟く。
彼女の実体は既に大型肉食恐竜型ハンターを体内機関から全て破壊し尽くしていた。
どんなに強固な金属の外骨格も『体内からの攻撃』には意味を成さない。
カツミの攻撃によってひび割れた外殻が完全に砕け、大型肉食恐竜型ハンターは内部から崩壊。
周囲にエネルギー源であったゲルをまき散らしながら、その行動を完全に停止した。
大型肉食恐竜型ハンター 性別:雄
ラウル古代遺跡に潜む魔獣。
その姿は古代生物のティラノサウルスに酷似。
『ハンター』と呼ばれることもある。
この話に登場したのは遺跡防衛に特化したタイプ。
完全な機械と言うわけでは無く、機械生命体と言う方が正しい。




