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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第1章 邪剣『夜』と孤独の黒騎士
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第二話 電光石火の手配書 不思議の少女を撃て!

~前回のあらすじ~

ラウル古代遺跡で謎の少女メノウと出会ったショーナ。

話の流れから共に旅をすることとなるが、以前出会った馬賊に襲われた。

覚悟を決め戦おうとするショーナだったが、その馬賊の男はメノウの持つ不思議な力によって倒されていた。

 


 馬賊の男を退けた二人。

 ショーナが放浪の旅の途中に『偶然』手に入れたラウル古代遺跡の情報。

 そしてその遺跡で『偶然』出会った少女、メノウ。

 一体彼女は何者なのか。

 馬賊の男を倒したあの一撃、そして…


「メノウ、まさかお前が馬を扱えるなんて思ってなかったぜ」


「そうじゃろ、もっと褒めろ」


 以前の馬賊が使用していた馬に乗りながら旅を続ける二人。

 どうやらあの馬賊の男は騎馬隊崩れの元軍人だったらしい。

 どこからか馬を奪い、自身の脚として使用していたのだ。

 そして、これまた不思議なことだが馬の方もメノウにすぐ懐いた。

 出会ったばかりにもかかわらず、まるで昔からの友人のようだ。


「それにしてもお主、なんであの男に追われてたんじゃ?」


「コイツを持ってるのを見られたんだよ」


 そういうと、ショーナは懐からディオンハルコスの欠片の入ったガラスケースを取り出した。

 メノウから貰ったものではない、もともとショーナが持っていたものだ。

 それをメノウに見せた。


「お主のディオンハルコス…純度の低い粗悪品じゃな」


「余計なお世話だよ。それにさっきから『お主』、『お主』って…」


「何か問題でもあるか?」


「一応俺にはショーナって名前があるんだよ」


「う~ん…面倒じゃな」


「そうかよ…」


 話している間も馬の脚は進む。

 最初は少し不安だったが、馬賊との戦いや馬の扱いを見る限りメノウは只者ではない。

 もしかしたら、一人で放浪の旅するよりもずっといいかもしれない。


「そういえばお主、どこか行くアテはあるのか?」


「無い。まぁ、こんな荒廃した世の中だ、安住の地が見つかるまで旅をつづけるよ」


「行き当たりばったりじゃのう…」


「まぁな…」


 ショーナの生まれた村はとても貧しく、最悪の環境の村だった。

 かつての大戦の際の軍事工場の近くにあり、その際の化学兵器などの汚染物質の影響がいまだに残っている。

 さらに、ディオンハルコスを採掘するための鉱山から流れ出た重金属などにより土壌や水も汚染されていた。

 外との交流も無いに等しい、何のために存在しているのかもわからない村だった。

 そんな閉じた世界から出るため、ショーナは旅に出た。

 軍事工場で見つけた残骸を基に破棄された重機、兵器の類からパーツを調達しホバーボードを復元。

 それを使用し旅に出た。


「まぁ、確かに行き当たりばったりだよなぁ…」


 今考えてみると確かに行き当たりばったりな旅だった。

 鉱山の奥底で奇跡的に見つけたディオンハルコスとホバーボード、そして少しの道具を持っただけ。

 武器等もたず、自身も全く闘いの経験も無い。

 以前のように賊に襲われたらただ逃げるしかない。


「(はぁ…)」


 心の中でため息をつくショーナ。

 と、その時メノウの馬か足を止めた。


「どうしたんだ、メノウ?」


「人がいっぱい並んでおる」


「面倒だな…検問所じゃねぇか…」


「けんもんじょ…?」


「この先はゾット帝国の『南アルガスタ地区』、他のエリアから来た人間を検問してるのさ」


 ゾット帝国は『中央アルガスタ』を中心に東西南北のアルガスタ地区に分けられた、広大な地域を支配している帝国である。

 ラウル古代遺跡のある禁断の森は、ゾット帝国の支配エリアの範囲外の地区。

 そのエリアから来たショーナ達はこの検問所を通らないといけないのだ。

 仕方なく、検問所の順番待ちの列に並ぶ。


「ゾット帝国は強大な力を持つ国だ。国の防御を固めるために検問所をたくさん置いているんだ」


『中央アルガスタ地区』には王の統治の下に政府が置かれ、比較的豊かな生活を送る者が生活している。

 一方、その周囲の『東』『西』『南』『北』に分けられた四つの地区は中央地区に住めない者が暮らしている。

『東』『西』『南』『北』の地区は『四人の軍閥長』がそれぞれ支配している。

 そして、『東』『西』『南』『北』の地区に住む人々から徴収した税金などは中央地区へ送られる。



「それにしてもたくさん人がおるのぉ…時間がかかりそうじゃわい」


「そうだな…」


「まぁ~だ、時間かかりそうかのぅ…」


 メノウが言った。

 その時、ゾット帝国の兵が数人ショーナ達の下へやってきた。

 検問の順番はまたまだ先のはずだが…


「少しいいかね?」


「なんじゃい?」


「その馬を少し見せてもらえないか?」


 兵士がメノウの馬を調べ始める。


「やはりこの鞍や轡…」


「…?」


「これは我がゾット帝国の軍馬の物、貴様ら一体どこでこれを!?」


 メノウの馬は元々は馬賊の馬。

 恐らくその馬賊はゾット帝国の軍馬を何らかの方法で手に入れたのだろう。

 もちろん、ショーナ達はそんなことは知らない。

 しかし、この状況では何を言っても無駄だろう。


「少し話を聞かせてもらおうか…」


 ショーナ達を連行しようと取り囲む兵士たち。

 その時、メノウが小声でショーナに呟いた。


「ショーナ…」


「…どうした?」


「つかまれ!」


 メノウが叫ぶと同時に馬を瞬間加速させる。

 取り囲んでいた兵士たちを退け、検問所を飛び越えるメノウの馬。

 そしてそのまま南アルガスタ地区の敷地内へと侵入していった。

 残された兵士たちはあまりの出来事に呆気にとられ、他の検問所に並んでいた人々は一時パニック状態になっていた。

 ここはあくまで検問所であり、メノウたちの追跡にまわせる人員は無い。


「検問所破りをすぐ南アルガスタ本隊に伝えろ!」







 --------------





 メノウが馬を走らせ、検問所を突破した。

 検問所の兵士たちは追ってこず、南アルガスタ本隊に彼らの始末を任せたのだ。

 だが、やはりこの短時間ではまだその情報も伝わってはいないようだ。

 特に問題も無く南アルガスタ地区を馬で走ることができていた。

 辺り一帯は田園風景が広がる農村地帯。

 以前までいた禁断の森付近と比べると驚くほど平和だ。


「メノウ、いくらなんでも無茶だぜ!これじゃあお尋ね者に…」


「どっちにしろゾット帝国の軍馬を拝借していたのには変わりは無い、あのままでもつかまっていたじゃろう」


 確かにメノウの言うことも一理ある。

 あのまま別の場所に逃げても捕まる危険はある。

 しかしだからと言って、捕まる危険がさらに高い南アルガスタ地区にわざわざ侵入するのもリスクが高すぎる…


「でも…あ、そういえば…」


「なんじゃ?」


「さっき俺のこと『ショーナ』って名前で呼んでくれたよな?」


「…緊急事態だったからじゃ!」


 メノウが声を荒げて言った。

 ここまでメノウがショーナを名前で呼ばなかったのはただ単に名前を呼ぶのが恥ずかしかっただけなのだろうか。

 変なところで妙に人間味のある性格だとショーナは思った。


「(結構かわいいところあるじゃん)」


 と、その時メノウが突然馬を止めた。

 突然のことに転げ落ちそうになるショーナ。

 何とか体勢を保ち転落だけは免れた。


「あ、危ないなメノウ!」


「あの広場を見ろ」


「ん…?」


 メノウが指差した先の広場、そこにはゾット帝国の南アルガスタの軍人達がいた。

 しかし、それはショーナ達に対する追手などでは無い。

 恐らく、この農村地帯に住む農民たちから税となる農作物を徴収する部隊だろう。

 一人の農民を取り囲む数人の兵士。

 見つからないよう、近くの廃小屋の陰に隠れ様子を伺う。


「さぁ、税の徴収のはじまりだ」


「そんな…十日ほど前払ったばかりでは…」


「あぁ!?俺たちが払えって言ってるんだ文句あるのか?」


「ひ、酷い…」


 ゾット帝国の権力を笠に暴徒と化した兵士たち。

 おびえる農民たちを脅し、無理矢理農作物を巻き上げようとしていた。

 これが南アルガスタの実態というわけだ。

 兵士といってもそこらの盗賊と変わりない。

 いや、むしろ権力という笠を持たない分盗賊の方がマシかもしれない。


「チッ…ムカつく野郎どもだ…」


「ちょっと行ってくる…」


「お、おいメノウ!」


 その光景を見たメノウが、彼らの前にとび出した。


「それが国を守る兵士のやることか!」


「あ、何だこのメスガキ!?」


「お前たちのやっていることは間違いっているだろ、いい加減にしろ!」


「うるせぇ!」


 そういうと部隊の隊長がメノウに飛び掛かった。

 持っていた槍で殴り掛かるが、その攻撃はメノウに軽く避けられる。


「そんなものかのう?」


 軽く挑発するメノウ。

 頭に血の上った隊長は、他の兵士達にアイコンタクトで指示を送る。

 それ合図に、数人の兵士が一斉に飛び掛かる。


「(やべぇ、今のメノウは丸腰!いくらなんでもあの人数相手は…!)」


 だが、そんなショーナの心配は不要だった。

 一人の兵士を空高く蹴り上げ、さらに別の兵士の顔面に拳を叩きこむ。

 さらに、先ほど蹴り飛ばした兵士の持っていた槍で他の兵士三人を纏めてなぎ倒す。

 あの華奢な体からは想像できないパワーと動きに圧倒される隊長。


「く、ぐうぅ…」


「安心せい、どいつも殺してはおらん」


「く、くく…」


 そういうと隊長は懐から銃を取り出した。

 この国では『オートマチック銃』と呼称される拳銃だ。

 だが、それを見てもメノウの顔に曇りは無い。


「そんなものがわしに当たるとでも?」


「へへ、貴様には当たらなくとも…」


 そう言うと隊長は先ほどの農民に銃を向けた。

 完全に頭に血が上っている隊長。

 もはや正常な判断もできなくなってしまっている。

 だが、このままでは…


「コイツを殺すくらいはでき…」


「させるか!」


 その時、ショーナが隊長に飛び掛かった。

 一瞬体勢を崩したその瞬間、メノウの手刀の一撃が隊長を下した。

 その場に崩れ落ちる隊長。

 残る数人の兵士たちはもはや戦意を喪失していた。


「おい、こやつらを連れていけ」


 メノウの声を聞き、残った兵士は他の兵士たちを荷車に乗せて帰って行った。

 いくらゾット帝国の兵士といえどメノウの前には、ただの数人の烏合の衆にすぎない。

 しかし、検問所破りとゾット帝国兵士への反逆。

 メノウとショーナはこの国に来て僅か一日でこれだけの罪を犯してしまった。

 ゾット帝国南アルガスタ本隊は確実にこの二人の討伐に動き出すだろう…





 ---------------




 数時間後、メノウに敗れた隊長は南アルガスタ本隊のD基地に召喚されていた。

 彼の前には筋骨隆々の大柄な男が椅子に座っていた。

 彼はこのD基地のリーダーの男であり、その前に隊長は立たせられていた。

 リーダーの男は一枚の手配書を隊長の前に差し出した。


「お前がやられたというのはこのガキ二人か?」


「…そ、そうです!」


 その手配書に写されていたのは、検問所突破の際のメノウとショーナだった。

 画像は荒いが、確かにあの二人だ。


「成程…」


 そう言うと、リーダーの男は近くにいた自身の部下に耳打ちをした。

 それを聞いた部下の男は隊長を別の部下と共に捕獲した。


「な、なにを!?」


「俺の部下にガキに負けるような弱小者はいらねーんだよ!」


 リーダーの男が石壁を叩きながら叫んだ。

 その際の衝撃で壁一面ににひびが入る。


「そ、そんな!それを言うなら検問所の…ゆ、許し…」


 そう言いながら、隊長は別室に連れて行かれた。

 リーダー一人だけが部屋に残され、妙なほど部屋は静かになった。




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