表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2章 西の支配者と東の皇
29/191

第二十七話 疾風の少女・再び

ゴメンナサイネ~

次話投稿シチャッテゴメンナサ~イ

デハ、イキマスヨ~

ウィ~(タイニーコング)

魔術を悪用していた、詐欺師ピアロプ・トロシードの逮捕の翌日。

既にメノウ達はスートやトロム達と別れ、キリカの街を後にしていた。

あれほどの逮捕劇の中心人物ともなれば、いろいろと面倒なことになることは容易に想像できる。

ピアロプにかかっていた懸賞金をスートと分けて受け取ると、逃げるように街から出ていった。

以前の『南アルガスタの戦い』の時もそうだったが、そういったことをメノウはあまり好まないのだ。


「港町キリカ、あんまり馴染めなかったですね…」


「ディオンハルコス教団キリカ支部、単なる悪徳カルト宗教だったのぉ…」


次の街へと向かうための道のりを進む。

キリカの舗装された道から森の中の道に変わる。

辺りの景色も鬱蒼と茂る森へと徐々に変化していく。


「まぁ、今回もいろいろあったわぃ…」


「そうですね」


今回はキリカとトロムの村で旅のための買い出しを済ませたのだが、最初に訪れた時と同様あまりなじむことができなかった。

他の街では売っていない貴重な道具や新鮮な魚などの食料が購入できたのは大きな収穫だと言える。

しかし、もう一度来たいとは思わなかった。

一方トロムの村ではピアロプの一件もあり、いろいろな物資を格安で分けてもらうことができた。

スートにちゃんとした別れを告げることができなかったのは残念だったが…


「(それにしてもあのスートと言う男…一体何者だったのじゃ…?)」


スートが最後に見せた魔法、指砲切断タッチャッキー・ヲビユは王都ガランには伝えられていない『絶滅魔法』の一種。

古代語を詠唱することで発動する高等魔術だ。

広範囲の射程、そして正確無比な切断技術。

さらに魔力を込めればその威力と範囲は累乗式に上がっていく。

もちろん限界もあるが。


「(ラウルの壁画にそれらしき魔術は描かれていたが、まさかスートがそれを使えるとは…)」


彼は『王都ガランで学べる魔法はほぼすべて使える』とは言った。

しかし、『王都ガランで魔法を学んだ』とは一言も言ってはいない…

あの絶滅魔法は王都ガランでは決して学べない技術。

それに彼からは何か妙な『力』を感じた。

言葉では言い表せない、形容しがたい何か…


「どうしたんですか、難しい顔して?」


そんなメノウを見たツッツの言葉に、ふと我に返る。

スートが何者かなど今はどうでもいい。

少なくとも彼は一時期ではあるが仲間だった男。

あまり詮索するのも野暮だ。


「いや、なんでもない」


「そうですか」


「アゲート、少し重いかもしれんが頑張ってくれぃ」


キリカとトロムの村で入手した荷物は、いつもの買い出しの時の量より若干多い。

そのためアゲートを気に掛けるメノウ。

それに答えるようにアゲートは軽く頷いた。


「さ~て、次はどの街に行くかの…」


メノウが言いかけたその時、彼女はある『気配』を感じた。

極々僅かだが殺気のような物を。

そしてその殺気の主は音も立てず彼女たちを狙っている


「メノウさん、次はどこに行きますか?」


そうとは気づかず、ツッツは地図を見ながら次の目的地を模索する。

だがメノウは違った。

その者が放つ僅かな殺気を感じ取り『敵』の数を探る。

幸い一人だけのようだ。

森の中ということを生かしメノウ達を狙っている。

可能な限り殺気を隠しているようだがメノウの前には無駄だった。

大柄な人物ではない、小柄な人物だ。

硝煙のにおいも全くしないことから、銃の類は持っていないことがわかる。


「ツッツ、ワシは馬上から降りるぞぃ」


「え、はい…」


そう言ってメノウはアゲートの背から降りた。

もし忍んでいる追手達が襲い掛かってきたとき、馬上ではその攻撃を避けきれない恐れがある。

最悪の場合、アゲートやツッツを危険にさらすこととなる。

それを避けるべく、彼女はアゲートから降り手綱を握って少し前に出る。

先ほどから感じるこの殺気をメノウはかつて感じたことがある。

これは…


「隠れてないで、出てきたらどうじゃ?」


その言葉を待っていたかのように、一人の少女がメノウ達の前に下り立つ。

猛禽類のような鋭い眼、荒野を流れる風と燃え盛る炎のように美しい朱色の髪のその少女。

それは以前、センナータウンに向かう道中に襲い掛かってきた盗賊少女カツミだった。

あの時の戦いでは結局メノウと決着がつかず、引き分けという形になったが…


「よう、久しぶりだな」


「おひさー」


軽く返事を返すメノウ。

あの時のことを根に持って追ってきたのだろうか?

もしそうだとしたら、かなり執念深い少女だ。


「一体どうしたんじゃ、ワシになんか用かい?」


足元に落ちていたコブシ大の石を蹴上げて、つま先で弄びながらしゃべるメノウ。

話しながらも、軽快に石を弄ぶ。

カツミはそれを無視し話を進める。


「あの戦いの後、あたしはイオンシティに行ったんだ」


「イオンシティに?」


「そこでアンタの…メノウの話を聞いてな」 


イオンシティは以前、メノウ達が立ち寄った砂漠の交易都市だ。

二つの盗賊組織『タイマ団』と『ツシマ一派』が争いを続けており、その抗争に町が巻き込まれていたのだ。

その二つの盗賊組織を壊滅させるため、メノウとタクミ・ウェーダーの二人が傭兵として雇われた。

そして見事壊滅させたのだった。


「あたしはそれで儲けようと思ってたんだ、けど…」


「ワシとウェーダーに取られたというわけか」


「まぁな」


「それを恨んで追いかけて来たんですね!」


ツッツが物陰に隠れながら叫ぶ。

しかしカツミはそれをあっさり否定した。

どうやら嘘ではないらしい。


「別に恨んではいないさ、それよりも…」


カツミはイオンシティである人物と出会った。

それはメノウと共に戦った傭兵ウェーダー。

彼やその周囲の人物からメノウの強さを聞き、カツミはそれに興味を持ったのだ。


「『激情の開陽拳』伝承者カツミとして、あたしはお前に勝負を挑みたい」


「ほぅ…」


メノウはこのカツミという少女を単なる悪人だと思っていた。

しかし、自身の拳にかける思いはとても素直なのだろう。

それを感じ取ったのか、メノウは構えを取りながら言う。


「いいぞ、その勝負を受けよう」


その言葉を受けカツミは以前と同じように右腕で手刀の構えを取る。

彼女の使う『激情の開陽拳』は東方大陸に伝わる古武術の一つ。

以前使用した衝撃波などの技以外にも多くの奥義があるはずだ。


「けどその前に…」


その言葉と同時にメノウは後ろを振り返る。


「邪魔者を片付けてからじゃ!」


つま先で弄んでいた石を背後の木の上に向けて思い切り蹴り飛ばしすメノウ。

やがて鈍い音と叫び声が木の上から聞こえてきた。

そして小柄な男が木の上から落ちてきた。


「変なのが落ちてきたのぅ…」


サングラスをかけた髪の薄い男だ。

そのせいで年齢は分かり辛いが、およそ三十といったところか…?

その髪型は、一昔前の軍人のような髪型のようにも見える。

おそらく意図的にそうしているのだろう。


「誰だ、お前は?」


カツミがその男に言った。

しかし、彼は答える素振りも見せず、頭の後ろを掻いている。


「へへ…」


その様子を見て若干の苛立ちを見せるカツミ。

この態度を見る限り、ただの一般人などでは無いことは確か。

その男に詰めより何をしていたかを問い詰めはじめた。

首を絞めつけ強引に口を割らせようとする。


「何してたかって聞いてるんだよ!」


カツミはその男を地面に叩きつけ、手刀で近くの石を砕いて見せる。

砕かれた石のようになりたいか、そうとでも言わんばかりの行為だ。

しかしそれでも男は口を割ろうとはしない。

ただ頑なに口を閉ざすのみ。


「いったい何なんでしょうか…?」


「わからん、わからんわ…」


もはやすっかり興ざめしてしまったツッツとメノウ。

見かねた彼女が、カツミに声をかけた。


「ワシが代わろうか?」


カツミの答えを聞かずにメノウは男の顔面に手をかざす。

そしてある魔法呪文を詠唱した。


「デノイナテレワイ・トナスツウ・ハーキョ…!」


「(なんだ今のは…)」


困惑するカツミをよそに、メノウがその男から情報を聞き出す。


「お前さんの名は?」


「モ、モグ・ラーダ…ってあれ!?」


「さっき使ったのは『無色理論(クリア・セオリー)』という魔法じゃ」


聞いたことのない言葉に疑問符を浮かべるカツミ。

メノウの横にいたツッツも何が何だかわからず困惑している。

それがいったい何なのかをメノウに尋ねた。


「『無色理論(クリア・セオリー)』、説明すると長くなるが簡単に言えば口を割らせる魔法じゃ」


「クリア・セオリー…」


「ああ、王都ガランにも伝わっていない絶滅魔法の一種での…」


この『無色理論(クリア・セオリー)』という魔法は被術者の『決め事』を一度無色に変える魔法。

約束事などの思考のリミッターを全て外すことができるのだ。

それを応用し、術者が被術者に命令しそれを実行させたりなどをすることができる。

ただし自殺させる、隷属させるなど本能に反することをさせることはできないが。

様々な使い方ができるが、一番の利用法は『自身の意思とは関係なく、口を割らせることができる』という点だろう。

言わないという『決め事』を消し、それを聞きだすのだ。


「よし、じゃあ何故ワシらをつけていた?」


「あなたも盗賊なんですか?」


「盗賊じゃない…ぞっと」


メノウの横に立つツッツにそう言うラーダ。

南アルガスタにいたときならば、懸賞金かかかっていたためメノウが狙われるのは分かる。

しかし今はそう言った物は無い。

それともカツミが追われていたのか?

彼女は盗賊である以上、恨みを買うことも多々あるだろう。

しかしそうではないようだ。

ラーダはメノウにこう言った。


「い、『異能者』の少女を監視するようにと言われて…」


ラーダの言葉を聞き、思わずメノウに眼をやるカツミ。

彼の言った『異能者』という言葉、それはこのアルガスタでも忌み嫌われる存在を指している。

それは通常の人間よりも数段優れた特殊な力を持つ存在。

極稀にそう言った力を持つ者がこの世界には生まれてくるのだ。

歴史上でもその存在は確認できる。

ある時は神のように崇められ、またある時は悪魔のように恐れられていたという。


「(異能者の少女…まさか、このメノウが…?)」


ラーダはカツミでは無くメノウ達の方を向きながら言っている。

つまりカツミを追っていたわけでは無かった。

メノウの異様な強さも、彼女が異能者であると考えれば納得がいく。


「誰に言われたんじゃ、それも答えろ!」


しかしメノウは異能者のことなど気にも留めずさらにラーダを問い詰める。


「め、命令したのは…」


「誰なんじゃ?」


「じ、じょ…」


その先の言葉をラーダが発することは無かった。

既に彼は息絶えていたからだ。

何者かが放った銃弾によって。


「なんだ!?」


「誰じゃ!」


何とか寸前のところで避けたカツミとメノウ。

しかし、ラーダのみ避けられなかった。

弾丸を喰らいその場の後方にゆっくりと倒れていくラーダ。

ツッツは急いでアゲートを連れその場から離れる。

やがて大きな地響きとともに、地響きとともに野獣の咆哮が聞こえた。


「この咆哮は…」


メノウはその声に聞き覚えがあった。

それはかつてメノウの住んでいた禁断の森の奥、ラウル古代遺跡に住む魔物。

メタリックの『大型肉食恐竜型ハンター』の咆哮だったのだから。

やがて、大型肉食恐竜型ハンターが紅い眼を鋭く光らせ、その場に現れた…


「何故、なぜ魔物がこの地に!?」


メノウの叫びが辺りに轟いた。

名前:モグ・ラーダ 性別:男 歳:32歳

メノウ達を追っていた男。

何者かからの刺客らしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ