第二十五話 心を読む魔術師!?
浜川先生、復活してください。
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今復活しなきゃいつ復活するんですか!?
一方その頃。
ツッツはトロムの母親のいる、ディオンハルコス教団キリカ支部内の信者の寝泊りする宿舎の敷地に侵入していた。
幸いにも警戒の矛先が暴れていたメノウ達に向いていたため、特に問題も無くここまで来ることができた。
警備自体はそれほど強固なものでもないようだ。
恐らく監視カメラのようなものも無いのだろう。
「アゲート、ここに隠れててください」
古い倉庫の陰にアゲートを繋ぎ、宿舎内に侵入する。
この建物自体は戦前の兵士の宿舎をそのまま流用しているらしい。
そのため非常に古く、みすぼらしい。
壁はひび割れ朽ちかけており、扉などの金具などの一部がさび付いている。
しかしそれを安物のセメントや鉄骨による補強、そして塗装で無理矢理誤魔化している。
「古い建物だなぁ…」
明るい時間帯に表門から見たときはとても清掃が行き届いた清潔な建物に見えた。
しかしどうやらそれは表の将きょう施設のみのようだ。
裏門に近い宿舎などの建物はそこまで綺麗というわけでもない。
「宿舎の1号棟の206号室か…」
教えてもらった部屋の番号を頼りにトロムの母の部屋を探す。
どうやら、女性信者には一人一つの部屋が割り当てられているようだ。
一方の男性信者はタコ部屋。
これが意味するものは…?
「とにかく探しましょうか」
個人部屋が割り当てられているのならば探すのは容易だ。
足音を消しながら宿舎の中を歩いて行くツッツ。
外見から大体想像はできたが中はもっと汚い。
部屋の中はきっとさらに汚いのだろう。
そう思いながら宿舎の通路を進んでいく。
このまま順調に部屋を見つけることを願うツッツ。
しかしそうはいかなかった。
突如、宿舎内に大きなベルの音が鳴り響いた。
「(見つかった!?)」
思わず近くにあった空のゴミ箱に飛び込み身を隠すツッツ。
だが、少し様子が変だ。
見張りの者が来るようでも無い。
その代わり、宿舎内の各部屋から女性信者たちが次々と出てきた。
「(見つかったわけじゃないのか)」
そう言えば先ほどメノウ達と共に侵入した際に流れたサイレンの音と今流れたベルの音は違うものだ。
今のベルの音は警備システムの物では無く、もっと何か『別』の物だろう。
改めてゴミ箱の隙間から人々の流れを見るツッツ。
人が入っている全部屋から女性信者たちが出てくるのが確認できる。
彼女たちは次々と施設内の中央にある『聖堂』へと集まって行った。
「(一体何が始まるんだろう…)」
ツッツは考えた。
トロムから貰った母親の情報は部屋番号とちょっとした外見の特徴のみ。
これだけの人数からトロムの母親を見つけるのは難しいだろう。
このまま動かないよりは自分から行動をするのが『大吉』だ。
トロムはゴミ箱から飛出した。
そして女性信者たちの集団に紛れ込んだ。
「あら、この時間は男の子は出歩いちゃいけないのよ…」
その中の一人の女性に話しかけられるツッツ。
どうやら彼女は自分が教団の人間ではないと知らないようだ。
しかしそれは無理はないだろう。
これだけの人数の人間、しかも入れ替わりの激しい者達全員を完全に把握するのは困難。
常駐するわけでもない子供の顔など一々覚えていられないはずだ。
それに今は教団の胴着を着ている。
まず疑う者などいない。
「す、すいません。僕まだよくわからなくて…」
「ここに来たのは初めて?」
「はい」
まぁ嘘ではない。
「ちょうどいいわ、いまから偉大なる指導者である『ピアロプ』様のお話の時間なの」
「ピアロプ…?」
「あの中央聖堂でね。私たちと一緒に聞きに行きましょう」
この女性信者の言う指導者『ピアロプ』、それがこの施設で教えを広めている者だろうか?
しかしこれは都合がいい。
恐らくそのピアロプの話はこの施設の信者全員が聞くモノだ。
そこに行けば間違い無くトロムの母親に会える。
後はこの施設を管理している側の人間に適当な理由をつけて彼女に合わせてもらえばいい。
届け物がある、などと言って…
「そうしましょう」
「いいわね」
「そうわよ」
その話を聞いていた他の女性信者達も皆それに賛同しているようだ。
特に怪しまれている様子は無い。
ツッツは施設の中央にある大きな館へと女性信者たちと共に向かった。
その途中、ツッツは気になっていたことを数点尋ねた。
「でもさっき何か変なサイレン?みたいなの鳴っていませんでしたか?あれは?」
これは、メノウ達と共に侵入した際に鳴った警備システムのことだ。
「たぶん誰かが侵入したのね。コソ泥かしら?」
「そんなのが入ってきたのにピアロプさんの話をするんですか?もし盗賊とかだったら危ないんじゃ…」
「大丈夫よ、この施設の警備兵は強いから」
もっとも、その警備兵たちはスートの魔法により一掃されているのだが。
現在も拘束されたままだ。
「僕、ファミー・ポップという女の人に渡したいものがあるんですけど知りませんか?」
ツッツの言う『ファミー・ポップ』とは、トロムの母親の名前だ。
この女性信者が知っているとは限らないが一応聞くだけ聞いておこうというわけだ。
「ファミーさん?知らないわねぇ」
「そうですか…」
「ごめんなさいね、何しろ人が多くて…」
「いえいえ」
「施設の人に聞いてみたら?」
そう話しているうちに大きな門を潜り聖堂の館へと入るツッツ。
館の中は先ほどの宿舎からは想像できないほどの豪華な作りになっていてた。
宗教的な意味が込められたであろう像や絵画が飾られている。
壁や床には不気味な幾何学模様などが描かれ、その所々に緑色の石が埋め込まれている。
「何ここ…」
「ここが偉大なる指導者であるピアロプ様の館よ」
その後の彼女たちの説明によると、この館の壁や床に埋め込まれているのは全てディオンハルコス鉱石だという。
触れることで体の『害なる物』が抜けていくらしい。
これこそ、ピアロプの持つ『神聖なる力』の一端だという。
彼は信者たちの前で様々な『奇跡』を起こしてきた。
このキリカ支部は現在『ディオンハルコス教団』では無く、彼自身を崇拝する『ピアロプ教』のような団体になっているのだ。
「ディオンハルコスでは無く、ピアロプ様こそ唯一神。覚えておきなさい」
「は、はい」
とりあえず相槌を打つツッツ。
そう言ううちに館内の聖堂へとたどり着いた。
奥にはステージのような物があった。
そこでピアロプや施設関係者が話をするのだろうことは容易に想像できる。
聖堂内にも先ほどと同じく幾何学模様などが描かれており少々落着けない。
しかしそんなことは全く気にも留めず、並べてある椅子に座る信者たち。
ピアロプの話が始まってしまうとしばらく足止めされてしまう。
その前に行動を起こさなければならない、そう思ったツッツは共にいた女性信者に言った。
「すいません、僕ちょっとトイレに…」
「あら、もうすぐ始まるのに。男の子用のトイレはあっちよ」
「ありがとうございます」
その場を離れることに成功したツッツ。
あとは先ほどの考えの通り、施設の人間を探し出しファミーがどこにいるかを尋ねるだけだ。
一旦、聖堂から出て、館内で施設の人間がいないかを探す。
聖堂内にいるなら呼び出してくれるかもしれない。
自分が侵入者だと、バレてはいないのだから…
「(お、あの人がいいかな?)」
館内を歩いていると、他の信者たちとは少し違った服を着た初老の男を見かけた。
他の信者たちが質素な服装なのに対し、あの男だけ妙に派手な服装をしている。
ディオンハルコス製だと思われる腕輪や指輪などのアクセサリーの数々。
その周りを数人のボディーガードの男が囲っている。
恐らくかなり地位の高い者だろう、あるいはあの男がピアロプなのか…?
「あの、すいませ…」
ツッツが彼に話しかけようと近づく。
当然ボディーガード達に阻まれてしまうも、その男は彼らにツッツの会話を許可した。
「わかりました、ピアロプ様」
やはりこの男がピアロプだったようだ。
彼が振り返る瞬間、一瞬だけ眼光が鋭くなったような気がした。
「で、私に何か用な?」
「えっと…」
「言わなくてもわかる、君は人を探しに来たんだろう?」
「はい…え?」
ピアロプはツッツが用件を言う前にそれを当てて見せた。
突然のことに理解の追いつかないツッツ。
それに追い打ちをかけるように、彼はさらに話を続ける。
「それだけでは無い。君は先ほど侵入したという賊の仲間だね、『ツッツ』くん?」
「なッ…!」
その言葉と同時にピアロプの周囲にいたボディーガード達が一斉にツッツを捕える。
メノウと違いツッツはただの子ども、抵抗むなしく囚われてしまった。
「はなせー!バカー!インチキ野郎ー!」
「さっさと連れていけ」
そしてそのまま聖堂へと連れ戻され、奥にあるステージの上に晒し上げられてしまった。
台にロープで拘束されてしまうツッツ。
その横にピアロプが立ち、信者たちに語り始めた。
「先ほど侵入した賊の一人を捕まえた」
彼の言葉にざわめく信者たち。
あんな小さな子供が、と嘆く者…
キリカ以外の地区から来た貧民の子どもではないかと言う者…
しかしそんな信者たちを尻目にピアロプは話を続ける。
「しかし問題はそこではない、どうやらこの子は我々の信じる神を否定するらしい」
それを聞いた信者たちは一斉にざわめき立つ。
「ゼログリなんかを売る宗教なんか信じられない!」
「だが君は先ほど、このピアロプの『奇跡』を見ただろう?」
「そ、それは…」
先ほどピアロプはツッツの考えていることを当てて見せた。
それだけでは無く、今まで彼が起こしてきた多くの『奇跡』。
ここで言う『神』がピアロプを指すのであれは確かに神の力は『実在』することとなる…
「どうだね?君も我らの仲間にならないか?」
「やだ!神なんか必要ねぇんだよ!」
元々ツッツは無神論者、そのような話になど毛頭興味も無い。
そんなツッツを無視し、ピアロプはある物を部下に用意させた。
それは湯呑みに入った水と、白い粉のような何かだった。
その粉を水に入れるピアロプ。
サーッと粉は水に溶けていった。
「飲め!」
「やだー!」
あの粉は何らかの薬。
子供のツッツですらそんなことは容易に想像できる。
しかし今、ツッツはロープで拘束されている状態。
抜け出すこともできない。
「ならば無理矢理飲ませ…」
ツッツの口をこじ開けようとしたピアロプ。
しかし、彼がツッツに薬を飲ませることはできなかった。
彼の持っていた湯呑みは、一瞬の内に底が切断されていたのだ。
当然、薬の溶けていた水は全てこぼれ出てしまっている。
「な…これは…!?」
突然の出来事に、辺りを見回すピアロプ。
自然現象でないのは明らか。
となれば、今この施設内でこのようなことができるものとなれば決まっている。
それは…
「待たせたの、ツッツ!」
「指砲切断、魔法で『湯呑みを切断』しました」
聖堂の天窓からツッツ達を見おろすメノウとスートの姿がそこにはあった。
ウォーターボールのジャンボシャボン玉を風船代わりにし、ゆっくりと聖堂内に降りてくる二人。
「賊共か…!」
「賊?賊はあなたでしょう?」
「ワシらはちゃ~んと見たぞぃ、お前さんの『正体』をな…」
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事務室にて書類を探していたメノウ達。
探し初めて僅か数分だが、様々な犯罪の証拠が山のように出てきた。
最初にスートが目にしたのは違法薬物の取引に関する書類だった。
幻惑作用を生み出す薬、特殊用語で『対馬-2014-08-07』と呼ばれているものだ。
その後も次々と出てきた。
「薬物に軍の武器の横流し、人身売買、違法薬物の密売…」
「怖いのぉ…」
「他にもいろいろと取引書も見つかりましたよ」
そう言ってスートは別の書類をいくつか持ってきた。
これらだけ何故か先ほどの書類とは分けて保管されていた。
「希少生物の売買に古代遺跡の盗掘、妙なものばかりだな…」
「腐っとるのぉ…」
「ええ…」
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「つまりあなたは信者たちに幻惑作用のある薬を飲ませ、『奇跡』を演出していた」
その後のスートの説明によると、このピアロプと言う男はかつて王都ガランにて魔術を学んでいた魔術師だったらしい。
心理学や薬術にも精通した天才だったが、その力を悪用し王都を追放された。
その後、各地を回り悪事を繰り返していたという。
心を読むというのは読心魔法、その他の奇跡は幻惑効果のある薬と別の魔法の複合というわけだ。
「そうでしょう?懸賞金二百二十万キッボの『心を読む詐欺師 ピアロプ・トロシード』!」
そのスートの叫びと同時に、警察隊が聖堂に一斉に雪崩れ込んだ。
元々このキリカ支部を摘発しようとしていたキリカ警察に、スートがあらかじめ連絡を入れておいたのだ。
先ほど事務室で回収した証拠があれば十分逮捕は可能だ。
『偉大なる指導者 ピアロプ』、もとい『心を読む詐欺師 ピアロプ・トロシード』は警察隊に逮捕された。
そしてその無残な姿を自分の信者だった者達に晒すこととなったのだった…
名前:ピアロプ・トロシード 性別:男 年齢:五十三歳
心を読む詐欺師の異名を持つ男。
様々な地区で悪事を重ね、最終的にこの西アルガスタにたどり着いた。
様々な魔法が使えるが、スートほどでは無い。