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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2章 西の支配者と東の皇
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第二十四話 ジャンボシャボン玉の有効活用

今回の話は、あの伝説の浜川裕平先生の『ジャンボシャボン玉』をリスペクトして書きました。

裕平先生は今頃ジャンボシャボン玉に幽閉されているんですかね(うまい!)

怪我のことも忘れたように、一心不乱にディオンハルコス教団へと向かうスート。

既に太陽は落ち辺りは暗闇に包まれている。

森の中には彼の足音のみが…

いや、それともう一つ…


「あなた達はついてこなくてもいいんですよ!」


「いいや、ワシもその教団に興味が湧いてきた!」


「ぼ、僕もです!」


アゲートの背に乗ったメノウとツッツもスートと共にディオンハルコス教団の施設を目指し、疾走していた。

森の中とはいえ、軍馬と互角の走力を持つスートもなかなかに凄い。


「先ほどの私と門番の男のやり取りを見たでしょう?危険です!」


「大丈夫ですよ、そのためにトロムくんからこれ貰ってきたんですから」


そう言ってツッツは自身の着ているディオンハルコス教団の胴着をスートに見せつける。

教団の施設に潜入すると言ったツッツに、トロムが渡したものだ。

彼の母親が買った物らしいが、肝心のトロムは着たことが無いらしい。

これを着ていれば最悪の場合でも教団の信者の中に紛れ込めば逃げることもできるだろう。

そのため、ツッツはいつも被っている帽子の代わりに頭にバンダナを巻いている。

ちなみに一着五万キッボの値段らしい。

やはり高い。


「けどメノウさんは…!」


しかしメノウはその胴着を着ていない。

いつもの白いローブのままだ。

もっとも本人はそのことを気にしていないようだ。


「大丈夫じゃて」


いままで何回も戦いを繰り広げてきたメノウにとって、単なる宗教施設の信者など相手ではない。

そもそもまともに戦いになるかすらわからない。

相手側に自分の強さを見せつければ、即降参する可能性もあるだろう。

そう思うメノウ。


「そういえば、お前さんは教団に用があると言っておったろぃ?」


「…はい」


「一体なんなんじゃ?」


メノウに聞かれ、スートは自身がディオンハルコス教団を訪れていた理由を語り始めた。

走りながらの会話のため、簡潔に短く、だったが。


「ディオンハルコス教団というのはゾット帝国中に支部があることは知っていますね?」


「まあの」


「今から行くところはそのうちの一つ、『ディオンハルコス教団 キリカ支部』です」


「まぁ、キリカにあるんだからそうじゃろうな」


「(僕は今から行くところが本部だと思ってました…)」


スートの語る通り、ディオンハルコス教団はゾット帝国中に支部のある大きな宗教組織だ。

トップである一人の偉大なる指導者の下に数人の配下、そしてそのさらに下に各支部の支部長がいるといった組織構造になっている。

トップとその下の数人の配下は真に民衆のことを重んじる思想を持っているが、その下の支部の者達は違う。

本来の教えを破り、カルト的な行為を働く詐欺集団と化している場合が殆どなのだ。

もちろん、まともな考えを持つ者もいるがそれは少数。

その大きな勢力故、今では軍なども干渉できなくなっている。


「大半の支部は犯罪組織と変わりない、ということじゃな」


「ええ…」


先ほどスートはその不正を暴くため、一度キリカ支部に潜入した。

しかし途中で見つかり追い出されてしまった。

まだ日の上っている明るい時間帯であったこと。

信者たちが施設に大量に集まっていたことなどからあまり大規模な活動はできなかった。

しかし今は違う。


「あの時はあくまで話し合いで解決しようとしてたんです。今回は手荒にやらせてもらう!」


そう言ってスートは近くに落ちていた木の棒を走りながらに拾い上げる。

歪みの少ない、どこにでも落ちていそうな単なる木の棒。

それをどうしようというのか。

ツッツには理解できなかったが、メノウは大体察しがついたようだ。


「歪みないのぅ」


「気付きましたか?」


「おう」


「え、え、え?僕にはさっぱり…」


「後になったらわかりますよ。おっと、見えてきました!」


そう言ってスートが木の棒で差したその先にキリカ支部の裏門があった。

表の門とちがい、そこまで大きくは無い。

荷物運搬などに使うのだろう。

その門を勢いよく飛び越えるアゲート。

スートもそれに続くように侵入する。

少し走ったところで館内に大きなサイレンの音と侵入者の存在を伝えるアナウンスが鳴り響く。


「やはり警備システムがあったか…」


スートが呟く。

単に見張りだけを配備しているのならば楽だったのだが…


「とにかく、トロムくんの母親を探しましょう!」


「ツッツ、それはお前さんに任せた!」


「え…えぇ!?」


「スート、行くぞぃ!」


そう言ってツッツをその場に置き去りにし、メノウとスートは先を急いだ。

もっとも、明らかに部外者であるスートとメノウと一緒に行動していてはツッツも怪しまれてしまう。

教団の胴着を着てカモフラージュをしている今ならば、一人で施設内をうろついていてもさほど問題視されない。

ツッツも急いでその場を離れ、信者たちの寝泊まりする宿舎などのある方へと向かっていった。


一方、メノウとスートは既に見張りの者達に見つかり囲まれていた。


もしツッツと別れる前に見つかっていたら、ツッツは捕まっていただろう。

そう考えると、あのタイミングで別れたのは正解だったと言える。


「お前たち、ここがどういう施設なのか知っているのか!?」


「神に仕えし者たちが集う聖域を汚す者どもめ!」


メノウ達を囲む者達が一斉に罵声を浴びせる。

しかし、それをメノウは軽く笑い飛ばす。

それと同時にスートは先ほど拾った木の棒を片手に構える。


「人の心を金に換える者共にそのようなことを言う資格など無い!」


「何を…」


「そそげ、『シルバーレイン』!


スートが右手に持っていた木の棒を天に突き上げ、天を仰ぐ。

呪文を詠唱すると突然、辺りに光の剣の雨が降り始める。

悲鳴を上げながらその場に倒れていく信者たち。

だが、その身に外傷はない。


「シルバーレイン、下級の攻撃魔法じゃな…」


「威力は最低レベルに抑えてありますが、一般人相手ならばこれでも十分すぎるくらいです」


スートは魔術を体得した、俗に言う『魔術師』と呼ばれる存在だ。

現在では上流階級の人間が趣味のレベルで学ぶものとしか認識されていない魔法。

だが、極めればその力は現代兵器をも凌駕する。

しかし魔術師という存在は既に『伝説』とまで言われているほど希少な存在。

このスートという男はどれほどの魔法が使えるのだろうか。

ただ単に魔法科のある学校か何かで学んだ程度か、それとも…?


「お前さん、どれほど魔法が使えるのじゃ?」


「王都ガランで学べる魔法はほぼすべて使えます。それ以上の発展形となると難しいですが…」


そこまでいうと、その場を急いで離れる二人。

先ほどのシルバーレインは威力を最低レベルに抑えてあるため、せいぜい人間を気絶させる程度の威力しかない。

目覚められる前に逃げるのが正解だ。

しかしそんなことはお構いなしに別の追手がさらにやってくる。

先ほどの者達とは違い槍や剣て武装している者もいる。


「武器まで持ってくるとは…」


「銃が無いだけマシじゃろ」


そう言って施設内の狭い回廊に入り込む二人。

先ほど壁をふと見た際にこちらの方角に事務室があると書かれていた。

事務室に行けばカルト宗教と化したこの集団の実態を暴く証拠が出てくるはずだ。


「悪いが、ここで纏めて動きを封じさせてもらう!」


スートが後ろから追いかけてくる者達に対し、再び木の棒を振りかざす。


「包め、『ウォーターボール』!」


スートの呪文を詠唱する声が回廊に響きわたる。

それと同時に、辺り一面を薄い霧雨が包む。

やがて霧雨は濃霧となり追手たちを包み込んでいく。

霧が晴れたかと思ったら、追手たちの身体がジャンボシャボン玉に包まれ、ふわりと身体が浮き上がる。

何が起きたのかわからないのか、追手たちはジャンボシャボン玉の中から出ようとジャンボシャボン玉の中からジャンボシャボン玉を割ろうと

ジャンボシャボン玉に攻撃を繰り返す。

しかし、いくら斬撃や槍による突きがジャンボシャボン玉に当たろうとも、ジャンボシャボン玉は一切割れる気配がない。

全ての攻撃がジャンボシャボン玉に吸収されてゆくのだ。


「ウォーターボールか…」


「ええ、基本的には結界や空中浮遊のための魔法ですがこういった使い方もできます」


空気中の水分濃度やその他の温度などを変化させ霧雨を発生。

疑似的なシャボン玉を作り出し敵を包み込む魔法、それが『ウォーターボール』と呼ばれる魔法だ。

水系魔法の中でも比較的簡単な部類に入る技である。

基礎部分を別の魔法に流用できるので魔法を習う者達からは人気のある魔法として有名だ。

名前だけ聞くと水弾をぶつける魔法を想像してしまうが、そう言った魔法よりも遥かに魔力消費が軽く使いやすい。


「ジャンボシャボン玉で通路を塞ぎました、これで新たな追手は来ません!」


「よし、事務室へ向かうぞ」


「あそこです!」


事務室には大きな南京錠が掛っていた。

単なる事務室にこれほどの鍵をかけるということは、確実に何かがある。

魔法で開ければいいと思いがちだがそれはできない。

鍵を外す魔法というのは、意外にも存在しないのだ。

魔法が活発に研究されていた数百年前の時代において、それは禁忌とされていたのだ。

その流れが現代まで続いているため、鍵を開ける魔法は存在しない。


「電子カードキー式ならば魔法でハッキングができたんですが…」


「どれ、ワシに任せろ」


メノウがヘアピンを外し、鍵を上手に開けていく。

その時間は僅か十秒にも満たなかった。

耳当たりのいい金属音とともに、南京錠が外れる。

あまりの手際の良さに驚くスート。


「す、すごいですね…」


「南アルガスタにいた友達にならったんじゃ」


鍵を開け、事務室へと入る二人。

特に何の変哲もない、無機質な机が並ぶだけの事務室だ。


「何でもいい、ゼログリットの売り上げや仕入れ先などとにかく怪しいものを探しましょう」


「おう」


そう言うと二人は事務室の書類を漁り始めた。



名前:スート 性別:男 一人称: 年齢:二十代

中世的な見た目の謎の青年。

魔法が使える。

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