第二十三話 港町キリカにて
ジン編の短編外伝作品『ゾット帝国親衛隊ジンがゆく!外伝~異能の力と流れ雲~』を掲載しました!
良ければ見てください!
最近のゾッ帝二次創作ブーム、いい感じだで
イオンタウンでの一件に決着をつけたメノウ達。
タイマ&ツシマ兄弟は二人同時に連行されていったらしい。
メノウはウェーダーに別れを告げ、ツッツと共に次の街を目指した。
砂漠と荒野を数日かけて乗り越えたどり着いた街。
それは海に面した港町だった。
「というわけで、港町キリカに着きました~!」
「きれいな街じゃ、今の世では珍しいことで…」
ここは西アルガスタで最も栄えている街、『キリカ』。
景色は良く、魚介類が新鮮で美味しい。
遊ぶ所もあり、住むならばまさに理想の街と言える。
以前の大戦でも戦争にあまり巻き込まれず、古い街並みがいまだに残っていることでも有名だ。
しかし、住んでいるのはそのほとんどが金持ちの者達ばかり。
そのためか旅人であるメノウ達もどこか浮いて見える。
「なんか感じ悪い街ですね…」
「単に旅人を警戒している…というわけでも無さそうじゃのぉ」
街中を歩いていると、どうも奇妙なものを見るような眼で見られている事に気づいた。
この街の人間は身分の低い人間を見下す、そういった傾向があるようだ。
態度に露骨に出ることは無いものの、どこかこの街の人々は冷たい感じがする。
今までメノウが訪れてきた多くの街ではこのようなことは無かった。
排他的な者や身分を鼻にかけた者が多いのだろう。
「とりあえずどうしますか?」
「適当に買い出しと…今日泊まるところの確保じゃな」
そう言いながら、アゲートの脚を進めながら街を探索する二人。
この街は大戦前の街並みがそのまま残っている区画と比較的新しい区画がある。
また、大戦後に作られたアスファルト舗装の道路もあり自動車も走っている。
馬では逆に目立ってしまうほどだった。
好奇の視線を向けられ困惑する二人とアゲート。
「なんか…やりにくいですね…」
「早く泊まるところ見つけないとな…」
街外れなら少し落ち着いた場所もあるだろう。
そう思い、中心街から少し離れた区画へと入っていく。
先ほどの場所とは違い自然の比較的多い区画だ。
公園や広い面積を必要とする公共の施設などが点点としている。
先ほどの街より少し高い位置にあるため、ここから街全体が見下ろせるようになっている。
既に日が沈みかけており、夕日が港の向こうの水平線に揺れている。
「ここら辺なら落ち着いて探せるのぉ」
「ですね」
人も疎らにしかいないため、先ほどよりは落ち着いて探せる。
そう思いながら足を進める。
できれば日が沈む前に探したいものだが…
そこでふと、ある建物が目の前にあることに気付いた。
悪趣味な装飾のついた派手な建物だ。
無駄に広い敷地には、妙な像や緑色の大きな岩が規則的に置かれている。
何らかの宗教施設だろうか…?
「なんですか?これ?」
「さぁ…?趣味悪いことで…」
あまり見ていて気分のいいものではない。
それよりも宿泊する場所を探すのが先だ。
そう思い、その場を離れようとする二人。
しかしその施設の正門から離れようとしたその時…
「あ、門が開いた」
門が開き中から一人の男が、大柄な男に抱えられながら出てきた。
そして、大柄な男はその抱えていた人物を外に放り投げた。
放り投げられた人物は、白いローブを纏った中性的な見た目の男だった。
「二度と来るな!」
怒号を浴びせると大柄な男はメノウ達には目もくれずさっさと門を閉めた。
見たところ先ほどの大柄な男はあの施設の関係者だろう。
彼の着ていた装束のデザインの意向がこの施設全体に施されている物と同じだった。
しかしこのつまみ出された人物はいったい何者なのだろうか…?
「だ、大丈夫ですか…?」
ツッツがアゲートの背から降り、つまみ出された彼に駆け寄る。
擦り傷などを除けば特に目立つ怪我などはしていないようだった。
「え、ええ。大丈夫です」
壁に手を着きながらよろよろと立ちあがる男。
ツッツはどこか彼からメノウと同じような雰囲気を感じた。
恐らく、彼とメノウの服装が少し似ていたからだ。
二人とも白いローブをその身に纏っている。
長旅にはちょうどいいファッションなのだろうか。
そう考えつつ、彼に手を貸すツッツ。
「無理しない方がいいですよ」
「ありがとうございます。けど本当に…」
そう言い残しその場からそそくさと離れようとする男。
しかしその足取りはおぼつかず、今にも倒れそうなほどふらついている。
見かねたメノウはアゲートの後ろに乗るように言った。
このまま怪我人を放っておくわけにもいかない。
だが、さすがにアゲートに三人の人間を乗せることはできない。
ツッツは下に降りての歩きになってしまうが仕方がない。
「狭い馬上じゃが、我慢してくれ」
「僕は歩きますから」
「本当に申し訳ない…」
「とりあえずどこに行きたい?やはり病院に…」
「いえ、街の外れに宿をとってあるのでそこにお願いします」
男が申し訳なさそうに言った。
そこまで外傷も大きく無さそうなので、宿で薬を少し分けてもらえば彼は大丈夫だろう。
メノウ達は男に言われるまま街外れの宿へと向かった。
火がほぼ沈みかけた頃に、ようやく自然区域の奥の方にあるその村にたどり着いた。
金持ちしか住めないキリカとは違い、こちらには他の地区からやってきた貧しい人たちも暮しているという。
キリカの周辺にある工場などで働いている者達の住む村というわけだ。
「この村の外れに宿をとってあります…」
「静かな村じゃなぁ」
「僕はこっちの方が好きですね」
そう言ってメノウ達を案内する男。
その道中で村内を見回すツッツとメノウ。
先ほどのキリカとは違い、どこか落ち着く雰囲気だ。
自然に囲まれた古風な村、そう言った印象を受ける。
キリカとはまた違った意味で暮らしやすそうだ。
「この宿です」
村を少し歩き、男が指差したのは一軒の丸太小屋だった。
二階建てになっている少し変わった小屋だ。
何らかの建物を転用したのだろうか。
しかしこれは泊まるところを探していたメノウ達にはちょうどいい。
「この宿、まだ『空き』はあるかのぅ?」
「たぶんあると思いますが…?」
「そうか!」
宿に入り、急いで部屋を取るメノウ。
もともとあまり客のこない宿だったため部屋の空きはたくさんあった。
主人が料理屋ついでに半ば趣味てやっているような宿だという。
そのため簡単に部屋を借りることができた。
「おーいツッツ!宿借りれたぞぃ!」
「わーい!久しぶりにベッドで寝れるー!」
「ツッツ、悪いけど先に荷物運んでおいてくれんか?」
「はい!」
「お前さんはどうする?宿の主人に頼んで薬をもらってこようか?」
「ありがとうございます、そうしてくれると助かります…」
男はちょうどメノウたちの隣の部屋を借りているらしい。
旅をしているらしく、しばらくこの村に滞在するようだ。
部屋に横になっている男に薬を渡すと、メノウはツッツを連れて食事に出かけた。
宿の主人が営んでいる食堂だ。
キリカで獲れた魚介と近隣の森で採取した山の幸が楽しめるという。
食堂は宿の裏手に作られている。
「宿に泊まってるお二人さんか、そこに座りな」
店長が無愛想に二人を席に案内する。
店内は開放的なオープンカフェのようなつくりだ。
武骨な顔の店長だが割と趣味は若者的だ。
さっそく席に座り、注文をしようとする二人。
「おほぉ^~結構いろいろあるのぉ~」
「何有りますか?」
「やはり海の近くじゃから魚系が多いのぅ…」
「僕、生魚って食べたことないんですよね。何かないですか?」
「じゃあこの岩魚のマリネとかどうじゃ?安くて量も多そうじゃ」
「いいですね!じゃあ僕それもらいます!」
「ワシはイカ墨焼きというのを注文してみるか…」
「炭?真っ黒?焦げ焦げですか?」
「たぶん違うと思うぞっと…」
「気になりますね…」
「あとは適当に野菜系の物を頼むか」
「何にしますか?」
「…よし、このキノコソテーにしよう」
それぞれ興味のそそられる料理を注文した二人。
注文した料理が意外と早く来たため、それぞれ食べてみる。
今まで食べたことのない海の幸と山の幸を堪能する二人。
砂漠のイオンシティとは違いこの地区では水は無料サービスというのも嬉しかった。
「生の魚っておいしいですね^~」
「このキノコは…大人向けやね」
「イカ墨焼きもらっていいですか?」
「いいぞぃ。ラウルに生えていたキノコとはまた違った味がしていいのぅ…」
二人が料理を堪能する中、先ほどの男が部屋から出てきた。
薬のおかげで楽になったのか、先ほどよりも顔色はよさそうだ。
しかしまだ本調子ではないのか、シャツなどの軽い服装になっていたが。
「おお、元気になったか」
「ええ、おかげさまで」
「よかったぁ~」
「隣いいですか?」
そう言って男はメノウたちの隣に座った。
「私の名は『スート』、もしよければあなた達のお名前を教えていただいてもよろしいですか?」
この男の名は『スート』というらしい。
「ワシはメノウ、こっちはツッツじゃ」
「よろしくお願いします」
「どうも、よろしくお願いします」
「どうじゃ、お前さんも岩魚のマリネ食べんか?」
メノウがスートに岩魚のマリネを進める。
しかしスートはそれを拒否した。
遠慮しているわけでは無く、どうやら宗教に関係しているらしい。
「私は世界中の宗教を研究するため、各地の聖地を巡礼しているのです」
先の世界大戦で文明が滅びた今でも、各地では宗教活動は盛んにおこなわれている。
寺院や教会など宗教施設の復興も進んでいるという。
世界各地の宗教の実態を知るため、スートは一人世界中を回っているのだ。
「最近、『水の中の生き物を食べてはいけない』という決まりのある宗教の聖地を回ってきたところなので…」
「あ、なるほど!だから!」
「流石にその直後に食べるのは少しまずいかなと…」
「ほぅ、宗教か」
「特定の宗教に、というわけではないので。世界中の少数民族の信仰する宗教なども研究しています」
そう言うと、スートは今まで回ってきた様々な地区の宗教について語り始めた。
太陽神を崇拝する『豪教』、その豪教の司祭の立ち上げた邪教、東方大陸の島国に伝わる『すわわ教』等…
上げていけばキリがない。
メノウは理解しているのか彼の話に相槌を打っているが、ツッツは話について行けず半ば頭が混乱している状態だ。
「そこで現地の人は私にこう言いました、私にとって彼は…」
「…」
「あ、すみません!つい話に熱が入ってしまって…」
「い、いえいえ!」
「ワシは結構楽しめたぞぃ」
思いのほか弾むメノウ達の会話。
とその時、店内に一人の少年が息を切らしながら入ってきた。
ツッツよりも年下の、十歳前後ほどの年齢だろう。
メノウが彼に目線を合わせて尋ねた。
「どした?少年?」
「あ、えっと…お姉ちゃん達は…」
少年がそう言った丁度その時、後ろから店長が現れた。
「トロム、どうした?」
「と、父ちゃん!母ちゃんが!」
このトロムという少年はどうやら店長の息子らしい。
何やら訳ありだと感じ取ったメノウ達は彼らを交えて話を聞くことにした。
これは家族間の問題、なので最初は店長も難色を示した。
しかしメノウとツッツの二人も交えた方がトロムも話しやすいようだ。
一旦店を閉め、店の奥の一番広い席に座る一同。
もちろんスートも一緒だ。
「で、君の母上がどうしたんだい?」
スートがトロムに尋ねる。
それに答えるように、トロムは涙ながらに語り始めた。
どうやら彼の母親は最近、キリカの街で流行っているという宗教にのめりこんでいるらしい。
それもかなり悪質な、詐欺集団紛いのものだという。
「…それはまさか!?」
スートにはその宗教集団に心当たりがあった。
それこそ、彼が先ほどメノウ達と出会ったあの施設を管理する者…
「『ディオンハルコス教団』…!?」
「そう、それだよ!
ディオンハルコス教団はディオンハルコス鉱をご神体として祀っている教団として有名だ。
大戦後に誕生した宗教であり、その思想自体には何も問題は無い。
しかし、最近では各地で何やら裏で怪しげな取引をしているという。
麻薬や武器売買、宗教団体を隠れ蓑にする犯罪組織とのうわさもある。
そのため、『南アルガスタ』ではそれらを取り締まる政令が作られたほどだ。
他の地域ではまだ実現はしていないが…
「最近ではアイツ、店の金まで持ち出して変な物まで買ってくるんですよ…」
店長が頭を抱えながら言う。
トロムはメノウたちの前に、小さな緑色の妙な物体を持ってきた。
「ゼログリットって言うんだって」
「なんじゃこれ?」
見た目は緑色の正方形の物体、その上部に奇妙な魔法陣のような物が描かれている。
いかにも胡散臭い物体だ。
トロムの話によるとこんな奇妙奇天烈なアイテムが二万キッボという大金で売られていたという。
メノウはそれを手に取り、振ってみたりさすってみたりしている。
それを無視し、他の者達は話を続ける。
「あれがあると病気にならないとか電磁波がどうとか…言ってたんだ」
「明らかにインチキじゃないか!悪徳商法ですよ!」
ツッツが叫ぶ。
一方、ゼログリットを触っていたメノウは…
「上の魔法陣の塗装が剥がれてしもうた…」
「よく見るとこれ、ただのプラスチックの箱にちょっと塗装しただけの代物ですよ…」
スートもゼログリットを見て言った。
どうやらトロムの母親はさらに大きなゼログリットを買うため、銀行から金を下ろしディオンハルコス教団の施設へと向かったという。
「連れ戻しましょう!私もディオンハルコス教団に用がある!」
スートが叫ぶ。
先ほどまでのケガを忘れたように素早く着替えると、彼はディオンハルコス教団の施設へと再び向かっていった。
名前:トロム・ポップ 性別:男 一人称:僕 年齢:10歳
港町キリカの近くの小さな村に住む少年。
母親が悪徳宗教に騙されているのが悩み。
人当たりがよく、よく「トロムすき」と言われる。