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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2章 西の支配者と東の皇
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第二十一話 戦難イオンの少女

裕P先生の小説『ゾット帝国騎士団カイトがゆく!~人を守る剣の受け継がれる思い~』の二次創作、『ゾット帝国騎士団カイトがゆく!外伝~疾風の少女と白き龍~』を短編として投稿いたしました!

裕P先生の大ファンなので、以前許可を頂き書かせていただきました!

『疾風の少女と白き龍』の方はゾッ帝ファンに大人気の『あの』キャラクターが登場します。もし未読であれば、そちらも一見して頂けると嬉しいです。

 砂漠の交易都市イオンシティにて、用心棒を買って出たメノウ。

 この先の旅の資金を稼ぐため、町の付近に出没する二つの盗賊集団の討伐を買って出たのだ。

 同じく用心棒を買って出た少年、タクミ・ウェーダーと共に二つあるうちの片方の盗賊集団のアジトの偵察に赴いた。


「あの軍の旧基地が奴らのアジトだな」


「おほぉ^~」


 片方の盗賊集団、『タイマ団』のアジトを双眼鏡で覗くウェーダー。

 なぜかメノウは双眼鏡を使っていなかった。


「おい双眼きょ…」


「大丈夫、ワシ目がいいから」


「あ、そっかぁ…」


 かつての旧大戦時はイオンシティの研究所と共に重宝されたという、砂漠の前線基地。

 しかし今ではタイマ団のアジトとして使われている。

 多くの部屋のある、二階建ての建物だ。

 防護壁で囲まれているため、侵入するのは難しいだろう。


「どれ、ちょっと(かしら)の顔でも拝むとするかのぉ~」


「これが手配書だ、探してみろ」


 ウェーダーがイオンシティの町長から貰った手配書をメノウに渡す。

 スキンヘッドに筋骨隆々の男の写真がそこには掲載されていた。

 それを頼りに、アジト内を見渡すメノウ。

 アジトの敷地内では、賭博をするものや武器の整備をしている者などがいる。

 砂漠の真ん中では娯楽も少ないのだろう。


「お、アイツか!?」


「いたか?メノウ」


「ほれ、あの崩れた二階部分の…」


「あ、ホントだ」


 アジトとして使用している建物は鉄筋コンクリート製、一部分が風と砂により脆くなっていたのだろう。

 二階の屋根と壁が崩れている部屋があった。

 その部屋にタイマ団の頭はいた。

 床に布を敷き、大口を開けて昼寝をしている。


「タイマ団は夜襲や奇襲に長けたチーム、さしずめ今はその準備中ってところだな」


 そう言うと、ウェーダーは岩場の高台から降りた。

 今回はただの偵察、あまり時間をかけている余裕はない。

 もう片方の盗賊集団『ツシマ一派』の偵察も残っている。

 メノウの駆るアゲートの背に乗り、ツシマ一派のアジトへと向かう。


「それにしてもタイマとツシマ…似た名前じゃな」


 アゲートを駆るメノウが言った。

 確かに二つの組織は対立していたにもかかわらず、よく似た名前をしている。


「ああ、それなんだけどな…」


 ウェーダーによると、二つの盗賊集団の頭は兄弟同士だという。

 とある理由で仲違いしそれぞれが別の組織を結成。

 以後、対立するようになったという。


「それぞれの組織の名前は頭の名前からとったんだ。似るのも無理は無いさ」


「ふ~ん。じゃあさっきのヤツは『タイマ』、ツシマ一派の頭の名前は『ツシマ』ということかの?」


「そう言うことだな、ちなみにタイマが『兄』でツシマが『弟』だ」


「それは別に…」


 そんな話をしつつ、ツシマ一派のアジトへと向かう二人。

 一時間ほど砂漠を進んだ先に、それはあった。

 タイマ団の物とは違い天然の大岩を基に、一部を削り作られている。

 天然の要塞と言ったところか。

 メノウ達は近くの廃墟となった小屋に入り、そのアジトを観察する。


「同じような奴らが同じようなことをしてるだけじゃの…」


「まーなー」


 一応こちらの方も頭の顔を確認しておくべきだと思い、頭であるツシマを探す。

 一人だけ離れた場所で金の感情をしている男がいたため、とりあえず手配書に掲載された写真を確認する。

 どうやらその人物がツシマのようだ。

 先ほど見たタイマとは違い、弟であるツシマは比較的整った顔をしている。

 盗賊には似合わない長身の美形の男だ。

 兄のタイマとは違い頭も回る男である。

 直接的な略奪行為よりも作戦を練った場の方が得意なのだという。


「直接戦ったら兄のタイマには勝てないからな、今の停戦を持ち込んだのもアイツの方さ」


「ほう。弟の方が弱い…か」


「けど作戦を練って不意打ちを喰らわせれば兄のタイマなんて目じゃない。まぁ、面倒な奴らだよ」


 そう言って双眼鏡を置き、廃墟の小屋の壁に寄りかかって座るウェーダー。

 討伐を買っては出たものの、いざ二つの盗賊集団を目にすると上手く戦えるかが不安になる。

 狭い岩場におびき寄せ、爆弾で一掃する。

 底無し流砂地帯て全滅させる。

 などの作戦を彼は思い描いていたが、果たして通用するかどうか…


「不安になったかの?」


「…別に」


 あくまで今日は二つの組織のアジトを確認し、構成メンバーや構造などを把握するだけにとどまった。

 思っていたよりも二つの組織を相手にするのは難しいものだ。

 そう思いながら、アゲートに乗り一旦帰路に着く二人。

 だがその道中、メノウはある物を見つけた。


「ん、あいつらは…」


「どうした?」


「ツシマ一派の連中が商人を襲っておる!」


 恐らくイオンシティに向かう途中だったのだろう。

 商人の乗る中型トラックが数台のバイクを駆るツシマ一派の旗を持った部隊に襲われていた。

 恐らく調達部隊か何かだろうか?

 棍棒やチェーンを振り回し、トラックを運転する商人を威嚇している。

 一番大きなバイクに乗った、この隊の隊長と思われる眼帯の男が大鉈ほ振り回す。


「お、おい!やばいぞ!」


「助けに行くぞぃ!」


「ああ!」


 襲われているトラックまで少し距離があるが、アゲートの脚力なら数分でたどり着く。

 それまで持ちこたえてくれればいいが…

 砂煙を上げ、荒野を疾走するアゲート。

 だが、トラックは既にツシマ一派の部隊によってひっくり返されていた。

 中に乗っていた商人の男とその家族が外に引きずり出されている。

 全員を縄で縛りあげる盗賊たち。

 抵抗を封じるため、そして後々奴隷として外国へ売りさばくのだろう。


「クソッ!」


 ウェーダーが腰につけていた銃を構える。

 彼の自作のソードオフショットガンであり、弾が拡散し非常に高い殺傷能力を持つ。

 もっともこの距離、しかも馬上からの狙撃であるため当たりはしない。

 威嚇目的だろうか。

 しかし、彼の発砲をメノウが制止する。


「よせ!」


「大丈夫、この距離じゃあたら…」


「奴らはワシらに気付いていない、もし気づいたらあの人達を人質に取るかもしれん!」


 見たところ、商人の男の他には妻と思われる女性が一人。

 そして息子が一人と娘が二人いた。

 その奥には老婆も見える、祖母だろうか。

 確かにあの人数を人質にとられては満足に戦うこともできない。

 ウェーダーは銃を下げた。


「見たところ奴らは銃の類は持っていないようじゃ、うまく奇襲をかけることができれば一瞬で制圧できるはず」


「よし、なら…」


 そう言ってウェーダーがアゲートから飛び降りる。

 近くの岩陰に隠れ、物音を立てぬように少しずつ近づいて行く。

 一方、メノウは敢えてアゲートに大きな足音を出させるようにした。

 ウェーダーの考えを一瞬で把握し、自分たちを囮にしようと考えたのだ。

 その足音に気付いたのか、ツシマ一派の盗賊たちが慌てふためく。


「お、おい!馬が来たぞ!」


「なんだ、乗ってるのはガキじゃねぇか!ぶっ潰せ!」


 盗賊たちの注意が商人一家と積荷からメノウとアゲートに移る。

 先ほどの行為だけでは物足りなかったのか、各々が武器を構えメノウ達を威嚇する。

 一方、ウェーダーは岩陰から岩陰へと移動し商人一家の下に近づく。

 そして最も話しかけやすく、盗賊たちから目立たない位置にいた商人の男に話しかけた。


「…おい」


「ひッ!?」


「騒ぐな、助けに来た」


 そう言ってウェーダーは懐から取り出した小型のナイフを彼に手渡す。

 拘束に使われている古縄程度ならすぐに切断できるだろう。

 それを使い縄を切っている間に遠くへ逃げるように促す。

 全員が縄を切ったのを確認すると、ウェーダーは物陰から勢いよく飛び出した。

 そして、銃を構え盗賊たちに向かって叫ぶ。


「さっさと消えろ!盗賊ども!」


 銃を見た盗賊たちは大人しく武器を捨てていく。

 チェーンに鉈、棍棒など様々ながその場に転がる。

 自分たちには、ウェーダーの持つ銃に勝てる武器が無いと悟ったのだろうか。

 それにしては妙に物わかりが良すぎる。

 奇妙に思いながらも、盗賊たちがその場に捨てた武器をメノウが回収していく。

 だがその時、一人の盗賊がメノウを捕えた。

 この部隊を率いる眼帯の男だ。


「お前も武器を捨てろ!」


「な…!」


 メノウを脇に抱え、服の袖に隠していた仕込み刀を彼女の首筋にあてる。

 ウェーダーのソードオフ・ショットガンは近距離では非常に銃弾が拡散する性質を持つ。

 それが殺傷能力の高さに繋がるのだが今のような状況ではとても使いづらい。

 仮に撃ったとしても、隊長だけを撃ち殺すことはできないだろう。

 そればかりか、高確率でメノウにも銃弾が当たってしまう。


「…」


 銃をその場に捨てるウェーダー。

 隊長はそれを拾い上げようとかがみこもうとする。

 この時代、銃などの武器は軍や騎士団、都市の警備隊など一部の者にしか手にできない代物。

 自作品とはいえ、彼の眼にはとても魅力的なものに写ったのだろう。

 だが…


「どっせい!」


「うぎぇッ!?」


 抱えられていたメノウが力を一気に込め、彼の腕の関節を外し脱出した。

 突然の出来事に一瞬であるが、その場の全員が戸惑いを隠せぬ。

 隊長も、ウェーダーも、そして盗賊全員も。

 さらに、挑発するようにメノウが言う。


「子どもだからといって油断したらいかんぞぃ」


「うくく…うがぁ!」


 それを聞きやけくそで先ほどの仕込み刀でメノウに突撃を仕掛ける隊長。

 もっとも、メノウにとっては避けられぬ攻撃でも無い。

 カウンターを仕掛けるべく構えを取る。

 だがそのメノウの攻撃は不発に終わる。


「おいおい、誰か忘れてないか?」


 ウェーダーが先ほど捨てられた棍棒を拾い上げメノウの前に立つ。

 それを使い隊長の仕込み刀を叩き折り、腹に拳を叩きこんだ。

 思わぬ一撃を受け、その場に倒れこむ隊長。


「コイツを連れてとっとと帰れ!」


「ひ、ひぃぃ!」


 できれば捕えて軍に渡したかったが、今は商人一家のこともある。

 とりあえず彼らを一旦安全なイオンシティまで送り届ける方が先だ。

 盗賊たちは意識を失った隊長を連れ、そそくさとその場を去って行った。


「危なかったな」


「ありがとうございます!助かりました」


「本当にありがとうございます!ほら、みんなも!」


 商人の男と老婆に言われ、散らばった荷物を倒れたトラックに戻していた子供たち三人と妻がウェーダーとメノウに礼を言う。

 彼らは元々イオンシティを目指していたため、このまま行くらしい。

 しかしトラックは倒れたままだ。


「歩いて行ける距離でしょうか…?」


「アゲート…軍馬でも数時間はかかる距離じゃ。結構きついと思うぞ」


「そうですか。大切な商品をこのままにしておくわけにもいかないし…」


「さっきの盗賊らに元に戻させればよかったわ…」


 食品等もあるため、できればイオンシティに早く届けたかったようだ。

 だがトラックは完全に横転してしまっている。

 イオンシティから人員を連れてこようにも時間がかかる。

 だがその時…


「手を貸そうか?」


 そう言ってその場に現れたのは、スキンヘッドに筋骨隆々の男。

 タイマ団の頭であるタイマだ。

 たまたまバイクで走っていたところ、メノウたちとツシマ一派の部隊の戦いを目撃。

 その一部始終を見ていたのだ。

 力を入れ、横転したトラックを押し戻すタイマ。


「ツシマ一派には俺達も困っていてな…」


 そう言って彼は、自分と自分の組織であるタイマ団の紹介を始めた。


「俺はガキには手を出さないが、あいつらは平気で手を出す!それが許せん!」


 そういうタイマ。

 しかしウェーダーはそれが嘘であることを知っている。

 以前、別の町でそう聞いたことがあった。


「なぁ、アンタらもしよければ俺達と一緒にツシマ一派と戦ってくれねぇか?」


 当然そんな誘い受けるわけが無い。

 そう言おうとするウェーダー。

 だが…


「いいぞぃ!」


 メノウはあっさり了承した。

 イオンシティの用心棒の件はどうなったんだ、とでも言いたげなウェーダー。

 しかし、メノウがウェーダーに小声で語りかけた。

 彼女は何か思いついたようだった。


「ワシに一つの案があるんじゃが…」


「…本当か?」


「ああ、まずな…こうして…それで…ほならね…」


 メノウの作戦を聞き、目を丸くするウェーダー。

 ただの子どもだと思っていたが、意外と頭も回るようだと再確認する。


「成程…」


「ここからは二人別行動じゃ、お前さんも頼むぞ」


「ああ、わかった…」


 そう言ってウェーダーは商人たちを送り届けると言ってその場を去って行った。

 タイマ団に協力するのはメノウ一人、ということになった。

 一方のメノウは、タイマと共に彼らのアジトへと向かった。

 商人の男のトラックに乗りながらウェーダーは流れゆく景色を見つめる。

 そんな中、彼は小声で呟いた。


「よし、アイツの作戦に乗ってやるか…」



名前:タイマ・ソルトー 性別:男 一人称:俺 年齢:31歳

盗賊組織『タイマ団』の頭。

荒っぽい性格であり、弟の率いる『ツシマ一派』とは敵対している。

非常に巨漢であり、その体躯は2mを軽く超える。

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