第二十話 戦難イオンの用心棒
カイト編の短編外伝作品『ゾット帝国騎士団カイトがゆく!外伝~疾風の少女と白き龍~ 』を掲載しました!
良ければ見てください!
今回の話に登場する『ズール砂漠』は原作ゾット帝国の『ジン編』にも登場します。
原作のその話ではズール砂漠は…
荒野を抜け、『ズール砂漠』へと足を踏み入れたメノウ一行。
さすがに先ほどのカツミのような人物も砂漠には現れなかった。
しかし、そんな砂漠のの中に佇む一つの町があった。
その町の名は『イオンシティ』、この町はオアシスの周りに作られているのだ。
水も豊富にあり砂漠を行きかう人々の交通の要となっている。
単なる砂漠のオアシスにできた町とは思えないほどの活気がここにはあった。
「凄い…僕の住んでたセンナータウンとは比べ物にならないくらい活気がある…」
「オアシスにできた交易都市…というところじゃの」
町は周囲を鉄くずや建物の残骸などで作られた壁でおおわれており、正面のメインゲート以外から入ることはできない。
さらに、メインゲートには検問所がありこの町に入る『資格』のない人物は入ることはできないようになっている。
この町は交易が盛んな街、何らかの商品や金が無ければ中に入ることすらできないのだ。
とりあえず検問所の前に並ぶメノウ達。
まだ前には数人並んでいる。
「今日は干物を持ってきた、魚や肉に果実。たくさんだ!」
「よし、通れ」
検問所の審査員が旅の商人の品物を眺めながら言った。
…商人の持っていた商品の中にあった一枚の干し肉を抜き取りながら。
続いて次の男。
見たところ商品など持っていないように見えるが…
「俺は機械技師だ、商品はこの腕さ」
「…とりあえず、適切な仕事場を探してみよう」
「よし!」
たとえ品物が無くとも、その腕を買ってくれる場所があれば金になる。
この町に入ることを許されるのだ。
「次はそっちのお嬢ちゃん達か。何か持ってるのか?」
「え、え~と…」
まさか町に入るのに物品がいるとは知らなかった。
金も持っておらず、提供できるような品も無い。
だが…
「私は神に使え、ありがたい教えを国に広めて回っている者です。こちらは私の付き人じ…です」
普段とは全く異なる口調で淡々と語るメノウ。
そして持っていた荷物の中から透明な石のような物を取り出す。
「教えと共にありがたい石を販売して…」
「ああわかった、わかったよ。坊さんかなんかかよ、いいよ通って!」
審査員が投げやりな態度で言った。
宗教家などの、面倒な人物はある程度自由に通れるようになっているようだ。
門をくぐり、町の中へと入ることができた。
あまり変な教えを広めすぎるな、と言われたが。
「メノウさん、さっきのは…?」
「いろいろ旅をしてると、妙なことまで身につくものじゃ」
「さっきの石は?」
「これか?以前拾った割れた水晶の破片じゃ。こんな物に価値など無い」
そう言って、先ほど審査員に見せた水晶の破片を投げ捨てるメノウ。
町の中は馬や乗りものに乗るのは禁止されているため、町外れにアゲートを結んでいく。
町には多くの店が立ち並び、屋台や路上で商売をしている者達が多くいる。
常に人が行き交い、その流れは絶えることが無い。
さすがに生鮮食品や銃器類などはほとんど売ってはいないが、それ以外の物ならば何でもそろうのではないか?
そう思えるほどこの市場には物が溢れていた。
「このような賑やかな町は久しぶりじゃ…」
「それにしてもいろいろな店がありますね…あ、お水屋だ!」
冷水屋で水を買い、それを飲みながら歩く二人。
ツッツは、まさか気温の高い砂漠の中で冷たい水が飲めるとは思いもしなかった。
「冷たい水…?何でこんなに冷たいんだろう?」
「冷気魔法の類というわけではないのぅ…」
「そうですね」
ふと疑問に思うツッツ。
確かに地下から汲み上げた水は冷たい。
それはツッツも知っている。
だがこの水の冷たさは明らかにその「冷たさ」とは違う。
「へへ、不思議だろ」
とその時、後ろから何者かの声がした。
後ろにいたのは十六、七歳ほどの少年だった。
ボロ布を全身に纏い、顔や肌を隠している。
できる限り砂漠の熱射に当たらないようにし、熱中症になるのを防いでいるのだろう。
…もしかしたらそれ以外の理由があるのかもしれないが。
「…お前さんは?」
「俺はタクミ、『タクミ・ウェーダー』。アンタらと同じく今日この町に着いた」
「ワシはメノウ、こっちはツッツじゃ」
「よろしくな、嬢ちゃんとボーヤ」
先ほどの検問所でのやり取りをウェーダーは見ていたらしい。
メノウが宗教家の振りをしてこの町に入ったことも、彼はすぐに見抜いた。
しかし、だからと言って彼はメノウと敵対するわけではない。
「俺は権力やお偉いさんが嫌いなんだ、お前らみたいな面白いヤツは好きだけどな」
ウェーダーが笑みを浮かべながらツッツに言う。
どうやら彼もいろいろと訳ありな人物のようだ。
先ほどのツッツの疑問をウェーダーは答えてくれた。
「この町は大戦中、ディオンハルコス鉱に代わる新エネルギーを研究する施設があった場所でな…」
かつての大戦中、エネルギー源であるディオンハルコス鉱が不足し始めた頃に各国は挙って新エネルギーを研究し始めた。
ディオンハルコス鉱に代わる電力を生み出すエネルギー源を。
既に石油を自動車の燃料として使用する技術は確立されていたが、本格的な発電技術は存在していなかった。
火力発電は実用化には莫大な費用と巨大施設を必要とするため没。
波力、地熱などは一部地域で実用化されたものの、本格的な普及はしなかった。
核の技術である原子力も研究されたが、当時の技術では実用化はほぼ不可能という判断が下された。
「その時の発電機を直して発電をしてるのさ」
砂漠という厳しい環境下て゜発電をするために様々な研究がかつて繰り返されていた。
その時の実験設備や試作機の残骸などを再生し、この町で発電機として使用されているという。
寿命が短かく、特殊な技術のいる太陽光発電の施設などは砂漠に放置されたまま。
しかし太陽熱発電機や風力発電機は修復をしながら使い付けているらしい。
「この水も電動ポンプで汲み上げて、電気で冷却してるってわけだ」
「へぇ…」
「この町が発展できたのもこの電気があったからさ」
「ところでウェーダー、お前さんは何故にこの町へ?」
「俺か、俺は…」
ウェーダーの話によると、この町は盗賊の討伐のため用心棒を探していたらしい。
この町の近くには二つの盗賊集団がありこの町や周辺の村を脅かしているという。
もともと二つの盗賊集団は対立していたが利害の一致から対立を一時中断。
現在、二つの組織の対立は沈静化しているのだ。
そのためこのイオンシティは二つの組織から常にカモとして狙われることとなった。
この先旅を続けるための金を稼ぐため、とりあえず用心棒として雇ってもらうことにしたという。
「仕事の間は住む場所や食料も提供してくれるらしいし悪い話でもないと思ってな」
「旅を続けるには金が必要じゃからのぉ~」
「そういうことだ。まあ後で一応町長に顔出しとかねぇとな…」
一時的とはいえ町で雇ってもらう以上、顔出しくらいはしておかなければならない。
町長の住む建物へと三人は足を進めた。
「何で二人ともついて来るんだ?」
「気にしない気にしない」
「そうそう」
町長と言っても決して偉い立場というわけではない。
大戦中に作られたであろう研究施設を改装した小さなビルの一室。
そこの小さな居住スペースが町長の部屋だった。
「用心棒を募集していると聞いて来たんだが…」
そう言って部屋のドアを開けるウェーダー。
中にいた初老の男性は軽く一礼すると、三人に椅子を出した。
古びた小さな木の椅子だ、恐らくかつて研究所で使われていたものだろう。
「よく来てくださいました、こんな砂漠のど真ん中に…」
そう言いながら机に置いてあった客人用の菓子を差し出す町長。
今の時代には珍しい、ビニールで包まれた小さなチョコレートだ。
こんな砂漠の町ではこのような物でも手に入れるのは至難の業だった事は容易に想像できる。
見慣れない食べ物に戸惑うツッツとメノウ。
「どこからあけるんじゃこれ?」
「開け口は…」
そう言いながら、チョコレートの包装ビニールをガチャガチャと音を立てて開けようとする。
しかし、中々開けられないようだ。
「こんなに開けにくいなんて~」
「はさみとか持って来ればよかったのぉ」
「してやられましたね…あ、ここを引っ張れば開きますよ!」
「おぉ~口の中で苦みが広がるのほぉ^~」
「このチョコは大人向けですね」
チョコを食べる二人を尻目にウェーダーと町長は話を進めていた。
「今、用心棒としているのは俺だけということか…」
「は、はい…」
「まぁいいさ。その代り報酬は弾んでくれよ」
「ええ、それはもちろん」
「で、敵の規模はどれくらいだ?二つの組織があると聞いたが…」
町長の話によると、二つの盗賊組織はそれぞれが七十から八十人ほどのメンバーで構成されているという。
戦力が均衡しているだけに、無駄な争いを最近はしなくなった。
そのため、少しずつメンバーも増えているらしい。
最近は、敵は水や食料だけではなくこの町の『電力』も奪っていくのだ。
バッテリーで動くように改造された車両やバイクに使うのだという。
「この町は交易によって支えられている町。あのような者達に何度も来られては経済が破綻してしまいます」
「大丈夫、お…」
「ワシ達にまかせろ!」
チョコレートを食べ終わったメノウが言った。
「え、お前が?」
その言葉に驚くウェーダー。
「メノウさんは結構腕もたつんですよ」
「魔法も使えるぞ」
以前の荒野の盗賊少女、カツミとの戦いからメノウの強さを知ったツッツ。
彼女が並みの戦士などとは比較にならないほどの力を持っていることをあの戦いで理解した。
単なる盗賊ならメノウの敵では無いだろう。
「はぁ…」
「お前も用心棒やるってか?」
「おう!その代り、ワシにもお金頼むぞ!」
メノウが言った。
砂漠の交易都市イオンシティ。
そこには意外な出会いと戦いが待っていた。
タクミ・ウェーダー 性別:男 歳:17
何らかの理由で旅をしている少年。
用心棒として雇われに来たため、そこそこの強さはあるのだろう。
何か訳ありのようだが…?