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ゾット帝国外伝 丘の民の伝説編  作者: 剣竜
第2章 西の支配者と東の皇
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第十八話 砂の村センナータウン

とりあえず新章に入りました。

浜川先生見てるか~(からくりビデオレター)

 南アルガスタでの戦いから数か月が過ぎた。

 ゾット帝国中を騒がせた反乱事件も、当事者たちの記憶以外からはすっかり忘れ去られていた。

 大衆とは案外そういうものだ。


 この『西アルガスタ地区』の辺境の村『センナータウン』に住む子ども、『ツッツ』もその一人。

 センナータウンは砂漠と荒野に囲まれながらも、井戸があるため人の生活には困らない。

 砂漠と荒野のオアシスにできた村だ。

 何かニュースは無いかと、朝の日課となっている新聞に目を通す。

 もっとも、知り合いの村人から譲り受けた数日前のものだが。


「パーティ中に誘拐されたルビナ姫、未だ発見できず…か」


 そう呟きながら、部屋の隅にある古紙箱に投げ入れる。

 十二歳のこの小柄な子どもはこの古いレンガ造りの倉庫を改造した家に一人で住んでいる。


「まぁ、どうせ犯人はみんな大体見当ついてるだろうけどね」


 王都ガランにて誘拐された『王女ルビナ』、彼女の消息と犯人の正体は未だ掴めていない。 

 だが、西アルガスタの一部の住民の間ではそれらについて『よからぬ噂』が流れていた。

 その誘拐事件には、この西アルガスタの要人が関係しているという…


「僕みたいな子供でも知ってるんだから」


 そう言うと、壁にかけてあった大きめのキャスケット帽を被る。

 ナイフやメタルライターなどを入れたカバンを持ち、家を後にする。

 彼は主に、荒野での狩猟と物々交換で生計を立てていた。

 いつも獲物を探しに行く荒野へと向かう。

 一部の沿岸都市以外はほぼ荒野と砂漠に包まれたこの西アルガスタ。

 親を失った子供が一人で暮らすにはそうするしかなかった。

 孤児院などもほとんど無いこの世界では仕方のないことだ。

 と、本人も理解している。


「うう…今日こそ肉が食べたい…」


 最近はいざというときのために作っておいた保存食しか食べていない。

 乾いた物だけではなく、何か生ものを食べたい。

 そう思い、動物がいる荒野へとやってきた。

 何個か罠を仕掛け、自身も辺りに動物がいないか捜索する。

 草をかき分け、鳥の巣を覗き、食べられる野草を採取した。

 だが捕獲可能な動物は見つからなかった。


「お肉食べたい~!」


 ツッツの叫び声か荒野に響く。

 答えるものは当然誰もいない。

 枯れた風が寂しく荒野を吹き抜けるだけだった。

 探すのを諦め、その場に仰向けに倒れこむツッツ。

 と、その時…


「ん…?」


 顔を横に向けたツッツの目に写った者。

 それは、地平線の向こうから歩いてくる人影だった。

 この地区に旅人など珍しい、そう思いながらしばらくその人物に目をやる。

 その人物は白い布を纏いフラフラとした足取りで村を目指している。

 だが…


「あ、倒れた」


 途中で力尽き、その人物はその場に倒れこんでしまった。

 このまま放っておくのも何か悪い気がしたのでとりあえずその人物の下へと走って行く。


「僕と同じくらいの歳かな…?」


 そこに倒れていたのは白いローブに身を包んだ少女だった。

 遠くからだったので先ほど見たときはよくわからなかった。

 年齢はツッツとそうは変わらないだろう。

 着ている服からして、神官か何かの高貴な身分の者だろうか。

 近くにあった枯草の茎をひろい、ゆっくりと少女に近づく。


「大丈夫ですか…?」


 枯草の茎で少女を突くツッツ。


「み、水…」


 少女が目を覚まし、起き上がろうとしている。

 だが、少女は次の瞬間再び倒れた。

 再び生死の確認をしてみる。

 息は普通にしているのて、ただ単に気絶しただけだ。

 持っていたスキットボトルに入れていた水を少女の口に流し込む。


「はい、水です」


 少し口からこぼれてしまうも、徐々にその水を飲み始める少女。

 ボトルの中の水を飲み終えた少女はやがて目を覚ました。


「あ、ありがと…助かった…」


「よかったぁ」


「ワシの名は『メノウ』、お前さんは?」


 この少女の名は『メノウ』。

 かつて南アルガスタを平和へと導いた、深緑眼の眼を持つ少女だ。

 だがツッツはそんなことは知らなかった。

 いや、新聞か噂で聞いた名ではあると思ったがどうにも思い出せなかったのだ。


「僕はツッツっていいます。あなたは一体どこから来たんですか?」


 ツッツが訪ねる。

 メノウはあまり顔色も良くない。

 どうやら数日前の砂嵐の際に旅の仲間とはぐれ、そのまま遭難してしまったのだと言う。

 荷物もその時ほとんど失ってしまったらしい。


「そんなことが…」


 日の当たる場所を避け、近くの岩場の陰に移すツッツ。

 何か食べ物でもあればいいが今の手持ちには何もない。

 せめて水を汲んできて飲ませるくらいがいま彼女にしてあげられることだ。

 それと家にある薬でもついでに持って来よう。

 そう思い、ツッツは一度村に戻ろうとすした。


 …だがその時、センナータウンから十数発の銃声が聞こえた。


 同時に大勢の人々の叫び声が響き渡る。

 今の銃声は護身用の物では無い。

 軍事用の銃の物だ。


「一体何が…!」


 持っていた古い双眼鏡を使い、窓から村の広場を見る。

 広場の高台には、アサルトライフルの類を構えた若い男が立っていた。

 盗賊だろうか…

 それにしては他の仲間が見えない。

 村人十数人がその場に取り残されたままだ。


『おいお前ら!よ~く聞け!』


 村内放送用のマイクを使い、男がしゃべり始めた。

 どうやらあの男は食料と水、物資を奪いに来た盗賊のようだ。


『それらさえ差し出せば大人しく帰る!約束しよう!』


 先ほどの銃撃はただの威嚇射撃、明確な殺意があるわけではない。

 しかし盗賊の男が持つ銃、これは恐らく軍で正式採用されているものと同じものだ。

 この村にも当然自警団はあるが、その武器は古い剣や棍棒などが殆ど。

 襲ってくる盗賊も当然似たような武器を使うようなものたちなのだから、本来ならばこれで十分なのだ。

 だが今回はまるで話が違う。

 殺傷能力の高い砂漠戦用のアサルトライフルに対抗できる武器などただの村人が持っているわけもない。

 これでは自警団といえど、下手に手出しをすることができない。


『一時間だ!その間に水と食料を用意しろ!』


 村の様子を見たツッツが絶句する。

 軍に通報しようにも連絡手段も無い。

 第一、一時間で砂漠と荒野の真ん中の村に呼ぶなど不可能。

 かと言って村の自警団など役に立つかどうか…?


「ど、どうしよう…」


「あ~なんか大変なことになっとるのぉ~」


 メノウがツッツの持っていた双眼鏡を奪い取り、村の方を眺める。

 村の外に目をやると軍事用のトラックが一台停めてあった。

 恐らくあの男が乗ってきたものだろう。


「ど、どうしたらいいんでしょうか…?」


「とりあえずお前さんはここに隠れてろ」


「…メノウさんは?」


「ワシに任せろ」


 メノウが今まで戦ってきた者達に比べれば、あの男など雑魚同然。

 簡単に倒せるだろう。

 不安に思うツッツをよそに、メノウはさっそく村へと急いだ。

 一方、村では盗賊の男が空に向かって銃を何発か撃つ。

 怯える村人など気にも留めず、時間が来るまでその場で待つ。

 ふとここで彼はあることに気が付いた。

 今の発砲で弾が切れてしまった。

 いくらイライラしていたとはいえ少しやり過ぎてしまった。

 反省しつつ予備のマガジンをアサルトライフルに装填しようと手を伸ばす。

 とその時…


「(今だ!)」


 後ろの物陰から一人の村人が忍び寄る。

 その村人が太い木の棒で盗賊に殴りかかる。

 幸いなことに、マガジンに気を取られ気付いていないようだった。


「(やった!)」


 そう思う村人。

 だがその時、空を割く一発の銃弾が村人の持つ棒を打ち砕いた。

 突然の出来事に驚きその場に倒れ込む村人。


『ラーヴ!油断しすぎ!』


 盗賊の男『ラーヴ』の持っていた小型通信機から彼の仲間の女の声が聞こえた。


「ど、どうした!?」


『うしろうしろ!』


 そう言われ後ろを振り返るラーヴ。

 そこには、先ほど殴り掛かろうとしていた村人が尻餅をついてその場に座り込んでいた。

 辺りに飛び散った木の破片などから何が起こったかを察するラーヴ。


「ちょっと気を抜いちまっただけだ、サチ!」


『気を付けてよね~』


 サチと呼ばれた女が言った。

 彼女は村の外の小高い丘の上からスナイパーライフルを使いこの村を監視していた。

 ラーヴが襲われそうになった際にそれを使い彼を守ったのだ。


「それより一時間ってのは結構長いぞ、もう少し短くてもよかったんじゃ…」


『こういうのは一時間くらいがちょうどいいの。長くなるのもあれだし、切るわよ』


 サチから一方的に連絡が切られてしまった。

 元々彼らは西アルガスタ軍の脱走兵。

 つまり、軍人崩れの盗賊というわけだ。

 この辺りを根城として旅人や輸送車などを襲っている。

 荒廃した時代にただの盗賊がアサルトライフルやスナイパーライフルなどを入手できるはずがない。

 通信機や軍事用のトラックなども含めて、彼らが軍から脱走する際に奪った物のようだ。


「チッ!メンドクセェ…」


 ラーヴが怠そうに呟く。

 マガジンを替え、その場に座り込む。

 と、そこに…


「おほぉ^~」


「なんだお前?」


 ラーヴの前に現れたのは、深緑眼の少女メノウ。

 メノウは高台に座り込むラーヴに妙な視線を送っている。

 井戸で水を飲んでいたら少し遅くなってしまった。


「いやぁ、別に…」


「チッ、今俺はイライラしてんだ。暑いし時間が経つのは遅いしで…」


 メノウを単なるうざったい少女と思い追い払おうとするラーヴ。

 それを見た村人の一人がメノウに駆け寄った。


「きみ、何してるんだ!きみ!あっちに戻ろう!」


「は、早くこっちへ!」


 ざわめく村人たちに腕を引っ張られるメノウ。

 しかし再びメノウがラーヴの前に立ちはだかった。


「だからお前は…」


 飽きれるように言うラーヴ。

 だが…


「どっせい!」


 その言葉と同時に、ラーヴの腹に強烈な一撃の拳を叩きつけるメノウ。

 ラーヴは手に持っていた銃を手放し数メートルほど吹き飛ばされる。


「うへぇ!」


 建物の壁に叩きつけられを気を失うラーヴ。

 それを見た村人たちは、何が起きたかわからずその場に立ち尽くすのみ。


「ほれ、早くコイツを捕まえろ」


 メノウが村人たちに言った。

 だが彼にはまだ仲間のサチがいる。

 この状況も村の外から監視しているはずだが…


「けどこいつにはまだ仲間が…」


「ああ、大丈夫じゃよ」


 その時丁度、ラーヴの持っていた通信機にサチから通信が入った。

 なにやら緊急のようだ。

 村人の一人がそれをとり、応答する。


『助けて!馬が!か、ゆゆゆ…うまー!』


「は?」


 相当混乱した様子で叫ぶサチの声が通信機から聞こえた。

 今の様子ではラーヴが倒されてたことにも、彼女は気づいていないだろう。


「ほほ、コイツがどうなってるか見に行くか?」


 数人の村人がラーヴを縛り上げ、村の牢屋に放り込む。

 その間に他の村人とツッツを連れ、メノウは村の外の小高い丘へと歩いて行った。

 そこでは、砂漠戦迷彩服に身を包んだサチが一匹の馬に追い掛け回されていた。


「助けて~!」


 そう叫ぶと同時に馬の体当たりを喰らい、近くの岩に叩きつけられるサチ。

 そのまま先ほどのラーヴ同様村人に捕えられ牢屋に放り込まれた。


「メノウさん、この馬は…?」


「ワシの仲間、アゲートじゃ」


 メノウの声に答えるようにアゲートも声を上げる。

 以前の砂嵐でアゲートとはぐれたメノウ。

 しかし、先ほどこの村に入る際にアゲートを村はずれの水飲み場で発見。

 盗賊のラーヴの仲間がどこかに潜んでいないか探すように頼んだのだ。


「ワシとアゲートは心で繋がっているからの、近くにいるならすぐにわかる」


 かつて南アルガスタを救った少女、メノウ。

 そしてその相棒アゲート。

 その二人の新たな旅はここから始まる。



名前:ラーヴ 性別:男 歳:19

西アルガスタ軍の脱走兵。

脱走の際に武器や車などを盗んでいった。

同じく脱走兵のサチと行動を共にしている。

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