第百八十三話 シャム・ゲーム
新章開幕
原作ゾッ帝の再開は絶望的ですね…
それは突然だった。
北アルガスタの支配者である男、シャム。
彼がゾット帝国からの独立を宣言したのだ。
「私の領地を、独立国家にしたいと思いますぅ…」
しかし当然そんなことが認められるわけはない。
もちろんそのことはシャムも知っていただろう。
彼は驚きの行動に出た。
それは王都ガランにある王城の占領だった。
密かに同盟を結んだ国外の代理人…
闇の武器商人『コスッケ・ハイウッド』と手を結んでいたのだ。
「これからどうしますか?このまま制圧しますか?」
「いや、王城行く」
「…マジっすか」
ハイウッドの用意した私兵、傭兵により王都は瞬く間に制圧されてしまった。
以前の魔王教団との争いのせいで軍の兵士が疲弊していたのも理由の一つだ。
シャムとハイウッドの前に人質に取られる王族とその部下たち。
その中には二人の王女の姿もあった。
ルビナとルエラだ。
「あなた達、一体何を…」
「こんなことをして…一体誰の差し金…?」
そう言うルビナとルエラ。
二人を前に汚い笑みを浮かべるハイウッド。
そんな彼らを尻目に、シャムが不気味な笑みを浮かべた。
小声で呟きながら…
「まぁ、黒幕は『私』なんですけどね、初見さん…」
王都を制圧したシャムとハイウッド。
東のアルガスタと西のアルガスタの戦力は現在は無力化されている。
警戒すべきは南アルガスタだけだが、王族を人実に戦力放棄を要求すれば問題ない。
しかしただ一つの問題があった。
それは以前の魔王教団との前哨戦で活躍した一騎当千の戦士たちだった。
「シャムさん、アンチ共についてヒトコト…ヒトコト…」
「アンチは嫉妬でアンチ活動する」
制圧した王都の王座に座るシャム。
そしてその傍らに跪くハイウッド。
抵抗するアンチたちを全滅させるためにシャムが考えた物。
それは…
「オフ会…いや、『シャム・ゲーム』を開催させていただきます」
闘技場で行われる死の遊戯。
その名を『シャム・ゲーム』!
服従か死か。
ゾット帝国各地の戦士たちにシャムはその二択を突きつけた。
「百人くらい来るやろなぁ…」
「デュフフフ…!」
そう言うシャムとハイウッド。
地獄の戦いはここから始まる。
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その舞台は『ゾット島』!
北アルガスタのさらに北にある孤島だ。
ゾット帝国の民はここから生まれた、という伝説の残る地でもある。
海に沈んだ古代遺跡、そして残った部分が孤島となっている。
そして孤島にあるのは闘技場の遺跡だ。
「王都は『北アルガスタ四天王』に任せてありますよシャムさん」
ハイウッドがそう言った。
王との制圧は『北アルガスタ四天王』と北アルガスタ軍に任せてある。
今までその姿を見せていなかっただけに、その実力は未知数。
しかし王都の軍を制圧できるだけあって強力な強者の集まりなのだろう。
今、この島にいる北アルガスタ軍はシャムとハイウッド、そして数名の部下のみだ。
「アッアッアッアッ!」
「待て!貴様の好きにはさせんぞ!」
「ええ?」
「紅の一派のサイトウ。お前の野望を止めに来たで」
「やはり来たか…」
ハイウッドが呟いた。
彼らの予想通り、シャムの野望を食い止めるため多数の者が立ち上がっていた。
ゾット帝国各地の戦士たちが集結しはじめていたのだ。
開陽拳のヤマカワ…
高等魔術師スート…
鷲剣のミーグル…
憲兵隊のイトウ…
同じく憲兵隊のノザキ…
その他多数の戦士たちが集結していた。
そして当然、あの二人も。
「久しぶりだな、みんな!」
「こんな状況でなければ、もう少しゆっくりしたかったのぅ!」
愛馬アゲートを駆り、一足遅れて闘技場へと乗り込む二人。
『メノウ・トライバルハイト』と『ショーナ・トライバルハイト』だ。
その長い緑色の髪を風に靡かせ、アゲ―トの背から飛びおりるメノウ。
以前の討伐祭で使われていた闘技場と同型のフィールド。
そこはまさに死闘の現場と化していた。
そしてメノウたちの見慣れた顔も…
「ヤマカワ!お前さんも来ていたのか!」
「ああ、まぁな」
闘技場の柵に座るヤマカワ。
そんな彼女が試合場の方へと目をやる。
既にシャムと挑戦者たちの戦いが行われていたのだ。
メノウとショーナもそちらへと目をやる。
今戦っているのは…
「あれは『幽忠武』の…ッ!」
そう。
以前の討伐際に乱入してきた『幽忠武』という戦士集団。
その戦士たちが戦っていたのだ。
あの時戦った六人だ。
しかしそのほとんどが既にやられていた。
カイ、テミータ、ショーク…
三人が戦闘不能状態で外堀で気絶していた。
白目をむいて堀の水に浮かぶ三人。
今戦っているのはキィー・カックだ。
「ぬがぁ!」
「敬語使うべきじゃあん…!」
キィー・カックの攻撃を軽く避けるシャム。
後ろに回り、キィー・カックの身体を堀に弾き飛ばした。
そのまま堀の外壁に頭を叩きつけられ、気絶したまま堀に沈むキィー・カック。
「くそぉ!よくも!」
「welcome!」
続いて待機部屋から飛び出したのは炎使いの少女拳士レービュ。
その『炎鳥燐恢』の魔法を使い、『霊火羽』の称号を持つ。
幽忠武という戦士集団の中でも主力的立場の少女だ。
「逃がさん!火災龍!」
「開始一発から大技を!」
「すげぇ!急に竜巻ができた!」
「決まるか!?」
その様子を見ていたメノウが叫ぶ。
全身の魔力で発生させた炎の大竜巻。
それと周囲に散らばる瓦礫を混ぜ、放つ強烈な一撃。
魔力による炎と巻き込まれた瓦礫による攻撃。
「炎+瓦礫のオリジナルメニュー…」
「潰れろ!グラサン野郎がぁ!」
「…『敬語』使うべきじゃぁぁん?」
「なに!?」
「氷炎!業ァァァァァァ!」
シャムの放った魔法『氷炎業』に相殺されるレービュの技。
いや、逆に吸収されてしまった。
そのまま弾き飛ばされ、闘技場に叩きつけられるレービュ。
彼女の一撃必殺の究極技『火災龍』、それは通用しなかったのだ。
「うあああああッ!」
その声と共にレービュが爆炎の中から放り出された。
そして爆炎の中からゆっくりと歩いてくるシャム。
傷にもなっていない。
負けたのはレービュだった。
そのまま闘技場に叩きつけられてしまった。。
なんとか立ち上がろうとするも、彼女の体力はほとんど残されていなかった。
レービュの首を折ろうとするシャム。
しかしそこに…
「やめて!もう勝負はついたのよ!」
『幽忠武』という戦士集団、そのリーダー的存在の女性。
マイビ・トウコが叫んだ。
もう勝負は完全についた。
殺す必要などないはずだ。
そう言うトウコ。
「トウコ…さん…」
「この子はよく戦った…もうこれ以上は…」
「承知しました」
「ありが…」
「汚い話ですが、ギャラはいくらでございますかね?」
「ッ…」
レービュの命を守るためだ。
仕方がない。
『幽忠武』という戦士集団がその存在の証として作った『銀の盾』。
トウコが結成の際に製作した小さな盾だ。
それを差し出すトウコ。
対価として奪い取るシャム。
「アッアッアッアッ!」
「ひ、ひでぇ…」
「プフゥーーー!」
手を叩きながら奇声を上げるシャム。
その様子を見て呟くショーナ。
他の戦士たちも同様の気持ちだろう。
「銀の盾、こんな感じですよー!立派な銀の盾!」
「くッ…」
トウコも実力者ではあるが、相手の実力はそれ以上。
これまでの五人の戦いを見てそれはよく分かった。
ここで戦ってもレービュと同じ道を辿るだけだ。
敗北者となった彼女はレービュを抱え静かに闘技場から降りた。
最終章『シャム・ゲーム編』、開幕…!
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