第百八十二話 病んで仕方がない病みメノウ
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「う、ううん…ここは…」
見慣れぬ場所でショーナは目覚めた。
冷たい石の触感を背中で感じていた。
薄暗く、どこか鉄の匂いのする狭い部屋。
そこに眠らされていたのだ。
「あ、あれ?」
身体を動かそうとするも動かない。
紐のようなもので縛られているらしい。
なんとか動こうとするも、全く身動きが取れぬ状態だ。
記憶も曖昧だ。
何故こんな所にいるのかもわからない。
と、そこに…
「ショーナ…」
「メノウか!?いるのか?」
どうやら近くにメノウがいるらしい。
薄暗くてどこにいるのかはわからない。
しかし声だけはする。
「おるよ」
「よかった、縛られてるんだ。助けてくれ!」
「だめじゃよ」
「え?」
メノウから帰ってきたのは意外な言葉だった
その言葉に驚くショーナ。
やがて彼女は姿を見せた。
ゆっくりと薄暗い闇の中から出てきた。
「ショーナ…」
その眼はどこかいつもの彼女とは違った。
どこか朧な…
それでいて明確な決意が秘められたような…
「お主はワシを…『メノウ』を愛しているか?」
「ああ。当然だ」
「ワシは考えたんじゃ…」
「何を…?」
「ワシは…お主とずっと一緒にいたい…」
「…」
「けど、それはできない…」
メノウの寿命はとても長い。
竜の巫女として生きる宿命を背負った彼女。
その寿命はほぼ不老不死ともいえるだろう。
しかしショーナは違う。
普通の人間なのだ。
当然、寿命を迎えいつかは死ぬ。
それが自然の摂理…
「以前の友だったファントムは死んでしまった…もうあんな思いはしたくない…」
かつてショーナ以前のメノウの友だった男。
ファントム。
かれを失ったことはメノウの中に大きな傷として残っていた。
そしてその彼を、理由があるとはいえ自身で殺めてしまったことも…
「だからショーナ…」
「え…」
「ワシと『同じ』になろう!」
その言葉と共にショーナの腕の付け根に拳を叩きこむメノウ。
一撃で彼の骨の折れ、鈍い音が部屋に響き渡る。
言葉にならぬ絶叫を上げるショーナ。
「ガッ…ぐぐぅ…」
「叫ぶな」
「な、メノウ…どうして…」
「どうしてって…『斬りやすく』しているんじゃよ」
「は…?」
メノウの言葉に目を丸くするショーナ。
メノウは言った。
斬りやすくする、と…
その意味が飲み込めず混乱する。
しかしその意味はすぐに分かった。
「ワシが受けた儀式をお主も受けるんじゃよ」
「そ、それって…!」
「お主の四肢を切断し竜の四肢と入れ替える」
メノウが受けた竜の巫女の儀式。
それは人間の身体の四肢を切断。
そして竜の四肢と入れ替え、魔術で形状を変え適合させるのだ。
外見は人間だが、力は竜。
寿命も圧倒的に伸びる。
それがメノウの行おうとしている竜の巫女の儀式だ。
「あッ…」
絶句するショーナ。
彼女の言葉をうけ、不思議と痛みが飛んでしまった。
メノウは切断のための大きな刃物を取り出した。
人の四肢くらいなら切断できそうな刃をもっている。
「おっと、先に全部へし折った方がいいか」
「め、メノウ!だいたい竜の四肢なんてないだろ!」
「ショーナ、そこまで心配してくれるのか。ワシは嬉しいぞ」
「い、いや…」
確かに彼女とはずっと一緒にいたい。
しかしこんな無理矢理…
「大丈夫じゃよ。保護区から一匹…『殺してきた』から」
「ひッ…」
「どうじゃ?意外と大変じゃったぞ」
笑顔で切断した竜の腕を取り出すメノウ。
先ほどから部屋の中に漂う鉄の臭い。
それはこの竜の血の臭いだったのだろうか。
よく見ると彼女の身体にも返り血が大量についている。
いつもの白いローブは真っ赤に染まっていた。
「ただのぅ、一つ問題があるといえばあるのじゃが…」
「な、なんだ?」
「この儀式は成功率が低くてな。五分の四の確率で失敗するんじゃよ」
「え…?」
「まぁ、五分の一で成功するし、大丈夫じゃろう」
その言葉を聞き焦るショーナ。
当然だ。
成功確率約五分の一。
決して高いとは言えぬ数値だ。
「もし失敗したら…」
「死ぬ」
「死ぬって…め、メノ…」
「うるさい」
「あぐぐ…ガアァァァァァァァ!」
獣のような叫び声を上げるショーナ。
メノウに左足の付け根の骨を砕かれたのだ。
彼の言葉をさえぎるためだろうか。
抗議の声は一転。
痛みを訴える絶叫に変わった。
「あッ…!ギャァァァァァ!!」
「どうせ半世紀もしたらお主も寿命で死ぬんじゃ。今ここで失敗して死んでもたいして変わらんじゃろう」
メノウの長い寿命から見れば五年も五十年もそう変わらないのかもしれない。
しかしョーナは違う。
「ショーナ、痛いかもしれないがわかってくれ」
「う、うぅ…」
「ワシはお主とずっと一緒にいたい…だから…」
薄暗い室内。
そのせいでメノウの表情は見えなかった。
だが、どこか涙を殺したような声なのは聴いていて分かった。
一方的なやり方ではある。
だが、彼女も悩み抜いたうえでの決断だったのだろう。
…ショーナは決意した。
「ああ。わかった」
「お?」
「ずっとお前の隣にいる!」
「ありがとうショーナ…」
「約束だ!もうお前を一人にはしないよ」
そう言いきった。
覚悟はできた。
たとえ確率は低くとも、成功すればずっと一緒にいられるのだ。
そう考えると、むしろ五分の一など恐ろしく高い確率だといえる
「それでこそワシの愛した人…」
恍惚とした表情でショーナに抱きつくメノウ。
そこにあったのはいつものメノウの姿だった。
やはり彼女の本質はこちらなのだろうか。
「やはりお主はワシの認めた人…」
「あ、ああ…」
「あの『女』とは違うな」
「あの女?」
「レオナじゃよ。まぁもう何もできないじゃろうが…」
ふと嫌な予感がした。
露骨にメノウの言葉が冷たくなるのを感じたからだ。
眼もどこか冷たく感じる。
ショーナは慌てて尋ねた。
「えッ…どうしたんだ…レオナを…」
「ワシの邪魔をしてきおったわ。じゃからのぅ…」
そう言いながらメノウは部屋の明かりとなる燭台に火をつけた。
一気に部屋の中が明るくなり、その部屋の全容が明らかになる。
竜の死体、血飛沫の飛ぶ壁。
そして…
「竜と一緒に殺したぞ」
腕をちぎられ、腹を貫かたレオナ。
血まみれで倒れる彼女の死体だった…
「う、うわああああああああああ!」
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「はッ!?」
目の前に広がる光景。
とても見慣れた天井。
部屋に差し込む朝日。
「これは…」
あわてて腕を見る。
なにもない、いつもの自分の腕だ。
「夢だったのか…」
手で軽く壁を叩く。
先ほどの夢の中とは明らかに違う感覚を感じる。
と、そこに…
「ふぁ~…あ、起きたのショーナくん」
「れ、レオナ!」
ショーナの部屋に入ってきたのはレオナだった。
寝不足なのか眼にクマができてはいる。
だが、先ほどの夢とは違い腕も身体も無事だ。
「あれからずっとメノウちゃんと話しちゃってね…徹夜しちゃった…」
「あ、そうか…」
ショーナは思い出した。
休日の夕方、レオナが遊びに来たこと。
体調が悪く、メノウとレオナの二人を残し先に寝てしまったことを。
と、その時…
「おぉ~…ショーナ…お主は寝ていたのか…」
「め、メノウ!?」
「ど、どうした!?いきなり大声を上げて!?」
ショーナの叫びを聞き驚くメノウ。
片手には酒瓶を持っていた。
もしかしたら夜通し飲んでいたのかもしれない。
「あぁ…話が盛り上がってしまってな…」
「たまにはいいわね、こういうの」
「ショーナ、ベッド借りるぞぉ…」
大きな欠伸をしながら彼のベッドを占領するメノウ。
眠気を我慢できなかったのか、レオナも壁に寄りかかり寝てしまった。
いつもと変わらぬ二人の姿。
それがここにはあった。
先ほどの記憶が夢であると知り、安堵するショーナ。
しかし…
「(さっきの夢…あれはただの夢じゃない…)」
彼は感じていた。
妙な胸騒ぎを。
先ほどの夢はそれが逆流し、たまたま『メノウ』の姿をとって夢に現れたのだ。
「(何かを暗示している…?)」
メノウでは無い。
その胸騒ぎの源流は別にある。
将来的に現れるであろう魔王教団か…?
その眷属たちか…?
それとも…?
「(もっと別の…別の何かなのか…?)」
彼の考えは的中していた。
新たなる戦い。
それはすぐそこにまで来ていたのだから…!
頭時間なるで
次の話から最終章になります。




