第百八十一話 ショーナの父親(後編)
11/24は何の日でしょうか?
この日は原作版『ゾット帝国』がこの『小説家になろう』のサイト上から削除された日です。
それは2018/11/24のことでした。
この日を僕は『ゾット帝国滅亡の日』と呼んでいます。
今は再投稿がされていますが、かつての感想などは消えてしまいました。
貴重な俺オナの民以外の感想もあったのに残念です。
ショーナの父親。
その人物は南アルガスタの大地主だったという。
だった、と過去形なのは、今はそうでは無いということだ。
大半の土地を手放し、自身の屋敷で静かに暮らしている。
「俺の父親…か…」
「どうしたショーナ、楽しみでは無いのか?」
愛馬であるアゲ―トを駆り、父のいる地区へと向かうショーナ。
後ろにはメノウを乗せて。
義父となる人物に会える、ということからどこか機嫌のいいメノウ。
彼女も肉親をとうの昔に失っている。
身内に会える、ということが楽しみなのだろう。
しかしショーナは少し違った。
「ワシは楽しみじゃよ。家族が増えるからのぅ」
「家族…か…」
もちろん、父には会いたい。
実の父親だ、会いたくないはずがない。
しかし、彼には複雑な事情があった。
「俺の父親がどんな奴か、レオナからもらった資料を基に調べてみたんだ…」
レオナからもらった資料で、ショーナは父親について軽くは知っていた。
しかしもっと詳しく知りたい。
その人物についていろいろと詳しく調べたのだ。
高名な人物であり、調べるのには苦労しなかった。
しかし…
「俺の父は、昔の戦争中に『英雄』と呼ばれた男だったらしいんだ」
「なんじゃ、すごいじゃないか」
「うん。だけど…」
ショーナの父親。
その人物はとにかく『女癖』が悪かったという。
各地で愛人を作り、無責任に子供を作らせていた。
中には他人の恋人や妻もいたという。
「俺が捨てられたのも…そう言うことさ…」
「捨てられ…あッ…」
その言葉を聞きメノウは察した。
そもそも息子を捨てるような人物がまともなわけが無い。
いかなる理由があるとはいえ。
しかし、せめて苦渋の決断で捨てたのであれば、まだ理解はできなくもない。
もちろん許されることなどではないが。
しかしショーナの反応からしてそうでは無いのだろう。
「…悪かった、辛気臭い話だよな」
「…」
「と、とにかく急ごう!」
「お、おう!
嫌な空気を振り払うように、急ぐ二人。
そのおかげか、あっという間に目的地である屋敷にたどり着いた。
大きな庭を持つ古い屋敷だ。
最低限の手入れはされているようだが、各所に汚れが目立つ。
庭が整備されていなければ、廃屋と間違えてしまいそうなほどだ。
庭師によって手入れされたであろう庭。
古びた彫刻、今はもう使われていない噴水。
「…ここだ」
「アゲート、しばらく待っておれ」
メノウの言葉を聞き、黙って頷くアゲート。
入り口にアゲートを待たせ、屋敷の門をたたく。
しばらくして、中から一人の中年の紳士が出てきた。
どこか品のある、スーツを纏った小柄の男性だった。
メノウは一瞬、この人物がショーナの父親なのかとも思った。
だが、どうやら違うようだ。
「以前、連絡したショーナです」
「おお、お待ちしておりました。こちらの方はいもう…」
「嫁です」
「嫁じゃ」
「あ、これは申し訳ございません。どうぞこちらへ…」
そう言われ、応接間に通される二人。
応接間は比較的きれいだった。
装飾品などは少ないが、キレイに整理された部屋だ。
掃除も行き届いており、この屋敷の外見からは想像できぬほど。
「どうぞ」
「あ、どうも」
どうやらこの人物はショーナの父親に使える執事のようだ。
大きな屋敷ではあるが、現在この屋敷にはほとんど人が居ない。
少し寂しい感じのするところだ。
出されたお茶を飲みながらそう思うメノウ。
その間にも、執事の男性とショーナは話を続けていた。
「それで、俺の父は…」
「はい、待っておられます。今日は体調もいいようで…」
「今日は…?」
その言葉に違和感を覚えつつも、期待に胸を躍らせるショーナ。
たとえどんな人物であれ、生まれてから一度もあっていない父親。
会うのが楽しみで仕方がない。
肉親など一人もいないと思っていた。
しかしいた。
会えるのだ。
「こちらです」
執事の男性に案内された部屋。
その扉をゆっくりとあけるショーナ。
それについていくメノウ。
「…失礼します」
「ああ…」
部屋にいたのは初老の男性。
歳は六十過ぎ、といったところか。
ベッドに横になり、多数の点滴が繋がれていた。
身体は痩せ細り、病に倒れているのだろう。
そのためか、実年齢よりも老けて見えた。
かつては『英雄』と呼ばれた男の面影は、そこには無かった。
ベッドの上から、男はショーナに尋ねた。
とても弱々しい声で…
「お前は…?」
「今から十七年前、アンタが捨てた息子だよ」
「名前は…?」
「ショーナ…『ショーナ・トライバルハイト』」
「俺は…『ダイナス・トライバルハイト』だ」
弱々しい声でそう言うダイナス。
十七年ぶりの再会。
その再開は少々、険悪な雰囲気となってしまった。
しかし…
「今更何をしに来た…?」
「ふと気になってな。調べたんだよ」
「復讐にでも来たのか…?」
「ち、違うよ!ただ伝えたいことがあってさ…」
ショーナは今までの経緯を話した。
孤児になった後、村ですごしたこと…
そこでレオナという少女と出会ったこと…
その後一人、旅に出たこと…
そして…
「実は俺、結婚したんだよ。嫁さんも連れてきた!」
「ど、どうも。メノウといいます…」
慣れない言葉使いでそう言うメノウ。
そしてさらに、メノウと出会った後のことも話した。
多くの仲間と出会ったこと。
彼女に見合った人間になるため学校を出て地方の役人になったこと。
今は南アルガスタで暮らしていること。
この場ではそのすべてを話すことはできなかった。
語るには、その内容はあまりにも濃すぎたからだった。
「せめてそれを伝えたかったんだ…」
「そうか…」
それを聞き、軽く目を閉じるショーナの父ダイナス。
自らが捨てた『息子』は順調で幸せな人生を歩んでいるのだろう。
とうにその存在を忘れたものだと思っていた。
しかし…
「ショーナ…といったか…」
「あ、ああ…」
「その名は誰が付けた?」
「俺を拾った村の人だよ。苗字は勝手にアンタのを使わせてもらってる」
「ははは。中々強かだな…」
ここにきて初めてダイナスの顔に笑みが見えた。
ショーナの顔に、若いころのかつての自分の顔が重なって見えた。
「ショーナ…」
「なんだ?」
「俺の話も聞いてくれるか…?」
「ああ」
「そっちの嫁の子も一緒にな」
「あ、はい」
ダイナスの話。
それは彼の若い頃の話だった。
英雄として世界大戦の戦場を駆けたこと。
戦後、その地位を利用して好き放題していたこと。
酒池肉林の限りを尽くしていたこと…
「だが、そんなことを続けた結果がこれだ…」
生まれたばかりのショーナを捨てたほぼ直後だった。
ダイナスの身体が病魔に蝕まれたのは。
当時、彼には妻とたくさんの愛人がいた。
しかし、その一人も彼を心配する者はいなかった。
所詮は金と地位だけでつながっていただけだった。
皆、金を持って離れて行った。
妻でさえも。
「後に残ったのは僅かな金とこの屋敷だけだった…」
その時になって初めてダイナスは気づいた。
これまで自分が築いてきた物が虚像だったということに。
愛する者もいない。
ただ病床ですごすだけの毎日…
「捨てた赤ん坊の中でも、ここに来た者はお前が初めてだ…」
「そうか…」
「もう少し話したい。いいか?」
「ああ。いいよ」
ショーナは話した。
初めて会った『父親』と。
決して善人と呼べるような人物では無かったのかもしれない。
しかしそれでも彼は嬉しかった。
以内と思っていた親に会えたことが。
はやく復活しろ!




